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144 魔王会議

六章開始。

ストックある限りは毎日投稿します。

 お待たせしました、合成魔獣(キマイラ)です。

 こうするのも随分と久しぶりな気がするな。

 

 まあそれは兎も角として、本日俺はタウミエルの会議に呼び出されていた。

 セフィラの塔最上、ケテルの間には俺は無論、タウミエルのメンバー全員が集まっていた。


「さて、全員集まったな」


 出入口と真反対、言わば円卓の上座に座っているのはやはり、妖しげな美青年。

 黒髪金眼、キッチリとした礼服を着こなすその姿は、いっそ腹立たしい程に整っている。


 アイン・ソフ・オウル――この学術都市セフィロトの裏の主にして、タウミエルの長である。


「それでは、今日の会議を始める」


 彼の凛とした宣言によって、世界に仇名す魔王の集いが始まった。


「先ずは――」アインはその金色の瞳をコチラへ向けてくる。「イルシア、そしてルベド君」


 アインの言葉こそ優しいものだったが、声音には有無を言わせない迫力が存在している。

 言いたい事は分かる。ホーエンハイム、そしてカルネアス実験区の件だろう。

 

 あの時――レン高原で激発した「グランバルト帝国」と「聖国アズガルド」の戦い。

 激化する戦局に帝国側が投じたのが「魔人兵」――かつて神聖グランルシア大帝国でイルシアが手掛けた三人の少年少女たち。


 その劣化模倣が、イルシアの宿敵であったホーエンハイムにより造られ、戦場に投じられた。

 

 それはかつて、マーレスダ王国に「魔族セイレーン」の因子探索に赴いた際、当のセイレーン本人より知り得た「歌姫」のマイナーチェンジ。

 当時のイルシアは、歌姫の存在を「魔人兵」だと看破し、怒り狂って俺に破滅を命じた。歌姫の存在を一つも許すなと。


 その命令を遂行し切れていなかった。

 レン高原の惨状よりそう考えた俺が、始末をつけに行く。

 俺個人としては自然な発想だったが、当時のケテルの間は酷く紛糾したものだ。

 

「グランバルトとアズガルドの戦いは、勇者同士をぶつけ合わせる為に不可欠なファクター。あの場での行為――いやマーレスダも、或いは自分本位な発想だぞ」


 やはりか、まず俺たちへの譴責から会議は始まるらしい。

 予感してはいたが、此処から責め立てられると考えるだけで本当に憂鬱になる。


 だが俺とて黙ってやり込められる気はない。過去を「思い出した」今となっては、より一層。

 俺はやけに甘えてくるオル・トロスを撫でる手を止め、脚を組み直しアインを睥睨する。


「カルネアス実験区の事は兎も角として――マーレスダについてはお前らも賛成してただろうが。ダブスタかよ、マジでふざけんなよ」


 と声を荒げ気味に述べる俺だが、本当にふざけるなだよ。

 前者のカルネアス実験区は兎も角、マーレスダはイルシアが対処したっている事をタウミエルの連中に伝え、承諾した上で実行した事だ。その事を今更突かれるのは流石に納得がいかない。


「我は知らんぞ、留守だしな」


 声音は少年そのものだというのに、宿す態度があまりに尊大。眩暈さえ覚えるほどの歪を発し水を差してきたのは、タテガミじみた金髪を流し、その中性的な容貌を傲慢に歪める少年。その肉体は龍とヒトを交えたような異形を成している。


 リンド=ヴルム。“龍”という強大な存在の生き残り。


 いちいちうざったい態度がダルい上、よく俺を揶揄ってくるのが本当に面倒臭いヤツだ。


「知ってるわよ、アンタがマーレスダもカルネアスの時も居なかったのは。キモい自己主張は止めた方がいいわよ」


 高慢な少女の声音に、リンドへの侮蔑を乗せて飛ばしたのは、桃色の髪をツインテールにした少女。彼女のエメラルドじみた瞳には、あまりにもあまりな蔑みが滲んでいた。


 情報部総長ヘルメス・カレイドスコープ。マーレスダの時もカルネアスの時も、最終的には俺に賛成していた。

 

