×××.其は(終章)
地上は狂乱に包まれていた。
鳴り止まないクラクションは狂想曲を奏で、アクセントとして劈くブレーキ音。至る所で煙が上がり、それらを埋めつくさんばかりの人の絶叫。
文字通り、この世の地獄と化していた。
その光景をただ1人、黒い少年だけが恍惚と見下ろす。黒檀の髪は荒れる風に舞あげられ、その下の唐紅は狂気じみた信仰を讃える。
この劇場を作り上げた彼はさながら指揮者のように手を広げる。そこかしこで上がる叫喚が、彼にとっての喝采。
刹那、唐紅の瞳は確かにその時視認した。天空の黄金に照らされてもなお存在感を放つ、その姿を。
「――開闢の光をここに。之こそは、夜明を告げる不浄の暁光」
決して大きい訳では無い、凜然とした声はしかしするりと耳朶を震わせる。
どこからともなく現れた錫色の幻想的な神馬に跨るは、見慣れた詰襟に身を包んだダークブラウンの髪の少年。しかし、幻覚のように一瞬だけ垣間見えた金色が、彼の本来の色彩だと何故か悟る。
その手に持つ長剣の美しい暁色が、降り注ぐ魔性の光を浴びてなお艶めかしく光る。
儀礼のように掲げ、少年はついにその真名を言祝ぐ。
其は――。
「«宿木の魔杖»、限定解放――!」
目を覆いたくなるほどに一際強く閃いたかと思うと、次の瞬間少年は、世界に向けて一切の乱れなく切っ先を振り下ろした。
ようやく半年かけた6章終了です~!長かった~汗正直ここまで長くなるとは…
そして次回更新分の7話でついに最終回となります!彼らの行きつく先を書き切れるよう頑張りますので、最後まで見守って頂けますと幸いです。




