第八十六話、わたくし、てっきり『座談会』回は、手抜きかと思っておりましたの。
どくとる「……くっくっくっ、それは災難でしたねえ」
アグネス聖下「──ああ、まったくだ。まっこと、ホワンロン王国の輩ときたら、ふざけおって」
どくとる「まあ、かの方々の脳天気さは、大陸中に知れ渡っておりますからなあ」
アグネス聖下「貴様こそ、気楽に言うでない。あんなのに何日もつき合わされた、こっちの身にもなってみろ!」
どくとる「まあまあ、そうおっしゃらずに、その分、『得るもの』も、多かったのですから」
アグネス聖下「……『研究狂』である貴様──我が『聖レーン転生教団』の誇る、『881374最終計画研究所』の、チーフ研究員にして実質上の最高責任者、アルベルト=フォン=カイテル司教にとっては、さぞかしそうであろうな?」
どくとる「おやおや、いけませんなあ。せっかくこうして量子魔導ボイスチャットを使っているというのに、個人情報を明かしたりなさっては。どうぞ私のことは、この場においては、HNの『どくとる』とお呼びください。私も聖下のことは、『アグネス聖下』とお呼びいたしますので」
アグネス聖下「……ぐっ、わ、わかっとる! しかしこの『アグネス聖下』というHNは、どうにかならんのか? むしろ一目で我とわかって、チャットならではの匿名性も何もないではないか?」
どくとる「いえいえ、とても可愛らしくて、お似合いですぞ、『アグネス聖下』様♡」
アグネス聖下「ううっ、まさか貴様にまで、『アグネスたん』と呼ばれる日が来ようとは……ッ。これもすべては、ホワンロン王国のやつらが、量子魔導ボイスチャットなぞを発明するからじゃ!」
どくとる「おおっ、そうなのです! まさに今回の最大の収穫こそが、その量子魔導ボイスチャットなのですぞ!」
アグネス聖下「……何じゃと?」
どくとる「これっていかにも番外編における、手抜きのための会話劇フォーマットのように思われておりますが、実はWeb小説界における異世界転生や異世界転移は言うに及ばず、現在のライトノベル界きっての売れ線分野の代名詞であるVRMMOにおける、最も理想的な実現方法とも言えるのですよ!」
アグネス聖下「なっ⁉ それってつまり、Web小説界における馬鹿の一つ覚えの、転生や転移モノだけではなく、大ヒットラノベ『SA○』もなのか⁉」
どくとる「ええ、『SA○』もです」
アグネス聖下「……いいのか、こんなインターネットの片隅で、今やハリウッドにおいて実写化も進められている超大作に対して、そんなことを堂々と宣言して」
どくとる「それだけ、量子魔導ボイスチャットというものが、凄いわけなのですよ」
アグネス聖下「……凄いって、どんな風に」
どくとる「──実はですねえ、個々人がそれぞれ『仮想現実空間』を体験することは、けして不可能ではないとも思われるのですが、それに対してVRMMOのほうは、ほとんど実現不可能とも言い得るのです。それというのも、仮想現実とはいわゆる『夢』のようなものであり、個々人にそれぞれ別々の『つくられた夢』を見せるのは、将来的に実現しても別に不思議ではないものの、VRMMOのように『不特定多数の人間に一度に同じ夢を見せる』なんてことは、どう考えても不可能でしょう?
