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第七十五話、わたくし、『ゲームのような小説』ではなく、『小説のようなゲーム』を目指しておりますの。

 それは、ネット上における、突然の告知によって始まった。




『──あなたの、「異世界転生」の夢、叶えて差し上げます』




 何でも、これまた唐突にネット上で公開された、乙女ゲームでありながら完全なるオープンワールドを実現した、現在の最先端技術の遙か先を行く、謎のネットアプリ『わたくし、悪役令嬢ですの!』の、全攻略対象キャラ及び隠しキャラの完全攻略を果たせば、正体不明のサイト運営代表である『なろうの女神』を名乗る人物が、実際に当の乙女ゲームの世界の中に異世界転生させてくれると言うのだ。




 もちろん、最初は誰も、本気にしなかった。

 ネットにありがちな、『炎上上等』の、客寄せ(フィッシング)と思われた。

 当然のごとく、各ゲーム評論サイトやまとめサイトにおいては、連日批判や揶揄の嵐であった。


 ──しかし、『客寄せ(フィッシング)』という意味では、結果的に、大成功を収めたと言っていいであろう。


 これだけ話題になったゲームである、別に本当に異世界転生できるなぞとは期待していないものの、話題づくりや冷やかしといった意図で、『挑戦者』が次々と現れたのだ。

 むろん彼らのゲームに対する取り組み姿勢は、けして本気では無く、おふざけ半分なものばかりであった。

 だが、そのうち誰もが、熱く燃え上がり、本気になっていったのだ。




 それほど、『わたくし、悪役令嬢ですの!』というアプリは、単なる客寄せ(フィッシング)のエサであるだけではなく、乙女ゲームそのものとしても、この上なく魅力的であったのである。




 その最大の要因が、先程もチラリと述べたが、このアプリが乙女ゲームでありながら、まさしく()()()()()()()()()、完璧なるオープンワールドを実現していることであった。




 基本的なゲーム内世界観設定としては、この手の話にありがちな、剣と魔法の中世ヨーロッパ的世界であった。

 ──だが同時に、現代日本と同レベルかそれ以上の科学技術力を誇る、人呼んで『量子魔導クォンタムマジック』ハイブリッド文化を誇っていたのだ。

 なぜに、基本的には中世ヨーロッパ風の世界でありながら、古来よりの魔法技術のみならず、量子論を始めとする現代物理学に基づく科学技術までもが併存しているかと言うと、


 何とこの世界においては、現代日本からのいわゆる『異世界転生』が極当たり前のようにして行われていて、大勢の『転生者』たちから当然のようにして、現代日本における最新科学技術や、その他の文化や娯楽や生活様式等々が、数えきれないほどもたらされていたのだ。


 よって、この世界最大の宗教組織『聖レーン転生教団』においては、その名が示す通りに、この世界への現代日本からの異世界転生を歓迎する立場をとっており、世界屈指の魔導力を有する教皇を頂点とする教団内の上級の術者たちに至っては、自ら率先して『転生者』たちを召喚して、最新の技術を計画的かつ大規模に取得することで、教団を始めとする世界全体の発展に寄与すること可能にしていて、教団の教え──俗に言われる『なろう教』を信心している、世界中に存在する大勢の信徒たちからもあまねく支持されていた。

 ──しかしそれに対して、王国や帝国等の国家機関や、貴族や富裕層や商工組合や魔術師ギルドや冒険者ギルド等の、いわゆる俗世の諸々の組織においては、自分たちの立場や身分や既得権や伝統や文化を守る意味からも、現代日本からの異世界転生を好ましくないものとする意見も、依然大きな勢力を維持していたのだ。


 そんな彼らのスローガンときたら過激なことにも、「現代日本からの薄汚き『侵略者』を許すな!」──であった。


 とはいえ、これはまったく事実無根の、言いがかりでも誹謗中傷でもなかったのだ。

 現代日本におけるWeb小説等においては、当然のごとく『異世界転生者』が『主人公』として描かれており、無条件で異世界人に受け容れられて、チート能力で勇者等の英雄扱いされたり、現代日本の最新の科学技術等の知識を駆使した『NAISEI』で異世界を豊かにしていったり──といったパターンばかりであるが、これらをあくまでも()()()()()()()()()()()と、どうであろうか?

 果たしてあなたは、自分の身の回りの人々が、いきなり『前世に目覚めて』まったくの別人に変わり果てたり、可愛い我が子や最愛の妻や夫や恋人に、実は生まれた時から『別の世界の人間の魂』が宿っていたりするなどといった、理不尽かつ不条理な『恐怖』に耐えられるだろうか?

