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アノニマス||カタグラフィ  作者: 和泉宗谷
Page.2 義弟妹と合成魔獣
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2-2.化物(けもの)たちの密談

昼食を摂るための中休憩に入った途端、ハヤトはいけ好かない青髪の貴族とどこかへ行ってしまったので、手持ち無沙汰になってしまったヴァイスは学院内をぶらついている。

大学卒業までの資格を持っているヴァイスが正直学院に通う必要性は皆無で、授業中も特にノートをとるでもなくぼうっと座っているだけだ。契約主であるハヤトが居るからただ付いているだけで、彼がいなくなれば途端にやることは無くなる。

ので、講義室に1人座っていても意味は無いし、正直観察される視線が煩わしく思い、こうして宛もなく散策しているというわけである。

――思えば、学校に通ったこともなかったなと感慨にふけながら。

ヴァイスが迷宮区の最奥部でカズキに救われたのは今から4年前というごく最近の話だ。人間相当で言うところの13歳の姿で発見され、その後の4年間は言葉を覚え、人間社会を学び、そして戦闘に明け暮れて刹那のうちに去っていってしまった。

だから、今の学院生活はヴァイスにとってちょっと新鮮だった。迷宮区の隣にありながら、こうして穏やかに過ごせる日々というのは。

そう思いふ、と何個も点在する中庭を見ると。

「……」

桃色の影が横切った。

正直ヴァイスとしては放置しても良かったのだが(というか放置したかった)、目に止まってしまったものは仕方が無いので。

「…ハヤトなら教室にはいないぞ」

と、ぶっきらぼうに教えてやる。

中庭を横切り、ちょうど背を向ける形でヴァイスが来た道を逆走しようとしていたレグルスは、その忠告にびた、と停止する。

「じゃあどこにいるの?」

「知っていても君には教えない」

レグルスは思案するように一旦言葉を切ると。

「置いてかれたんだ?」

と、小馬鹿にしたように鼻で笑う。

そのレグルスの言葉にむ、とヴァイスは柳眉を寄せる。

事実その通りなので何も言い返せないのだが、しかしやられっぱなしも性にあわない。

なにより、この少年とはそりが合わない。

ハヤトと初対面の時も思ったのだが、この少年はその時以上だ。明らかにこちらの神経を逆撫でするような態度を露骨に取ってくる。

しかしこれは良い機会かもしれない、とヴァイスは冷静に、沈着に思考する。

この少年には、前々から訪ねてみたいことがあったのだ。

「…ねぇ、」

ヴァイスからの呼び掛けに、白銀の双眸がぱちぱちとまばたく。珍しいこともあったものだと言いたげに。

その警戒の欠けらも無い反応に、これなら素の反応が観察できると分析しながら、ヴァイスは問いを口にする。


「――君は、なんだ?」


まるで要領を得ない問いかけに、レグルスはきょとん、と目を瞠る。

「…なにそれ、どういうこと?」

「気配と言い戦闘力と言い。なによりその、――魂の色といい、君は普通じゃない。まるで、」

瑠璃に散る黄金を仄かに光らせ両の眼を細めながら、恐る恐るといったように言葉の続きを零す。

「――まるでおれと同じだ」

その言葉に白銀の瞳は見開かれ、直ぐに細められる。嘲るように。嫌悪するようには、と短く呼気を吐き出し。


「――一緒にするなよ、『死神』」


放たれた殺気に、総毛立つ。

気がついたらヴァイスは石畳の床を蹴りあげ、獣さながらに距離をとる。そのプレッシャーは『死神』の異名を持つ少年からしても、圧倒的存在感。

春先の一件のコカトリスにも、それが住まう遥か下の階層を跋扈するどの迷宮生物よりも危険だと、全身が警告を発している。――こんなことは初めてだ。

