【とある連絡役の通信記録Ⅲ】
章の間に入る、ラルカ・ゼノアークの通信記録。
◇ ◇ ◇
――お疲れ様です。ミスター牙島。
先に確認したいのですが、先刻大凍亜連合によってケースコーピオンという試作機が動かされたと聞きましたが?
――ええ。確かに自分も社長の命令により、大凍亜連合に研究データの一部は流しました。
ですが、例の脳機能移植技術につきましては、ハッキングが不完全だったデータです。それを早速起動させたのですか?
――そちらの総帥の意向……ですか。
後で社長にも確認をとりますが、まだ試運転も早かったのではないでしょうか?
それにあの技術を使ったということは、誰かを犠牲にしたということですよね?
一体、誰を犠牲にしたのですか?
――ちょっと待ってください。自分もその人には聞き覚えがあります。
これは少々困ったことになりそうですね。
あなたが仕組んだではないにしろ、大凍亜連合も所詮はジャパニーズマフィアということですか。迷惑なことばかりしてくれます。
――それも本当の話ですか? 中身には逃げられたのですか?
まったく、どうしてこうも面倒が重なるのでしょうか……。
このままだと下手をすれば、空色の魔女が大暴れしてしまいますよ……。
――あまり急かさないでください。こっちだって悩んでいるのです。
母国のお忍び殿下の面倒だって見なきゃいけませんのに……。
――とにかく、あなたはそのまま大凍亜連合に従っておいてください。
こちらもこちらで、確認と今後の方針を決めますので。それでは。
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――社長、お疲れ様です。
少しお聞きしたいことがあります。
――ええ、その件です。
大凍亜連合ではケースコーピオンというコードネームがあるようですが、ある成人男性をベースにしていたようです。
脳機能移植技術につきましては、非常に繊細な対応をとるべきでしょう。自分も殺し屋稼業をしてはいますが、あまり一般人の命を巻き込まない方がよろしいのではないでしょうか?
それに今回犠牲になった人物につきましても――
――ご存じ……ということですか?
全てを知ったうえで、大凍亜連合総裁にゴーサインを出したと?
――どうにも、あなたも目的が迫ってきているゆえか、盲目的になっているのではないでしょうか?
自分達はあなたが技術や資金を提供をしてくれるからこそ、こうして根を張って協力しているのです。
もしも協力することによるデメリットがメリットを上回れば、こちらも相応の手を打たざるを得ません。
――そうですね。今後はもう少し慎重にご一考ください。
自分達とて、星皇カンパニーの敵に回りたいわけではありません。
ですが、いざという時は自分も相応の手立てを用意させていただきます。
――母国にいる本隊にも、出動要請を出す可能性があることにはご留意を。
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これにて「魔女と旦那の日常編」は終了です。
次章より戦いの渦中となる「大凍亜連合編・起」が始まります。