持つべきものは頼れる友人ってね!
心配性な幼馴染、再び。
「お前、何があったんだよ!? 電話は繋がらないし、工場に行ったら差し押さえられてるし!」
「は? え? 電話? 繋がらないって――あっ」
プレハブ小屋の扉を開けると、タケゾーが血相を変えて飛び込んで来た。
そしてアタシの肩を掴むや否や、度重なる言及、追及、大興奮。
アタシのスマホに着信はなかったはずだが、そりゃ着信がないわけだ。
――充電忘れて、電源落ちてた。
今気づいた。ずっと開発やら試運転やらで、気にしてすらいなかった。
「それに、何なんだよ!? この小屋の惨状は!? 工場が差し押さえられたからって、ヤケ酒でもしてたんだろ!? しかも、こんなゴミ捨て場なんかで!」
「あ、ああ……。いや、これは……」
さらにはプレハブ小屋の中を見て、アタシに説教してくるタケゾー。
缶ビールやチューハイを燃料に、ずっと開発に没頭してたのを片付けてなかった。
そりゃ、アタシだって工場を差し押さえられたのはショックだよ? でも、別にヤケなんて起こしてないさ。今は。
傍から見れば、そう映るんだろうけど。
後、このゴミ捨て場を馬鹿にするような発言はいただけない。
ここはアタシにとって、宝の山なんだよ?
「し、心配させたのは悪かったよ。でも、アタシは本当に大丈夫だからさ。な?」
「本当に勘弁してくれよ……! お前にもしものことがあったら、俺はどうしたらいいんだか……! ううぅ……!」
でも、これは流石にアタシも悪かった。
鷹広のおっちゃんに工場を売り飛ばされたショックからの、技術者としての新境地への興奮で、連絡やら何やらが完全に頭からすっぽ抜けてた。
こちらからも申し訳なさそうにすると、タケゾーは泣きながらアタシの体を抱きしめてくる。
よしてくれないものかね? アタシだって、まだ眠いんだ。
それに、いい男が涙なんて簡単に流すもんじゃないよ。
そういうのは、惚れた女にでもやってあげなさい。
「それにしても、タケゾーはよくアタシがここにいるって分かったね?」
「玉杉さんに聞いたんだよ。お前の所のおじさんにも聞いたんだが、分からないってなことを言ってたし」
「玉杉さんって……誰だっけ?」
「お前の借金を取り立ててた人だよ。……もしかして、名前知らなかったのか?」
「……うん」
少し落ち着いたところで気になっていたのが、こんな連絡もつかない状況で、タケゾーがここを突き止めた理由だ。
どうやら、ここを紹介してくれた借金取りさんに教えてもらったらしい。
わざわざそこまで辿って調べてくれたと思うと、アタシも申し訳なさが半端ない。
何かに夢中になると他のことを忘れがちだが、今後は気をつけよう。
――てか、借金取りさんの名前って、玉杉さんって言うのか。
二年間の付き合いの中で初めて知った。
「そういや、鷹広のおっちゃんにも連絡入れてなかったや」
「連絡入れとけよ? あの人だって、心配してるはずだろ?」
「うーん……そうだろうけど、今は正直、話したくないかなぁ……」
「ん? あのおじさんと何かあったのか?」
そんな中で鷹広のおっちゃんの話も出てくるが、あまり気分のいい話ではない。
今こうして新たな場所と未知の発見で生きる希望を得られたが、空鳥工場を勝手に売り飛ばされた時は、ガチで死にたくなったんだよ?
