初体験を尋ねられちゃった!
タケゾー母、気持ちだけが急いてやや暴走気味。
「はへ? エッチなこと?」
「そうよ~。夫婦になったんだから、当然してるわよね~?」
お義母さんがアタシとタケゾーの関係で気になっていたこと――『エッチなことをしたかどうか』
息子のお嫁さんにいきなり聞く話題としてはどうかと思うが、そこも気になるのが親心というものか。
ただ、それでもアタシには分からないことがある。
――エッチなことって、どこからがエッチなことなんだろ?
「お、おふくろ!? おかしなことを聞くなっての!? 隼も真面目に答えなくていいからな!?」
「うーん……。まあでも、聞かれちゃったらねー……」
タケゾーも慌てて話に割り込んでくるが、別にそこまで慌てることでもないよね。
アタシとタケゾーは清く健全なお付き合いをしてたわけだし、何もいやらしいことなんて一つも――
「……あっ。そういえばあった」
「え~!? ホントの本当に~!?」
――と思ったが、よく考えれば一つだけあった。
アタシがそれを匂わせる言葉を口にすると、お義母さんも嬉々とした様子で食いついてくる。
よく考えてみれば、あれはかなりエッチだった。よって、アタシとタケゾーはもうすでにエッチなことをした経験がある。
――タケゾーも勢いでやってしまった情熱キッス。
あれは今思い出しても、かなりエッチでいやらしかった。
「初体験はどんな感じだったの~!? 武蔵に優しくしてもらえたの~!?」
成程。お義母さんはあの時のキスのことを尋ねてきたわけだ。
あの時のことを語るのは恥ずかしくもあるけど、お義母さんに聞かれたら答えないわけにもいかない。
アタシもこの人の義理の娘になるわけだ。義理とはいえ、親に隠し事はよくないよね。
「優しくはなかったねぇ。いきなりだった上に、結構乱暴に求められちゃった感じ。かなり下手だったし」
「えっ……?」
そんなわけで、アタシはお義母さんについさっきの熱いタケゾーキッスのことを説明する。
そのままアタシがどう感じたかを、嘘偽りなくありのまま説明してみる。
――ご希望通りにお義母さんに話したのだが、何故か唖然とした吐息を漏らして固まってしまった。本当になんで?
「じゅ、隼……? お、お前、何かズレてないか……?」
さらにはアタシの旦那であり、ついさっき激しくアタシを求めたタケゾーまで唖然と固まってしまった。
なんでタケゾーまでそうなるのよ? アタシ、間違ったことは言ってないよね?
「……ねえ、武蔵。ちょっとこっちに来なさい」
「お、おふくろ……?」
アタシから見ると謎ムーブを起こしているタケゾー親子だが、突如お義母さんの態度が一変した。
なんだかとっても怖い。いつものほがらかエナジーがまるで感じられない。漫画とかで『ゴゴゴゴ……!』って表現が似合いそうなぐらい威圧感がある。
そして、そのままタケゾーの前で仁王立ちしていたかと思うと――
パシィンッ!
――何故か我が子の頬をビンタで引っ叩いた。
いや、本当になんで? 何でそうなっちゃうの?
タケゾーも思わぬ出来事に、叩かれた頬を抑えながら怯える小動物のような眼で実の母親を見つめている。
「ま、まさか、武蔵が強姦魔になるだなんて……! お母さんはあなたをそんな子に育てた覚えはありません!」
「ま、待ってくれって! おふくろ、絶対に勘違いしてるからさ! まずは頼むから落ち着いて――」
「勘違いなはずがありません! 隼ちゃん自身が『下手くそに乱暴に犯された』と証言してるのよ!? これが強姦でなくて、なんだって言うの!? う、ううぅ……!」
さらにそこから始まるのは、お義母さんによる実子タケゾーへの怒りと悲しみのこもったお説教。
お説教の空気なのはアタシにも分かる。でも、色々とおかしな話になっているような気がする。
――そもそも、なんでお義母さんの中でタケゾーが強姦魔になってるわけ?
無理矢理キスするのって、強姦に入るのかな?
とりあえず、これはアタシも止めに入った方が良さそうだ。
愛しい旦那様が理不尽に怒られるのは、流石にアタシも見るに堪えない。
「え、えーっと……お義母さん? アタシ、別にタケゾーに野性的に求められたことについては、むしろ満足してるというか、なんというか……」
「隼ちゃん! 無理はしないで! きっと武蔵の方から、乱暴にゴムも付けずに襲われたんでしょ!? そんなの完全に強姦よ!」
「へ? ゴム? 何の話? アタシとタケゾーはただ、熱い大人のキスをしただけだよ?」
「……はへ~?」
涙を流しながらタケゾーに説教していたお義母さんだが、アタシの言葉を聞くと急に落ち着き始めた。
口調にもいつものほがらかエナジーが戻り、涙を拭いながらアタシに確認をとるように語り掛けてくる。
「ほ、本当にキスだけなの~?」
「うん。まあ、あのキスも成り行きだったけど、タケゾーの告白みたいなもので嬉しかった。確かに下手くそで乱暴ではあったけど、アタシは満足してる」
「そ、そこから先は~?」
「そこから先って……何?」
「つ、つまり……初夜ってことよ~。夫婦の営みよ~」
「……あー」
そんな確認の中で、アタシもようやくお義母さんとの認識のズレを理解できた。
成程。お義母さんが知りたかったのはそっちだったか。確かにそっちをタケゾーがアタシに無理矢理やってたら、強姦魔だ何だとも言われてしまうか。
でもまあ、タケゾーがそこまで思い切ったことをするはずがないよね。あのキスだけにしたって、相当無理をしてやってた感じだし。
――てか、そういえばアタシとタケゾーって夫婦にもなったのに、そっちの行為は全くやってなかったや。
「わ、分かっただろ……おふくろ。隼とおふくろの思ってることがズレてただけなんだよ……」
「ご、ごめんね~。武蔵にも隼ちゃんにも、悪いことをしちゃったわね~。……それで、実際にはしたのかしら~?」
「まだそこは気になるのかよ……」
「当然よ~? もしかすると、孫の顔が見れるかもしれないのよ~?」
タケゾーも涙目になりながら会話に加わってきて、同時にお義母さんの気持ちも見えてくる。
そりゃあ、息子が結婚したらその子供ができるかも気になっては来るよね。孫の顔も見たくなるのが親心か。
アタシとしても、お義母さんの気持ちには応えてあげたい。
まだそういう経験はタケゾーどころか誰ともしたことないけど、いずれはそういう関係にもなるはずだ。
ちょっと怖さはあるけれど、そこのところも今後は考えて――
「……ごめん、タケゾーにお義母さん。アタシ、やっぱりそういう行為をするのはちょっと嫌かも……」
――と頭の中で思い浮かべていたが、ここであることがアタシを思いとどまらせてしまう。
アタシは普通の人間ではない。空色の魔女だった。
隼が母親になるために必要な覚悟。