カイジュウ 怪獣
アパートの階段を下ると
色んな大人が僕を見たが
いつものように、誰も声をかけたりしなかった
僕は、まぶしいくらいの建物の外にでると
何処かで、救急車やパトカーなどのサイレンの音が
いろいろな場所を走り回っているのが聞こえる
やはり、遠くの山は、赤く燃え
だが、あの黒い影が、見えることはなかった
僕は、自転車にまたがると学校に向かう
学校までは、自転車でそう遠くない
信号も、三つもない
二つだけだ
途中で、赤いサイレンを鳴らし
山道を走っていく消防車とすれ違う
山火事なのだろうか
だとすれば、あの影は、黒煙だったと考えられなくもない
学校には、僕以外の大人と子供が
グラウンドに、数名集まって、話し合っては、山を見ていた
僕は、自転車にまた乗り、この町で、二番目に高い総合ビルに向かう
この場所から自転車で、二十分程度だ
町の中心部に位置しており
隣には、二社ある地方新聞局の一社がビルを構えている
夜の道路は、いつもより人が多く
いつものような、仕事帰りと言うよりも
家族の人間を、乗せている風だった
ビルは、明るく
全ての場所に、蛍光灯があり
青白く光っている
僕は、自転車を、側の路地の低い木が生えた花壇に押し込んでいる
ビル内の階段で、二階に上がろうとしたとき
地面が、揺れた
何処かで、悲鳴のような声が聞こえた
僕は、ラジオを、抱きしめると
二階に駆け上がる
何か、黒い物が、町の道路を歩いていた
その背後は、赤く燃え
悲鳴はその方向から聞えているようだった
踊り場の窓越しに見た光景は
二階に上がると消え
僕は、この十階建てのビルの最上階まで、上ることにした
ラジオからは「未確認生物zzzzzz」
と途切れながら僕の中で、揺れながらそんな情報を
スピーカーから流した
途中下に向かう大人や
踊り場で、騒ぐ大人が、数名邪魔に立ち止まっていた
その間を抜け上に上がる
その黒い影は、近づくにつれ
ビルよりも遙かに大きく
爬虫類のようでありながら鳥のように、飛び出た
数千いや数万では終わらないような体表の突起が
規則正しく体表を、覆っていた
それに目があるのかは、分からなかったが
その異常な体は、まるで、紙に書かれたおもちゃを
なぎはらうように、小さな町を進んだ
僕は、十階に行く途中の踊り場で、一人ラジオの
逃げてくださいzzzz逃げてくだzzzzzzzさい
と言うブレた声を聞きながら
その光景を、ただ見ていた
「あなた、大丈夫」
ビルから出た僕は、足を引きずっていたが
車から出て来た母親に抱きしめられた
あたりは、燃えており
遠くで救急車の音がした
遠くの方で、何か、物を全て壊してしまうような
声が、ビルを揺らした