 更には、先程言及した『チート能力』や『NAISEI』に至っては、旧来の数々の権力組織が訴えている通り、異世界全体の政治や経済のパワーバランスをたやすく瓦解させて、多大なる混乱や下手したら戦乱すらももたらして、社会システム自体を崩壊させかねないのだ。


 そんな中で、『異世界転生』というものを、全面的に受け容れるわけでも、全面的に拒絶するわけでもなく、最も理想的な在り方を模索し続けて、一応の成果を上げつつあるのが、異世界随一の量子魔導クォンタムマジック国家、ホワンロン王国であった。


 確かに異世界にとって、現代日本からの転生者は、少なからぬ害悪をもたらし得る存在と言えよう。

 しかし一度最新の科学技術の素晴らしさを知った今となっては、それを完全に捨て去ることなぞできるはずもなく、特に各国の為政者においては、自国以外の国が転生者の力を利用して急激な発展を遂げていくのを、ただ指をくわえて傍観しているわけにはいかなかった。

 そこでホワンロン王国においては、異世界に悪影響を及ぼしかねない異世界転生を原則的に禁止して、実際に害を及ぼした転生者は厳しく罰するとともに、ホワンロン独自の『巫女姫』という強大なる術者に、自分の意思で自分の身に現代日本人の魂を召喚し取り憑かさせて、必要な最新技術等の知識を頂戴した後は遅滞なく現代日本へとお帰りいただくといった、いわゆる巫女ならではの『憑依体質』を限定的な異世界転生に利用する、特殊極まるやり方を行うことによって、異世界への影響を最小限に抑えながら、現代日本の最新技術の取得を可能としていたのだ。

 そのため王国においては、『巫女姫』や転生者を見つけ出し断罪する力を持つ『境界線の守護者』と呼ばれる術者を養成するための教育機関として、『王立量子魔術(クォンタムマジック)学院』を設立して、生まれつき強大な魔導力を秘めている王族や上級貴族の子女たちを、半ば強制的に修学させていたのであった。


 ──そしてまさしく、乙女ゲーム『わたくし、悪役令嬢ですの!』の主な舞台(メインステージ)こそは、この王立量子魔術(クォンタムマジック)学院の高等部であったのだ。


 それというのも、プレイヤーたちが操作することになる『ヒロイン』キャラ、アイカ=エロイーズ男爵令嬢は、何と現代日本からの異世界転生者なのであり、ちょっとでもうかつな行動を取れば、異世界に対して悪影響を与えたとして、同じく学生として学院内に在籍している、『巫女姫』である公爵令嬢や『境界線の守護者』である三人の王女に断罪されかねない中で、攻略対象である三人の王子や上級貴族の御子息にアタックしていくといったストーリーラインとなっていたのである。

 どちらかと言うと中立的立場にあるホワンロン王国においては、問答無用に転生者が断罪されることは無いものの、攻略対象の中には転生者に偏見や敵意を持つ者もいて、それをどう懐柔していくかが腕の見せ所であったのだが、そこで立ち塞がるのが『巫女姫』や『境界線の守護者』たちで、彼女たちはある意味乙女ゲームではお馴染みの、ヒロインにとっての『恋敵』キャラ的立ち位置にあり、更にはその特殊な役職ゆえに、ヒロインが少しでも異世界に対して害意があると見なせば断罪することができるので、何と自分たちのほうから策を弄して無実の罪を着せて、ヒロインを陥れようとしてきたりもして、常にその動向を把握している必要があり、その対応には非常に神経を使わされた。

 しかもヒロインも含めて当学院の生徒の全員が、将来の大魔術師の卵たちなのであって、現時点における魔法技術にも並々ならのものがあり、ヒロインと『巫女姫』たちの間で、いっそのこと勝負を魔法力で決めようとするといった、バトル展開すらも見られたのだ。

 そしてまさにそんなスリリングさや、既存の乙女ゲームの枠組みに囚われないフレキシブルさによって、多くの()()『乙女』たちが、たちまちのうちに熱中させられていったのである。




 ──それも当然のことで、何せこの『何でもアリ』のフレキシブルさこそが、実は当ゲームの最大の特徴であり、特長でもあったのだから。




 何とこのネット上オンリーの乙女ゲーム『わたくし、悪役令嬢ですの!』には、最初に攻略対象の『ルート』を選んだ後には、極たまに出てくる至極簡潔(シンプル)な『選択肢』以外には、最初からガチガチに決まり切った『シナリオ』なぞは存在せず、プレイヤーはただひたすら攻略対象と会話を重ねることによってのみ、その好感度を上げる他はなかったのだ。

