第2430話、わたくし、『レプリカ』はラブコメにおいて『最強』だと宣言しますの♡
「──イエーイ、引きこもりの陰キャ女さん、見てるー? あなたが密かに思いを寄せていた真田秋○君は、たった今私が頂きました♡♡♡」
まさに今し方、二人のうれし恥ずかし『初体験』を終えたばかりだと言うのに、彼女がいきなりスマホを取り出して、まるで『エロ同人誌』の寝取りガングロ野郎みたいなことを言い出して、さすがにギョッとならざるを得なかった。
「お、おい、スナ○、何やっているんだ⁉ 誰に動画送っているのか知らないけど、ここの学生なら、この体育用具室のことを知っているから、場所を特定されるぞ⁉」
「私のことは『スナ○』では無く、『ナ○』って呼んでったら。──それに、わざと場所を教えたんだから、構わないわよ」
「なッ⁉」
クラスにおいてはずっと本ばかり読んでいる、文芸部所属のおとなしめの子だと思っていたのに、まるで別人のようなこの大胆さは、一体どうしたことなんだ⁉
……ここに僕を誘い込んだのも、実は彼女のほうだったりするし。
そのように、僕が完全に面食らって言葉を失っていると、いかにも慌てふためいたような足音が聞こえてきた。
「──ナ○、あんた、何てことしてくれちゃっているの⁉」
………………………………………………………………え。
その時怒声を上げながら用具室に押し入ってきたのは、ボサボサ頭に、黒縁眼鏡をかけて、しかも部屋着のジャージ姿と言う、とても青春まっただ中の女子高生とは思えない、地味な陰キャそのものの女の子であったが、
彼女の素顔がとんでもない美少女であることは、さっき二人で丸裸になった時に、すっかり確認済みであった。
「……どういうことなんだ、一体? どうしてスナ○が、二人もいるんだ?」
そうなのである、新たにやって来た『スナ○』のほうは、むしろ教室において日常的に目にする、『普段の愛川スナ○』の姿、そのものであったのだ。
「もしかして、スナ○って双子だったの? ごめんなさい、スナ○のお姉さん、妹さんを傷物にしてしまって」
「何言っているの、秋○君、私がスナ○よ!」
「えっ、じゃあこっちが、スナ○のお姉さんだったの⁉ エロ漫画とかで良く有る、双子が自分の姉妹の恋人を、悪戯心で寝取ってしまうってパターン⁉」
「あんた、エロ同人誌の見過ぎよ。安心しなさい、私も正真正銘『愛川スナ○』だから」
はあ?
「何言っているのよ⁉ あなたは私の『レプリカ』の、『ナ○』でしょうが⁉」
これまで以上に怒りの形相となって、意味不明なことを言い出す、眼鏡女子高生。
「な、何だよ、『レプリカ』って? そういえばさっき、こっちのスナ○も、自分のこと『ナ○』って呼べって言っていたけど?」
「それは、一応『呼び名』を区別しておかないと、どっちがどっちかわからなくなるから、便宜上私のほうを『ナ○』と呼ぶことにしているだけで、どっちも本名は『愛川スナ○』なわけ」
「馬鹿なこと言わないでったら! あなたはあくまでも、私から分裂した『分身体』でしょうが⁉」
「──そうよ、私たちはあくまでも、『分裂』したの。どっちが『本体』とか『レプリカ』とかでは無く、『愛川スナ○』と言う一人の人間が、二人に『分裂』しただけで、両方共本物の『愛川スナ○』なの」
「「は?」」
「いやそもそもさあ、何で自分のほうだけ本物だと、思えるわけ?」
「だ、だって、私にはちゃんと、それまでの記憶も有ったし」
「そんなもの、私にも有るわよ」
「──そうだったの⁉ で、でも、私がお願いしたら、何でも言うことを聞いてくれて、学校に行ったり、友達と外出してくれたりしたじゃ無いの?」
「そりゃあ、私のほうが、『性格』的に向いているから、そうしただけよ」
「……『性格』、って?」
「そもそも私たちが『分裂』した原因て、何だったかしら?」
「それはもちろん、ケンカした幼馴染みのり○ちゃんと、仲直りするためでしょう?」
「そう、あの時私たちは、『心』が二つに分裂してしまったので、にっちもさっちもいかなくなり、ついには『肉体』まで分裂してしまったのよ」
「「はい?」」
「あの時のり○ちゃんとの仲違いは、『致命的』だった。下手したら二人の仲は、『それっきり』になる恐れも有った。もちろん私としても、絶対に仲直りしたいと思っていた。──でもその反面、『自分は悪くないんだから、謝るのはり○ちゃんのほうよ!』とか、『……謝っても、許してもらえなかったら、どうしよう』とか、ネガティブな気持ちも大きくて、どうしても一歩踏み出すことができないでいた。そのうちとうとう諦め始めて、そのまま布団を被って現実逃避しようとしたところで、
私たちは、『分裂』したの」
「そ、それって──」
「ええ、あの時のことは、ようく覚えているでしょう?」
「……いきなりベッドの前に、『私』が現れて、『──任せておきなさい! 今からり○ちゃんと、仲直りしてくるから!』と言って、部屋を飛び出して行ったよね?」
「そうよ、だって私は、『り○ちゃんとどうしても仲直りしたかった私』──言うなれば、『ポジティブな私』なんだから」
