表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒羽交差(再筆版)  作者: 多田野水鏡
5/7

五話

 やっと投稿出来ました。

 蝙蓮達は、保健室で休んでいた。これだけ叩きのめされては動けないだろうが、念のため露里は手足を縛っておいた。その間、成海は蝙蓮にくっついていた。

 しばらくすると、外に顔を向けて蝙蓮が唸り始めた。

「蝙蓮、どうしたの?」

 尋ねる成海を、蝙蓮は庇う様に背に隠す。成海が再び尋ねようと口を開いた時、サイレンが聞こえてきた。サイレンは徐々にこちらに近づいている。養護教諭が呼んだ警察が、ようやく来たのだろう。

 外に出てみると、丁度パトカーが保健室の前に停まったところだ。警官が三人、ドアを開けてパトカーから出てくる。養護教諭はようやく安心したようで、ゆっくり溜め息を吐いた。成海も似た気持ちだったが、そうではない者が露里の他にいるようだ。蝙蓮は両手を顔の前で構え、今にもパトカーに跳びかからんばかりだ。

「蝙蓮、大丈夫だよ。悪い人じゃあないから」

 蝙蓮が纏うボロ布の裾を摘まみ、安心させようとする。それでも、蝙蓮はパトカーに向かって吠えるのをやめない。

 全くパトカーというものを見た事がないのなら、この反応も無理はないだろう。赤い光を発し、サイレンという喧しい音を立てる。加えて、人間を数人体の中から吐き出したのだ。江戸時代の絵描きにでも見せれば、妖怪の一種として立派な絵を描いてくれることだろう。

 やがて、蝙蓮の口からは呻き声が代わりに顔を出していた。蝙蓮は明らかに、パトカーやそこから出てきた警官たちを恐れている。

 警官たちが、自分たちの元にゆっくり歩いてくる。その中でも、蝙蓮にだけは明らかに警戒心を抱いている。無理もないだろう、と成海は思う。蝙蓮の風貌を見れば、誰でもおかしな奴と思う。思いながらも、少し悲しくなる。蝙蓮は、自分を助けてくれたのに。

 養護教諭は、ここで起こった事をありのままを答えた。露里が成海を拘束して良からぬことをしようとしていた事、そこに居合わせた自分は殴る蹴るの暴行を加えられた事、突然蝙蓮が窓から乱入して成海を助けた事、露里がボロ雑巾の様になっているのは蝙蓮に叩きのめされたからという事。

 警官は、蝙蓮にも話を聞こうと声をかける。

「えっと、君が成海ちゃんを助けたんだよね?」

 蝙蓮に言葉の意味が分かるはずもなく、顔の前で両手を構えている。

「助けようとしたのは分かるけど、あまりにもやりすぎというか……。えっと、言ってる事分かるかな?」

 やはり、蝙蓮は警官に対して警戒心を抱いているようだ。(謎の生き物)が吐き出した者は、蝙蓮には成海と同じ人間とは判別できないのだろうか。

「ちょっと、聞いてるの?」

 流石に警官も声を荒げる。何も知らないものからすれば、自分を馬鹿にしているとしか思えない。腹が立っても仕方がない。ただ、それを態度に出したのが悪かった。

 警官は、勢いよく後ろに吹っ飛んだ。蝙蓮が頭から警官に突っ込んだのだ。まさか警官の事も露里の様にボロボロにしてしまうのではないか、そう思って思わず顔を覆う成海。

 一度ガマガエルの様な声が聞こえただけで、それ以上悲鳴が聞こえる事は無かった。恐る恐る成海が眼を開けると、いつの間にか蝙蓮はいなくなっていた。倒れている警官は、腹を押さえて辛そうに起き上がった。どうやら、怪我はしていないようだ。

「アイツ、オレを踏んづけてどっか行っちまった……」

 咳を二度して、砂埃を払う。姿が見えない事を考えると、よほど速く蝙蓮は走ったのだろうか。

「あ、あの……。蝙蓮を怒らないで下さい。あの子、何も分からないみたいなんです……」

 蝙蓮を庇う様に、成海は警官に乞う。この少女と去っていった変な奴がどんな関係でも、子供が眼に涙をためて物を頼んでいるのだ。裾を掴むその手を『うるせぇ』と振り払えるほど、彼は冷たい人間ではなかった。


