表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
これからも一緒編
103/464

タケゾー「同棲できる物件が見つからない」

タケゾー、隼との同棲を考えるものの――

「うーん……。この物件もイマイチか……」


 俺と佐々吹。隼を愛する者同士で背中を押し合って早数日。俺は仕事やデートの合間を縫いながら、物件探しのためにネットの海を徘徊していた。

 目的は隼と同棲できるだけの物件探し。隼に同棲の話を持ち込む前に、ある程度の目星は付けておきたい。

 そっちの方が話もスムーズにできるだろう。


 だが、都合のいい物件など早々見つかるものでもない。

 二人ぐらし物件というのはそれなりにあるのだが、問題は隼が快適に暮らせる環境かという点。

 隼は空色の魔女としてでもあるが、個人で様々な研究開発を行っている。現在の自宅という名のゴミ捨て場は、いつの間にか隼専用の科学施設と言ってもいいほど変貌している。

 それと同等なことができそうな物件など、今のところ見当たらない。そもそも、あるとも思えない。


 かと言って、初めての同棲場所がゴミ捨て場というのもいかがなものだろうか?

 隼の自宅に俺がそのまま上がり込むような真似もしたくないし、こっちでも少しは考えてから同棲を提案したい。


「でもこのままじゃ、本当に隼の住んでるゴミ捨て場以外に選択肢がないよな……」

「また武蔵は悩んでるのね~。なんだったらお父さんの遺産で、あそこに新居でも建てたらどうかしら~?」

「いや、これは俺と隼の問題だから、親父の遺産に頼るわけにはいかないって。それにあそこのゴミ捨て場、一応の所有者は玉杉さんだし」


 おふくろも俺がずっと物件探しにこだわっているのを見て、提案はしてくれている。

 だが、ここで余計な手を煩わせるわけにはいかない。俺だって、こういう自分の問題は自分でどうにかしたい。

 それでも何か打開策があるわけでもなし。同棲用の新居探しは前途多難だ。


「やっぱり、隼に同棲を提案してから、一緒に物件を探す方が順当か?」

「ある程度の目星を付けるのもいいけど、恋人と一緒に探すのもオツなものよ~。それになんだったら、この家に隼ちゃんが来てもらってもいいんじゃないかしら~」

「え? この家に隼を? おふくろもそれでいいのか?」

「もちろんよ~」


 そうやって色々と方法を模索する中、おふくろからさらなる提案が飛んできた。

 確かにこの家は親父がいなくなったことで、二人で住むにはいささか広すぎる。

 隼が研究開発をするためのスペースも確保できるし、俺がこの家を出ておふくろが一人で暮らすことを考えると、ここで隼も一緒に暮らすのもありな話だ。

 おふくろが乗り気なら、隼にもこの話を提案してみて――




「ただ条件として、武蔵と隼ちゃんがきちんと入籍することね~」

「いや!? け、結婚とか早すぎるからな!? 俺と隼って、付き合ってまだ一年も経ってないからな!?」




 ――と思ったが、やはりこの話はなしにしておこう。

 どうにもおふくろはことを急ぎ過ぎている感が否めない。俺と隼が結婚するのはいくらなんでも早すぎる。

 結婚となれば、さらに手続きも増えてくる。それにそもそも、この同棲の最大の目的は隼への負担を減らすことだ。


 ――第一、結婚だ何だという話はもっとお互いの関係を深めてからだ。

 俺と隼はまだ清いお付き合いしかしてない。所謂肉体関係云々もまだない。結婚するにしても、もっと落ち着いて順序立ててからにしたい。


 ――別に俺は逃げてない。


「何よ~? お母さんをこの家にひとりぼっちにしちゃうの~? うえ~ん」

「いい歳して噓泣きなんかやめてくれよ……。けど、おふくろを一人にするのも嫌だから、こうなると近くの物件に絞った方がいいか……」

「あっ。別にそこは気にしなくていいわよ~。お母さんも武蔵が家を出たら、ここでお洒落教室でも開こうと思ってるのよね~」

「結構今後の生活をエンジョイする余裕はあるんだな……」


 そんなこんなで、俺の隼との同棲計画は前途多難のまま続く。

 佐々吹にも背中を押してもらったし、俺もできる限り早く決断したいものだ。





「――てな感じで考えてるんですけど、正直全然進まなくて……」

「俺の店に来ての第一声が、惚気た愚痴か~!?」


 それからさらに数日程経つものの、俺の物件探しは一向に決まらない。

