新たなヴィランを探ってみよう!
牙島とは別に現れたヴィラン、ケースコーピオンの正体とは。
「タケゾー! そっちは大丈夫だった!?」
「隼か! こっちは大丈夫だ! お前の方こそ、何があったんだ?」
牙島にはあっさり逃げられてしまい、アタシは変身を解除して一度タケゾーの元へと戻る。
ケースコーピオンもだけど、牙島自身も相当謎だらけだよね。あいつって、本当に何者なんだろか?
それはさておき、騒動自体はなんとか落ち着いた。
警察や救急も駆けつけてくれたし、もうこれ以上何かしらの被害が拡大することもない。
タケゾーとも合流すると、アタシ達はお互いの状況を話し合う。
「そっか。とりあえず、怪我人とかはいないんだね。アタシとしては、まずそれが何よりかな」
「だが牙島だけでなく、ケースコーピオンなんてバケモノまで出てきたのか。デザイアガルダの件といい、そんな連中を大凍亜連合が従えてると思うと、寒気がしてくるな……」
そんな話の中でタケゾーも気にするのは、新たなヴィラン、ケースコーピオンの存在。
アタシが戦った時はロボットのようにも感じたけど、同時にどこかロボットっぽくない印象も受けた。
まるで正体が掴めない。牙島が最後にアタシへ口にした言葉も気になる。
――『大凍亜連合の目的はアタシが守っているもの』
その言葉の意味するところが分かれば、その正体も少しは追えるんだけど――
「なあ、もしかしてだけどさ。牙島が言ってた『隼が守っているもの』ってのは、パンドラの箱のことじゃないのか?」
「え? パンドラの箱が?」
――そうこう悩んでいると、アタシの話を聞いたタケゾーが思慮深く口を開いた。
確かに大凍亜連合はパンドラの箱を狙ってるけど、それとケースコーピオンがどう関係してるんだろう?
「俺もそのケースコーピオンとかいうバケモノは実際に見てないけど、隼が見た限り、ジェットアーマーと同じぐらい高度な技術力で作られた可能性があるんだよな? だったら、以前にハッキングされたパンドラの箱のデータを使って、大凍亜連合が生み出したとか?」
「な、成程……! それは確かにあり得るかも……!」
そんなアタシの疑問に対しても、タケゾーが述べる見解で糸口が見えてきた。
ケースコーピオンがロボットにせよ生物にせよ、あれだけの力には何か強大な科学力が関わっているのは間違いない。
だとすれば、それを可能とする技術はどこにあるのか? そう考えると、答えは限られてくる。
――以前何者かにハッキングされた件と含めれば、話の筋道も通ってくる。
「タケゾー。早速で悪いんだけど――」
「分かってる。工場に戻って、パンドラの箱を調べてみるか」
アタシがその結論に至ると、タケゾーは全てを話し終える前にバイクの準備をしてくれた。
なんだかこんな何気ない場面でもこうやって以心伝心できていると、やっぱり夫婦なんだなと惚気たくなってきちゃう。
だけど、今はそれよりも優先すべきことがあるからね。
新婚夫婦の甘々タイムはまた別の機会だ。
■
「隼。一応確認しておくが、パンドラの箱が前みたいにハッキングされることはないか?」
「そこについては安心して。完全なハッキング対策を施してあるからね」
工場に戻ってくると、アタシは早速パンドラの箱を起動させる準備にとりかかる。
以前にハッキングされた教訓から、対策自体もバッチリだ。
閲覧用のパソコンを専用で用意し、それ自体には一切の通信送受信機能を物理的に排除。
パソコン本体も電磁波遮蔽板で包囲し、外部からの干渉を完全に拒めるように設計しておいた。
これにアタシ専用のアンチウィルスソフトが加われば、流石にハッキングされることはないだろう。
「一応はアタシもちょくちょく調べてはいるんだけどね。ケースコーピオンみたいなロボットを作る研究なんてあったかな?」
「ケースコーピオンのような存在そのものを作り出す研究じゃなくて、それに近しい研究はあるんじゃないか? それらの研究を組み合わせたのがケースコーピオンだとか」
「ああ、そっか。その可能性は大いにありうるね。だとしたら、人工筋骨格や高度知能AIとかの研究でも――」
タケゾーとも一緒に開かれたパンドラの箱を閲覧しながら、色々と可能性を模索してみる。
いきなりケースコーピオンと同じ技術に直面することはないが、それでも紐づけられそうな技術は少しずつ見えてくる。
たとえアタシが技術者として優秀だったとしても、こういう時にタケゾーの多角的な視点を持った発想は頼りになる。
――これがひとえに、夫婦の共同作業と言うものか。
共同作業の内容が『ヴィランの追跡』ってことについては、まあ普通じゃないとは思うよ?
だけど、これがタケゾーとアタシという夫婦の在り方だ。
――もう、変に型にはまって考えすぎたりはしない。
「この骨格技術……。こいつはロボット工学にも使えそうだねぇ」
「俺には理解しきれないが、隼の両親って本当にとんでもないものを作ってたよな……」
「本人達もその自覚はあったんだろうね。そして今この時こそ、娘のアタシがそれらへの対抗策を講じる時さ。存分に使わせてもらおう」
パンドラの箱を調べているうちに、アタシもケースコーピオンに繋がりそうな技術については目星がついてきた。
限りなく人間の骨に近いカルシウム合金による人体骨格の再現などがいい例で、もしかするとケースコーピオンもこの技術で生まれたのかもしれない。
この技術はロボットどころか、サイボーグ医学にも適用できそうだ。
ただまあ、この研究はあくまで骨組みだけ。ここに人工的な皮膚や筋肉を組み込んでも、作れるのはせいぜい肉体のみ。
人間の回路とも言うべき脳や神経の伝達機構がないと、実際に動かすことは――
「……えぇ!? こ、これってまさか!?」
――などと動作面の課題を勝手に考えていたが、そんなものは杞憂でしかなかった。
流石はアタシの両親だ。娘のアタシ程度が考える課題など、とっくにクリアしている。
――いや、この技術はそんな単純な話でもない。
「隼? 何か見つけたのか?」
「……うん。この技術も合わせれば、確かにケースコーピオンみたいなロボットは作れるかもね。いや、それどころか、ここにある技術があれば――」
タケゾーもパソコンの画面を覗き込み、アタシに説明を求めてくる。
アタシが見つけたこの技術については、タケゾーも少なからず関わっている。いや『犠牲になった』と言うべきか。
色々と複雑な気持ちを抱えながらも、アタシはその技術について口にする――
「これはかつてジェットアーマーにも使われていた、脊椎直結制御回路の完成版とも言うべきものだね」
あの発明の完成版は、パンドラの箱に眠っていた。