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112 役目の価値

「……これが、お前なのか?」


 一区切りした過去の映像を見ていた俺が、目の前に座るルベドに確認する様に問うた。

 ……正直あまりにも想像とかけ離れていた光景だった。前世については俺も知っていた通りだが、転生してからは、正に驚きの連続だった。


「誰にだって、無垢な子供時代はあるだろ。特に転生したばっかの頃は、傷心だったからな」


 隣に座ったルベドが、不満げにそう述べた。ルベドも……そしてそれを元に造られた俺も、皮肉屋で正直にならない性格だ。

 ニグレドなる少女に良い様に扱われている様は、想像もつかない光景だった。

 それ以上に――楽しそうでも、あった。


「実際、あの頃は良かった。心の底から、アイツらを信じられるようになったのはもう少し先だがな、少なくとも前世の末期よりは、居心地も良かった。確かに……楽しかったのかもな」


 黄金時代ってヤツさ。ルベドは皮肉気にそういって、俺に流し目を送り不敵に笑う。


「……ニグレドとアルベドは、お前にとってどんな存在だったんだ?」


 あの二人のホムンクルス――ニグレドとアルベド。当時のルベドにとっては、姉と兄だ。その記憶を持たない俺にとって、ルベドが彼らをどう思っていたのかは、当然気になる。


「……アイツらか」


 ルベドは俺の質問を聞いて、感慨深そうに溜息をつき、空を見上げた。


「あの頃の俺にとっては、ただ鬱陶しい同居人ってだけだった。部屋も同じだし、四六時中一緒に居たからな。でもまあ……」


 そこで言葉を止めたルベドは、ままならないように溜息をついて首を振った。


「視た方が、早いな。続きを鑑賞するとしよう」


 ルベドの言葉によって、俺達は再び過去を眺め始めた。








 ◇◇◇








 バイタルチェックの後、朝食を終えた俺達は、隣接する隣の部屋――教室に移動していた。

 俺達がいるのは、「帝都ロイヴァ」の郊外にある研究室……らしい。地下に大きな施設があり、地上は俺達の生活空間になっているとか何とか。


 小高い丘の上にある、こじんまりとした家だ。裏には庭があり、景色が中々イイ。……前世じゃ、戦争の影響で中々見られない青空が映える景色なので、俺は自分を慰めるように窓際からそれを見るのが、癖だった。


「この世界――惑星ライデルは、君達のいた世界……ええと」


「地球です、マスター」


「そうそうチキュウね。……その世界とは、異なる次元、異なる世界だ」


 如何にも教室というような部屋で、黒板の前に立ったイルシアが、チョークで何かを書き始める。この世界の文字だ……少しづつ読めるようになってきた。

 

「違う世界なんてびっくりだよね~」


「そうですね、想像もしてなかったですよ、こんなの」


 イルシアの解説に、ニグレドとアルベドが呑気に答える。

 俺達三人は、全員地球出身らしい。別々の世界から招かれたワケではないみたいだ。

 そんな事、分かってもあまり意味がないが。


「なんでも、君達がいた世界には『魔法』が無かったそうじゃないか。私からすれば、想像も出来ない事だ」


「ええ、ありませんでしたよ。ニンゲン以外の知的生命体もいませんでしたし、魔物なんてものもありませんでした」


「ふぅん、とても興味深いね……できればそのことも聞きたいが……おっと、話が逸れたね。それで、この大陸が中央大陸ガイア……この国が、神聖グランルシア大帝国。この世界でもっとも優れた国家さ」


 他の大陸は、未だ未開拓なんだ。色々ありそうで面白いと思うけど、グランルシアの上層部に開墾の意志は無いみたいだ――とイルシアは締めくくる。

 

「優れた国家、ね……」


 イルシアの言葉に俺は皮肉の色が濃い言葉を呟く。

 前世では、第三次世界大戦が繰り広げられていた。我こそはと遍く主義主張が混在して、それが戦いを呼んでいたのは、幾ばくもないガキの俺でも、理解出来ていた。

 世界が変わっても、ヒトは変わらない。ファンタジー異世界といえどその程度、胸中でバカにするも当然だった。


「不満げだねルベド。でも客観的事実だよ。国土国力技術力……どれも、他の国家より一回りも二回りも上さ。覇権国家ってやつだね」


 だから色んな所から狙われてるのさ、とイルシアは笑った。

 どこでも結局戦争か。……かつての因果より逃れられていないようで、嫌になる。


「さて、前回はグランルシアの大まかな歴史をやったんだったね。前回の内容、要約できる子はいるかい?」


「僕、僕にやらせてくださいマスター!」


「――まあ、そうだね、いつも通りアルベドに頼もうか」


「やった……。えっと、千年以上前に、人魔大戦と呼ばれる未曽有の戦争が勃発。戦乱の中、多くの民族を束ねた初代皇帝が、神聖グランルシア大帝国を建国――現在に至るまで専制政治による統治が続けられています。戦争を建国の切っ掛けにしている所や、帝国といった点が、ローマと似ていると個人的には感じました。文化としては、ドイツに近いと思いますが」


 コイツ……よくもまあこんなスラスラと出てくるな。オタクっぽい早口で、正直あまり頭に入ってこない。

 にも拘らず、イルシアはアルベドの要約に満足そうに頷いた。


「うむ。……ローマやドイツというは君達の世界にあった国かな? 兎も角、見事だよアルベド。……そうだね、では、続いてそのグランルシアを支える、魔導科学についてを学ぼう」


 そういったイルシアは、黒板に何かを書き綴り始めた。

 