「後で『言った言わない』と吹っ掛けられてもかなわんからな。自衛自衛」


「怪しいわね。アンタみたいな性悪トカゲが、そんな殊勝な事するワケないと思うんだけど」


「小娘こそ、心根の悪い物言いじゃないか、んんっ?」


 相変わらずリンドと仲が悪い様子で、売り言葉に買い言葉といった様にやり合っている。


 気持ちは分からなくもない。

 あのクソトカゲは本当に他人をおちょくる事しか考えていない、底抜けの性悪で下劣で悪辣なクソ野郎だ。

 俺の創造の由来に、龍が云々と言ってマウント取りに来たのまだ覚えてるからな。


「両者共々、そのくらいにしておかれては如何でしょう。このままでは進むモノも進みません」


 怜悧な声音に僅かな呆れを滲ませて、無為に荒れる議場を正したのは黒髪を束ねた紫の瞳の少女――ダアト。

 彼女の為の玉座が用意されているにも関わらず、主であるアインの傍に侍る、見上げた従者哲学を持っている。

 本来ならイルシアの従者という扱いの俺も彼女に倣う所だが、イルシア自身の願いというのもあって、会議には着席して参加している。


「……そうね、その通りだわ」言って、ヘルメスは一先ず矛を下ろし代わりに俺の方へと視線を投げてきた。「カルネアス実験区もマーレスダの件も、結局はセフィロト全体の益となるって、認めてはいるのよ」


 フォローするようにそう宣うヘルメスだが、何処まで信じていいものか。

 カルネアス実験区の件で、ヘルメスたちは俺やイルシアにホーエンハイムの事を秘匿していた。

 イルシアを第一として動く俺が帝国を搔き乱しかねないから――まあ理由としては納得できなくもないが、にしたって隠し事をされていたという不信感は拭えない。


「どっちも益があったならいいだろ別に」


「ウィンウィン、ウィンウィン!」


「皆ハッピー! 文句ナイダロ?!」


 俺の反駁に黙っていたオル・トロスも追従してキャンキャン声を上げる。この双子の蛇に弱いヘルメスは「うっ」と怯み黙ってしまう。

 ――それを見ていたアインが咳払いの後、ヘルメスを引き継ぐように入ってくる。


「マーレスダは聖遺物の保有が一つであった上に、あの場所は立地的に“強すぎる”のだ。マーレスダ自体の国力が都市国家相応のモノであったから許されていただけで、帝国が取って聖国への橋頭保にでもすれば、勇者が出張る間も無く終わりだ」


「別に良くないか。聖国が弱まってくれれば、それで十分だと思うが」


「我もそう思うぞ。そもそもヒトの国家如き、我と小僧が出れば、均す事など容易いというのに」


 リンドと意見が合うのは大変癪だが、この際致し方ない。

 正直俺としては、聖国側に煮え湯を飲まされた経験があるので、連中が死んでくれるのは万々歳だ。

 

「……それは、短慮、では、ないか?」


 しかしそれに異を唱えるのはボソボソとした、陰鬱そうな声。

 褪せた赤いローブを纏い、金属の仮面で顔さえ覆う魔導師。宛らその身躯が幽鬼を思わせる。

 ゼロ=ヴェクサシオン。ネクロマンサーを自称する、イルシアと並んで研究職の男。


「……聖国、聖遺物が多数……勝ってもらう、というのが、最善……そもそも、事前に、そのような、話に、なっていた」


「それはまあ、そうだがな」


 勇者共が持つ理外のアーティファクト、聖遺物。

 その正体は神の欠片。「覚醒」と呼ばれる工程を経たその「聖遺物」を、セフィロトは欲している。


 覚醒し切った聖遺物が欲しいセフィロトとしては、大量に勇者を抱えている聖国には負けて各地に散逸、なんて事にならぬように勝利してもらう。実際、そのような話になっていた。


