第2302話、わたくし、『悪役魔法少女』ですの☆
「──公爵令嬢、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナ! ホワンロン王国第一王子、ルイ=クサナギ=イリノイ=ピヨケーク=ホワンロンの名において、貴様との婚約を破棄する!」
王国の王侯貴族の子女たちが数多集う、量子魔導学園の卒業式後の懇親会の場にて、突然私に突きつけられた弾劾の言葉。
「……そんな、王子、私が一体何を?」
「しらばっくれるな! おまえが庶民出身の側室の子供だからと言って、こちらの男爵令嬢のことを、取り巻きの生徒たちを使って嫌がらせをしていたことは、既に本人の口から確認済みなのだ!」
そう言って、すぐ近くに寄り添っていた少女の肩を抱いて引き寄せる、イケメン王子様。
彼の腕の中で密かに、私に向かってさも勝ち誇った嘲笑を浮かべる、男爵令嬢。
「……うわあ、何この、いかにも『テンプレな展開』は?」
「「──何で私たちのほうを、いかにもうんざりとした表情で見るんだよ⁉」」
「いやさあ、このパターンだと、むしろすべてを仕組んだのは、男爵令嬢である貴女ほうでしょう?」
「ど、どうして私が、そんなことをしなくてはならないのですか⁉」
「この手の『お約束』としては、次期国王の世継ぎの王子を篭絡して、王国自体を乗っ取りたいので、邪魔な王子の婚約者である私を、排除しようとしたとか?」
「はあ? たかが半分庶民の名ばかり貴族の私が、王国の乗っ取りなんて、できるわけ無いでしょうが⁉」
「──できるよ、だってあなた、『魔女』なんでしょ?」
その瞬間、学園内の広大な催事場は、すべてが凍りついたかのように静止した。
呆気にとられ言葉を失う、学園の生徒やその父兄の王侯貴族たち。
そんな中でいち早く我を取り戻したのは、さすがに(元)婚約者だけであって、私に対する『耐性』が人一倍強い王子様であった。
「──な、何が『魔女』だ⁉ 苦し紛れにもほどがあるだろうが⁉ 男爵令嬢も、何か言ってやれ!」
「……よくぞ見破ったな、そなた、ただ者ではあるまい⁉」
「「「──ええーっ⁉」」」
王子様を始めとして、驚愕の雄叫びを上げる王侯貴族たち。
……うん、話が早くて助かるけど、いかにも雑な展開だな?
「そ、そういえば、いつの間にか周囲の空間が、やけに平面的に一変しているぞ⁉」
「何か、雑なイラストの魔物たちが、ちょろちょろうごめいているし……」
「──見ろ! あっちでは、泥だらけの犬みたいなやつが、カレーを食っているぞ⁉」
「いけない! ワンちゃんには、タマネギを煮込んで作ったカレーは、毒そのものよ!」
犬ちゃうわ! ああ見えて魔法の国からやって来た、私の『使い魔』ですのよ!
『──おいアルテミス、やっぱし奴さん、魔女だったようだな?』
「これだけ『魅了』の魔力を振りまいていたんじゃねえ…………それにしても、『奴さん』て、ぷぷッ、あんたそんな『マスコットキャラ』そのまんまの姿して、もしかして江戸時代生まれなの?」
『そんなことどうでもいいから、今すぐ変身しろ! 魔女を倒さないと、この場を支配している「魅了」の魔力を解除できないぞ⁉』
「……やはり変身しなくちゃ駄目? あまり人前で『あの姿』になりたくないんだけど?」
『実は別の案としては、君が変身していることは誰にも内緒にしていて、表向きはずっと「悪役令嬢」として行動していくと言うパターンも考えていたんだけど、やはり最初はわかりやすいほうがいいってことで、みんなの前で変身することにしたんだよ』
「──私としては、そっちのパターンのほうが良かったですわ⁉ て言うか、今回は何かと『メタ』が多めですわね⁉」
「ええいッ、何をごちゃごちゃほざいているのだ⁉ 既にこちらの正体は見破られているのだから、もはや構いやしない、本気で行かせてもらうぞ!」
そう言うや、ピンクのフリフリドレスを着ていた小柄で華奢な男爵令嬢が、漆黒のシックなドレス姿の、妖艶なる長身の大人の女性へと様変わりした。
──烏の濡れ羽色の長い髪の毛に縁取られた、端整なる小顔の中で鮮血のごとく深紅に煌めいている、両の瞳と濡れた唇。
「あ、あれが、『魔女』の、真の姿⁉」
『──いかん! 本格的にパワーアップしたせいで、もはや「魅了」なんていうレベルでは無く、僕たち以外のこの場にいるすべての者が、まるでどこかの野盗(野党)にでも「感情をコントロール」されたゾンビみたいになって、こちらへ襲いかかってきたぞ⁉』