「魔導科学とは、錬金術から発展した分野の技術で、この世のあらゆる法則や事象を論理的に解明する学問だ。多くの場合、研究した結果は我々が使える形に落とし込む事になる」


「人殺しに使う武器とかな」


「ルベド」


「いいんだアルベド。事実でもあるから」


 事実を言っただけなのに、アルベドは俺を叱る様に名を呼んだ。だがそれを更に窘めるように、イルシアが重ねてアルベドを制した。先の俺の言葉を、事実とする肯定と共に。


「これはその産物の中でも、最もルベドの言葉に合うモノだろう」


 そう続けたイルシアが教壇の上に出したのはアタッシュケース。カチリとケースを手早く開けると、キィイという音と共に蓋が開いてその中身が見えた。


「……」


 中に仕舞われていたのは、拳銃だった。

 シリンダーのついた、所謂リボルバーと呼ばれるタイプの拳銃だ。鈍い黒鉄の銃身は、どことなく寒気を覚える光を宿している。

 それを見て、かつてあの醜い世界で軍人相手に春を売っていた時、後頭部に拳銃を突きつけられた事を思い出した。

 

「……っ」


 今更、何を思い出しているんだ。

 あの世界での記憶は、もう関わりの無い、思い出ですらないゴミクズだ。

 だから、思い出さなくていい。

 思い出さなくていい。

 思い出さなくて……いい。

 

「――ルベド?」


 唐突に、横から声が掛かった。

 左右から身を乗り出して、ニグレドとアルベドが俺を覗き込んでいた。

 気が付けば酷く震えていた手を、ニグレドが軽く触れ、抑えていた。


「手が震えてる。寒い? 風邪ひいた? というかルベドの手、ふかふかしてて気持ちいいね!」


 ニグレドは俺の顔をニコニコとしながら覗き込み、手をモミモミと握ってくる。俺の毛皮越しに、ニグレドの小さい手の感触が、仄かな体温を示す。


「やめろ……気安く触るな」


 震える声を無理矢理に抑え、俺はニグレドの手を払う。……払おうとして込めた力は小さく、自分でも笑えるほど弱々しかった。

 

「これは拳銃……この型をレーヒスリボルバーと呼ぶんだけれど――これこそ、魔導科学によって生み出された、大帝国を象徴する武装さ。過去に時代を作った剣や弓にとって代わり、新たな標準武装となったモノ。多少の訓練さえ積めば、弓や剣とは比較にならない程に戦える。何せ、狙いをつけて引き金を引くだけで、常人相手なら容易く殺せる武器だからね」


 どうやら、君達の世界にも同じような代物があったらしいじゃないか。そういったイルシアは、拳銃をケースから取り出して弄び始めた。


「だがね、重要なのはそこじゃあない。これは単なる一端。君達は――『これ』以上なんだ」


 眼鏡の奥の碧眼に、危うい輝きを光らせてイルシアは言った。

 

「察しているかもしれないが……君達は、戦う為に造られた。実を言うと、現在の大帝国は、植民地政策によって多くの国々と戦争状態にある。正確には……大帝国を座視できない諸国による戦争だが――兎も角、その影響で、かなり追い詰められてもいてね」


 そういったイルシアは、拳銃を仕舞って黒板に張り付けた地図を撫でた。


「このガイア大陸の西の端……ここに、神聖グランルシア大帝国」


 この国の名を言ったイルシアは、地図の端に描かれた国を指で撫でた。そこには俺が苦心して覚えた「グランルシア」という意味の帝国語が書かれている。


「……そして、この周囲、隣接する西方諸国全てが、グランルシアの敵国だ」


 次いでイルシアが撫でたのは、グランルシアに隣接する全ての国々。


「四面楚歌過ぎ」


「その通り、敵だらけってコトさ。だからこそ、攻勢に移り戦局を優位にする為、『アルス=マグナ計画』が策定された」


 アルス=マグナ計画という言葉を口にしたイルシアは、グルリと俺達を見回した。

 

「強力な兵士を……ごく短期間で造り、戦わせる。当初は天使や悪魔といったモノを、造った肉体に憑依させようと考えたが……その途中で、我々は『他世界』を観測した」


 他世界……その言葉に、俺達はにわかにざわついた。


「元々魔法の理論では、他の世界がある事は、召喚系統の術式が証明していた。異界……余剰次元……そう呼ばれる、『此処とは違う他の領域』から、異なる存在を招く。今回の場合は、招いたのが怪物ではなく……ヒトの、魂だった」


 イルシアはそういって、俺達を眺めて微笑んだ。


「御し得るか不安な怪物の魂より、多少は違えどある程度は同じハズの『ニンゲン』を使った方がいい……それが、君達が選ばれた理由。それに、魂の強度が中々に優れていたというのもワケの一つだが……それより前者の方が重要だ」


 イルシアの言葉に、俺は僅かな不安を抱いた。


「君達は、軍人でもあり兵器でもある、という事さ。過てば、無能な軍人、無益な兵器双方によりて処断されるやもしれない。……そうならないよう、これから戦う為の準備をしていくことになる」


 兵器――つまりは、モノ扱いだ。

 物であり者……とは言うが、軍人も兵器も似たようなモノだ。紙の上で消費されるだけの数としてしか、見られていない。

 

 ここでも変わらず、モノだ。酔った父親に暴力を振るわれたり、気に入らないとかいう理由で路上で理不尽に殴られるのと、全く変わらない。

 

 ――因果からは、逃れらない。例え死という究極の解放を以てしても。


「君達には、期待しているよ。……とってもね」


 イルシアの囁くような期待の言葉が、俺の耳元で木霊した気さえした。

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