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027 仕事に過失はつきもの

 ご無沙汰しております、合成魔獣キマイラです。

 今、俺はマーレスダ王国の儀式場に来ている。だが少々状況が面倒だ。

 目の前にはヤバそうな槍を持った男の死体が転がっている。

 横にはヘルメス・カレイドスコープ――死ぬほど不機嫌そうに、俺を睨んでくる。

 そして近くで唖然とするレイアーヌ。そこに現れた地味そうな少年。

 

「――どーすんのよこれ!」


 ヘルメスが苛立ったように俺に言ってくる。

 クソが、んなモン俺が知るか。

 

 ――こうなったのにはワケがある。説明するには少々、時を遡る必要があろう。


 

 

 

「――ルベド……アルス、マグナ。それが、貴方の真なる名前?」


 ネタバラシを希う哀れな少女の為に、俺は自らに科していた擬態を解き、魔性と変異の全てを解き放った。

 

「外ダー!」


「オ外、オ外!」


 この都市に潜入してからは、ずっと引っ込めたままだったので、オルとトロスは思う存分に空気を吸って笑っている。

 実に嬉しそうにしているが、構っている暇はない。

 

「そうだ、この名こそ、我が主たるイルシア・ヴァン・パラケルススより賜った印。俺の真なる名であり、お前達を滅ぼす一助を担う者だ」


「滅ぼす……どうして、どうしてそんな事をするんですか!?」


「理由はあるさ、勿論。全ての事象に原因と結果があるように、お前達に今日振り落ちた災厄にも、始まりが存在する」


 ――選択肢を失った少女の為に、俺は語ってやった。


 ――この都市が如何にして築かれたか。


 ――どうやって生き延びて来たか。


 ――その為に、何を犠牲にしてきたか。


「そん、な……」


「嘘だと思うか? いいや、嘘じゃない。お前は、抵抗すら許されない哀れなセイレーンを嬲り、犯し、捌いて殺し、その臓腑と血と絶望より生み出された道具であり、人形だ。肉と犠牲と裏切りの屍の山に造られた牙城を守り続ける、使い捨ての防波堤――」


 歯を食いしばって、俯く少女に向け語り続ける。


「――そのくせ、意志を持つせいで徹し切れない紛い物。消耗され続けるが故に、破綻があれば人に縋ろうとする。意志があるからこそ、お前は不完全であり続ける」


 溜息をついて、俺は再び言葉を紡ぐ。


「道具ならば、道具らしく自らを削って尽くし続けろ。斯く在れと創られたんだからな」


 俺の言葉に、レイアーヌは顔を上げ眦を決して怒る。


「嫌です! だって、だって私は――」


「道具じゃないとでも? ならば何故、死ぬと分かっていて運命を遂げようとしたんだ。何故逃げなかった?」


「そ、それは――」


「それが出来ない時点で、お前の目的は違うんだよ」


「……?」


 レイアーヌは顔を上げ、俺を見つめる。


「お前は、ただ停滞を望んだ。『こんな日々が続けばいい』『思い出を大切に生きよう』――一端のヒトのような願いを抱いていた」


「それは誰だってそうでしょ! 誰だって、日常が尊いのは当たり前で――」


「それはな、人の如きには過ぎたる願いだ」


「――ッ!?」


「これには、俺の主人の意向も含まれているのだろうが、敢えて言おう。ニンゲンは、此処で生きるには値しない。その道具たるお前もそうだ。ましてや、俺の主の、研鑽の結晶を模倣して生き延びるような愚昧共には、猶更過ぎたモノだよ」


「そんな……何て、何て酷い! 何でそんな横暴で傲慢なんですか!? 貴方がこんな事しなければ、皆死なないし私だって真実に気づかず死に続けられた! 何で何もかも台無しにしようとするんですか!?」


 何故、か。

 そんなものは決まっている。


「――復讐だ。最期のセイレーンが祈った復讐が始まりだよ」


「ふく、しゅう? でも、私達は――」


「裏切った者達ではない、か。だろうな。セイレーンを裏切ったのは、ずっと昔のニンゲンだ。だが、その系譜を継いで、腑分けした遺骸を隠し持ち、そして今も利用して人形を鋳造し続けているだけで、十分理由にはなるだろう?」


「……っ」


 ――まあ、あのイルシアの様子じゃあ、この都市の存在を知られた時点でどの道滅んでただろうな。

 アイツがあんなにも感情的――いや、感情的になる事はそこまで珍しくないが、それが怒りの類だったのは珍しい。

 

