『アルバム』
私の名前は、東埜 蝶と言うらしい。
実感がわかない。
去年、大きな事故をしたらしく記憶が曖昧なのだ。
外傷は、ほぼないが頭を打ったらしく顎の下から耳裏にかけて、スーッとメスを入れた痕らしきものが残っている。不意に首を動かすと、まだ突っ張る違和感がある。
両親は優しく写真を見せては、いろいろと過去を教えてくれた。
スキーに行ったこと、山にキャンプしたこと、浴衣で花火祭り、
父親は忙しらしかったが何かと写真を撮ってくれていたようだった。
ひとり娘だからなのだろう。
この写真が私の記憶なのだと言い聞かせている。
今年の夏、祖母の認知症が進み、私の療養も含めて田舎の実家で暮らすことになった。
「蝶、おばあちゃん連れてきて」
「はい、お母さん」
テーブルに食器を置くと私は、その足で祖母の部屋に行った。
祖母は、涼しくなる時間帯に縁側に腰掛けている。
祖母は、体中に生まれつきの痣があり、少し怖く見えた。
「おばあちゃん、ご飯だよ。」
「…はい、…お前は、どちらさんだい?」
「孫の蝶だよ。」
「…そうかい?」
そんなやり取り毎日のようにしている。
父親は、「昔の事は覚えているのに、最近の事は忘れてしまう。気長にやるしかない」とのことだった。
昔の事は覚えてる…私とは逆だ。
暑い日に、トップスにショートパンツの恰好をして祖母の部屋へといった時
「おばあちゃん、かき氷だよ。食べよ。」
「どちらさんだい?」
「孫の蝶だよ。」
いつもより、じっくり見られてる気がした。
「お前は、蝶じゃない!誰だ!」
いきなり祖母は怒鳴り始めて物を投げつけてきた。
私は恐ろしくなり、部屋を飛び出して泣いた。
「蝶じゃない…私だって…」
両親は、「小さい頃の蝶は、おばあちゃんっ子だったから、その時の記憶のままなのよ。」そう言うが、本当にそうなだろうか?
あくる日、父親と母親は用事で、私が一人で祖母の面倒をみることになった。
「おばあちゃん、お茶持ってきたよ。」
「…ありがとうございます。どちらさん?」
「…蝶ちゃんの友達だよ。」
「おー、そうかい、そうかい。蝶の友達かい」
「う、うん」
「蝶は、どこだい?」
「いま、出かけているよ」
「なんだい…」
「おばあちゃん、お茶…」
「ありがと、ありがと」
「ねぇ、おばあちゃん」
「なんだい?」
「蝶ちゃんの小さい頃ってどんなんだったの?」
「蝶の小さい頃かい?」
「うん」
「お嬢ちゃんやい、仏壇の横の棚からアルバムを持ってきてくれないかい」
「はい」
私は言われる通りにアルバムを持っていき開いた。
「蝶って名前ね、私がつけたんだよ」
「え、おばあちゃんが?」
「かわいい赤ん坊だったけど、私と同じように痣があってね。見た時はイジメられるんじゃないかと思いもしたさ、でもね。お腹の痣が蝶のように見えてね。」
「え!」私、痣なんてない!アルバムをめくる。見たことのある写真もある。だが見た事のある写真は長袖の物や、冬の写真、肌が見えるような水着の写真は始めて見た。
ど、どういうこと?
「そうそう、その写真取ってくれるかい?」
祖母は、アルバムに挟まれていて何度も手に取ったと思われる写真を指さした。
その写真は、幼い女の子が大きく足を広げて上着をめくり、お腹を出している、可愛らしい写真だった。
私は、その写真手に取った、お腹には、見事に蝶と見れる痣が写っていた。
震える手で、その写真を祖母に渡した。
暫くその写真を見つめていた祖母が
「ほら、ここ読んでくれないか? どうも、目が悪くてね」
祖母は、その写真の裏にして私に手渡した。そこには、
(わたしのスキなおばあちゃんといっしょ。おなまえ、ありがとう。)と書かれていた。
私は、耐えきれずに部屋を出ようとした時、祖母が声をかけた。
「お嬢ちゃんやい、お前さん蝶に似てるね。仲良くしてやっておくれ」
わたしは…
読んで頂き誠にありがとうございます。
今日のTwitterトレンド『アルバム』です。
今は、家族アルバムなんて少なくなったんだろうな~
でも、画像の数は異様に増えているんだろうなw
それでは、またお会いいたしましょう。m(._.)m