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空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
魔女と旦那の日常編
113/464

新婚だけど実家に帰っちゃった……。

実家に帰らせてもらいます(二回目)


なお、隼の実家は一緒に住んでた場所なので――

 タケゾーの『もういい』発言が胸に突き刺さったアタシは、一緒に住んでいた工場を涙ながらに飛び出してしまった。

 夫婦生活で奥さんが辛くなった時、こうやって実家に帰りたがる気持ちが今になってよく分かる。

 アタシも同じように飛び出したはいいもの、よく考えるとアタシの実家は飛び出した工場だった。

 実家を飛び出して、帰る実家はどこにあるのやら。




「うあぁぁん……! お義母さぁぁん……!」

「え~!? 隼ちゃん、どうしたのよ~!?」




 とりあえず行く当てもないので、旦那の実家の方に現在は身を寄せている。

 そしてアタシのお義母さんでもあるタケゾー母の膝で、絶賛泣きつき中。


 ――まあ、自分でもおかしなムーブはしてると思うよ?

 でもさ、仕方ないじゃん。そもそもこういう時に頼れそうな人ってのも、アタシの中ではお義母さんぐらいしか出てこない。


「じ、実は――で……ぐすん」

「あらあらら~……。武蔵もきっと、悪気があったわけではないのだろうけどね~」


 そんな突如泣きながら押しかけてきた息子の嫁に対しても、お義母さんは子供をあやすように優しく頭を撫でながら話を聞いてくれる。

 アタシも泣きながらではあるが、お義母さんの膝の上に頭を置いて事情を説明する。


 お義母さんはタケゾーのことを擁護するが、アタシだってそんなことは分かってる。

 そもそも悪いのは誰かというと、料理が壊滅的にできないアタシの方だ。タケゾーは何も悪くない。

 それ自体は分かっていても、アタシはこうして子供のように駄々をこねてしまう。


 ――改めて分かったが、アタシってやっぱりまだまだ子供っぽい。

 こうしてお義母さんのような大人の世話になると、それを身に染みて実感する。


「アタシもさ、自分のワガママと子供っぽさは分かってるんだ……。だけど、アタシはそれでもタケゾーに手料理を食べてもらいたくて……」

「うーん……。隼ちゃんはどうしてそこまで、手料理にこだわるのかしら~?」

「だ、だって、新婚夫婦になったら、普通は奥さんが旦那のために手料理とか用意しない?」


 そんなアタシのワガママな話を聞いても、お義母さんは特に叱るようなことなどせず、本当に子供あやすように接してくれる。

 そして話の中で出てくるのは、アタシがタケゾーに手料理を用意したがる目的。

 そこに深い意味はない。アタシはただ、タケゾーばかりが料理の手間を背負うのが嫌なのだ。

 夫婦なのだから、そこは助け合って暮らしていきたい。


「隼ちゃんって、意外と乙女なのね~。でも、そこまでこだわらなくてもいいんじゃないかしら~」

「へ? で、でも、普通は奥さんの方が料理するよね?」

「今時の若者なのに、私よりも先時代的な考え方ね~。別にそんな普通なんて求めなくても、私は構わないと思うのよね~。そもそもの話、武蔵と隼ちゃんは結婚した経緯も普通じゃなかったからね~」

「あっ……」


 そうしてお義母さんと話をしていると、アタシも少しずつ落ち着いて気持ちの整理ができてきた。

 これまでアタシは心の中で『普通の新婚生活』を求めてはいたが、そもそもアタシとタケゾーが結婚したことについても普通ではない。

 だって、アタシの勘違いで結婚しちゃったんだもん。そう考えると、無理に普通を求めることにかえって違和感を感じてしまう。


「もしかすると、隼ちゃんは普通の結婚じゃなかったから、かえって普通の新婚生活を求めちゃうのかもね~。だけど、一番大事なのは夫婦が互いに支え合い、互いに納得できることよ~。そのあたりのこと、武蔵とはきちんと話し合ったのかしら~?」