「だからこそ、マーレスダについては頷いたのだ。帝国が勝つのもそうだが、勇者同士が戦う機会が薄れるのも問題だ」


 そういうアイン。マーレスダを滅ぼす事に賛成だったのは理解したが、


「やけに勇者共の潰し合いにこだわるな。なんかあるのか?」


「ふむ、これはまだ話していなかったか――」


 アインは頷くと、一拍置いて語り出した。


「聖遺物が件の“神”の欠片であることは知っての通りだ。そして欠片が元の“神”に帰ろうと形を変えたのが聖遺物、というのも周知のハズ」


「勿論知っておるぞ。小僧は兎も角、我は物覚えが良い」


「殺すぞクソトカゲ」


「ちょっとやめなさいって。――で、続きは?」


 余計な茶々を入れてくるトカゲ野郎を牽制していると、ヘルメスが制した後アインに続きを促す。

 当の美青年は呆れたように嘆息を一つ吐いてから、


「同じ個所に聖遺物が集まると、“覚醒”が促進される。聖遺物が同族を感知して、“神”への帰還欲求が高まるのが要因だろう。聖国を生かしたい理由の一つがこれだ」


「……成程、何となく読めて来たぞ」


 近くに聖遺物が集まると、覚醒が促進される。

 ならば聖遺物同士がぶつかり合えば――


「覚醒は更に加速する――というワケだな、アインよ」


「その通りだ」


 結論を告げたリンドに、アインは頷いた。

 成程な、ならまあ納得できる。潰し合い万々歳、という元々聞かされていた目的の余禄にも等しいが――


 ――そう考えた所で、僅かに違和感を感じる。

 

 俺たちは人外、時は長くある。覚醒を待つのはゆっくりで構わない。

 というのにアインは、当初からやけに勇者の覚醒に執着していた。

 

 ……とはいえ目的が速くに遂行できるのは良い。

 そう気にしすぎる事でもないだろう。


「それに、帝国や聖国が“我々”の存在に気づかないとも言えん」


「まあ、アタシの正体とか、囲っているヤツとかの事がバレたら、帝国も聖国も争うのを止めて、コッチに集中するでしょうね」


 人魔大戦以来、人類と魔は敵対者だし。ヘルメスはそういって言葉を締める。


「まあ、そういうワケだ。そうなれば人魔大戦の再来――如何にセフィロトが、ルベド君やリンドといった突出した戦力を抱え、魔人魔族の精鋭、高い技術に守られている土地であっても、余力を存分に残した全世界を相手取れば、無事では済まない」


 だからこそ、軽挙妄動の類は慎むべきだ。そういって、アインは鋭くコチラを見つめた。


「カルネアス実験区も、帝国の技術を削る為に撃破は必要だった。とはいえ、だ。イルシアひとりの機嫌で君のように突出した戦闘力に動かれると困るのだよ」


「そりゃそうだがな、自分の技術を盗まれても我慢しろって、当の技術屋に言うのかよ。……ほら、イルシアもなんとかいってやれ」


 こっちにもこっちの言い分がある。取り分け「過去」を見た今となってはより鮮明に。

 反論を重ねながら、俺は会議は始まって以来黙り込んでいるイルシアの肩を軽く叩く。

 

「……」


 だがイルシアは考え込むような、或いは落ち込んでいるように顔を俯いている。

 

「……イルシアっ!」


「呼ンデル、呼ンデル!」


「イルシア~、返事シロ~」


 俺たちキマイラが総出で彼女を呼べば、


「……へっ!? ああ、なんだい?」


「ほら、カルネアス実験区の。言い返してやれよお前も」


 そう背中を叩いてやると、イルシアはようやく現状――円卓全員の視線を集めていると理解したようで、佇まいを直した。

 