アグネス聖下「…………あ」
どくとる「しかもラノベやWeb小説のVRMMO作品のように、その世界の中でめいめい勝手気ままに行動できたりするなんて、論理的かつ原理的にほとんどあり得ないし、もし万が一あり得たとしても、それを実際に構築するためのコンピュータの演算能力や描写能力なぞ、とても現実的ではなく、常識的に実現不可能と断言しても構わないでしょう」
アグネス聖下「……た、確かに」
どくとる「まあ、もっとぶっちゃけると、VRMMOなんて、ネトゲジャンキーどもにとっての、自分の目の前の『液晶モニターの中のゲームの世界に入りたい』などといった、幼稚な妄想的願望でしかなく、そういった意味では異世界転生や異世界転移の一種とも言えたりしてね」
アグネス聖下「──ほんと、ぶっちゃけたな、おいっ⁉」
どくとる「いやいや、異世界転生や異世界転移の一種のようなものだからこそ、量子魔導ボイスチャットの基本的原理でもって、より理想的に実現可能となるのですよ。──そもそも、聖下、量子魔導ボイスチャットを成り立たせている、基本的原理って何でしたっけ?」
アグネス聖下「……それは、当然、チャット参加者個々人による、『集合的無意識』とのアクセスこそが──って、まさか⁉」
どくとる「そう。量子魔導ボイスチャットならではの、集合的無意識とのアクセス方式──これこそが、VRMMOや異世界転生や異世界転移を、真に理想的な形で実現することができるのですよ。何せ集合的無意識には、この世界か『ゲンダイニッポン』かすらも問わず、ありとあらゆる世界のありとあらゆる存在の、『記憶と知識』が集まってきているのですからねえ」
アグネス聖下「……前からおかしいとは思っておったのじゃ、量子魔導ボイスチャットにおいては、単に量子魔導ネットを介しての音声のみでのやりとりだけではなく、おのおの別々の場所にいるというのに、まるで本当に一堂に会しているかのように、お互いの現在の状況を視覚的に確認できるどころか、触れ合うことすらできたのを。──つまりは、VRMMOのようなものだったわけか?」
どくとる「なぜそのような、本来不可能なことを可能にできるのか? それは集合的無意識とアクセスすることによって、直接脳みそに『記憶や知識』を書き込まれるからなのですよ」
アグネス聖下「脳に直接、『記憶や知識』を書き込まれるじゃと?」
どくとる「実は我々は、目や耳のような『感覚器』によって、『見ている』わけでも『聞いている』わでもないのです。それらはあくまでも『情報の入り口』に過ぎず、それらの情報を脳で処理して初めて、視覚や聴覚を実感することができるのです。──よって、脳みそに直接情報を書き込めば、たとえそれが各感覚器で取得した情報と違っていようとも、『本物の知覚情報』として認識されてしまうのです」
アグネス聖下「……ああ、ジョージ=バークリーやフレドリック=ブラウンの著作で有名な、『誰も聞く者のいない森の中で、たとえ大木が倒れようが、そこには「音」なぞ存在しない』って、やつだな?」
どくとる「その通り。つまり量子魔導ボイスチャットにおいては、この世界におけるインターネットそのものである集合的無意識を介して、『視覚』や『聴覚』や『触覚』をリアルタイムにやりとりして、参加者の脳みそに直接刷り込んでいるので、あたかも全員が一堂に会して、語り合ったり触れ合ったりしているように知覚しているわけなのです」
アグネス聖下「──おおっ、確かにこの基本的原理に則れば、『SA○』なんかのVRMMOすらも、理論上実現可能となるではないか⁉」
どくとる「……『SA○』の作者もねえ、『アリ○ゼーション編』では、結構いいところまで行ったのですがねえ。本格的に『量子論』を取り入れて、VRMMOを『夢見たいなもの』と捉えたところまではよかったのですが、まさしくVRMMOにとって不可欠の、不特定多数の人間の『共時性』を謳っている、集合的無意識にまで考えが及ばなかったのは、詰めが甘いというか──」
アグネス聖下「こ、こらっ! 他人様の作品のことなぞ、どうでもよかろうが⁉ この業界で長生きしたかったら、それ以上深入りするでない! それよりも、このVRMMOそのままの基本的原理が、異世界転生や異世界転移にも適用することができるとは、どういうことなのじゃ?」
