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120 未来の因縁

「もう、しつこいぞルベド! いつまでついてくる気だい!?」


 ズカズカと歩いて研究所まで戻ったイルシアは、部屋に入るや否やギャーギャーと叫んだ。

 とてもウルサイが、この錬金術狂い女の力が必要なので、俺は怯むことなく言い返す。


「勿論、お前が頷くまでだ」


「しつこい、しつこすぎる! というか君、そんな性格じゃなかっただろっ!」


「んな事良いだろ別に、思春期なんだよ、考え方なんてコロコロ変わる」


 イルシアとうるさく口論しながら室内を歩いていると、やがて地下の研究所に続く重厚な扉の前に辿り着いた。

 イルシアは扉を開けると、俺に振り返って再びガミガミと叫ぶ。


「ここから先は立ち入り禁止だ! だから、今度こそ、ついてきちゃダメだぞ!」


 そんな事言われても、引き下がるワケにはいかない。扉を閉じようとするイルシアの足元からスライディングの如く滑り込み、彼女の背後に立つ。


「のわっ!? コラ! ダメじゃないか!」


「ついていくぞ、頷くまで何処までもな」


「頑固過ぎる! 立ち入り禁止だって言っただろう! だから待ってなさい」


「嫌だ。頷くまで何処までもついていくぞ。例えお前が風呂入って、目閉じながらシャンプー探してる時でも、トイレでウンコ気張ってる時でも、何処でもだ」


「な、なんて子だ……」


 完全にドン引きしている様子だが、俺もコイツがトイレしてるトコとか想像するのも嫌なので、あくまで脅しである。――それくらいの覚悟はあるという意味合いに過ぎない。


「それが嫌なら、さっさと頷く事だ。お前も、背中に気を払いながら風呂入るのは嫌だろう」


「くっ、脅しのつもりか!? わ、私は屈しないぞ!」


 情けない声音でそんな事を囀るイルシアと、暫く仄かに暗い道を歩いていると、やがて不気味な魔力灯に照らされた研究所に辿り着いた。

 

「局長、おかえりなさ――あれ?」


 書類を纏めていた研究員の一人が、イルシアの進入に気づき声を掛けるが、同時に傍に引っ付いている俺に気が付き目を開く。


「ダメだといってもついてくるんだ、酷いハナシだと思わないか?」


「ハァ……?」


 イルシアに愚痴られた研究員だが、余りにも内容がフワフワしすぎていて、困惑した声しか帰って来ない。

 

「ここが目的地らしいなイルシア。さあ、その『調整』とやらをさっさと施せ」


「頑固とかいう次元ではないな……」


 頭痛を抑えるように頭を抱えるイルシアは、周囲に研究員らが集まってきたのを見て気を取り直した。


「問題無いよ、各員作業に戻る様に」


 そういって研究員らを追い払ったのち、イルシアは俺を見下ろした。


「納得いかないようだから、はっきりと説明しよう。そうすれば、君も無理な『調整』が危険だと分かってくれるやもしれない」


 そういったイルシアは奥に進み、手近な椅子を二つ取ってくる。ドサっと乱雑に座ると、足を組んで溜息を吐いた。

 俺もイルシアが持って来た椅子に馬乗りになって座り、彼女の言葉を待つ。


「まず、君達は人造生命体――ホムンクルスだ。しかし唯のホムンクルスではない」


 そういったイルシアは、机の上にあった大き目の瓶を手に取った。如何にも怪しい研究所にありそうな、所謂ホルマリン漬けみたいなそれには、青白い液体が満たされ、中に何かが浮いていた。

 俺はその「何か」をしげしげと見つめ、驚愕した。


「ミニチュアサイズの俺が入ってる……」


 そう、中に浮いているのはまるでフィギュアサイズの俺。液体の中、素っ裸で眠るように浮かんでいる。

 

「そう、これはミニチュア・ルベド君――ではなく、試作型の魔人兵……従来の技術で錬成されたホムンクルスだ」


 ホムンクルス……魔法で命を生み出す、錬金術の奥義が一つ。神の御業を人理を以って代行するかの如き、不遜にして傲慢な業――。手慰みに読んだ教科書のカスみたいな説明には、そんな風に気取った論調で書かれていた。

 

「――見ての通り、従来の技法で出来るホムンクルスは、こんな人形のようなサイズが限界だ。しかも脆く、不完全品……フラスコから出した途端、かなりの速度で『劣化』が始まり、一年程度で『壊れて』しまう。これでは到底『使えない』んだ」


 イルシアの口調はとても自然だったが、その言葉の端々から漏れる不穏な単語に、俺は僅かに眉を顰める。

 

「故、改良した。魔物の因子を混ぜる事で、彼ら魔の存在が持つ不死性が顕現――結果、ホムンクルスはまるで『ヒト』のように、正しい形で、或いは我々『造る者』が望む形で成長させることが出来るようになった。この技術を突き詰め、兵士として高効率運用が出来るようにしたのが、君達『アルス=マグナシリーズ』なんだ」


 正直イルシアが何言ってるかまるで理解できないが、少なくとも俺らがこのミニチュアサイズの連中とは違う存在だってのは、よくわかった。

 