 思わず仕事帰りに寄った玉杉さんの店で、注文より先に弱音を口にしてしまう。

 俺だって迷惑に思われるのは分かってるが、誰かに吐き出さないと辛くもなってくる。


「そこまで悩むんだったら、いっそのこと本当に隼ちゃんと籍を入れて、武蔵の実家で一緒に暮らせばいいんじゃねえか~?」

「いやいや……結婚はまだ早いですって。まずは同棲の話を持ち出してからですし、お互いの関係をもっと深めてからで……」

「十何年と幼馴染をしてたお前達二人が、今更これ以上どう関係を深めるんだかね~?」


 そんな玉杉さんとの会話なのだが、今日は店に隼も洗居さんもいないために結構遠慮のない話になっていく。

 確かに俺と隼は幼馴染としての付き合いは長いが、交際からの月日はまだまだ浅い。

 お互いにまだまだ慣れない社会人生活だってしてるし、ここで無理な変化は加えたくない。それで隼に負担がかかってしまえば元も子もない。


 ――これはしっかり考えた上での行動で、別に逃げてるとかじゃない。


「隼ちゃんと同棲するにしても、まずは当人に話を切り出すのが最初じゃねえのか?」

「それもそうなんですけど、俺も話を切り出す側として目星は付けておきたくて……」

「そこまで遠慮する間柄でもねえだろうが……。このままだと、本当にいつになったら同棲すんのかも分からねえな」


 玉杉さんは呆れ口調で俺に語るが、それでも俺自身の気持ちが簡単に割り切ってはくれない。

 これでどこかに隼が研究開発もできて、俺の給料でも問題なく生活できるような夢の物件があればいいのだが、そんなおいしい話があるはずもないし――




「……ハァ~、仕方ねえか。こいつは本来、隼ちゃんにする話だったんだが、武蔵に預けてやるよ」

「え? 何の話ですか?」




 ――そうやって俺が頭を抱えてカウンターに突っ伏していると、玉杉さんが何やら書類の入った封筒を取り出してきた。

 そのまま俺に話を切り出してくるが、この封筒も含めて何の話だろうか?


「隼ちゃんの両親が俺にしてた借金だが、あれにはそもそも大凍亜連合からのものも含まれてたって話は聞いてるか?」

「ええ。玉杉さんが窓口になることで、返済を一元管理してたんですよね?」

「その通りだ。だが隼ちゃんからも話を聞いて調べ直してみれば、その借金自体が隼ちゃんの叔父さんが大凍亜連合に上納金を収めるためのデマカセだったんだ。手続きに細工までしやがって、本当に余計なことをしてくれたもんだ」


 まず最初に玉杉さんが話すのは、デザイアガルダ――隼の叔父さんが勝手に進めていた借金返済の話。

 俺も少し聞いていたが、あの借金自体が隼の叔父さんが得するための自演工作のようなものに過ぎなかった。

 返済窓口となっていた玉杉さんも、そのことについては苛立ちながら苦言を漏らしている。


「それが分かったもんだから、俺の方で大凍亜連合にも問い合わせて、この件を洗い直してみたんだ」

「え!? 相手は反社組織ですよ!? そんなことして大丈夫だったんですか!?」

「俺もこういうトラブルには慣れてる。それに大凍亜連合としても、警察に捕まった馬鹿な鉄砲玉絡みのトラブルなんて、これ以上広げたくなかったんだろうよ。俺が問い詰めれば、あっさり『その件はなかったことにします』って切り離しやがった」

「俺には想像できない世界の話ですけど、それって要するに隼の借金が元々なくなったってことですか?」

「そういうことだ」


 そして玉杉さんはすでにその件について、大凍亜連合とも話を付けてくれていたようだ。

 結局のところ、隼の叔父さんが一人で騒ぎ立てて周囲を巻き込んだこの一件。ひとまずは収まるべきところに収まったということか。


「そしてこの封筒だが、中には俺が『借金返済として差し押さえていた物件の所有権』をまとめて入れてある。隼ちゃんの借金が帳消しになった今、こいつもあるべき場所に戻さねえとな」

「えっ!? そ、それってまさか……!?」


 これまでの話を聞いて、俺も玉杉さんが用意した封筒の意味を理解した。

 隼の借金はそもそもが叔父さんのでっち上げだったため、本来なら存在すらしていない。隼が借金のために失ったものも、本来の形に戻る。


 そしてその場所ならば、隼は間違いなく喜んでくれる。




「俺が押さえてた工場の所有権を持って、隼ちゃんに同棲の話を切り出してみな。悪いようにはならねえはずだ」

これで全てが元通りになる時。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