タケゾー「恋人との同棲を始めよう」
割とスピーディーに同棲を始めることになったタケゾーと隼の行方。
隼のもとに空鳥工場の所有権が戻った後、早速とばかりに俺と隼の引っ越しが始まった。
俺の方の荷物は実家にもある程度は残しておくが、隼の方は膨大だ。あそこには家電ゴミから作った機材もある。
それを手伝おうと、俺も隼の住んでいたゴミ捨て場に足を運んだのだが――
「その腕時計、杖以外のものも収納できたのか……」
「まあね~。改良して容量アップにも成功したし、簡単な引っ越しぐらいならチョチョイのチョイよ」
――隼は問題なく、一人で全部運んでしまった。
普段は空色の魔女の時に使う杖を収納していた腕時計型ガジェットに、代わりに機材を収納して次々と運び込んでいく。
何度か往復する必要はあるが、そこは隼の空色の魔女としての飛行能力で問題なし。
あれよあれよという間に荷物を全て工場に運び込み、俺の出番は全くなし。
――こいつ、引っ越し業者とかしたら最強だろうな。
まあ、空色の魔女であることがバレるわけにもいかないから、そうもいかない話ではある。
「久しぶりの我が家だけど、やっぱ中の設備や家財はなくなったままかー」
「それは仕方がないだろう。玉杉さんもそこまでは手が回らなかったし、そこは俺達で今後増やしていこう」
「分かってるって。きちんとアタシが必要なものは作っていくからさ」
「いや、なんで自分達で作る方針なんだよ? ……まあ、隼ならできるんだろうけど」
ようやく元の持ち主の手に戻った隼の工場だが、中は当然というべきかガランとしている。
それでも、ここならば隼が研究開発をする分にも申し分ない。それを差し引いても、俺達二人で暮らすには十分すぎるスペースだ。
家財についても隼がDIYする気満々なので、そこは任せておこう。
これからも色々と入り用は出てくるだろうし、節約できるならそれに越したことはない。
「あっ、そうだ。アタシは今から設備の配置やら家財の制作やらをするから、タケゾーはお役所関係の書類に署名と捺印をしといてよ」
「そういえば、隼の方で書類は用意してくれたのか。隼の署名とかは終わってるんだな」
「うん。後はタケゾーだけだから、チャチャっと済ませてね~」
隼は俺に軽く言葉を交わすと、工場の中を色々と見回りに行った。
あいつも久しぶりの我が家に戻って来たんだ。内装のことは隼に任せて、俺も渡された書類を片付けてしまおう。
「と言っても、同棲に必要な役所の書類なんて、住民票の移動ぐらいか。えーっと、ここに署名して……あっ、これにも署名と捺印か」
俺は隼に手渡された書類にある署名欄に、とりあえず流れ作業で署名と捺印をしていく。
別におかしな書類が紛れ込んでいるはずもない。とりあえずは隼と同じように欄を埋めていくのだが――
「……ちょっと待て。なんだか書類が多くないか?」
――ここで俺はあることに気付く。
今回は同棲なので、書類なんて住民票関係の書類だけで済むはずだ。
だが、それにしては書類が多い。なんだか、それ以外の書類まで紛れ込んでいる気がする。
隼の奴が役所で違う書類までもらってきたのかと思い、署名と捺印を終えた書類を見直してみるのだが――
「……えぇ!? こ、これって!? おい、隼! 隼んん!!」
――俺はとんでもない書類まで見つけてしまった。
その書類を手に取って、思わず大声で名前を呼びながら隼のもとに駆け寄らずにはいられない。
「何さ~、タケゾー? アタシは今、新しい冷蔵庫作りに忙しいんだけど?」
「冷蔵庫まで自家製かよ!? い、いや! 今はそれどころじゃない! この書類はどういうことだよ!?」
俺の呼び声を聞いて、隼は不満げに自家製冷蔵庫作りの手を止めて振り向いてくる。
急に作業の手を止めたのは悪かったと思うが、俺の内心はそれどころではない。
――もう署名も捺印もしてしまったが、まさかこんな書類が紛れ込んでいるなどと、俺も夢にも思わなかったのだ。
「この書類……婚姻届じゃないかぁぁああ!!??」
えー……これにて、タケゾー視点による幕間「これからも一緒編」は終了です。
次から隼視点による「魔女と旦那の日常編」になります。