 ――ふざけるなよ、それは私だけのモノ、私だけの研究だ。またしてもお前達は、その間違いを繰り返そうというのか。


 俺がセイレーンから聞いたことを報告したら、彼女はそんな事を言っていた。

 イルシアがあんな風になるのを見るのは初めてで、だから聞けなかった。

 いいや、聞く必要など、疑問など抱く必要はない。

 俺は命じられるままに、滅びを与えるのみ。

 それこそが、道具の本分だから。

 一つ息を吐いて、残りを語る。


「――お前達は、過ったのだよ」


「ッ!? それが、私達が滅ぼされる理由だと?」


「そうだ、最後のセイレーンが紡いだ怨嗟と復讐――少なくとも、それが俺達をここに呼び寄せた歌だ」


「……」


「理不尽だと、支離滅裂だと思うか? 復讐など元来そんなものだ。正当性があろうが無かろうが、齎されるのは何時だって理不尽だ。何せ、復讐は減算だ。誰かが受けた理不尽によって式が成立し、痛みを取り払う減算によって漱がれる。残るのは虚無感と達成感、端から生産性のある行為じゃない」


「……だから、私達は、先祖が犯した理不尽の代償を求められていると?」


「その通り。あの研究室で、お前も見ただろう? アレを見て、そこからセイレーンの痛みを想像することは難くない。復讐なんていう、破綻した減法を成すには、十分すぎるほどの証拠だよ」


「……」


「それに、どちらかといえば、お前はこちら側だろう」


「……ッ!」


「ヒトとは違う方法で、今日死ぬために生み出された怪物の孤児みなしご――」


「わ、私は……」


「セイレーンは魔族だ。魔族とは、意志と知恵があるほど高位の魔物の呼称。お前は、俺の主が遺した研究を用いて創られた、俺の同類だ」


「……私が、貴方と同じ?」


「巨視的に見れば、似てはいる。試験管で生まれ、怪物の因子を持ち、誰かの道具である。――違いは、性能と主人への忠節、後は自意識やら何とかやら――まあ、ここまで語るのは詮無きことだな」


「……」


「だからこそ、機会をやる」


 俺の言葉に、レイアーヌは顔を上げて困惑を滲ませる。


「お前の歌で、この街を滅ぼせ」


「ッ!?」


「自分を利用したヤツが、憎いと思ったハズだ。だから機会をやるんだよ、自らの手で清算を付ける機会を」


「……」


 少女は目を見開き、俺を見つめてくる。瞳は揺れ動き、酷く動揺しているのが窺える。


「逃げる事は出来ないだろうが、歌う事は出来るだろう? 心の底からそれを望むなら、お前の制御機構を切ってやってもいい。さすれば、呪歌を以って決着けりを付けられるだろう」


 俺が突きつけたのは、破滅への選択。

 セイレーンより生み出された傀儡であるレイアーヌ。彼女の手によってこの街が滅べば、この上ないほどの結末だろう。少なくとも、セイレーンが文句を言わないくらいには、醜い終わりだろうよ。


「……」


「選べ、レイアーヌ」


 レイアーヌは冷や汗を流し、拳を握り締め震える。表情は硬く、酷く葛藤しているのが容易に伝わってくる。

 僅かに沈黙、やがてレイアーヌが口を開こうとした瞬間――


「ハァァァア!!」


 ――王城内へ続く階段より、現れた男が一気呵成に突進してきた。

 俺は軽く横へ飛んで回避、直後、槍が一閃される。

 

「レイアーヌ様!」


 割り込んでいた者の正体は男、騎士だ。何か高そうな鎧に身を包んだ、鍛えられた騎士。それなりに手強そうだ。先の一撃も、雑兵のそれよりはだいぶ鋭い。

 それに、この騎士が持つ槍――見ていると、酷い違和感を感じる。この独特の気配には覚えがある。そう――どこかで、似た気配を――


「あーあ、もうちょっとだったのに。なんで邪魔すんのよ、ニンゲン」


 俺の思考を断つように、不機嫌そうな声を発するヘルメスが、空間を歪めて現れた。

 彼女も同意した、この街のニンゲン達が醜く終わる様――それを成就させるため、あと余計な事されても困るので、様子見を強制させていたが、我慢できずに出て来たみたいだ。

 

