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041 不憫な人外と星の深淵

 うぃーす、合成魔獣(キマイラ)です。

 何だかお久しぶりな気がするが、ぶっちゃけ錬金術師のペット(兵器)のやる事は変わらない。

 錬金術以外じゃ基本怠惰でグータラな、社会不適合者を手厚く世話して、空いた時間でセフィロトをぶらつく。

 新しい因子の方も、未だ何を付けるかでイルシアが迷っているので手すきだ。余計なモノは入れたくないから、選定は慎重にしているらしいぞ。

 

「ごはん、ごはん、美味しくて楽しいごはん~」


 珍しく寝起きがよかったイルシアは、ご機嫌な調子で、即興の歌を口ずさみながら、朝食の用意が整うのを待っていた。

 何故か無駄にリズム感がいいのが腹立つ。こういうキャラは下手くそなのが様式美じゃないのか。


「その耳障りな歌を止めろ。さもないと、昼飯にピーマンを分かりやすい形で入れるぞ」


「なっ!? そ、それは勘弁してくれたまえ……」


 俺が軽くイルシアを恫喝すると、彼女は顔を蒼くして黙る。

 情けないヤツだ。ピーマンが嫌いって、ガキかよ。


「見た目がな、あまり好きではないのだ。マンドラゴラに似ていて……」


 味うんぬんではなく、ビジュアルの問題らしい。

 マンドラゴラって、アレか。引っこ抜くと奇声を上げる、手足の生えた野菜みたいなヤツ。ファンタジーじゃあ準レギュラーくらいの立ち位置だが。


「ゴハン、ゴハン!」


「ドーデモイイカラ、飯ニシヨウゼ!」


 見た事の無いマンドラゴラなる存在に思いを馳せていると、オル・トロス達にせっつかれてしまう。

 そうだな、飯の時間だったな。


「悪い、ほら食え」


 俺が許可を出すと、オル・トロスは机に置かれた食事を貪り始める。

 まるで「待て」を極限までさせられた犬みたいな有り様だ。いや、俺、狼獣人ベースのキマイラだし、犬って誰かに言うのは妙な気分だが。


「ウマイ! ウマイゾ!」


「コノ肉オイシイ! オイシイ!」


「オル、それは魚だ。まあ、魚肉っつったらそうなんだが……」


 魚の香草焼きに、まるで獲物を仕留めようとする獣のように喰いつくオルとトロス。もう死んでる(?)から逃げたりしないのに、せっかちなヤツらだ。


「なあイルシア、俺の因子探索はどうするんだ?」


 配膳を済ませた俺は、食事をしている蛇達に気を遣いながら、イルシアの横に立って問う。

 もうそろそろ答えが出ているかもしれないので、一応質問してみる。


「うーむ……」


 イルシアはスープに入った刻みベーコンを味わった後、悩まし気な声を上げる。


「候補はいくつかあるのだがね……逆に問おう。ルベド、君はどんな機能が欲しいんだい?」


 イルシアの質問。うーん、いざ何が欲しいかと聞かれると、悩むところだ。

 誕生日のプレゼントに悩むような気軽さだが、新たなる殺戮機構を足すという話なのだ。そんな「イタリアンとフレンチ、どっちがいい?」みたいな感じで聞かれても困る。

 今の所、過不足は感じていない。身体能力は言わずもがな、アルデバランによる多種な魔法に、セイレーンによる飛行能力。正直、完成しているのではないか――と、考えてしまう。


「んな事言われてもなぁ……破壊ビーム出す機能とか、どうだ?」


「もう出せるだろうに」


 イルシアが冷静にツッコみ、俺はハッと気が付く。そういえば出せるな、破壊ビーム。

 

「じゃあ……何も思いつかねぇ。もういいんじゃね? 十分強いと思うぞ、俺」


「ダメだ。君はもっと先へ、高みへ行けるハズだ。今抱えている事案が終われば、私は本格的に君の因子探索へ取り掛かる」


 俺がもういいんじゃね等と言ったら、イルシアは席を蹴立てて反論する。勢いが良すぎて、テーブルに置いたピッチャーが零れかけた。


「分かった分かった。ったく……」


 どうにかイルシアを落ち着かせて、その場を収める。全く、イルシアの理想のキマイラ像が想像つかん。

 これ以上俺は何を生やせばいいんだ。

 

「なら、イルシアはどんな因子が欲しいんだ」


「それを考える為に、喫緊の問題を解決しないといけないのさ」


 食事を終えたイルシアは、ナプキンで口を乱雑に拭ってから立ち上がる。


「全く、だから嫌だったんだ、ここに戻ってくるのは。仕事しないといけないからね」


 そういうイルシアは実に不機嫌そうだ。

 そりゃ、衣食住に加え、都市内での様々な特権があるのがタウミエル――五人の創設者達(オリジン)と二人の従者――だ。特別な権利があるということは、往々にして七面倒な役目があるものだ。