 ……このように簡単に記すと、いかにも何でもないようだが、ゲーム製作を始めコンピュータプログラムに詳しい人には、これがどんなにすごいことであるか、さぞやおわかりのことであろう。


 ──何せ、『シナリオ無しの事実上の無限選択肢ゲーム』とは、まさしく現代物理学の中核を為す量子論的には無限の可能性を秘めているとされる、この『現実世界』そのものの再現シミュレーションと言えるのだから。

 こんなものが、たかがネット上の無料フリーの乙女ゲーにおいて実現されるなど、「珍しい」とか「信じられない」とかいったレベルではなく、もはや『異常事態』や『奇跡』とすらも言えた。




 こういった超最先端技術や、独特で絶妙なる世界観設定等々の、多方面から構築された仕組み(システム)が総合的に合わさってこそ、まさにこのゲームならではの、現実世界とも見紛うばかりの、『完璧なるオープンワールド』を実現し得たのだ。




 しかもこのゲームのすごいところは、それだけでは無かった。


 以上に述べた世界観設定の諸々は、確かにゲームとしてはずば抜けて素晴らしいものであろうが、あくまでもこの『わたくし、悪役令嬢ですの!』は乙女ゲームなのであって、その基本的コンセプトが、攻略対象である並み居る美少年キャラたちをオトしていくことであるのは、旧来のごく普通の乙女ゲームと何ら変わりはなかった。

 よって当然のごとく、主な対象プレイヤーとしては、『逆ハー』願望の強い女性ユーザーか、一部の希少なる乙女ゲーマニアの男性ユーザーに限られてしまうものと思われるところだが、何と実は『裏設定』として、本来は『ヒロイン』の恋敵ライバルキャラであるはずの、『悪役令嬢』を始めとする並み居る美少女キャラたちをも、攻略対象にできたのだ。

 これによって、一気に『ギャルゲ』的魅力をも併せて持つようになって、多くの「美少女大好き♡」な男性プレイヤーを取り込むことに成功するとともに、一部の「女の子大好き♡」な希少なる女性プレイヤーすらも引き寄せることになったのだ。




 こうして性別を問わず全方位的に大人気乙女ゲームとなった『わたくし、悪役令嬢ですの!』であったが、そんな大勢のユーザーの中でとりわけ攻略に熱心だったのは、言うまでもなく、『本気で異世界転生をすることを望んでいる』プレイヤーたちであったのだ。




 人によっては、「何を馬鹿なことを」と、一笑に付すかも知れない。

 しかし、異世界という文字通り未知なる世界に尽きせぬ思いを馳せ続ける、少々夢見がちな好奇心や冒険心の人一倍強い者はもとより、様々な理由で現実世界のすべてに絶望し、もはや自殺して『来世』に望みを託すか、フィクションそのままに『こことは異なる世界』に活路を見いだすかしかない、切実なる現実逃避者たちにとっては、たとえいかにもネット上にありがちなうさん臭い『客寄せ(フィッシング)的告知』であろうとも、本当に他の世界に生まれ直すことが──文字通り『異世界転生』することができる可能性が、万に一つにもあるかも知れないとしたら、藁にもすがりつかざるを得なかったのだ。




 そしてまさしくそんな彼らの熱意こそが、文字通り不可能を可能にしてしまったのか、何と困難極まる全キャラ攻略を見事にクリアして、実際に異世界転生を果たしたとされるプレイヤーが、幾人も現れたのであった。




 なぜそんなことがわかったかと言うと、ゲームサイト上にその旨が告知されるのは当然として、それに付け加えて、思わず己の目と頭を疑いたくなることにも、何と何と、転生者のゲーム世界内での様子が、『わたくし、悪役令嬢ですの!』というゲームと同じタイトルをつけられた()()()()()()()()、超人気小説創作サイト『小説家になろう』と『カクヨム』との両方に、順次公開されていったからであった。




 一応この作品は、短編連作の形を取っており、作者も『881374』という筆名ペンネームの単一の人物に統一されていた。

 だがそれは、各創作サイトの規約上原則的に、『複数の作者の作品を同一のシリーズにすることはできない』ゆえの苦肉の策であり、実際には個々のゲームプレイヤーたちの体験談の寄せ集めであることは、その素人芸そのものの統一性の無い支離滅裂な内容を見れば、一目瞭然であった。


 例えば、まさにこの『第75話』をご覧になればわかるように、これまでの流れをぶった切って、最初から最後までただひたすら『解説文』が続いていくなどという、Web小説の作法セオリーを完全に無視したことすらも、平気で行われているのだ。