 ……ホーエンハイムとの戦闘以来、イルシアはずっとこんな調子だ。

 かなり響いているらしい。ある意味当然ではあるのだが……。


 ホーエンハイムは大帝国からの因縁である。二人の因果には、三人のアルス=マグナたちも関わっている。今のイルシア、その根幹を造ったと言っても過言ではない彼らが。


 いや、俺自身とて思う所はある。ホーエンハイムとイルシアの語らいではなく、やはりオリジナルのルベドに言われた事が。


 しかして今はそれを掘り返す時ではない。

 先延ばしと言われればそうだ。だが――


 ――考えたら、開いてしまいそうなのだ。閉ざしておいたナニカが、きっと牙を剥く。

 けれど、ずっと秘めておくことなど――


「――その件については、すまないと思っている。組織を乱すという行為でもあり、計画を破綻させかねない浅慮だった」


 イルシアが謝った。

 しかも決して己が譲らないであろう、錬金術に関わる事象で。


 マジかよ。ちょっと信じられないんだが。

 そのことに俺もアインも、いや……ケテルの円卓にいた全員が呆気にとられたように沈黙する。

 

「あ……その、みんな?」


 イルシアはしばしその沈黙の中心にあり、ひどく所在なさげに皆を見回した。

 やがて最初に正気に戻ったのは、


「――い、いや、分かってくれているのならそれでいい。以後気を付けてくれ」


 アインだった。言葉尻は未だ動揺していたが、流石の復帰だ。俺すらまだビビってるのに。


「んんっ……では続けるぞ。以上を踏まえての今後の方針だが――まずは聖遺物関連」


 イルシアの素直な謝罪が効いたのか、議題は俺たちへの叱責から今後の事へと移っていった。


「予想以上に勇者がやる。覚醒が済んでいるヤツらから間引いて回収を始めたい」


「それは、勇者共を我らで殺すということか?」


「できれば勇者同士でやらせたいがな、まあそれも視野に入れている――ヘルメス」


 覚醒済みの勇者を殺し、聖遺物を回収する。

 いよいよセフィロトの大目的に手がかかるらしい。少しの期待を感じつつ、水を向けられたヘルメスの方を見る俺。彼女は自慢げに咳払いをしてから、語り始めた。


「聖国や帝国の監視曰く……どうにもセフィロトに目が向き始めているのよね」


「……ある意味、当然……時間の、問題……だった」


 どうやら人間の国家がセフィロトに疑念を向け始めているようだ。とはいえ、ゼロの言う通り時間の問題ではあった。


「そも、このセフィロトはヒトの猿共にとっては、得難い立地なのであろう? 故に間諜や策謀も、蝿の如く集っておったではないか」


「その通り。そして外界で二大国の戦争が起こった以上、終戦の後にも考えが巡る」


「帝国と聖国、二大国のパワーバランス、一方に渡る事を恐れての政治的空白地帯。それが今までのセフィロトだったワケ。んでも、どっちかが倒れたら、残った方は当然、大陸統一に向けて動くワケでしょ? だったらセフィロトも当然目に入る」


 そこまでは当然分かる理屈だ。問題はここかららしい。


「目が向くとなると、当然我々の正体についても露見の確立が上がる。無様に晒すつもりは無いのだが――どこから漏れるか分からん」


「というか、いつかはバレるんじゃないか?」


 俺がそういえば、アインは頷いた。


「故に発覚前に、勇者共を削いでおきたい。未覚醒の契約者は兎も角、既に覚醒の済んだヤツは死んでもらって構わん。……できれば、他の勇者の当て馬になってもらいたいのが本音だが、総ての聖遺物を相手にするのは、余り考えたくはないからな」


「それは結構だが、覚醒と未覚醒の基準はどうなんだ? 分からないと殺せないぞ」


「判明している連中は、リストにして渡す。乗っていない勇者が居た場合は、静観してくれ。最悪、判明している奴が二、三消えてくれればいい」


 ということらしい。

 どうにも慎重すぎるような気もする。確かに聖遺物の権能は脅威だ。

 何せアレらは「理外の理」――普通の魔法では再現不可能な、特有の能力を誇っている。場合によっては、存在そのものがこの場にいる誰かの弱点となり得るだろう。

 

