第2319話、わたくし、『女教師こそ最強!』だと断言しますの⁉
──九十年以上にもわたって、闘い続けてきた。
……しかし、私の人生も、どうやら終わりのようだ。
常に、全力を尽くしてきた。
──だけど、「悔いの無い人生だった」とは、けして言えない。
先の大戦争の後、焼け跡から再出発して、私たちはしゃにむに滅私奉公をし続けて、この国を世界に誇る大国に押し上げていった。
──けれども、最近の日本の国家としての凋落と、人間としての堕落は、どうだ。
ネットを見れば、他人に対する誹謗中傷ばかりであり、更に始末の悪いことに、それが単なる誹謗中傷では無く、ほとんどすべてが『事実』であるのだ。
──腐っている。
今や、この国のすべてが、腐りきっている。
……ああ、私に後わずかでも、『余命』が有れば、この国に巣くう老若男女の馬鹿どもを、全員一から『再教育』して、世界の全人民から敬われる、清らかで美しく、そして何よりも力強い、真の益荒男と大和撫子の国を打ち立てるのに。
でも、私にはもう、時間は残されていなかった。
もはやこれまで培ってきた、どんなクズであろうと『再教育』できる、『洗脳プログラム』が、まったく無駄になってしまうとは。
くやしい。
くやしい。
くやしい。
くやしい。
くやしい。
くやしい。
──もしも『来世』などと言ったものが有るのなら、再びそこでも『女教師』となって、今度こそ私の理想である、邪馬台国と大日本帝国に続く、『大日本第三帝国』を建設してみせるのに!
そのように決意をみなぎらせつつも、今まさに、命の灯火が消え去らんとした──刹那であった。
『──その願い、私が叶えてあげましょうか?』
唐突に、脳内に鳴り響く、これまで聞いたことも無い、幼い少女の声。
──誰? 誰なの⁉
もはやまぶたを開けて周りを見回すどころか、口を開く力すら残っていない私は、心の中で疑問を呈するしか無かったが、何とその『謎の声』は、すぐに反応を返してきたのである。
『ああ、いきなり驚かしてごめんなさいね。私自身実体の無い存在に過ぎず、今もあなたの脳に直接語りかけているので、無理に声を出さなくても、ちゃんと会話ができるから、心配しないで』
──脳に直接語りかけているって、もしやあなたは、死神か悪魔の類いなの?
『いいえ、私は女神、ありとあらゆる世界において「異世界転生」を司っている、人呼んで「なろうの女神」よ』
──なろうの女神? それに、異世界転生って……。
『そう、あなたにはこれから、とある異世界で生まれ変わっていただいて、あなたならではの「女教師テクニック」を駆使することによって、乱れきった異世界の秩序をただし、人々を救っていただきたいの』
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「──ジュピターちゃん、どうしてわかってくれないの⁉ 私たちは同じ魔法少女同士、元が悪魔だとか魔王だとか聖女だとか勇者だとか関係無く、みんなで手を取り合って、この魔導大陸に真の平和をもたらすべきなのよ⁉」
「はんッ、自分も『悪役令嬢』のくせに、何を綺麗事を言っているの? 魔法少女としてチヤホヤされるのは、この私だけで十分なのよ! ──それにそもそも、本作の作者が考え無しに、次々と魔法少女を登場させ続けて、いい加減収拾がつかなくなってきたから、ここら辺で少し間引いたほうがいいのよ!」
「こ、この悪魔っ子魔法少女、『魔法少女育○計画』の、謎の運営組織みたいなことを言い出したぞ?」
「さすがは悪魔、魔王の私もビビってしまうぜ……」
「しかし、私たちだって、むざむざやられるつもりはないぞ?」
「そうだ! 悪魔だろうが何だろうが、やられる前にやってやる! ──いいな? セイレーンムーン!」
「……仕方ありません、いくら説得しても聞いてくれないのなら、少々痛い目に遭ってもらいましょう」
とうとう『悪役令嬢』としての気の短さが隠しきれなくなり、とりあえずは他の魔法少女たちと共に力を合わせて、ジュピターちゃんを抑え付けようと決心しかけた、
まさに、その時であった。
「──あなたたち、何をやっているのです!」
唐突に、混乱の場に響き渡る、涼やかなる少女の声。
その瞬間、なぜだか全員が──そう、自他共に認める最強&最凶の存在である、『悪魔っ子魔法少女』のセイレーンジュピターちゃんすらも含めて、まるで『絶対的な目上の者』から叱りつけられたかのように、首をすくめ口を閉じ、すべての行動を停止してしまったのであった。
……そんな馬鹿な。
今まさに私たちは、人外たる魔法少女として、『命のやりとり』をおっ始めようとしていたのだぞ。
特に悪魔や魔王や吸血鬼の真祖が、たかが『少女の制止の声』ごときに、耳を貸すなんてことが、有るわけが無いじゃないか。
──しかし実際、すべての魔法少女が、まるで何かを畏怖するようにして、身動き一つできなくなってしまったのだ。
けして、威圧的どころか、感情的ですら、無かった。
それでもその『声』には、抗いがたき『何か』が、秘められていたのだ。
──そのように、この場の全員が固唾を呑んで見守っている中で姿を現したのは、意外なことにも、我々魔法少女と同じくらいの年頃の、小柄で華奢な少女であった。
