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第四十九話、わたくし、二人っきりでの入浴って、同性愛の舞台に最適と思いますの♡

「──おや、司祭様も、お風呂ですか?」


 宿舎内の優に二十人は入浴することのできる大浴場にきてみれば、案の定()()()()()が、一人湯船に浸かっていた。


「……司祭はやめてください。私も今日からこの兵舎で同じ釜の飯を食べる仲間、どうぞテレサとでもお呼び捨てを、──中将閣下」

 大きめのバスタオルで身体の前だけを隠して入ってきた私こと、聖レーン転生教団『教宣ティチャー司祭・シスター』テレサ=テレーズに対して、あたかも旧知の間柄のように気安く声をかけてくる、ホワンロン王国空軍最新鋭ジェット戦闘機部隊、最強の第44中隊隊長にして中将、アーデルハイド=ガランド嬢。

「だったら私に対しても、中隊長や中将はやめて、『アデル』とか『ハイジ』とかと、呼んでくれないか」

「……あ、いえ、いくら何でも隊の指揮官殿に対して、そのようなぞんざいな呼び方をしては、他の隊員の方にも、示しがつかないのでは?」

「それは、司祭()だって、同じことだろう? 何せ貴女はあの『なろうの女神』様の地上における代行者、『聖レーン転生教団』の伝道師エヴァンジェリストであらせられるのだから、不信心な世俗の軍人ごときでは恐れ多くて、ファーストネームの呼び捨てなんて、とてもできませんよ」

「──うっ」

 人をまんまとやり込めて、いかにも悪戯っぽく笑う目の前の少女に、言葉に詰まり二の句が継げなくなる。


 十代後半の年頃の、彫りの深い端整な小顔の中で稚気に煌めいている青玉サファイアの瞳は、確かにいまだ子供っぽいあどけなさを残しているものの、湯船の中でプラチナブロンドの長い髪の毛以外は一糸まとわずさらされた肢体のほうは、すらりとしたしなやかさを誇るとともに、大人の色香を十分に感じさせる凹凸を見せつけていた。


 ……この人も黙って優雅に微笑んでいれば、一体どこの王侯貴族の深窓の御令嬢かと見紛うほどに、超がつく美少女なのに、非常に残念だと思うのは、何も私だけでは無いであろう。

 だが、腹に一物あるかどうかはともかくとして、ホワンロン王国きってのジェットエースのほうから、今日初めて顔を合わせたばかりの、本来天敵とも言える転生教団の司祭である私に対して、何の隔たりも見せず友好的な態度をとってくれるというのなら、むしろ好都合であった。


 ──いっそここで中隊の『トップ』を堕としてしまって、これからの『裏の教宣ネガエリ活動』を何ら支障無く進めていくのも、十分有効な策だしね。


 そのように胸中で今後の方針を定めるや、バスタオルを取り払い湯船へと浸かり、警戒をいだかせないように適当に距離をとりつつも、できるだけ彼女の側へと腰掛ける。

「……では、お言葉に甘えてこれよりは、アデル、と呼ばせていただきます」

「うむ」

「それで、せっかくこうしてお話しする機会にも恵まれたことですし、是非ともお伺いしたいことがあるのですが?」

「うん、何だい?」


「──アデルは、その、我々の『なろう教』については、どう思われているのですか?」


 いきなり単刀直入に突き付けられた私の言葉に、さすがに目を丸くする中隊長殿。

 一見、あまりに拙速に過ぎる、悪手のようにも思われた。

 しかし、(少なくとも表面上は)いかにも裏表の無いように見える『親分肌』の御仁に対しては、下手に遠回しな搦め手で攻めるのでなく、このように腹を割ってアプローチするほうが、よほど効果的なのだ。

「……どう、とは?」

「私には、ホワンロン王国の皆様が、『転生者』のことを、誤解なされていると思われるのです」

「誤解だと?」

「『ゲンダイニッポン人』による『異世界転生』はけして、この世界の皆様の身も心も完全に乗っ取ってしまう、『侵略行為』なんかではないのです。むしろ自分自身の限界に絶望してしまっている方に対して、新たなる『希望』という名の可能性を与えてくれる、尊き行為なのです!」

「ほう、『転生者』を受け容れることが、『希望』とな?」

「中隊長殿──いえ、アデルがご存じかどうかは知りませんが、むしろ量子魔導クォンタムマジック大国であるホワンロン王国の皆さんこそ重要視なされている、『ゲンダイニッポン』で言うところの量子論や集合的無意識論に則れば、『異世界転生』と言っても別に、『ゲンダイニッポン人』の肉体や精神そのものがこの世界に転移してくるわけではなく、あくまでもこの世界の人間が何らかの切っ掛けで、ありとあらゆる世界のありとあらゆる存在の『記憶や知識』が集まってくるとも言われる、『集合的無意識』とのアクセス回路が開かれて、『ゲンダイニッポン人の記憶や知識』がいつでも参照インストールできる状態になっただけのことで、身も心も乗っ取られて完全に『転生者』になってしまうという『侵略行為』であるどころか、まったく別人の『記憶や知識』を取り込むことで刺激を受けて、今まで秘められていた『新たなる自分』──あるいは、『()()()自分』の目覚めを促されて、これまで勝手に決めつけていた『自分の限界』を打破し、『新たなる希望』を手に入れてより前向きに生きていけるという、まさしく『神の祝福』とも言える尊きものなのでございます」

「むむ、しかし『ゲンダイニッポン』の高名なる小説創作サイトにして、『異世界転生』作品のメッカとも言える『なろう』や『カクヨム』においては、ほとんどの作品の『主人公』が、最初から『ゲンダイニッポン人』そのままといった有り様で、完全に『転生者』の魂に乗っ取られているみたいだぞ?」