 だが――今の所勇者連中で明確な脅威だと感じたのは、五百年前から生きているらしい「グリムロック・アンバーアイズ」一人のみ。

 

 他の奴らは正味そこまで脅威とは――


「また慢心しているな、ルベド君」


「……し、してねえよ」


 ジトっとした視線を向けてくるアインから逃れるように、俺は歯切れ悪くそう言ってそっぽを見る。

 正直図星である。またしても完全に油断していた。

 

「君に一杯食わせたアルフレッド・アーチボルト。“完全性の否定”という厄介そのものの権能を誇る聖遺物、〈滅断の杖槍(ミストルティン)〉の契約者、カーライン・アーチボルト」


 俺の否定をどう思ったのか、アインは淡々と勇者共の名前を挙げていく。全て、俺が戦ったヤツら――主につまらない失態のせいで苦い記憶が多い連中だ。


「――時の跳躍を成す法外な聖遺物〈先史者の咆哮(リヴァイアサン)〉のクロム・ウェインド。そして君を詰み一歩手前まで追い詰めたグリムロック・アンバーアイズ」


「小僧、我は勇者を三人相手取って圧倒したぞ? クハハ、やはり小僧だな経験が足りておらん」


「ウケる、アンタ結構抜けてるのね」


 つらつらと他人の失敗をあげつらうアインと、それに便乗して俺を横から殴ってくるカス共二人。

 物凄くイライラが溜まってきた。何だよコイツら。


「死にてえのかお前ら」


「クハハ、少し揶揄っただけであろうに。血の気が多いなァお主も。何なら、運動に付き合ってやってもいいぞ」


「上等だ、表出ろよクソトカゲ」


「ねえ流石に進めましょう話」


「オメーも便乗して煽ってきただろうが。ツインテ引っこ抜くぞ」


「アルス=マグナ様、どうかその辺りで」


 苛立ちのままにアホ二人に言い返していたら、ダアトに止められてしまう。

 流石に彼女に睨まれるのは堪える。

 いつもちゃんと仕事してるし、従者頑張ってるし、対外向けの顔役として色々と考えている。


 ヘルメスは兎も角、リンドみたいなヤツとは違う。


「……ちっ、悪かったよ。これから油断しなきゃいいだろ」


「ルベド、スグ慢心スルカラナ~」


「マンシン禁止、マンシン禁止!」


 ダアトに言われて矛を収めた俺だが、今度は自分の身体の一部から口撃を喰らう。

 今日マジでなんなんだよ。厄日か? 俺がなんか悪いことしたのかよ。……いやしてるか、沢山。


 ムカつくので蛇共の首根っこを引っ掴んで締め上げてから、玉座に座り直す。

 痛い痛いと喚く蛇共は無視して、俺はアインの方を見つめる。

 

「……では続きだが、これよりタウミエルの面々が行うは――」


 そういって、各員の任務の割り振りが決められていく。


 リンドは外界で覚醒した勇者を見つけ、可能なら狩る役目を。

 ヘルメスは変わらず各地の間諜と防諜。

 ゼロは各地の霊脈、その湧出地の調査を。

 アインとダアトはセフィロトの内政に。

 イルシアと俺は――


「因子探索――ついでにとある“存在”の撃破、か」


 聖遺物の契約者についてのリストを渡された俺は、それを読みつつ呟く。

 

「ああ。我々セフィロトの敵は、何もニンゲンだけではない。アルデバランの深森の“アルデバラン”――ブリューデ大森林の“ミゼーア”……セフィロトに従わぬ強大な人外種族。今後の事を考えれば、そのような不穏分子は早々に整理しておきたい」


 アイン曰く、今後全世界を敵に回す事に成りかねないセフィロトが、魔族や人外のヘイトまで買って一気に掛かられるのは避けたい。故に、早めに排除してしまおう――という魂胆らしい。