「……は、『女教師』?」
思わず、私の唇から漏れいずる、驚嘆のつぶやき声。
確かに教師と言うには幼過ぎるものの、ショートボブの黒髪に縁取られた端整な小顔は、キリリと精悍に引き締まりながらも、眼光のみがこちらを射るように鋭く煌めいており、華奢なれど均整のとれた肢体を包み込む萌葱色のタイトミニのスーツは、量子魔導インターネットのライブラリィ映像で垣間見た、『ゲンダイニッポン』において『女教師』と呼ばれている、一般庶民を対象とした女性の教育者を彷彿とさせた。
「……な、何だ、この小娘は?」
「突然現れて、邪魔しやがって! あんたがあたしらの相手になるってか⁉」
元々は『聖女』や『勇者』のくせに、なぜかうちのメンバーにおいて何かと血の気の多い、セイレーンサターンちゃんとセイレーンマーズちゃんが、いまだ腰が引けつつも、「トーシロなんぞに舐められて堪るか!」とでも言わんばかりに、謎の少女に飛びかかろうとしたところ、
「──スキル、『愛の鞭』」
「うわッ⁉」
「あべしッ!」
いきなり少女の右手に黒皮の鞭が出現するや、それをあたかも手足のごとく操り、サターンちゃんたちを瞬く間にたたき伏せたのであった。
──って、何それ、魔法少女二人を相手取っての、圧倒的な神業は⁉
まさかあの子もまた、新たなる『魔法少女』だったりするわけなの⁉
「いたたたたた、一体何なんですの?………………でもそれにしても、何と言う素晴らしい鞭さばきなのでしょう。まさしくこれぞ理想的な『Sの女王様』! 弟子入りしたいくらいですわあ♡」
そんな鬼神そのままな有り様を、うっとりとした目で見つめているのは、ド変態クレイジーサイコレズの本性がにじみ出てしまっている、セイレーンマーズちゃん。
……てっ、ちょっと⁉ 何で今度は舌なめずりしながら、私のほうに血走った瞳を向けてくるのよ⁉
そのように、予想以上の戦闘力を見せつけられて、魔法少女たちが敵味方問わず、全員手をこまねいていたところ──
『──どうよ、「女教師の魔法少女」の実力の程は?』
いきなり虚空からにじみ出すように現れる、フリフリドレス姿の一人の美幼女。
「──ッ、『なろうの女神』⁉」
『嫌ね、今は私のことは、「セイレーンウラヌス」と呼んでちょうだい☆』
あんたまで、『魔法少女』になるつもりなのかよ⁉
……しかし、『女教師』に引き続いて『女神様』まで魔法少女にするなんて、ホントこの作品の作者って、節操が無いな?
『ふふふふふ、「最強の魔法少女」って、一体何だと思う? 元が「悪役令嬢」の子? それとも元「勇者」? いっそ元「聖女」とか、元「吸血鬼」とか、元「魔王」とか、元「悪魔」とか、元「ホムンクルス」だったり? ──否、こう言ったいかにも「強キャラ」であったとしても、何かしら「弱点」や「力が拮抗する天敵」が存在するものよ。──例えば、「魔王と勇者」や「悪魔と聖女」の関係のようにね』
──くっ。
確かに私たち魔法少女の関係って、それぞれ『我こそは最強!』と自認する割りには、ある意味『三すくみ』状態にあることは否定できないわ。
『そこで私は、単に腕力や魔力的に強いのでは無く、種族の別に関わり無く、「トラウマ」を刺激する存在こそが、ある意味「最強」なんじゃ無いかと思いついたの』
「……『トラウマを刺激する存在』、って?」
『一生涯逃れられないトラウマって、当然「子供の頃」に植えつけられるのがお約束だから、単純にほとんどの子供にとって、無条件に「恐くて逆らえない」存在こそが、該当すると思うのよ』
「……なるほど、それで『女教師』か?」
「確かに、幼い子供たちにとって『女教師』こそが、最も身近な社会である『学校のルール』そのものであり、けして逆らえないし、怒るとむちゃくちゃ恐いよな」
「でもそれだったら、『母親』のほうが、よりふさわしいんじゃないのか?」
『「母親」なんて文字通りに「人それぞれ」なんだから、普遍的な「母親の魔法少女」なんて、存在し得ないじゃ無いの?』
「た、確かに……」
『つまり「女教師の魔法少女」は、その一挙手一投足が、相手の「トラウマ」を刺激するようになっていて、圧倒的な「上下関係」の下で、たとえ何人であろうと、どんな命令でも従わざるを得なくなると言う、真の最強であり、真のチートスキルの持ち主であるわけなの』
「──と言うわけで、全員正座! 強大な魔力を誇る魔法少女同士で、いたずらに争い合い、周囲に甚大なる被害を及ぼしたことを、心から反省しなさい!」
「──先生、お説、ごもっともです! おっしゃる通り、心から反省を…………って、何で『なろうの女神』まで正座しているの⁉」
『……言ったでしょ? 「何人であろうと逆らえない」って。それはたとえ女神であろうが、例外じゃ無いの』
何ソレ⁉ ガチで最強じゃん!
「当然です。女神でありながら面白半分に、女教師である私を異世界転生させて、魔法少女なんかにして、世界を更に混乱させようなんて、言語道断です!」
『……はい、おっしゃる通りです、すみませんでした』
──こんなしおらしい『なろうの女神』を見るのは、本作の作者がWeb作家デビューしてから、初めてだよ⁉
……ホント、全作品横断的に最強だな、『女教師魔法少女』⁉