「もう、何よ。アンタも、あんな長々と説教してないで、さっさと懐柔でも魅了でもすればよかったでしょ!」


「ちっ、うっせえな。お前の甲高い声マジでムカつくから黙ってくれ」


 ガミガミと嚙みついてくるヘルメス。クソ、マジでうるさい。

 俺がどうにかキレるヘルメスに、オルとトロスを嗾け有耶無耶にしてやり込めようとしている間に、騎士とレイアーヌは距離をとっていた。


「レイアーヌ様、ご無事でしょうか」


「騎士団長……何故、ここに」


「それは勿論、御身に何かあれば国の危機ですから」


「……私なんて、幾らでも替えが利く道具でしょう? それなら、王様の所へ行った方がいいんじゃないですか?」


「っつ!? そ、それは――」


 騎士団長とやらが口を開きかけた瞬間、


「もう無駄よ無理よ。アイツは無視して、当初の予定通りアンタがこの街を滅ぼしなさい」


 ヘルメスがそう口にする。先ほどまでのヒステリックな様子は落ち着いて、多少疲れたように言ってくる。よし、オルとトロスで釣って鎮静させた甲斐があったな。

 

「そうだな、そうするか」


「ソーシヨウゼー!」


「ソースル、ソースル!」


 俺達がそう話をつけると、ぎょっとしたように騎士団長とやらがコチラを向いてくる。


「貴様――今、何と――」


 俺はそんなニンゲンを努めて無視し、変異を呼び出すべく魔力を励起――エリクシル・ドライヴが魔力錬成を行い、赤い雷光の如く膨大量の魔素を発現させる。


「――グッ!?」


「よし、では先ずは――〈完全変異・アルデバランのかいな〉」


 完全変異――後付けした因子を、自らの肉体に完全に同調させる、俺がキマイラとして備える機能の一つ。

 今回のようにアルデバランの腕を完全変異させれば――


「なっ!?」


 騎士団長とレイアーヌが目を見開いて驚愕するのをよそに、俺の右腕が黒く異形のソレへと変じていく。

 それはかつて、とある森でキマイラに殺された、悪魔のモノと全く同じ。

 因子が変異し、自分の右腕が悪魔のソレへ変じるのを確認した瞬間、腕とエリクシル・ドライヴが接続、アルデバランに秘められた術式の数々を認識し、無意識の領域にて行使が可能となる。

 

「――術式選択、代理詠唱終了、実行する――〈召喚サモン異形の水魔(ディープワン)〉」


 召喚魔法――異界より異形を喚び出し使役する魔法系統。中でも悪魔アルデバランは、自身と程近い悪魔系統の召喚を得意としていた。

 水底の悪魔、クトゥルフの眷属たる水魔を喚起するこの術式は、近くに海があるマーレスダ王国への牽制へ使うには持って来いなのだ。

 展開される魔法円より、呼び出された何匹もの醜悪な水魔に、俺は思念にて伝達する。

 

 ――この国にいるニンゲンを適当に間引いておけ。逃げ出す者を優先して片づけろ。


 命令を受諾した水魔共は、儀式場より飛び降りて国中へ散る。すぐにでも殺戮が行われるだろう。


「貴様……何を、何をしたッ!」


 槍を俺に突きつけ、怒りを発する騎士団長とやらに、肩を竦めて見せる。


「見てわかるだろ、殺戮の下準備さ」


「何だと! 貴様ッ!」


 射殺さんばかりに睨み付けてくる騎士。彼はレイアーヌを下がらせると、槍を構えて臨戦態勢を取る。


「我が名はバガテル・ランズベンド。マーレスダ王国騎士団、団長の座を預かる者。国を凌辱する貴様を、今ここで葬るッ!」


 口上を終えると、騎士――ランズベンドが勢いよく突っ込んでくる。槍という武器の都合上、助走をつけるほど威力が向上する――故か、ニンゲンにしては中々の走力だった。かつて戦ったアルフレッドより僅かに劣るくらいか。

 そういえば、アイツは中々強かった――なんて余計な思考が過るくらいには、この男、無力――。


 それ即ち、脅威と断ずる事すら烏滸がましい。


 槍を勢いのまま突き出してくるランズベンド。空気を裂く轟音と共に、魔力の籠った一撃がこちらへ向かってくる。

 

「バカだな、それで隠しているつもりか」


 何を狙っているのかは分かっているが、どうもしない。

 いや、正確には俺が何かをせずとも、問題無い――というべきか。

 

