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116 帝都入り

「今日は帝都に行くよ」


 あの月の夜から数日、朝のバイタルチェックを終えた俺達に、イルシアはそういった。

 

「帝都……街ってコト!?」


 イルシアの言葉を聞いてから、ポカンとした間抜けな表情で暫く考えた後、ニグレドは目を輝かせて快活に叫ぶ。


「そう、帝都ロイヴァだ」


 ニグレドに微笑んだイルシアが、眼鏡をカチャリと持ち上げる。


「街に僕達が……」


 帝都へ向かうと聞いたアルベドは、感慨深そうに呟く。


「……街か」


 帝都ロイヴァ……俺達が住むこの研究室は、件の街の郊外にある。だから行こうと思えば行ける距離にあるのだが、俺達はこの研究室から出る事が許されていない。

 帝都って言うくらいだから、栄えた場所なんだろう。別に行きたいとは思わないが、興味自体は湧く。


「やった! 街、行ってみたかったんだよね! どんなところだろ?」


「確かに楽しみですね。……でも、どうしていきなり帝都に?」


 軽く飛び跳ねて外出できる喜びを表現するニグレドと、疑問を呈するアルベド。

 アルベドの疑問は俺も感じていた事だ。庭より外へは行ってはいけないとされている俺達が、どうして唐突に……。

 その疑問は、やはりイルシアが答えた。


「当然の疑問だね。……君達に会いたいってヒトがいてね。立場上断れないし、呼びつけるワケにもいかない相手で……だから帝都へ行く事になったんだ」


 イルシアの答えを聞いた俺は、僅かに怪訝なモノを感じた。

 断れない相手……しかも赴かなければいけないという制約。十中八九、相手は偉いニンゲンだろう。

 嫌だな……思わず浮かんだ率直な考え。俺は礼儀なんて知らないし、そもそも見知らぬ人と会話なんて、重すぎる。


「ワタシ達に会いたい!? どんなヒトなんだろう~」


「僕達に会いたい……ここに呼べない……」


 ニグレドは呑気にそんな事を言っているが、アルベドはやはり俺と同じ考えに至ったようで、真剣な表情で考え込んでいた。

 

「まあ兎も角、早速帝都へ行こう」


 如何に考えを巡らせようと、否応ない立場である俺達からすれば詮無き事。イルシアの一言で、俺達は準備をして帝都に向かう事になった。





 歴史の教科書でしか見ないような古めかしい車に乗り、暫く揺られていると、窓の外に巨大な城と城壁が見えて来た。


「わぁ! 何あれすっごい!」


「大きいですね……城壁があるのは、やっぱり魔物対策なんでしょうか」


 先ほどまで車ではしゃいでいたニグレドは、街が見えた事で更にうるさくなる。対してアルベドは感嘆しつつも、城壁についてを考えていた。


「見えたね。アレが帝都ロイヴァだ」


 助手席に座るイルシアが、後部座席にいる俺達三人に振り返ってそういった。

 帝都ロイヴァ――神聖グランルシア大帝国の首都にして、専制政治の頂点たる皇帝の在りし場所。

 この世界に創造されてから数ヶ月……俺達は、俺達を生み出した者の故郷へ足を踏み入れた。

 

「――すっごい! ヒトが沢山いるよ!」


 帝都の中に入った俺達は、窓の外に窺える光景を食い入るように眺めた。


 昔のヨーロッパ風――なんていうと陳腐な言い回しに見えるだろうが、実際そんな感じの街並みである。車と路面列車、それと馬車が交錯する光景は中々に見ごたえがある。


 そんな街並みを往くのは沢山のヒト。今まで研究所で、研究員だけしか見た事の無い俺達にしてみれば、見知らぬヒトが沢山いるのは不思議な光景だった。


「まるで産業革命後のヨーロッパですね」


「さん……んだそれ」


「知りたいなら教えてあげますよルベド」


「いや……面倒臭そうだからいい」


 アルベドのうんちくが始まりそうな予感がしたので、俺は拒絶した後また外の観察に戻る。

 流れゆく景色を楽しんでいると、街並みが変わっていく。人の通りが徐々に少なくなり、建物が高級そうに変じていく。高級住宅街――みたいな感じだろうか?

 そんな事を考えていると車が停止した。


「さあ、ここだ」


 車が止まったのは館の前だ。庭園と言うべき庭があり、その奥に重厚な館が建っている。


「では、ご案内します」


 ここまで車を運転していた男が、そういってからドアを開けて降りる。この館の案内人でもあるようだ。


「うわぁ、おっきなお屋敷」


「やっぱり偉いヒトが相手みたいですね……」


「……」


 呑気に大きな屋敷に感心するニグレド、館を見て相手が権力者だと察するアルベド。俺も緊張を感じながら、車を降りて館へ進んだ。

 見事に手入れされた庭園をキョロキョロと眺めていると、すぐに館の前に辿り着く。重厚な両開きの扉は、見るものを威圧する。


「じゃあ、行くよ」


 そんな扉の前でもイルシアは物怖じせず、のほほんとした声音のままだ。多分イルシアより偉い相手だろうし、多少は緊張した方がいいと思うんだが。

 そんな事を考えていると、案内人が扉をノックする。ノックしてからすぐに扉がガチャリと開いた。


「魔法局より、イルシア・ヴァン・パラケルスス主席開発長がお越しになりました」


「……お待ちしておりました」


 中から現れた女性が、扉を開いて俺達を中に迎え入れた。俺達は僅かに迷った後、おずおずと入っていった。

 

「ひっろーい……」


 煌びやかというより、重厚な室内を見てニグレドが感嘆を漏らす。調度品も貴族が好みそうな華美なモノは少なく、武器だの鎧だのが目立つ。……何というか、位の高い武人の家って感じだ。