どくとる「それについては、本編の第24話において、すでに詳しく述べている通りであり、異世界転生や異世界転移の独特なやり方として、まさしくプレイヤー自身は『ゲンダイニッポン』に居ながらにして、異世界人を己のアバター──すなわち『ゲームのコマ』のようなものにして、自分の代わりに『死に戻り』なんかをやらせるというやつで、まず異世界人に『プレイヤーの記憶や知識』を刷り込んで、それ以降に実体験した『異世界転生物語の記憶』を、リアルタイムに『ゲンダイニッポン』のプレイヤーの脳みそにフィードバックすることによって、事実上の異世界転生や異世界転移をあたかもVRMMOであるかのように、実体験するわけなのですよ」
アグネス聖下「──何と、集合的無意識を介して、『ゲンダイニッポン』と異世界との間で、リアルタイムに情報をやりとりするわけか⁉」
どくとる「ええ。──そしてこれこそが、Web小説における代表的作品分野の一つである、『悪役令嬢』モノの根源的テーマである、『乙女ゲームの世界への転生とは、一体いかなるものか』にも、大きく関わってくることになるのです。何せ『ゲンダイニッポンから悪役令嬢への転生』って、異世界転生とも、VRMMO的な乙女ゲームへのダイブとも、とれますからねえ」
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アグネス聖下「………………とまあ、以下は次回に続くわけなのじゃが、本当に大丈夫なのか、これ?」
どくとる「え、何がですか?」
アグネス聖下「『何が』じゃなかろうが⁉ 『SA○』などといった超大作を勝手に取り上げおって、何か問題になったらどうするつもりじゃ!」
どくとる「いえいえ、むしろ感謝して欲しいくらいですよ。『同一の夢の中に複数の人間がダイブすることなぞ、けしてできやしない』という、仮想現実における根源的問題に対して、一定の解答をもたらして差し上げたのですからね」
アグネス聖下「う、ううむ、確かに、それはそうじゃが……」
どくとる「別に大作と言っても、ビビる必要なんか無いんですよ。あくまでも、同じ人間が創っているんだから。このように、『お互いに足りないところがあれば補い合う』というのは、むしろクリエーター同士としては、理想的な関係なのでは?」
アグネス聖下「──貴様のその、厚顔無恥極まる上から目線の自信は、一体どこから来るのじゃ⁉」
どくとる「別に自信なんかありませんよ? 私の理論にだって、何か間違ったところがあるかも知れないんだし。それでもWeb小説やラノベの真の発展のためには、むしろ積極的に意見を表明すべきだと思っているだけですよ」
アグネス聖下「……いや、そういうことをしらふで言えるところが、いかにも『何様』って感じがしてならぬのじゃがな」
どくとる「いえいえ、いまだ御年7歳の幼女でありながら、酸いも甘いも知り尽くしているようなお顔をなされている、教皇聖下には負けますよ。──さすがは、『リアルロリBBA』♡」
アグネス聖下「人のことを、ロリBBA言うな!」
どくとる「いや、聖下のまさしくロリBBA的老獪さも、今回の議題同様に、長年集合的無意識と常にアクセス状態にあったために、年齢以上の『記憶や知識』をインストールし続けていたからだと思っておりましたが、実はそれのみならず、ロシア地方のサンタクロース──すなわち、『都市伝説』的存在の血を引かれていたとはねえ……」
アグネス聖下「な、何じゃ、我が都市伝説的存在であったら、何か問題でもあるのか⁉」
どくとる「いえいえ、『実はサンタさんの孫娘でありました♡』なんて、いかにも可愛いらしい、『衝撃の真実の発覚』かと思いまして」
アグネス聖下「『可愛らしい』とか、貴様まで、枢機卿のおっさんどもみたいなことを言んじゃない!」
どくとる「はいはい、アグネスたん、可愛い可愛い♡♡♡」
アグネス聖下「き、貴様、覚えていろよ? 次回こそ必ずへこませてやるからな⁉」
どくとる「ええ、ええ、楽しみしておりますよ♫」