「それはその作者が、本当の意味で自分が生み出した『登場人物』の立場に立った、作品づくりを行っていないからですわ。もし仮に『前世の記憶』なんてものがあったとしても、現実的にはあくまでもそれは、『夢の記憶』のような不鮮明なものでしかなく、いつまでも『自分は「ゲンダイニッポン」からの転生者なのだ!』などと確信し続けることは不可能であり、そもそも『ゲンダイニッポンの記憶や知識』をいつまでも鮮明に覚えていること自体ができず、ああいった作品における『死亡フラグの回避』とか『内政チート』とかは、絶対に為し得ないのでございます」

「──わ、わかった、わかったから、もうやめてくれ! なぜだかわからぬが、この話を続けるのは、非常にまずい気がする!」

「それに我が教団におきましては、これまでの『完全なる転生』ではなく、『()()()転生』を行い、元々の人格をちゃんと維持できる『新たなる転生術式』の実験に成功しておりますの。これだったら自分の根本となるものをけして失わずに、『新しい自分』に目覚めることが可能となりますわ」

「……部分的転生の実験に成功したって、まさか、貴女──」


「ええ、まさに今の私は、『部分的な憑依転生』状態にありますの」


「──何と、ご自身を、実験対象になされたのか⁉」

「何を恐れることがありましょうや。教団が──神が、間違ったことなぞするわけが無いのですから。何よりもまさにこの通り、私は『私』は何も失っておらず、教団や神に対する信心はそのままであり、何ら問題が無いどころか、今回の『部分転生』のお陰で、晴れて『新しい自分』に目覚めることができたのでございます」

「……確かに、貴女は転生教団の敬虔なる聖職者そのものであり、『ゲンダイニッポン人』の欠片も感じられないが、一体どのような者を、部分的とはいえ転生憑依させておられるのですか?」

 蜘蛛ですが、何か?


「──つまりですね、『転生者』を受け容れるということは、ある意味『愛の形』の一つとも言い得るのですよ」


「…………………………………………は?」

 私のいかにも唐突なる『爆弾発言』に、さすがの中将閣下も、完全に言葉を失い呆けた表情となった。

「昼間の中隊の皆様のご様子を拝見するに、貴女方は『同性愛』に忌避的感情を持たずに、完全に受け容れられているようでした。だったらなぜ『転生者』だけを、受け容れることを拒まれるのです? 『愛』とは究極的には、相手のことを身も心も完全に受け容れるということ。ゆえに『転生者』を己の身に宿すということは、『究極の愛の形』の具現とも申せましょう。何も恐れる必要はありません、ある意味『精神的な愛』の理想的形である女性同士の同性愛同様に、『憑依転生』こそはまさしく世界の垣根を越えた、人と人同士の『精神的な愛の形』であるのですから」

「……ううむ、難しい理屈はよくわからぬが、女同士の同性愛と同じようなものと言われれば、自他共に認めるホワンロン空軍きっての『百合大将』(実際は中将だけどね)としては、頭から否定するわけにはいくまいて」

 ──ようし、後一押し!

「司祭様…………?」

「うふっ、テレサと、お呼びくださいませ♡」

 いきなり湯船の中で手を握りしめてきた私に、怪訝な表情となる『百合大将』閣下。

 その耳元へと、息を吹きかけるようにして、

 ──とどめの一言を、ささやきかける。


「何でしたらまずは、この私を受け容れてくださいまし。その後で()()()()()()()()()()、『転生者』の──我が教団の素晴らしさを、()()()語り尽くして差し上げますので」


「そ、それって、つまり……」

「ええ、私のほうも、アデルのことを、身も心も完全に、受け容れさせていただくと、申しておりますの♡」

 ふふっ、今夜一気に中隊の『トップ』を堕とせるというのなら、こんな身体の一つや二つ安いというものよ。

 そのように私が、自分の策略の巧みさを自画自賛していた、

 ──まさに、その刹那であった。

 いきなり中隊長殿が、誰もいないがらんとした湯船の奥のほうへ向かって、大声を張り上げたのである。



「──()()()、聞いた通りだ、今晩はシスター殿を交えて、オールナイトで『ユリユリ祭り』だ!」


「「「ひゃっふー! 待ってましたわ、キマシタワー!!!」」」



 何とその時、それまでさざ波一つ立てることのなかったお湯の中から、一斉に数十名もの全裸の美少女たちが、飛び上がるようにして躍り出たのであった。


「…………へ。第44中隊の隊員の、皆さん?」


「一時間耐久素潜り特訓をしながら、お湯の中で聞き耳を立てていて良かったぜ!」

「まさか清廉なる転生教団のシスター様御自ら、我々とユリユリしてくださると、おっしゃられるなんて!」

「まさに、我々の願いは、ここに叶った!」

「神様、ありがとう!」

「『なろう教』だか何だか知らないけど、今すぐ入信しようぞ!」


「「「ようし、今夜は私たちも信者シスターとなった記念に、先輩シスター様が天国ヘブン昇天イッキするまで、身も心も全力でご奉仕するぜ!!!」」」


 そう宣言するや、なぜだか両手をにぎにぎしながら、こちらへと迫ってくる、裸の美少女軍団。


 ……彼女たちの言葉を聞くところによれば、どうやらホワンロン王国ジェット機部隊パイロットの『なろう教』への入信という、私の最大の目標は達せられたようである。


 これで、聖職者にとっての目的の地であり理想郷である、遙か彼方なる『天国の門』は、開かれたはずであった。


 ──しかし、その後で私を待ち受けていたのは、当然のごとく、『ユリユリ地獄絵図』であったのだ。

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