「あなたが、『ポジティブ』? それじゃあ、私は──」
「当然、『ネガティブな私』よ」
「──ッ」
「こうして『ポジティブな私』が切り離されたからこそ、『ネガティブな私』に足を引っ張られること無く、り○ちゃんと仲直りができたんだけど、当然のごとく、『ネガティブな私』はポジティブさのまったく無い、『ネガティブ』そのままな存在となってしまって、生きる気力が完全に無くなり、ほとんど学校に行かず、そのうち引きこもってしまい、家族にも顔を合わさなくなったの」
「……ああ、うん、その通りでございます」
「すると当然、『ポジティブな私』が、すべての面でフォローしなくちゃいけなくなったわけ」
「で、でも、高校に上がってからは、私もこのままじゃ駄目だと思って、できる限り学校に行こうとしたじゃ無いの⁉」
「──だったら、髪をちゃんとセットしろよ⁉ そんなダサい眼鏡なんかかけていないで、私みたいにコンタクトにしろよ⁉ たまに気が向いたら学校に行って、私のイメージを大幅にダウンさせられたんじゃ、堪ったもんじゃないんだよ!」
「──何言っているのよ⁉ イメージダウンはそっちのほうでしょう⁉ こ、こんな学校の敷地内で、男の人と『初体験』をしてしまうなんて! あなたは『ポジティブ』なんかじゃ無く、常識や節度が無いだけよ!」
「あんたこそ何言っているの、私はあなた自身の『願望』を、叶えてやっただけよ」
「え」
「言ったでしょ? 私も本物であり、『ポジティブに特化した私』だって。つまり『私』の秘めたる願望を、ブレーキ役の『ネガティブな私』をガン無視して、何でも叶えることができるわけ」
「わ、私が、こんなふしだらなことを、願っていたって言うの⁉」
「うん、あんたが自覚しているかどうかはともかく、私はあんたの『秘められた願望』の具現だから、私の行動はすべて、あなたの願望を果たすために行っているの。──あんたにも思い当たる節が有るでしょ?」
「……それは確かに、私はたまたま登校した時に、秋○君のことを一目惚れしたけど、こんな大それたことまでしたいなんて、絶対に思っていなかったわ!」
「OK、言質を頂きました。──つまりね、あんたが秋○君に『一目惚れ』した段階で、『こうなる』ことは決まってたのよ」
「──何で⁉」
「……だから、何度も何度も言っているでしょ? 私たちは同一人物であり、あなたはあくまでも『ネガティブ』な部分を受け持っていて、私はあくまでも『ポジティブ』な部分を受け持っているって。つまりあなたの『ネガティブ』レベルでは、『一目惚れ』だけしたものの、うじうじしてそれ以上の進展は永久に望めないけど、『ポジティブ』な私なら、『──何あの男、むちゃくちゃ好みじゃん⁉ 誰か他のメスに盗られないうちに、さっさとモノにしちゃお♡』と言うことになってしまうのよ」
「「──凄いな、ポジティブなナ○ちゃん⁉」」
「……いやこれって、『アニメ版』をそのまんま、再現しているだけだけど?」
「「はい?」」
「だって見ていてあきれ果てたもん、あのアニメ版の『レプリカのナ○』ってば、『恋愛関係』に関しては、グイグイ行っているじゃん⁉ 見ているこっちのほうが焦ったもの。『……おまえ、学校内で恋愛関係を、勝手に進めたんじゃ、本体のほうが登校した時に、困るんじゃ無いのか? もう少しブレーキ踏めよ、この「恋の暴走トラック女」が。そしてせめて、ちゃんと本体に報告しろよ? 「報連相」は、社会人としての基本だぜ?』と、叫ばざるを得なかったしね」
「「──確かに、アニメ版の『レプリカのナ○ちゃん』って、凄く恋に貪欲だったよな⁉」」
「……つまりね、原作『アニメ版』においても、『レプリカ』なんて、最初からいなかったんだよ。あの『恋に正直な』スナ○も、『本物の愛川スナ○』だったの。ネガティブな『愛川スナ○』ができなかった、『本当の願い』を、代わりに叶えてやっていただけなの」
「そ、それって──」
「だから言っているでしょ、私たちは元々、『二人で一人』だったって。──さあ、元通りになりましょう☆」
そう言って、自称『ポジティブなスナ○』が、『ネガティブなスナ○』を抱きしめた途端、二人の姿が消え去って、気がつけば僕の腕の中で、裸のままのスナ○が、穏やかに寝息を立てていた。
「……これが、ポジティブでもあり、ネガティブでもある、本当のスナ○なのか?」
つまり『ネガティブなスナ○』のほうが、自分の秘められた願望の具現である『ポジティブなスナ○』のことを、『自分自身』だと認めたからこそ、一つに戻れたってわけか。
──それは確かに、めでたいことなんだろうが、
「……目が覚めたら、こいつどういった反応をするんだ? 『ネガティブ』のほうも間違い無く、僕のことを好きらしいけど、『こんなことまでするつもりは無かった』と明言していたし、この(かなり一足飛びに)『男と女の関係』になった状況を認めてくれるかどうか、むちゃくちゃ心配なんですけど⁉」
だがしかし、もはや逃げることは許されなかった。
──なぜなら、僕自身が惚れたのは、どちらかと言うと、『ネガティブなほうの彼女』だったのだから。