無意識に、腿に吊るされた拳銃嚢に手が伸びる。

そのヴァイスの様子を見て、レグルスはひょいと肩を竦める。その表情に、どこか悲しげな雰囲気を帯びて。

「あんたと同じだなんてショックだなぁ。オレはちゃんと人間だって言うのに」

「人間…だって?」

ただの人間があれほどの殺気を放つものかと、怪訝そうに眉を顰めるヴァイスの反応に、腕を大仰に振ってみせる。

「そうだよ?あんたにはどう見えてるのかな?」

「……」

今度はレグルスの問に、ヴァイスは口を噤む。――自分が視ているものを、果たして正直に告げて良いのかと。

しかしヴァイスが答える前に、レグルスは再度尋ねる。

嘲るように、悲しげに。

「化け物、とか?」

「…どうして君は、混じっているんだ」

答えず、ヴァイスは問いに問いで返す。

そう、混じっている。

それはこの地球上で最も醜悪で、しかしこの迷宮区では、ヴァイスには馴染みの深すぎる色彩と。

――迷宮生物(化け物)の魂と。

「――523分の5」

唐突にはじき出された数字に、ヴァイスは答えられない。

「…なんの数字だ?」

「人体実験の成功例の割合」

なんの感慨もなく、ただ事実だからとさらりと返された言葉に、咄嗟に理解が追いつかずに呆然とする。

その空白をどう受け取ったのか、レグルスは嘲笑を零す。

「だから人体実験だよ。考えたことない?迷宮生物に太刀打ちできる人間がいたらどれだけ戦力になるか。まさか、貴族たちがタダで慈善活動だけするとでも思ってた?」

中庭を取り囲む回廊からは、まだ初夏だと言うのに刺すような灼くる陽光が差し込んでくる。だと言うのにその場を支配しているのは真冬の凍土のような冷気だ。その纒わり付く悪寒に、ヴァイスは身をふるわせる。

「あとは簡単。程度のいい人間と程度のいい迷宮生物の魂を合体させて、迷宮生物の戦闘能力を持った超人類が出来上がり。普通に手とか足とかをくっつけるのもやったらしいけど、人間が耐えきれないですぐ死んじゃったらしいから、こういう形に落ち着いたんだって」

他人事のように淡々と、からからと無邪気に喋るレグルスの白銀の双眸に浮かぶのは、純粋ゆえの狂気。しかしそれと断言するのはあまりにも無責任だろうか。

――狂わなければ、きっと生き残れなかったから。

「…どうして、」

「――あんたのせいだよ」

転瞬、憎悪の色を濃く秘めた低い声には、と瑠璃の双眸を見開く。

「人の見た目で人の言葉も喋れるのに、迷宮生物の蒼い血が流れる『化物』。あんたがいるせいで、貴族たちはみんな躍起になったんだ」

その戦闘能力は一騎当千。一瞬にして数多の迷宮生物を屍に変える『死神』の存在は、多くの調査員の支持を受け、同じだけの恐怖を与えた。――うち貴族はその地位が危ぶまれるのでは無いかという、恐怖。

迷宮区における貴族階級は体系化されていない技術や魔法といったものを保有するが故だ。そして万が一迷宮区内や区外まで脅威が拡大するような事態に陥った場合には、最前線で被害を食い止める。その代わりに金銭面や社会的地位を保証されているのだ。

それが、たった1人の『化物』のせいで取り上げられてしまってはたまったものでは無いと思うのも、道理なのだろうか。

――あんたのせいだよ。

無意識に、レグルスの言葉を反芻する。

地位や名声や、嫌悪感で迷宮生物の屍を築いたことなど1度もない。

ヴァイスの願いはただ一つ。――己が何者で、どうして存在しているのか。

ただそれだけのためにこれまでの4年間を聞いてきて、迷宮区で戦い続けてきた。

地位や名声なんでどうでもいい。だけど。

「あんたのせいで、」

レグルスの凍てついた声が、冷徹に告げる。


「――523人の子供たちの命が弄ばれたんだ」


――僕の願いは、間違っていたのか?