「おい、しれっと『時事ネタ』を入れるのは、ヤメロ!」
『いいから、こっちも変身しろ! 魔女以外のやつらは全員、我を失ってしまったから、人目を気にする必要は無くなったろうが⁉』
「……『魔法少女』は『魔法少女』でも、ほ○らちゃんみたいな『時間操作系』の魔法を使って、魔女でも悪徳貴族でもオークでも、悪役令嬢が拳でブチ倒していくといった展開じゃ駄目でしょうか?」
『「最後にひとつだけお願いして○よろしいでしょうか」のスカーレ○トかよ⁉ しかも変身する前から、「魔法少女」だとネタバレしているしッ!』
「そういえば『最○と』って、『ほ○らちゃん』ネタだけでは無く、巨大な濁り始めた『ソウルジ○ム』を浄化するシーンとかも有ったりして、『ま○マギ』の影響が強いよね」
『「ま○マギ」の魔法少女たちは、「拳」で問題を解決したりしないよ⁉ いいから早く、変身しろ!』
「……仕方ありませんわねえ。それでは、『変身、ぶいすりゃあああああ』!!!」
『今度は「東○丹三郎は仮面ラ○ダーになりたい」かよ⁉ 今年の秋アニメのネタばかりじゃねえか⁉』
「「「なッ⁉」」」
私の変身の雄叫びを聞いて、盛大にツッコむ、犬みたいなマスコットキャラ。
しかし、魔女や、ゾンビ状態になったはずの王侯貴族たちのほうは、驚きのあまり攻撃することすらも忘れて、その場に立ちつくしたのであった。
──それも、そのはずである。
何せ、年の頃十代半ばのいかにも『悪役令嬢』然とした、きらびやかなドレスに身を包んでいた公爵家の一人娘が、
突然、漆黒のゴスロリドレスに身を包んだ、年の頃十歳ほどの幼い少女へと変わり果てたのだから。
「……前々から思っていたのですけど、悪役令嬢が魔法少女に変身するだけでも、非常識極まりないと言うのに、どうして『ロリ化』までしてしまうのですの⁉」
『──いやむしろ、本来「魔法少女」と言うものは、せいぜい小学生くらいの年齢に止めるべきであって、最近のアニメや漫画やゲームやラノベにおける、「高齢化」のほうがおかしいのだッ!』
「……何このマスコットキャラ、突然熱く語り始めたりして、キショいんですけど?」
『さあアルテミス、その魔法の杖に秘められた魔力を全開にして、魔女もろともこの学園を消滅させるのだ!』
「えっ、私ってば、そんなオーバーキルな攻撃能力を与えられていたの⁉」
『……そりゃあ、こっちから「魔女退治」を頼んでいるんだから、別に苦戦させる必要は無く、十分なる魔力や攻撃能力を与えるに決まっているじゃないか?』
「──すげえ良心的な『使い魔』だな⁉ どこかの『宇宙陰獣』とは大違い! しかし、魔女はともかく、学園を消滅させては駄目だろう⁉」
『別にいいじゃん、今日は卒業式だったんだろ?』
「……いや、むしろお子様方の卒業式だったからこそ、この国の王侯貴族のほとんどが集まってきているんだから、マズいだろ?」
『……う〜ん、だったらここは、「時間操作系」の魔法を使うしか無いかなあ』
「──結局『最○と』かよ⁉ それとも『ま○マギ』か⁉」
『いや、君の「時間操作」能力は、自分自身や世界そのものの時間を操るものでは無く、他人の時間を対象にしたものなんだ』
「……何ですって?」
『本来は特殊な「治癒魔法」として使うやつで、どんなに致命傷を負って死にかけている相手であろうとも、その心身の「時間を巻き戻して」、健康で気力みなぎる状態に戻すことができるのさ』
「そ、それって──」
『そう、これを「攻撃魔法」として使えば、相手を「生まれる前」まで遡らせて、「消滅」させることすら可能なのだよ』
「──ッ」
『と言うわけで、サヨナラ、魔女さん☆』
「い、いや、やめてちょうだいッ……………………ぎゃああああああああ!!!」
魔女が消滅することで、王子を始めとする王侯貴族たちにかけられていた、『魅了』や『感情のコントロール』も無効化されて、全員正気に戻ったのであった。
「……君はもしかして、アルテミスか? 何と、『悪役令嬢』では無くて、『魔法少女』だったのか⁉」
「まさか魔法少女を、将来の王妃様にするわけにはいかないでしょう。あなたが婚約解消してくださって、むしろ良かったかも」
「──いやッ! そんなことは無いッ! むしろ今の君こそが、僕の『理想形」だッ! もはや婚約なんてもどかしい、今すぐ結婚してくれッ!」
「──このクソ王子、私が成長してからやけに冷たくなったかと思ったら、『ロリコン』だったのかよ⁉」