 露里は養護教諭への暴行と成海への暴行未遂で逮捕されることになった。

「クソ! 何なんだよアイツ!」

 手錠をかけられた露里は、悪態をつきながら連行された。

「大丈夫なんじゃあなかったのかよ! 何で邪魔が入るんだよ!」

 以前あの子と『遊ぼうと』したが、その前に逃げられてしまった。もし誰かに、それこそ警察なり両親なりに知られたら、教師生活が終わってしまうと思った。そう思うと、背筋に冷たいものが走った。それが、突然行方不明になってくれたのだ。そこで、自分はそう言う事をしても良いと、そう言うことが出来るのだと確信した。

 そのはずなのに、今回のザマは何だ。秋山成海。目を付けていた彼女に優しい言葉をかけ、自分に気を許しただろうと思って『遊ぼう』とした。それなのに、変な奴に邪魔されて、ボロボロにされて。挙句に逮捕だと。

 もちろん、露里の怒りは逆恨み以外の何物でもない。現に成海も、露里に対して可哀想とは思わなかった。それまで抱いていた感謝の気持ちも、すっかり消え失せていた。


 ようやく事情聴取が終わり、成海はパトカーで家まで送られた。玄関の戸を開けると、紅音とドラ猫がすっ飛んできた。

「成海! 大丈夫だった!?」

 ドラ猫が強く成海の身体を抱きしめる。確かに怖かったことは事実だ。あそこで蝙蓮が助けてくれなければ、自分はどうなっていただろうか。露里の言っていた事を敢えて信用するなら、自分もどこかに行ってしまっていたのだろうか。

 が、それより伝えたい事があるのだ。

「でもね、蝙蓮が、蝙蓮が助けてくれたの! 私の事、友達だって、大事だって!」

 その言葉を聞き、顔をしかめたのは紅音だ。口を開きかけたが、そこから何かを言う事は無かった。確かにもう近づくな、とは言った。が、今回はその蝙蓮に助けられたのだ。変な奴ではあっても、妹を助けてくれた相手を悪く言うのは違うと思う。その思いが、その先を言うのを躊躇わせた。

 成海に近寄り、優しく頭を撫でてやった。

「……成海」

 言うべき言葉が見つからないのか、紅音はただ成海の名前を呼ぶだけだった。


 夜も遅い。眠るために、成海は自分の部屋に向かう。明かりの無い自室の壁際に位置するベッドを見て、背筋が震える。蝙蓮が助けてくれたとはいえ、やはり今日の出来事は自分に恐怖を植え付けた。ベッドに向かう足が動かない。

 丁度、階段を上る音が聞こえる。見ると、紅音だった。明かりもつけずに部屋で佇む自分を見つけて、紅音が変な顔で名前を呼ぶ。

「……お姉ちゃん」

 どうにか発せた声の小ささに、自分でも驚く。

「……今日、一緒に寝て良い?」

 口に出してから、恥ずかしさが込み上げる。小学生になったと言うのに、姉と一緒に寝たいなどと。紅音にも笑われるのでは、と思ってしまう。

「良いよ、おいで」

 そんな成海の心中を知ってか知らずか、優しく部屋に招き入れる紅音。照れ臭いのと姉の優しさが嬉しいのとで、つい顔が熱くなる。

「お休み、成海」

 そっと頭を撫でる。さっき蝙蓮がしてくれた時と同じような暖かさを感じる。無神経に構うでもなく変に気を遣うでもない、絶妙な暖かさが成海の心を癒してくれる。その暖かさが心地よく、瞼が重くなる。

 眠くなったところで、ふと成海は思い出す。そういえば、蝙蓮はどうやって自分を見つけたのだろうか。さっきは、蝙蓮と会えた嬉しさと助かった安堵感でそんな事を考える余裕はなかった。

 蝙蓮も自分を探していたのでは、と思ったが、それは掻き消された。初めて蝙蓮と出会った森へ行ってみたが、結局見つけられなかった。それに、何も知らない蝙蓮の事だ。自分を探して見つけることが出来たのなら、どこであれ自分にコンタクトをとっていた筈だ。

 保健室にいる自分を見つけた、とも考えにくい。カーテンが閉まっていたので、窓の外から室内は見えないはずだ。やはり、蝙蓮という少女は不思議だ。そこまで思った所で、成海は夢の中に落ちていった。

ごおるでんうぃいくきらい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