 そう俺が言ってみると、イルシアは口を尖らせる。


「私は! こういうお仕事が嫌で一人で研究していたのだ!」


 仕事をせずに自分の好きな事をして生きていきたい、と放言するイルシア。

 まあ、それが出来るのが理想だろうが――今まではその理想を叶えていた――残念ながらそうもいかない。

 

「なら、早くその仕事を済ませる事だな」


「むぅ……」


 至って当たり前の事を言うと、イルシアは呻いてしまう。


「……まあ、そうだね。それに、これは我々タウミエルにとっても重要な事だ。頑張らなければ」


 そうイルシアは言って、微笑んだ。


「そういや、その仕事ってのは何なんだ?」


 俺の言葉にイルシアは意外そうに目を見開いた。


「おや、知らなかったのか」


「ああ、何やってるんだ?」


 俺が聞くと、イルシアは快く答えてくれた。


「最近になって、搬入された『作品』があるだろう? アレを使って、とあるモノを創っているのだ」


 イルシアが指を立てて説明する。それを聞いて、俺はボンヤリと視線を彷徨わせ、やがて思い出す。

 ああ、そういえばちょっと前に、イルシアが「戻ってきた」だの何だの言って、喜んでいたような気がする。

 アレか、その作品ってのは。つまりは同僚――先輩ってことか?


「へぇ、そうなのか。んで、今度は何を拵えてるんだ?」


「ふふ、それは見た方が早いね。来るかい?」


 いたずらっぽく笑うイルシアに、胸の奥に秘め、厳に封じた恋情がちらつく。惚れた相手の、少し珍しい表情は、奥底を刺すような感覚を与えてくる。

 それをエラーと断じ、イルシアの言の葉に答えて見せる。


「そうだな。まあ、やる事ないし今日はついていくか」


 俺がそう言うと、イルシアは嬉しそうに笑う。


「そうか! ふふ、君が近くにいると考えれば、仕事にも身が入るというものだ」


「んでそんなセリフを恥ずかしげもなく言えるんだお前は」


 俺が呆れたように言うと、イルシアは胸を張って答える。


「君を想うが故さ! 我が最高傑作よ」


 お目出たいヤツだ。

 そんなイルシアに付き合っていると、丁度オル・トロスの食事も終わったようだ。

 俺は食事の後片付けをして、イルシアに同行することにした。






 イルシアが向かった先は、セフィラの塔だ。

 中央区の中央――ギャクじゃないぞ――に聳え立つ、この都市の政庁だ。明らかに怪しいので、何かを秘めているとは思っていたが、やっぱり余人には見せられない事をする場だったらしい。


「おお、パラケルスス様にルベド様。ここへはやはり、例のモノを仕上げに?」


 丁度塔に入ろうとした所で、俺達は呼び止められた。

 声の方を見てみると、そこにいたのは――ええと、誰だっけ。

 容姿を端的に表現するとすれば、「ビジネス黒山羊」である。

 長身痩躯をシャツ、ベスト、ネクタイといったスーツっぽい服にに身を包んでいる、黒山羊の悪魔みたいなヤツだ。同じく黒の髪――タテガミ?――もちゃんと整えているし、人ならざる存在たるを思わせる黒とヴァイオレットの瞳からは、どことなく優し気で苦労性な雰囲気が漂っている。

 あー、どっかで見たような気がするなあ。どこだっけ。

 

 黒、山羊――という要素の取り合わせのせいか、アルデバランがどうしても脳裏に過る。俺の初めての敵にして、随分と手を焼かせてくれた悪魔だ。

 悪魔――山羊――ああ、思い出した!

 

「バフォメットの……し、し、ええと、あの、アレだ。その――ヘルメスの部下のヒトだ」


「シモンです、ルベド様」


 俺が名前を思い出せなかったのを見てか、シモンなる魔族は少し悲しそうに答えた。 

 そんな顔しないでほしい。罪悪感が湧いてくるので。

 まあ兎も角、相手はバフォメットのシモンさんだ。情報部に所属しているハズ……だ。

 マーレスダ王国の一件の後、俺はよくヘルメスと会っている。オル・トロス目当てで付き合わされているだけだが、その時によくヘルメスと一緒にいたので、ギリギリ覚えていた……と言ってよいのだろうか。

 

 彼の種族――バフォメットは、悪魔と呼ばれる存在の要素を以て生まれた魔族だ。

 悪魔と混同されがちだが、実際は異なる種族である。

 悪魔が霊的な存在なのに対して、バフォメットは物質的な要素が強い。滅茶苦茶噛み砕くと、悪魔とのハーフだ。

 ちなみに、これもまた勘違いされることが多いが、バフォメットが皆黒山羊の姿をしているワケじゃない。そこは胤に左右される。仮に親の悪魔が蛇の姿をしていれば、似た姿になるだろう。


