第2313話、わたくし、クトゥルフ系『不定形魔法少女』ですの☆
──現代日本でトラックに轢かれたかと思ったら、気がつけば私は、何とも古めかしい研究室みたいなところに寝かされていた。
「……ここは、一体」
「おお、やっとお目覚めかね? ここはこの魔導大陸随一の天才錬金術師である、私の秘密のラボだよ!」
「『魔導大陸』? 『錬金術師』? いや、何が何だかわからないのですが、どうして私はガラスケースみたいなのの中で、一糸まとわぬ姿で、妙に粘つく液体に浸っているのですか?」
「それは君が、まさしく『生まれたて』だからだよ。まあ言ってみれば、そのケースは『子宮』で、液体は『羊水』みたいなものさ」
「……『生まれたて』? この身体は10歳ほどだと思うけど?」
「そう言うふうに、『創った』からだよ」
「『創った』、って?」
「ああ、『君』はこれまで『ゲンダイニッポン』で生きていたんだから、一から説明が必要なのか。ここは君たちの言うところの『異世界』で、『剣と魔法のファンタジーワールド』であり、私自身もさっき言った通り『錬金術師』だから、人造人間──いわゆる、『ホムンクルス』を創り出すことだってできるのさ」
「私はあなたに創られたのですか? 異世界転生や転移をしたのでは無くて?」
「それを言うのなら、『召喚』が正しいかな?」
「召喚て、『勇者』になってもらうとかの理由で、無理やり異世界に引っ張ってくるやつですっけ? それなら私自身の肉体のまま、召喚すればいいはずですけど、なぜこうして肉体を新たに創ったのでしょうか?」
「まあ、あまりにも異常な状況だから、理解するのも大変かと思うけど、『召喚』についてはあまり重要では無く、『おまけ』みたいなものであって、あくまでも『ホムンクルス創り』こそが、主な目的なのだよ」
「はあ?」
「いっぱしの錬金術師であれば、ホムンクルスを創ること自体は、それ程難しくは無い。──ただし、問題は『魂』だ。基本的にホムンクルスやゴーレムのような『人造物』には魂は無く、『使役者』の命令に応じて、定型的で簡単な動作をするのが限界で、自律思考の下で繊細な言動を行わせるには、かなり高等な技術を要し、『人間そのもの』のレベルに達するのは、ほとんど不可能と見なされているが、私はその限界を突破しようと思い立ち、どうせなら『本物の魂』を使ってみることにしたのだよ」
「『本物の魂』、って……」
「もちろん、『君』のことだよ」
「なッ⁉」
「錬金術に限らず、すべての異能の技は、君たちの世界の『ユング心理学』で言うところの、『集合的無意識』とのアクセスによって実現できるのだ。ありとあらゆる世界のありとあらゆる存在のありとあらゆる『記憶と知識』が集まってくると言われている、『集合的無意識』には、この世界にとっては異世界に当たる、『ゲンダイニッポン』の死者の『記憶や知識』も保存されているので、それをホムンクルス用の『魂』として使うために、『集合的無意識』から召喚したわけなのだよ」
「……それって、召喚でも異世界転生や転移でも無く、ただ単に、『集合的無意識』にストックされていた、私の『記憶や知識』をコピーしただけなのでは?」
「そうだよ? ──でも実はそれこそが、本物の『召喚』であり、本物の『異世界転生』や『異世界転移』なのだよ」
「へ?」
「常識的に考えてごらん、何も無いところに突然、人間と言う結構質量の有る物体を、丸ごと『召喚』したり『異世界転移』させたりしたら、『質量保存の法則』が瓦解してしまうでは無いか? これが異世界『転生』であれば、質量の無い『魂』の移動だから、一見問題無いように思えるけど、そもそも『魂』が二つの世界間を『移動』するなんてことが、現実的に有り得るかと言うと、大いに疑問を覚えるところだろう」
「──『なろう系』全否定じゃん⁉ いやいやいや、剣と魔法のファンタジーワールドなら、そんな理屈なんてガン無視して、『何でもアリ』であるべきじゃないのか⁉」