「ハァァァァァ!!」


 裂帛の気合と共に、槍が向かったのは俺――ではなく、横にいるヘルメス。

 そりゃそうだ、幼い少女の姿をしているヘルメスの方が、与し易いと考えるのは妥当。

 

 ――だがそれは、ニンゲン同士の戦いに限った事。


 ヘルメス・カレイドスコープもまた、人外の領域にて生きるモノ。たかがニンゲン風情の一撃など――


「アッハッハ! バッカじゃないのアンタ!」


 ――男の全霊の一撃は、ヘルメス・カレイドスコープの人差し指だけで受け止められてしまう。


「なっ!?」


 魔力で浮遊しながら、空中で優雅に足を組んでいるヘルメス。これまた優雅な所作でランズベンドの槍を受け止めると、可憐な容姿に酷薄な笑みを浮かべ嘲笑う。


「もしかして舐めてた? おバカさん、生まれて数十年程度の赤子が、アタシに一撃でも入れられると思って?」


 そう嘯くヘルメスは人差し指を軽く弾いて槍を退け、愕然とするランズベンドに近づき顔を覗き込む。


「憶えておきなさい、時は重い。定命の理で生きるニンゲン風情には、覆せないほどの重みがあるの。もっとも、ここで死に逝く者に何を語っても、無駄でしょうけど」


 そういってヘルメスは、凍えるほどの冷笑を浮かべ、クルリと後方へ回転し、俺の横に浮遊し足を組む。

 

「――ッ! バケモノめ!!」


 吐き捨てるようにそういって、ランズベンドは後方へ弾かれたように下がる。


「ならばっ! 我が魔槍の力を解放する!」


 一々そんな事言わずに、無言でやればいいのに、何故かランズベンドは切り札を切る事を宣言する。

 こういう人種の考える事は分からん。

 

「マソー? マソー?」


「美味イノカ、ソレ?」


「食い物じゃねえっつーの」


 バカな事を言い放つ蛇共を窘めている間に、ランズベンドは槍に魔力を収束させ――刹那、空間が震えた。

 確かにそれなりの量の魔力だが、決して空気が震えるほどではない。俺の感覚器官は、空間の震えなど検知していない。

 だが、何故か確かに、空間が震えたとしか思えないほどの圧が、槍より放たれている。

 

「ふーん……」


 俺は静かに右腕を突き出し術式を呼び出す。イルシアが貫かれた例の光の件もある、こういうのには注意を払わねば。

 

「あ? アレ、その槍、もしかして――」


 一連の様子を見て、何かに気が付いた様子のヘルメスだが、今コイツに構っているワケにもいかんな。


「受けよ――」


「術式実行、〈絶対防御アブソリュート・シールド〉」


 何事かを呟いた瞬間、ランズベンドは渾身の一閃を放つ。

 それなりの速度、それなりの威力、それなりに籠った魔力。

 

 ――警戒のし過ぎだったか? いいや、何かしらの権能を備えている場合もある。搦め手が一番面倒だ、受けないに越したことはない。


 俺が展開した防御魔法〈絶対防御〉――紫のハニカムシールドが展開され、容易く槍の一撃を受け止める。

 

「バカな、無属系統の防御魔法――それも、極大魔法より上の――」


 障壁と接触し、火花と閃光が散る鍔迫り合いの中、ランズベンドが驚愕する。

 無属系統第十一位階の防御魔法である〈絶対防御アブソリュート・シールド〉は、攻撃を概念の領域で判定し防ぐ。

「外部からの害意を弾く」という概念――性質といっていい――が障壁の形を成し、顕現しているので、如何なる威力を持つ攻撃だろうと、難なく受け止める。

 これを破るには、同じく概念の領域にて仕掛けるか、膨大量の魔力に、ありったけの意志を乗せるより他は無い。

 兎も角、唯の一撃ではどうしようもない。

 最初のぶつかり合いで、破れない時点で、コイツに干渉の余地が無いのは明白。

 

「終わりだ――」


 そう口にして、左手に〈部分変異〉を施し、異形の爪を現出させる。

 刹那、ランズベンドが目を見開き、諦めたように笑った。

 

「――あ、ちょっと待って」


 爪を突き出し、貫こうとした瞬間に――ヘルメスが馬鹿げた事を言い出す。

 当然もう遅い。攻撃しちゃいけない理由があるならもっと早く言ってくれよ。

 残念ながら、制止も空しく――俺の爪が見事にランズベンドの胸部を抉り、貫く。


「ぐふっ!?」


 口からドス黒い血液を吐くランズベンド。致命傷だな。

 

