ようこそ、鏡面ドールの不思議なお茶会へ
暗闇に、パッと灯りがつく。
円形状の小さな部屋の中には、薔薇の彫刻が施された縦長の鏡が置かれていた。鏡の前には、黒いゴシックドレスを着た蜂蜜色の髪を白い薔薇の花冠で飾った少女が佇んでいる。
鏡の鏡面を挟んで奥にも世界は広がっていて、もう一人、少女が存在していた。こちら側の少女が鏡に触れる右手に、左手を重ねる銀髪を赤いリボンで飾った奥の世界の少女は、金髪少女に優しく微笑む。
「さぁ、ボクらのお茶会の時間だ」
落ち着いたハーディの声に併せ、鏡の境目がなくなると、銀髪の少女は、金髪の少女の手を握りしめて鏡から飛び出した。
*
「——おや、人間のお客様かな?ボクはハーディ。【鏡合わせの双子ドール】の表さ。あっちは妹のハーツィ」
鏡しかない空間は、いつの間にか夜空の間に変化していた。白いテーブルクロスに肘を付いたハーディが、紫紺の瞳を愉しげに輝かせてこちらを見つめてくる。
「……お姉様、紅茶です。……なんですか?あなたもお好きにどうぞ」
ハーツィは、紫紺の瞳を冷たく光らせこちらを睨む。それから慣れた手つきで紅茶を淹れると、星が瞬く部屋に、紅茶の香りが漂う。机にはお菓子の他に、紅茶が入ったティーカップ、ミルクとレモン、蜂蜜が。ミルクなどは言葉通り好きに使えるように幾つか置かれているようだった。
「はぁい【夢鏡のドール】夢路、到着しましたわ」
「えーもう始まってるの!ベーナは1番乗りが良かったぁ」
「夢路じゃないか。【時鏡のドール】ベナレナも一緒かい。いらっしゃいボクたちのお茶会へ。どうぞ、席についてくれよ」
十二単を着込む夢路、ポップな衣装のベナレナが突然暗闇に浮いた鏡から現れる。遅れて恥ずかしそうに【水鏡のドール】睡蓮がやって来ては席に着いた。
「今日のお菓子はー?」と言うベナレナに、「わたくし氷菓子がいいですわぁ」と返す夢路。「私も……食べたい、な」と睡蓮も恥ずかしそうに頷く。
ハーツィが氷菓子の入った容器をドール達の前に置いてゆく。それを食べたドール達は幸せそうだ。
「あまーい、美味しいわ!ベーナはお茶会の氷菓子好きー!お客様もいっぱい食べてよ!」
新月の今夜も、不思議なお茶会は賑やかに続いていく。鏡のドール達のお茶会に、紛れ込んだ人間のお客もいつのまにか菓子を食べ、紅茶を飲んで楽しげに笑っている。
「——夢か、現か。さぁ、どちらでしょう」
そう言って、こちらを向いて楽しげに笑みを作ったのはだぁれ?
鏡に写り込んだ自分?それとも……、もう一人の自分?