 もちろん内容そのものも、文字通り百花繚乱の有り様で、何よりも真のオープンワールドである乙女ゲームという名の本物の異世界において、各プレイヤーたちがおのおの自分の願望に則って好き勝手やっているのである、その報告文レポートであるWeb小説の『各話』が、それぞれに大きく異なったものとなるのも当然であろう。

 そう。ゲームプレイ時においては、自分の分身たる操作キャラとしては、『ヒロイン』であるアイカ=エロイーズ男爵令嬢しか選べなかったのに対して、実際の異世界においては、何と『悪役令嬢』アルテミス=ツクヨミ=セレルーナ公爵令嬢をも含む他の女性キャラはもちろん、ゲームでは攻略対象であった並み居る美少年キャラたちや、その他モブキャラやモンスターの類いに転生することすらも、自由に選べたのだ。




 このように現実世界よりも更に自由度が増した中で、ゲームクリアを果たした好奇心旺盛な者も現実逃避者も、基本的には何でも実現できるはずの剣と魔法とおまけに超科学技術の世界において、今度こそ自分の夢を叶えんと、これまでのWeb小説における異世界転生モノの例に漏れず、ハーレムや逆ハーづくりや、スローライフや、NAISEIや、下克上等々に、せっせっと励んでいったのであるのだが、生憎とそうは問屋が卸さなかったのである。




 それと言うのも、実はサイト運営管理側──すなわち『なろうの女神』なる謎の代表によって、異世界において『まず達成すべき課題』を解決クリアしなければ、真の悠々自適な異世界ライフは許されなかったのだ。


 その課題とは、まず何よりも、『悪役令嬢アルテミス嬢の()の巫女姫としての覚醒』と、それに伴うホワンロン王国を中心とする、『反異世界転生』勢力の打倒であった。


 前半はともかく、後半に関しては、至極妥当かと思われた。

 すでに述べたように、この乙女ゲーム『わたくし、悪役令嬢ですの!』の世界は、異世界転生者に批判的な勢力が数多く存在しているのだからして、実際に異世界転生したプレイヤーたちは、自分が『転生者』であるとバレれば身の破滅を招きかねず、とても安穏と異世界攻略やスローライフを行っている場合ではなかったのだ。


 だったら、絶大なる優位性を誇る転生者ならではの現代日本の最先端技術の知識を、自分の願望にではなく、まずはこの世界の『反異世界転生』勢力の打倒にこそ活用していくのは道理であり、そのためには『()の巫女姫の覚醒の促進』こそが最も有効ともなると、併せてその実現に邁進していくのも当然の仕儀であろう。


 ──かくして転生者たちは、手を替え品を替え、ホワンロン王国ひいては異世界全体に向かって、果敢に挑んでいくことと相成ったのである。


 そしてそれは遅滞なく、ゲームではなく小説のほうの『わたくし、悪役令嬢ですの!』として、順次Web上に公開されていったので、広く万人の目にするところとなった。




 ある者は、アルテミス嬢の取り巻きグループのリーダーに転生して、同性愛的に彼女に迫って揺さぶりをかけて、巫女姫としての目覚めを促そうとした。


 ある者は、『転生者ならではの犯罪者』となり、次々に転生する異世界人を変えることによって、ある時は加害者に、またある時は被害者になることで、『名探偵』役を担ったアルテミス嬢を散々翻弄した。


 ある者は、異世界において『BL同人誌』ブームを巻き起こし、いまだ10歳に過ぎないアルテミス嬢に、(ある種偏った)性的目覚めを促そうとした。


 ある者は、むしろ逆に自分の通う学園はもとより国そのものを、あえてアルテミス嬢の嗜好に合致する、『百合天国』に変えてみせた。


 ある者は、こちらの世界の米海軍特殊部隊『シールズ』仕込みの猛特訓を受けて、精神的にも肉体的にも強靱化されて、反異世界転生勢力と闘い続けることを決意した。


 ある者は、いっそのこと現代日本の軍事的ミリオタ知識を最大限に活用して、異世界最大の軍事帝国を築き上げ、武力によって世界征服を果たし、力によってすべてを支配しようとした。


 ある者は、異世界転生者擁護の最大勢力である聖レーン転生教団を動かすことで、転生者の魂を宿したモンスターたちの大暴走を引き起こした。


 ある者は、教団の敬虔なるシスターに現代日本の蜘蛛を転生させて、妖艶なる『蜘蛛女』に仕立て上げて、ホワンロン王国の軍人たちを籠絡しようとした。


 ある者は、いっそ他の作者の作品の異世界転生者たちを唆して、一斉に反乱を起こさせようとした。


 ある者は、自分のガチレズかつドM的趣味丸出しに、アルテミス嬢に百合百合に迫っていき、しもべである『豚奴隷』にしてもらうことで、現実世界を捨てて異世界にこそ、安寧なる居場所を得ようとした。