「…まぁ、オレとしてはどうでもいいけどね。オレがあんたを気に食わないのは、ハヤト先輩にべったりなところだから」

先程までの殺気はきれいさっぱり霧散し、普段通りの声音(つまりはヴァイスに対してだけのトゲトゲしさ)でレグルスは肩を竦める。

その飄々とした自由気ままなギャップのある態度に、半ばあっけらかんと瑠璃の双眸を瞠りながら、ヴァイスはそういえば、と思い返す。――突きつけられた現実から、目をそらすように。

「…最初に来た時も言っていたな」

『カズキから話を聞いている』、と。

この今でなお小さい彼がいつどのタイミングで恩人と出会ったのか、ヴァイスは知らない。その、空白の時間。

まぁ、問いかけても答えてはくれないだろう、と思っていたのだが。

「あれは何年前の話だったっけ。とりあえずカズキが死んじゃってからは2年経ってる訳だからそれよりも前の話なのは確かなんだけど」

意外にもぽつぽつと、レグルスは呟くように語り始めた。どこか諦めの色彩を宿した、白銀の瞳。

「クロス家が経営している孤児院はどこも、子供たちに強制労働を強いて研究資金を稼いでこないとご飯もろくに出してこないクズみたいな場所なんだけど、10にも満たない子供が稼げるほど迷宮区もラクじゃないでしょ?だから飢えちゃって。ある日目の前を通り掛かった調査団を襲ったわけ」

携帯食料くらい持ってるだろうし、ついでに金目のものが出てきたら御の字。元々貧民街でしぶとく生き抜いてきたレグルスは、多少腕が立とうが追い剥ぎくらいわけは無い。――相手さえ選べれば。

「その調査団が当時の『タキオン』だった訳で、その時フルボッコにしてくれたのがカズキだったわけ」

なんて命知らずな。

内心で突っ込み瑠璃の双眸を半目にしながらレグルスの独白に耳を傾けるヴァイスはふ、と思い返すが、やはり思いつかなかった。

ヴァイスが知らない、カズキの話だ。

「フルボッコにしてくれたお詫びに食料と、程々のお金をくれて。その日は帰ったんだけどそのあとから度々迷宮区内で会うようになってたくさんの話を聞かせてくれた。これまでの冒険の話やニホンの話。そして、」

カズキの出来すぎた、世界に落胆している弟の話を。

「どんな敵がやってきても絶対勝って、最弱だった調査団を最前線まで押し上げた。しかも今のオレとそう変わらない歳で!センターで目立つ英雄も憧れるけど、影の立役者って感じのポジションがオレはすごいって思ったんだ」

それは自分にはできないことだから、と続けてレグルスは零す。

人間は自分にない才能、力、方法に。到底できない手段に誰しも羨み、尊敬するものだから。

「――すごいって思って、憧れて。1度でいいから会ってみたいと思ったんだ」

そして、2年の歳月を経て英雄は凱旋した。レグルスにとって、地獄のような凍えた世界に訪れた、春の訪れのようだったろう。

しかし。――それは、ヴァイスにとっても同じだ。

だからこそ。

「…君は、ハヤトに近づいて何をしようとしている」

口から滑りでた言葉はヴァイスの予想を超えた、低く怨念めいた声音だった。普通の人間であればその声音だけですくみ上がりそうな言葉に、レグルスはきょとんと瞠目する。

「君がもしハヤトを使ってなにか企んでいるようなら。君がもしハヤトを傷つけるようなことをするのなら、」

冷徹に、冷えきった黄金の散る瑠璃の双眸を眇めながら、容赦なく。

死神がその余命を告げるように。


「――おれは、君を排除する」


ざあ、と二人の間を夏の湿度の強い風か吹き抜ける。

ハヤト・クサナギは聖グリエルモ学院において『落ちこぼれ』のレッテルを貼られた劣等生だ。魔法適性はほぼ皆無、テストの成績も(手を抜いているから)そこそこ、実技の試験は言わずもがな。そんな生徒は劣等生で当たり前。