そんな人に、進んで会いたいと思う? 大人げないだろうけど、アタシはそんな気になれない。
タケゾーもそのあたりの事情までは知らなかったらしく、アタシの方で軽く説明しておいた。
「そんなことがあったのか……。空鳥からすれば、裏切られた気分だよな。そりゃ、ヤケ酒もしたくなるか」
「だから、これはヤケ酒じゃないっての」
「じゃあ、何でこんなに缶が転がってるんだ? 小屋の中全体も荒れてるしさ?」
「これは……研究開発のため」
「……何の研究開発をしてたんだ?」
鷹広のおっちゃんについての事情も、タケゾーは理解を示してくれた。
やっぱ、おっちゃんの方がおかしいと思うよね? いやー、タケゾーが分かる男でよかった。
普段は口うるさいけど、それもこれも元々の優しさ由来だからね。モテる男は中身からイケてる。
こういう理解できる姿勢こそ、本当にイケてる男の証明ってもんよ。
――これで本当に彼女いないんだから、マジもったいない。
適当に声をかければ、一人ぐらいはできるのに。
「それにしても、そのおじさんからは連絡とかなかったのか?」
「うん、ない。まあ、スマホの電源も切れてたし?」
「それならそれで、ここに来そうなものじゃないか?」
「そうかもしれないけど、そもそもおっちゃん、ここの場所も知らなさそうだよね? アタシのことを住ませてやるとか言ってたのに、言っちゃあなんだけど薄情なもんだよ」
そんな隠れ色男のタケゾーとするのは、鷹広のおっちゃんへの愚痴・オブ・愚痴。
別に厚意を全部無下にするわけじゃないけど、もうちょっと気にしてくれてもいいんじゃない?
工場を勝手に売っ払った件といい、おっちゃんはどこか勝手すぎる。
アタシのためを思ってやってくれてるのは分かるから、強くも言えないけど。
「それで? 空鳥はこれからどうするんだよ? 工場もなくなったから、仕事もないだろ?」
「一応は出張依頼の小口案件に対応するぐらいならできるよ」
「それって、ウチの保育園以外にあるのか?」
「……ない」
「……お前、営業下手だよな」
そんな鷹広のおっちゃんへの不満はさておき、アタシも気にしている今後の生活についての話。
一応はタケゾーの勤めてる保育園からの依頼は続けるけど、それだけでは収入が足りない。
ある程度の貯蓄があるとはいえ、早く何か手を考えないと、また借金生活に逆戻りだ。
働かざる者、食うべからず。世間とは実に世知辛い。
「うーん……。この能力があれば、別に技術職でなくても食っていけるかね?」
「能力? 何の話だ?」
「あ、いや。こっちの話。ニシシシ~」
「……?」
アタシが手に入れたこの通称『魔女モード』があれば、配達業とかでもできるんじゃないかとも思ってみる。
でも、そんなことしたら絶対に目立つよね? そんでもって、色々と面倒な話になってくる。
はてさて、どこかに安定した収入源はないものか――
グググゥ グゥ~~!
「……おい、空鳥。今のはお前の腹の虫か?」
「あっ。そういえば、ここのところまともに飯も食べてなかった」
――そんな難題を前にしているというのに、思わず気が抜けるようなアタシのお腹の虫のソロハーモニー。
燃料源として酒は飲んでたけど、それ以外のものは何も口にしてなかった。
いくらアルコールを生体コイルで電気エネルギーに変換できても、やっぱりそこは人間と言うもの。
腹が減っては戦ができぬ。集中とハイテンションのせいで、そんなことさえ忘れてた。
「ハァ……そんなことだろうとは思ったよ。仕方ない。俺が飯を作ってやるから、台所を貸してくれ」
「おお!? タケゾーが飯を作ってくれるなんて、やっぱ持つべきものは親友だねぇ! お礼にキスしてやろうか?」
「い、いい、いらないって。いいから、台所に案内してくれ」
そこに渡りに船とばかりに、タケゾーが料理を提案してくれた。
よく見ると、手にはスーパーのビニール袋が携えられている。
アタシの行動をある程度予想してたってことか。抜かりない男だ。
「そいじゃ、台所に――あっ」
「ん? 今度はどうしたんだ?」
ここはお言葉に甘えてお呼ばれしようと思ったが、アタシは重大なことを忘れていた。
アタシってこのゴミ捨て場に引っ越してきてから、ずーっと研究開発ばっかりしてたんだよね。
そんなわけで――
「ちょっと待っててくんない? 今から台所を作るから」
「台所なかったの!? つうか、今から作るの!?」
料理を作るために、台所から作る女。