 しかし、すでにこの短編連作シリーズをご覧の読者様方のご存じの通り、すべてはあっけなく失敗してしまったのである。




 更には苦肉の策として、アルテミス嬢自身に転生した者もいたし、何と主要キャラクターたちを『BL同人誌の世界』や『現代日本のハロウィンの渋谷』に転生させた者すらもいたが、それらも結局は無駄な徒労に終わってしまった。




 ──それも当然であろう。




 何せ彼らときたら、全員が全員、『ゲームならではの小説や漫画やアニメには無い優越的な特性』を、まったく活用できていないのだから。




 そこで、まさしく真に理想的な異世界転生の模範を示してやろうと、私ことブラック企業勤めのアラサーOL北島(きたじま)アユミは満を持して、乙女ゲーム『わたくし、悪役令嬢ですの!』の攻略に乗り出すことにしたわけであった。




 その基本コンセプトは、異世界においてはこれまでのWeb小説のように、『ゲームのような小説の実現を目指す』のではなく、むしろ逆に『小説のようなゲームの実現を目指す』ことであった。




 そう、上記に述べた各転生者──いわゆる、シリーズ内各短編エピソードにおける『主人公』たちを、()()()()()()()()()使()()()()()というわけなのである。




 それと言うのも、小説や漫画やアニメに無くて、ゲームにだけ存在する優越的な特性とは、まさしく『選択肢』によってプレイヤーが能動的に『これからの展開』を選べることであり、その結果、ストーリー展開が『ルート分岐』されて、当然結末そのものも『マルチエンディング』となるという、他のメディアに比べて断然現実的な『流動性』を有することなのだから。


 一見これだと、いくら『ゲームの知識』を持って異世界転生しても、世界の行方自体が流動的なために役に立たず、『乙女ゲーム』的世界に転生することがほとんどである、Web小説における『悪役令嬢物語』においてはやはり、いくら『御都合主義』と言われようと、これまでの作品のように、その世界観を一つに固定的に定めるべきかと思われがちであるが──


 実は、まさにその『ゲームならでは流動性』を最大限に活用してこそ、転生者にとって()()()()()()()()()異世界転生というものを、実現できるのであった。


 まさしくそれこそが、先に述べた、『各主人公をゲームのコマとして使い潰す』ということなのであるが、実を言うと私は、乙女ゲーム『わたくし、悪役令嬢ですの!』の全キャラ完全攻略を果たした際に、謎の運営代表である『なろうの女神』に対して、「乙女ゲームである『わたくし、悪役令嬢ですの!』ではなく、Web小説である『わたくし、悪役令嬢ですの!』のほうにこそ、異世界転生をさせてくれ」と頼み込んだのだ。




 つまり私は、短編連作Web小説『わたくし、悪役令嬢ですの!』そのものをゲームとして見立てて、各話主人公たちを自分の『操作キャラ』にして、何度も何度も『トライ&エラー』を繰り返し、真に理想的な異世界攻略の道筋を模索していったのである。




 よって、各主人公自身が、ゲームの特性をまったく生かせず、一直線のストーリー運びしかできず、結局は失敗に終わろうが、構いやしなかった。

 何せ私にとっては彼女たちは、単なる使い捨てのゲームのコマなのである。その短編エピソードで失敗したら、別の短編エピソードに転生し直せばいいだけであった。

 言わば他人を使って、『ループ』や『死に戻り』を行っているようなもので、文字通り『高みの見物』そのままに自分自身の安全性を完全に確保した上で、すべてをあくまでも客観的に考察することを可能としていたのだ。

 具体的な『操作方法』としては、主人公たちがあまりにも見るに堪えない愚策ばかりをしている際に、『内なる声』とか『天の声』といった感じで『助言』を与える形で行った。

 これに対して主人公たちのほうは、別段疑問を覚えることもなく、異世界転生にありがちな──例えば『なろうの女神』とかの──超常的存在からのアドバイスだと勝手に誤解してくれて、素直に従ってくれたものだった。




 かくのように、私のもくろみはほぼ完全に成功を収めて、今や『なろうの女神』の全面的協力すら勝ち得ていて、問題は一切存在せず、すべては『シナリオ』通りに進んでいた。




 そしてついに物語は今回75話を数え、いよいよ次回76話においては、『魔王の()()()()()唐突なる登場』とともに、『()の巫女姫の覚醒』のシーンと相成ることになった次第である。

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