「こちらへ……」


 女性がそういって、先頭を往き館を案内してくれる。俺達は彼女の後ろをついていき、普段お目にかかれないような館の内装を観察した。

 暫くそうしていると、目的の部屋に辿り着いたらしく、案内をしていた女性が止まる。


「こちらです」


 彼女は俺達に向き直り、そう告げた後ドアをノックする。


「……入れ」


 扉の奥から、男のくぐもった返事が聞こえてくる。どうやらこの部屋の中にいる男こそ館の主……と言う事なのだろう。

 俺達を造ったイルシアよりも偉いヤツ……どんな人物なのか、何用を以って俺達を呼びつけたのか、興味と不安が綯い交ぜになっていた。


 俺がそんな気持ちになっている間に、女性は扉を開く。中は応接室のようで、奥の大きなソファには男が座っていた。


「ようこそ、イルシア局長。呼びつけて悪かったな」


 そうイルシアを労うのは、恰幅の良い身体を質のいい軍服で包んだ、初老ほどの男。焦げ茶色の髭を蓄えた、厳めしい軍人だ。


「いえ、お呼びとあらば……ダグラス少将」


 対してイルシアは、いつもとは打って変わって厳しく真剣な面持ちと、それ以上に固い声音で答えた。


「それで……そちらの少年少女が?」


 イルシアの返事を聞いて満足そうに頷いていた軍人――ダグラスは、俺達に視線を移してくる。知らないニンゲン……それも、偉そうで強面な軍人が相手だ。視線一つを食らっただけで俺はひるんでしまい、反射的にニグレドとアルベドの背に隠れた。


「はい、戦略級人造兵士――秘匿呼称、魔人兵。そのプロトタイプたる、アルス=マグナシリーズです」


 イルシアが固い声音で、俺達のことを大仰に紹介する。いつもとは違う空気感に、ふざけた態度が多いニグレドも、少し緊張した面持ちになっている。


「ふむ……」


 ダグラスは俺達をジロジロと眺めると、満足げに頷いた。


「彼らは、『使える』のか?」


「今は調整中ですが――」


 そこまで口にしたイルシアだが、続きを言う前にダグラスが手を軽く上げて制した。


「こちらから伺っておいて悪いが、彼らに聞かせる話でもないだろう」


「…………ああ、はい、それもそうですね。では彼らに、帝都の街を見学させてやりたいのですが」


 何故か間をおいてから、イルシアははダグラスに追従する。その後、気遣うように俺達の見学を申し出る。

 静かにダグラスとイルシアの話に耳を攲てていた俺達は、帝都の見学と聞いて――というか主にニグレドが――ざわめく。


「ふむ……」


 イルシアの提案を聞いて一瞬考え込んだダグラスは、俺達をここまで案内した女性を隣の部屋から呼びつける。呼ばれた女性は恭しく部屋に入ってきた。


「はい、ダグラス様」


「彼らに帝都を案内してやってくれ」


「畏まりました、ダグラス様」


 畏まって頷いた女性は、俺達を見下ろして微笑んだ。


「帝都を案内します」


 子供相手だからか、優しく微笑みながらそういう。俺達は互いを見つめ、そして頷き合ってから女性についていった。

 ……部屋を出る間際、イルシアがダグラス相手に何を語るのかが気になって、俺は視線を投げる。部屋を出て視線から彼女達がいなくなるまで、そちらを見つめ続けた。






「さあ、どこに行きますか?」


 畏まる場から離れた影響か、それとも子供に合わせているのか、女性は多少陽気な雰囲気だ。


「その前にその前に! 名前! 名前教えて! ワタシはニグレド!」


 アルベドがいっつも、最初は自己紹介が大切って言ってた――と叫びながらニグレドがジャンプをし、そんな熱烈なアピールを受けた女性はクスクスと笑った。


「申し訳ありません、無作法でした。私はエレナです。ダグラス様の秘書をしております」


「ワタシはニグレド! ……あれ? もう言った気がする……」


「バカですね、ニグレドは。……僕はアルベドです、よろしくお願いします」


「…………ルベド」


 女性――エレナはニッコリと笑って自己紹介をした。それに応じて、ニグレドが再び叫び、それをバカにしつつも礼儀正しくアルベドが一礼した。

 俺も挨拶しなきゃいけないという同調圧力を感じ……ボソリと今生においての名を呟いた。


「よろしくお願いいたしますね、皆さん。帝都の案内との事ですが、何か希望はございますか?」


 俺達の名前を聞いて、エレナはニコリと微笑んでからそう尋ねてくる。 

 ……俺は正直、どうでもいい。確かに帝都は気になるが、何を見たいと思える程知識もない。完全に任せるつもりだった。


「ワタシはごはんが美味しい所がいい!」


「ニグレドはすぐにご飯と言いますね。……僕は帝都の名所を見て見たいです」


「ニグレドさんはごはん、アルベドさんは名所ですね。……ルベドさんは、どこを見たいですか?」


 エレナが二人の要望をまとめ終わると、今度は何も言っていない俺に質問を投げてくる。


「……どこでもいい」


 本当にどこでも良かったので、俺がそうぶっきらぼうに告げると、エレナは困ったように微笑んだ。


「うーん……?」


「ルベド、困ってるでしょ!」


「……本当にどこでもいい。分からないし」


 俺が重ねてそういうと、エレナは納得したようで深く頷く。


「なら、まずは美味しい帝国料理を出すお店にいきましょう。それから、帝都の名所巡りと参りましょうか」


 エレナが改めてそう宣言したことで、俺達の帝都漫遊プランが決定した。


「すぐ車を用意させます。魔法局の局長がお連れした方々ですから、とびきり良い車両をお願いしないとですね」

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