しかしそれは、彼の本当の姿を知らないものから見ればの話だ。

ハヤトの中で、自分自身の評価はそう高くはない。卑劣で劣等、他人には無関心で自分だけ生き残れればそれでいい守銭奴、といった感じだ。春先の一件も「自分が助かるためにエリート様も貴族様も必要だった」と淡々と語っていた。

それは違うことを、ヴァイスは知っている。

卑劣で劣等、他人には無関心で自分だけ生き残れればそれでいい。――そう、自分自身に思い込ませようとしているだけだろう、と。

だって、本当に卑劣で劣等、他人には無関心で自分だけ生き残れればそれでいいと本気で思っている人間は、自分をそうは評価しない。

そんな彼が。――優しい彼がレグルスの話を聞いたらどうするか、想像に難くない。

彼自身の身の安全は、彼の所有物であるヴァイスの責任で、義務。

ハヤトが顧みないのなら。――僕がやると。

一瞬の間。ヴァイスの警告に今一度ぱちくりと大きくまばたきをしたあと、レグルスは場違いにも大きな口を開けで笑い出す。

広間で道化師のおかしな催しを見たように、身体を折って。

その場にそぐわない反応に、ヴァイスはさらに険しく柳眉を寄せる。

「…何がおかしい」

「いや、滑稽だな〜と思って」

ひひ、と引き笑いを堪えつつ、およそ子供が口にしない『滑稽』という言葉を言い放ち。


「――そういうあんたが1番。ハヤト先輩のこと、見てないくせに」


転瞬。瑠璃の双眸が大きく見開かれ停止する。

「…なん、」

「じゃあ聞くけど、あんたはなんでハヤト先輩の隣にいるの?」

「それは、…彼がおれの契約主で守る義務があるから」

「あ、そういう言い訳なんだ?使い勝手がいい言い訳見つけたね」

軍靴やヒールとは違う、初等部指定の編み込みのブーツの底を鳴らしながら1歩ずつ近づいてくる、自分より半分ほどしかない小さな身体。

しかしヴァイスは無意識に、反射的にその歩みと比例して後ろに後ずさる。

にじり寄る、恐怖から。

「あんたはただ、カズキを守りきれなかった罪滅ぼしをするためにハヤト先輩の隣にいるんだ。そうやってハヤト先輩を守ることで、弟はちゃんと守ったぞってカズキに言い訳するために」