「そして兵士として使う際にもっとも重視すべきなのが『魔力』だった。魔力の絶対量……質……放出可能量……それらは戦闘兵器の性能に直結する。当初、設計段階の構想では、君達の体内に『ある物質』を埋め、魔力を造る器官を造るつもりだったんだが……まあその『ある物質』というのが、思ったように錬成できなかったんだ」


 そういったイルシアは、憂鬱そうに溜息をついた。


「だから、その代替案として外部に魔力源を造ることにしたんだ」


 イルシアは突然立ち上がると「こっちにおいでよ」と言って研究所の奥へ進む。

 この研究所の局長たるイルシアがそういうのであれば、俺に否応はない。イルシアについていくべく、俺も立ち上がって背を追う。


「この世界には、『聖遺物』と呼ばれる、強大なアーティファクトがある」


 道すがら、イルシアは続けて語る。


「簡単に言えば、極めて強力な魔法の道具だ。宿した力を使うには、特別な条件が必要なんだが……我々研究者は、そういった『壁』があると、取っ払いたくなるのが性でね」


 辿り着いた先には、巨大な装置があった。

 かつて俺達を収容していた、巨大なフラスコにも似た透明な筒を中心に、様々な装置が取り付けられている。

 SFモノの、何かしらの動力源を彷彿とさせる装置だ。


「これこそが、『アポカリプス・ドライヴ』――聖遺物、〈黙示録の断章フラグメント・アポカリプス〉が秘める強大な力を抽出し、それを以て魔力錬成し君達の外部リソースとする為の装置だ」


「外部……リソース?」


 最後の方の言葉を鸚鵡返しにすると、イルシアは深く頷いた。


「君達は普通のヒトと比較しても、並々ならぬ魔力を持っている。だがそれだけでは『かなり強い兵士』止まりだ。だから無限の魔力を与え、最強の存在と昇華する為、この装置がある」


「……これがあれば、俺はもっと強くなれるのか?」


 必然沸いた疑問をイルシアにぶつけると、当の女科学者は目を閉じた。


「……まあそうだね。この装置と君達を接続し、遠隔から魔力供給を行う。そうすれば、君は無限の魔力を得たも同然だ。さっきより強い魔法だって、使い放題撃ち放題だとも」


「なら早速――」


「待つんだ。まだ話は終わっていない」


 ――二の句を継ぐ間も無く、イルシアに止められてしまう。思わずイルシアにガンを飛ばすと、彼女は溜息を吐いた。


「君達魔人兵は、調整を行う事で最終的に完成する。……フラスコの中に入れ、様々な機器と接続し、強化する。結果、君達の身体は、数十分の調整が終われば、血反吐が滲むような鍛錬を積んだ、戦士の如き肉体に成長し、完成する」


「……つまり、子供の身体からいきなりデカくなるってことか?」


「まあ言ってしまえばそう言う事だ。予期せぬ可能性がありそうだし、慎重になるのも分かるだろう? 先んじてアポカリプス・ドライヴとの接続だけを行うなんて、危ないんだ」


 確かに……納得ではある。某名探偵の逆をやるってなれば……確かに危なそうだ。

 だが……


「……俺は一刻も早く力が欲しいんだ。だったらその調整を他二人より、先にやってくれ。それかその――接続とやらとか」


「……なんて聞き分けが無いんだ。これだけ説明しても尚、そんな事が言えるなんて」


 呆れたように俺を見下ろすイルシア。またしても長い言い争いが始まる予感を覚えた瞬間――


「――いいんじゃないでしょうか、パラケルスス女史」


 カツ、カツと足音を響かせて現れた男が、そう割り込む。

 声に釣られて、俺とイルシアはそちらの方を向いた。

 

「……ホーエンハイム」


 現れたのは、やはり研究者だ。

 皆が着ているような白衣を纏い、秀麗な顔立ちをした青年。少し長い黒髪が、陰険そうな印象を与える。

 確か名前は……ノストラム・ホーエンハイムだったっけ。よくイルシアと仕事をしているのを見る。

 

「アポカリプス・ドライヴの接続実験……いずれはやらなければならない事です」


「しかしだねぇホーエンハイム、リスクが高すぎるとは思わないかい?」


「言わんとしている事は分かりますよ、ですがデータを取る為にも、実験条件には差異が欲しい」


「うむむ……それはそうだが……」


「本人が望んでいるのです、やらせてあげても良いのでは?」


 ……おっ?

 もしかして、いけるのか?

 思わぬ助っ人の登場に、俺の心は僅かに浮足立つ。


「……分かった。そこまでいうのであれば、ルベドも決意している事だ、やろう」


「本当か!?」


「ああ、アポカリプス・ドライヴによる、魔力供給接続実験……今からでも始めよう」


 助っ人たるホーエンハイムの説得により、見事その「接続実験」を受ける権利をもぎ取った。

 よしよし、ホーエンハイムなる人物のお陰で助かったぜ。


「……ありがとな」


 俺にしては珍しく感謝を密かにホーエンハイムに伝えると、彼は儚く微笑んだ。


「いえ、いいんですよ。さあ、行きましょう」


 ホーエンハイムとイルシアに案内され、俺は早速実験場に向かった。

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