「あーっ!!」


 それを見てヘルメスがこの世の終わりの如き絶叫を上げる。何だコイツ。


「うっせえな、ここでお前も死ぬーとか言ってただろ。何でやっちゃいけないんだ」


 ランズベンドから爪を抜き取り、崩れ落ちるのを視界の端で捉えた俺は、すぐに興味をヘルメスに移す。

 

「アンタ気づいてないの!? ソイツ聖遺物の契約者よ!」


「せい、いぶ……なんだそれ」


「聞いてないの!? うそでしょ!?」


「いや、聞いてな――」


 聞いていない、と言おうとした瞬間、俺の記憶領域から一つの光景が浮かぶ。


『――真正の善人達が現れ、聖遺物と呼ばれる強大なアーティファクトに見初められ、災厄と戦う勇者となった』


 ……イルシアから聞いた、世界が再生した経緯に、そんな件があったような気がする。

 聖国の勇者が持つ、強力なアーティファクト――それが聖遺物、だっけ。


「あー、聖国が持ってるっていうアレか?」


「そうよ! それ! 何でそこまで知ってるのに殺しちゃったの!」


「はぁ? 何でニンゲンを殺しちゃいけないんだ」


「ソーダソーダ!」


「ニンゲンハ殺スモンダロ!」


「もう、どうして伝えて無いのよ!」


 そういうとヘルメスは頭を抱えて蹲ってしまう。


「あー、サイアク! アインに怒られる! ねちっこく怒られる!」


「……それって、俺も怒られるのか? つーか、何が問題なんだ、説明しろって」


 俺が言うと、ヘルメスは立ち上がり、涙目で俺を睨みつけながらも、手早く説明する。

 何でも、タウミエルの最高目標――世界調律には、聖遺物が必須であるらしい。そして、聖遺物は、長い間契約者に使われる事で「覚醒」するらしく、その「覚醒」した状態ではないと「計画」に使えんらしい。

 再選定されるのに、時間が掛かるからだとか。

 つまり、熟すまで待たないと、また実が生えてくるまでに時間が掛かって面倒だと。


「んでそういう重要な事は連絡してくんねぇんだよ!」


「だって、知ってると思ったんだもん! アインとか、アンタのご主人様とか、誰かが教えてるって思ったんだもん! ていうか、こんな辺境の零細都市国家に、聖遺物があるなんて知らんかったし!!」


「あのな、そういうの、報連相の怠りっていうんだぞ。組織で一番やっちゃいけないんだぞ。つーかお前、仮にも情報部の総長だろ、情報の大切さは知ってるハズだ」


「ううっ……アタシ悪くないもん。ていうか、アンタの主人初期メンバーでしょ! だったらアタシよりも詳しいでしょ! 関係も近いんだし、ご主人様から教えて貰うのが筋ってもんでしょ!!」


「てめぇ、あの馬鹿錬金術師にそんな高尚な事が出来ると思ってんのか!」


 クソ、コイツマジで……

 もしかして俺も怒られるのか? 完全にとばっちりだろ。

 ああ、クソ、憂鬱だ。

 ……待てよ、まだ死んでないのでは?

 ニンゲンがいくら貧弱でも、まだワンチャンあるのでは?

 そう思って、ランズベンドの方を見てみる。


「………もう、し、わけ、ありません、れ、いあ、ぬ、ま」


「騎士団長様……」


 俺の視線の先には、胸に空いた大穴から夥しい出血をして、今にも死にそうな顔でレイアーヌと言葉を交わす、男の姿があった。

 ああ、ダメそう。


「ちょっと、回復魔法とかないの?」


「悪魔の腕で回復魔法使えるワケねぇだろ」


「もう、使えないわね」


「それは俺のセリフだボケ」


 今わの際真最中の騎士を見て、俺達は緊張感の無い会話をする。

 もうどうしようもないので、逆に落ち着いてきたのだろう。

 

「ばけ、もの、おぼ、え、お、け」


 ランズベンドは俺に視線を向けると、力なく言葉を紡ぐ。


「せい、いぶ、よげ、ん……おま、の、しを……いつか、おまえは。かなら――」


 最期まで言葉を紡げることは無く、ランズベンドは息絶えた。


「……死んだな」


「死んじゃった……」


 その時、王城への扉が開き、地味な少年が儀式場へ入ってくる。


「――どーすんのよこれ!」

バカなラスボス共

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