 というか、アルデバランは兎も角、かつて俺のブリューデ行きを許可したのもそのような思惑があったとか。


「んで、俺が倒すべきヤツが、丁度因子に良さそうってワケだな?」


「うむ、その通り。――イルシア」


 相も変わらずテンションの低めなイルシアにアインが話を振ると、少し元気を出した様子の彼女が顔を上げる。何のかんの言っても、錬金術の話は好きらしい。


「かなり待たせたね、ルベド。アインとも相談して、因子に取り込むべきモノの目星をつけたんだ。――向かう先は、イーファル共和国北部だ」


 イーファル共和国。ガイア大陸北部中間にある小規模な国家である。

 立地的に長い事帝国と聖国の戦争の舞台となっており、そのせいか文化的も両国を取り入れた形が目ぼしい。


 何年か前の戦争で、聖国が戦災復興という形で軍事介入。“秘蹟機関”を投じて戦線をゴリ押し、その報奨を盾に共和国の議席は親アズガルド派で埋まったとか。


「以前やったように、現地への潜入を行い、目的の存在を討滅すると良い」


「エェー、折角外行ケルノニ、マタ留守番カヨ!」


「仕事回ってくる時は大体そうだろ、我慢しろお前らも」


 そんな場所に行かねばならないという事は、当然いつだかやったように人類種に擬態しなければならない。当たり前だが、オル・トロスは事が始まるまで、俺の中に引っ込んで留守番確定である。


 俺としてもアレは違和感が凄いので嫌なのだが、仕方がない。

 

「トロス、トロス! 我慢シヨ、我慢シヨ!」


 嫌だ嫌だと駄々をこねるトロスはいつも通りだが、オルはそんな彼女を窘めるように優しく絡みついていた。

 オルも成長しているらしい。流石は双子の兄貴だな。

 

 ……兄、か。


「以上で解散とする。各員、我らが大目的の為に励むとよい」


 刹那の物思いの間に、言うべきことの終わったタウミエルの会議は終了していた。

 俺が五月蠅くするトロスをどうにか抑えた時には、タウミエルの連中は殆どいなくなっていた。


「終わったー! んじゃあね、オルくん、トロスちゃん!」


 最後にヘルメスがキャピキャピと俺――というかオル・トロスに挨拶してから転移陣に乗り込み消えていく。


「俺らも帰るか」


「……そうだね。久しぶりで肩が凝ったよ」


 などと言い合いながら俺たちも屋敷へ戻ろうするのだが、


「……ああ、ルベド君は少しだけ残ってくれないか。話したい事がある」


 アインが俺をピンポイントで呼び止めて来た。

 何だろう、嫌な予感がする。

 もしかして俺怒られるのか? やだな。

 

「話……? アイン、それは――」


「いやなに、ちょっとした事だ。手早く済ませる積りだが、場合によっては長引くかもしれない。イルシア、お前は先に戻っていると良い」


 ……おまけにイルシアを先に帰らせようとするこの動き。

 先ほどは冗談交じりに「嫌な予感がする」などと考えていたが……。

 ――本当に、嫌な予感がする。


「まあ、そういうのなら……みたいだから、私は先に戻っているよ」


「……ああ、分かったイルシア」


 アインがそこまで言うのならと、イルシアは一足先に転移陣に乗り込みセフィラの塔を去っていく。

 その背中を見届けると、アインが隣に立って俺を見上げた。


「この場所ではなんだ、第五階層(ゲブラー)にでも行って話そうではないか」


 そう俺を誘うアインの顔には、いっそ不吉さえ窺えるほど妖しい笑みが浮かんでいた。


 何となくだが、あまり俺にとって良さそうな話にはならない予感がする。

 少し、気を張っていくか。

 

 そんなことを考えて、俺はアインについていって転移陣に踏み入る。

 

 

 ――その覚悟は、無駄にはならなかったとだけ言っておこう。

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