「ああ、そうそう、シモンさん。思い出せなくて悪かった」


「いえ、お気になさらず。……何故かよく、忘れられるので」


 そう気遣ってくれるシモンは、どことなく悲しそうだった。

 可哀そうに。


「そう言ってもらえると……まあ、その、悪かった。んで、何だっけ?」


「ええと、ここへは例のモノを仕上げにいらしたのかというお話を……」


 そうシモンが言って、何を話していたのかを思い出す。


「あー、そうだな。確かに俺達はその……例のモノを仕上げに来た……んだよな?」


 後半、自信が無くなって、俺は隣のイルシアに問いかけつつ答えた。

 だってその「例のモノ」が何なのか知らんし、俺。

 当のイルシアは酷い奴なので、俺とシモンが話していても気にすることなく、素知らぬ顔をしてオルとトロスで遊んで暇を潰していた。

 自分が興味のない事には、とことん興味のない奴なのだ。


「ん? ああ、そうだね。ここで拵えているヤツを……うむ、もうすぐで完成しそうだから、仕上げに来たと言ってもよかろう」


「だ、そうだ」


「おお、やっぱりそうでしたか。では情報部も、また一段と忙しくなりそうです」


 そういって人の良さそうな微笑みを浮かべるシモン。邪悪な見た目だが、不思議とそんな所作が似合っていた。

 コイツ多分苦労性だな。


「いっつも忙しそうだが、それよりもか。大変だな」


「はは、まあ、これも仕事ですから」


「ヘルメスも大変そうだな。いっつも愚痴ってくるが、アレの困った癖も増えそうだ」


「ははは、こんな事を申し上げるのも変ですが、総長なので」


「まあそうだな。ヘルメスだしな。そうだ、アイツに言っておいてくれ。オル・トロス目当てで呼びつけるのは構わんから、せめて事前に連絡ぐらいしろって」


「えっ、あっ、はい」


 またぞろヘルメスが煩くなるのを予見したのだろう、シモンが嫌そうな顔を僅かに覗かせた。

 まあ、これだけはしっかりと言っておかねばいけない。俺から言っても、アイツは基本スルーしやがるので。

 部下から呈されたとなれば、もしかしたら改善の余地もあるやもしれない。

 

「んじゃ、俺らはこれで」


「はい、お引止めして申し訳ありませんでした」


 そういって、俺達はシモンと別れ塔内に入る。相変わらず絢爛な内部だ。ラスダンを彷彿とさせる光景である。


「それで、この塔のどこで拵えてるんだ。ていうか、ウチの研究室じゃないんだな」


「まあね。何分巨大になるし、性質上、対象物との距離が開き過ぎるのも良くない。ここでやらざるを得ないのさ」


「という事は、ここで使う何かの為のモンを、創ってるのか」


「うむ、そういうことだ」


 イルシアと問答しながら進むのは塔内。そして行きついたのは転移陣だ。

 どこに転移するんだろうな。

 

「さて、転移先をいじらないとね」


「ん? 転移先ってイメージしたら勝手にやってくれるんじゃねえの?」


 セフィラの塔の転移陣は特別製で、各階層へ移動する際は、移動先をイメージするだけでよい。態々術式に介入しないといけないなんて、変だな。


「行き先がね、ちょっと厳重なのさ」


 転移陣に魔力を流し、術式を弄っていたイルシアがそう答える。


「ドコ行クノ? ドコ行クノ?」


「オイラ、ココアンマリ好キジャナイゾ。ツマラナイゾ」


「すぐに分かるさオル。すまないねトロス、でもこれも仕事なのだ」


 オル・トロスとイルシアが適当な会話をしていると、転移陣の設定が終わったようだ。

 

「では行こうか。ルベド、乗ってくれたまえ」


「ああ」

 

 イルシアに促され、俺は彼女と共に転移陣に乗り込む。一拍の内に魔力が陣に供給され、すぐさま転移が始まる。視界が白く染まり、浮遊感を感じているのも束の間、転移が終了していた。

 目を開け、俺は転移後の光景を見る。


 ――そこは薄暗い、奇妙な場所だった。

 薄暗い広間のような場所だが、真ん中には大穴が開いており、そこから青白い光が伸びている。光の先からは巨大な幾何学模様が描かれており、それは歯車の様に絶えず動き続ける。

 その大穴の周りには多数の魔導具や機材が置かれ、技術者らしき魔人族や魔族が忙しなく動いていた。特段目を引くのは、機材に混じっておかれた巨大なフラスコ。俺を収容する培養槽に似ているが、大きさが圧倒的だった。中には金色に輝く飛竜が浮かび、眠っている。


「ようこそ、星の深淵へ」


 イルシアはそんな光景を興味深く眺める俺に向けて、そう言って見せた。

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