「いや、ガチで『何でもアリ』なんてことになったら、収拾がつかなくなるじゃないか? 例えば大昔の少女小説で、主人公と敵キャラの両方が、相手の攻撃の『先の先』を読めると言う、今で言う『チートスキル』の先駆けみたいのが有ったんだけど、マジで常に地の文で相手の攻撃の『先の先』を読んでばかりいて、作者のやつは『カッコいい』と思い込んでいただろうけど、読んでるこっちとしてはただ単に『ウザいまでに説明過多』で、全然面白くなかったから、読むのをやめてしまったんだよなあ。──つまり、異世界作品だろうが異能バトル物だろうが、『一定のルール』と言うものが必要なのだよ」
「ふむ、少女小説は門外漢だから知らないが、より馴染みの深い少年漫画で言うと、作者が無分別に調子に乗ったバトル漫画って、結局『無限のインフレ合戦』になってしまって、全然面白くなくなるから、『縛り』は必要だよな」
「その『縛り』こそが、『集合的無意識とのアクセス』方式なのであり、このルールにさえ従っていれば、ある意味『何でもアリ』も一定程度までなら、許されるのだよ」
「……『何でもアリ』なのに『一定程度まで』って、矛盾しているんじゃ無いのか?」
「そこは『集合的無意識とのアクセス権』を、制限することで実現するのだよ。例えば『神様』レベルなら、無制限に『集合的無意識』にアクセスできるのはもちろん、他者を無制限にアクセスさせることもできるし、『魔王』とか『大魔導士』とか『教皇』とか『大聖女』とかなら、神様に準じるレベルのアクセス権を有していて、異世界から召喚された『勇者』だったら、与えられた『チートスキル』を実現できるレベルのアクセス権を有していて、一般的な『炎の魔法』を扱う魔術師なら、炎に関するアクセス権を与えられているって寸法なのさ」
「なるほど、剣と魔法のファンタジーワールド全体としては『何でもアリ』だけど、個々のキャラごとに制限がかけられているので、むちゃくちゃにならずに済むわけか? ──例えば、炎を扱う魔法使いなら、どんなアクセス権が与えられているんだ?」
「一見何も無いところから炎を出現させる『発火能力』であれば、集合的無意識にアクセスして、炎の『形態情報』をダウンロードして、自分の周囲の大気の『形態情報』を書き換えることによって実現しているんだ」
「空気の情報を書き換えるだけで、いつでも炎を現出できるって、単純なようで凄いじゃん! ──あ、でも、『炎の魔法使い』は、『炎の形態情報』のアクセスだけに限定されるわけか?」
「その点私のような『錬金術師』なら、ありとあらゆる『形態情報』とアクセスできて、どんな『魔法物質』でも創り放題ってわけさ」
「──ズルい! 完全に『チート』じゃん! しかも自分で創ったホムンクルスへの、『魂のインストール』なんかもできるんだし!」
「何を言っているんだい、君自身のアクセス権だって、相当なものなんだよ?」
「……え? そういえば私って、何ができるわけ?」
「基本的に君は、自分の身体に関してのみ、無制限のアクセス権が与えられているんだ」
「何だ、自分の身体限定なのか、何かショボいな。あんたのように万物に影響を与えたり、世界そのものに変化をもたらせるほどの力なら良かったのに」
「──聞いて驚くな、実は君のアクセス権こそは、『チート中のチート』なんだよ? 何せ君は、『何にでも変身できる』のだからね!」
「ええっ! ガチかよ⁉」
「そもそもこの剣と魔法のファンタジーワールドにおいては、空気すらも含めて万物が、変幻自在の不定形暗黒物質である、『ショゴス』によって構成されており、だからこそ『形態情報』を書き換えることによって、空気を炎等に変えることが可能なのであるが、特に私の特製ホムンクルスである君の身体は、常に『不定形』状態を維持した『活性化ショゴス』によって創られていて、君自身が集合的無意識とアクセスすることによって、自分の身体を何にでも変化させ得るのはもちろん、周囲の大気等の『無生物』であれば、自分と一体化させるようにして『形態情報』を書き換えることができ、大質量の『ドラゴン』等にも変化することさえも可能なのだよ」
「──何と、私って、そんなチート能力を持っていたの⁉」
「何せ、そのために創ったのだからね。──さあ、我が忠実なる僕よ! 私の顧客の皆様のリクエストに従い、『魔王退治』でも『大規模テロ』でも『ガチの戦争』でもどこかの国家元首の『斬首作戦』でも、思う存分力を振るって、見事実現してみせるのだ!」