「い、言われてみれば、ただアタシが一人で料理しようとばかりしてて、タケゾーとも話せてなかったかも……」

「武蔵もきっと、空色の魔女としても忙しい隼ちゃんの手間を減らすために、お料理を買って出てるのかもね~」

「そ、そうなのかな? だったらアタシ、タケゾーの気持ちも考えずに勝手なことばっかりしてたや……」

「武蔵も武蔵で、隼ちゃんにきちんと説明してあげないとね~。恥ずかしがってるのかもだけど、そこは大事よね~」


 その後もアタシとお義母さんの間で、ゆったりとしながら考察を深めることができた。

 こうやって落ち着いて考えれば、次第にこの問題の焦点も見えてくる。どうにも、アタシは視野が狭くなって猪突猛進気味だったようだ。


 ――タケゾーはアタシを困らせるような人間じゃない。アタシどころか、他者のためにいくらでも振舞える人間だ。

 恋敵でもあったショーちゃんの背中を押した件といい、タケゾーが決していじわるで『もういい』発言なんてするはずがない。

 本当にアタシは子供だった。世間的には新妻になっても、どうしても幼く突発的に動いてしまう。




 ――そのせいでアタシがタケゾーに迷惑をかけてたら、元も子もないじゃないか。




「焦らなくてもいいのよ~。武蔵と隼ちゃんは二人のやり方で、二人のペースで生活したらいいだけだから~」

「うん……。本当にありがとう、お義母さん。急に押しかけて、迷惑だったのにさ」

「気にしなくていいわよ~。むしろ、また今回みたいに悩みがあったら、私のところに来て頂戴ね~」


 全部が全部突発的な行動だったけど、結果としてアタシも自分の中で一つの踏ん切りをつけられた。

 お義母さんにしても、こんな突拍子もないことで押しかけた息子の嫁に対し、実に寛容で温かい言葉を述べてくれる。


 ――本当に母は偉大だと常々思う。

 アタシもいつか決心がついた時、こんな母親になれる日が来るのだろうか?




「お、おふくろ! ここに隼は来てないか!?」


「へっ……? この声、タケゾー……?」

「あらあらら~。隼ちゃんが気に掛ける旦那様も、隼ちゃんのことが気になってたみたいね~」




 お義母さんとの話が落ち着いてくると、玄関の方からタケゾーの声が聞こえてきた。

 どうやら、アタシが家を飛び出した後、必死に探し回っていたようだ。

 アタシとお義母さんがいたリビングまでやって来たその顔を見ると、汗だくになりながら余程必死だったことが伺える。


 ――そうして探し回った末、ここに辿り着くあたり、タケゾーもアタシの行動パターンはお見通しということか。


「あー……隼。さっきは悪かった。俺もお前の気持ちを考えず、ぶっきらぼうなことを言ってさ……」

「アタシの方こそごめんよ。勝手に怒って、家を飛び出したりなんかしてさ」

「俺はただ、隼に負担をかけさせたくなかったんだ。空色の魔女としての役目もあるのに、家のことまで苦労をさせるのは忍びなくて……」

「うん、分かってる。タケゾーがそういう思いやりを持ってるってことは、アタシも理解してる。これからも迷惑をかけると思うけど、こんなアタシが相手でも一緒にいてくれるかな?」

「ああ、もちろんだ。俺もしっかり説明するから、何か気になることがあったら言ってくれ」


 そしてそこからは、いつかの日と同じように仲直り。

 こんな簡単なことで喧嘩して、こんな簡単に仲直りをする。新婚なんて言っても、アタシもタケゾーもまだまだ子供であることを思い知ってしまう。


 ――だけど、やっぱりタケゾーといがみ合ったままは嫌だ。

 タケゾーが厚意をかけてくれるなら、アタシも素直に甘えるところは甘えたい。




 ――空色の魔女というヒーローにも、支えてくれるヒーローがいてほしい。




「……あっ、タケゾー。もののついでで聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「ああ、もちろんだ。まだ何か気になる点があるなら、この際だから遠慮せずに言ってくれ」


 こうして、アタシとタケゾーの新婚料理権については納得できた。

 だけど、アタシにはもう一つだけ納得できなかったことがある。


「アタシとタケゾーの寝室ってさ、なんで別々なんだっけ? 寝る時ぐらい、一緒に寝ない?」


 料理についてはタケゾーに分があるから納得できるけど、寝室については別にどちらが有利とかはない。

 普通である必要はないけど、アタシとしてもちょっと旦那様に甘えたい気持ちとかはあるんだよね。これもまた子供っぽいけど。

 だからせめて、寝る時ぐらいは隣り合わせになっても――




「……す、すまん。隼と一緒に寝るっていうのは、俺の理性の都合で勘弁願いたい……!」

「……そこはヘタレなんだね」




 ――と思ったが、タケゾーは優しいと同時に、こういう踏ん切りの悪さもあった。

 アタシに告白するのだって、十何年とかかったぐらいだ。イケメンなのに草食系とか、もったいない話ではある。


 ――でもまあ、アタシも今はそれでも構わないか。

 これでタケゾーが狼にでもなっちゃったら、アタシもまた子供云々で悩んじゃうよね。

 そこも含めてのタケゾーの優しさだと考えておこう。そうしよう。それが一番ナチュラルだ。


 ただね、こういった話を聞いててアタシも自分で思わず考えちゃうんだけど――




 ――アタシって、結構罪な女だったりする?

タケゾーのヘタレ~。

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