「…違う、」

「それともカズキの代わりかな?まぁ髪の色も目の色も同じだからちょうどいいかもね。性格は全然違うけど」

「っ違う!」

「違わないだろ」

がつん、と一際大きな音を立ててレグルスはついにヴァイスの懐に入り込む。ヴァイスの長い脚の間に割り込み、逸らすように顔を上げる。

全天の星のような黄金が瞬く瑠璃の双眸を、獰猛な肉食獣のように細まった瞳孔の白銀の双眸は逃がすまいと射抜く。


「あんたがハヤト先輩を守るのはハヤト先輩のためじゃない。――あんたの保身のためだろ」


瞬間脳裏に閃いたのは春先の、まだ記憶に新しいかつての恩師の親友の言葉。


『彼を通してカズキに罪滅ぼしだなんて。――それは、ハヤトに対する侮辱に他ならない』


凍りついた瞳を暫し見上げ、やがて興味は失せたのか呆気なくレグルスは身を引く。

「そろそろ昼休みも終わっちゃうし、また放課後出直すよ。じゃあね」

来た時同様軽い足取りで、昼下がりの陽光差し込む中庭を、初等部の学舎へ向かってとぶようにして越えていき、そして完全に気配が消える。

同時。ヴァイスは緊張の糸が切れたように誰もいない石畳の上に崩れ落ちる。

震える両手で、揺れる瑠璃の瞳を隠すようにして。

それがいけないことだと、彼に対して最低だということはヴァイスにだって理解出来ている。

だけど。


「――だって、しょうがないじゃないか…っ!」


カズキは僕にとって、この世界で生きるための道標だったのだから――。



*****


中庭を挟んだ向こう側。その影を折れたところでレグルスは堪えきれず膝を折る。

目の前が白んで霞む。震える手をどうにかしてズボンのポケットへ伸ばすと、そこに常備している薬剤を引っ掴んで水もなしに飲み下す。

「…っもう少し、もう少しだけだから…っ、」

自分の身体のことは、自分自身がよく知っている。

迷宮生物との魂の融合。そのたった5人の生き残り。そのむちゃくちゃな錬成に、辛くも必死に生にしがみついた子供たちの寿命は、いくばくもない。

嫌という程投与され続けた調整用の薬は、このところ徐々に少なくなってきた。

その意味を、レグルスは正しく理解している。――もう、自分の身体は限界なのだと。

でも、と震える膝を叱咤し壁伝いによろよろと立ち上がる。

あと一週間だけだと。この学年交流の期間だけでいいから、と。

『――君がもしハヤトを使ってなにか企んでいるようなら』

不意に、ヴァイスの言葉を思い出す。とある一人の人間に執着する、自分と同じようで違う『化物』。

「…は、」

知らず、無意識に笑みが零れる。その嘲笑は誰に当てたものなのか、レグルス本人にしか分からない。

「…企んでるに、決まってるじゃん」

かつてカズキに話を聞いて企てて一度諦めて。

2年越しの凱旋に、レグルスは決意を新たに企てて、そして今、決行する。

――これだけが、オレに与えられた救い。

けど、とレグルスはその嘲笑を苦笑に変えて、くしゃりと泣きそうに破顔して。


「…見つけられなくて、会いに行けなくてごめん。――アデル」


――小さき王の唯一の心残りは、誰にも届かない。



*****


昼休みをとうに過ぎた午後の講義のその中休憩。ふらふらと2年近接歩兵科の講義室へ戻ると、いつもの定位置にハヤトは座っている。

正直レグルスとの会話の後彼の前に立つのは気が重かったが、しかしそれ以外にも行く場所がないので、しずしずといつも通り彼の隣の席に着席。

「よぉ遅かったな。と言っても律儀に講義受けに来なくてもいいと思うけど」

もう何度目か分からない挨拶を交わすが、ヴァイスの反応は薄い。その様子に鋭くなにかを感じとったのかふ、と深紅の双眸が眇られる。

「…何かあったか?」

「何も」

抑えようとして、しかし上手くいかずに軋んでしまった返答に、しかしそれ以上は追求せずハヤトは逆隣の窓へと視線を向ける。

「まぁ、何かあっても俺には関係ないけど、」

でも、と彼にしては珍しく言い淀んで。

「…その、なんだ。何かあるんだったら一声くらいかけろよ。――ヴァイス」

何気なく、さりげなく名前を呼んで。

そのあまりにもさらりと言われたので一瞬聞き流しそうになり、ややあってえ、と下げていた顔を上げる。

「…名前、」

「このタイミングで『エリート様』なんて呼んだら、なんか負けた気分になるだろ」

ヴァイスでは無い誰かに向けられた意味不明な言葉にこてん、と小首を傾げる。一体なんの話だろう。

その視線が気になったのかバツの悪いしかめっ面でハヤトは振り返る。照れ隠しの裏返しの喧嘩腰に。

「んだよ、なんか文句あんのか」

「…いや」

ハヤトに名前で呼ばれたい。そう思っていたのは自分で、それは紛れもない本心で。

だけど、とヴァイスは己のうちで反復する。――素直に喜べないこの、胸をつかえる気持ちは、なんだろうと。


『――そういうあんたが1番。ハヤト先輩のこと、見てないくせに』


その呪いのような言葉だけが、鮮明に脳内で反響した。

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