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(一)‐2
警察に連絡するとなっては、間違いなく刑務所行きになってしまう。身寄りのない野上にとって、困ったり悲しんだりする身内や関係者はいなかったものの、長きにわたる刑務所暮らしを経て世間に戻るときには、職場の定年の年齢を超えてしまう。その後の生活を考えると、不安があった。
それに知り合いから聞いた話によると、五〇を超えてからの刑務所暮らしは辛いらしい。野上はそんなことはもちろんまっぴら御免であった。
なにより、和葉を殺したのは何のことはない、言葉の行き違い、売り言葉に買い言葉が三、四回続いただけのことであった。そんな程度のことで平和な生活を壊されたくはないと言う思いもあった。
だから、全て隠してなかったことにしてしまえばいいと野上は思った。幸い和葉もまた、野上と似たような境遇の持ち主であった。親戚身内は既にほとんど他界してしまっていたか、連絡も取っていなかった。だから和葉の関係者から不審がられることはないはずであった。
(続く)