第2298話、わたくし、もう二度とクリスマスを祝えないのですの★
──今年もクリスマスが、やって来た。
……ただし、僕がそのことに気づいたのは、こうしてクリスマスの3日後になってからであった。
この十数年もの間、ちゃんとクリスマスを祝ったことなんて、一度も無かった。
──そう、『彼女』が僕の許を、去って行ってから、ずっと。
……何も、二人が出会った記念日である、聖なる夜の数日前に、亡くなってしまうことは無いのに。
そうなのである、『我が妻』が亡くなった当年においては、葬式だの各種手続きだのと、やることがいっぱいで、悲しむ間も無くあれこれやっている内に、既にクリスマスは過ぎていて、それから年末年始の間はずっと悲しみに暮れて、何もせずに過ごすばかりであった。
それは翌年からも同じで、妻の命日が近づくにつれて、悲しみのあまり何も手につかず自室の中にひきこもり、気がつけばクリスマスがとっくに過ぎていて、年を越すと言ったことの繰り返しであった。
……おそらく僕は、これから一生涯、クリスマスを楽しむことはできないであろう。
だが、それでも構わなかった。
なぜなら僕は、既に『一生分のクリスマスプレゼント』を、もらっていたからだ。
それも当の、亡くなった妻本人から。
「──もうお父さんたら、せっかくのクリスマスイヴだと言うのに、また引きこもっているの?」
「……何だ、智代か? いつ帰ってきたんだ?」
「大学の講義が終わったらすぐに、東京から帰ってくるって伝えておいたでしょ? ──ったく、いくら小説家だからと言って、12月になってからずっと家に引きこもったりして、無精過ぎるんじゃないの? 担当者の南原さんが、心配していたわよ?」
「……おまえまさか、相変わらず東京の出版社に、入り浸っているんじゃないだろうな?」
「もしかしたら将来、私がお父さんの担当編集になったりしてね♫」
「──編集者なんて、ヤクザな稼業は、お父さん許しませんよ⁉」
「小説家なんて言う社会不適合者で、しかもガチのネグレクト親父が、何言っているのよ? 私子供の頃から一度も、クリスマスをしてもらったこと無いんですけど?」
「す、すまん」
「まあ、その分元旦の私の誕生日には、お年玉も兼ねて、毎年盛大に祝ってくれるから、文句は無いんだけどね」
そう言って、こちらへと綺麗にラッピングしてある包みものを差し出す娘。
「はいこれ、毎年恒例のクリスマスプレゼント」
「……いつも悪いな、学生の身で、大変だろうに」
「バイトでたんまり稼いでいるからね」
「くれぐれも、出版社の青田買いには気をつけてくれよ?」
「その代わりお正月には、誕生日プレゼントとお年玉に、たんまり色をつけてくれるのを期待しているわ♡」
「……ちゃっかりしてるな、一体誰に似たのやら」
「それは当然、お父さんでしょう? だって私、お母さんのことは、ほとんど覚えていないんだから」
……それはそうだろう、妻は娘を産んですぐ、持病が悪化して身罷ったのだから。
──それでも、親が無くとも、子は育つ。
母親がおらず、父親もこんなに頼りない引きこもりのうじうじ野郎だと言うのに、娘は小さな頃から、勝ち気で前向きで、何よりも世話好きで、けして僕をいつまでも落ち込まさせてはくれず、常に厳しくけつを叩いて、立ち直らせようとしてくれた。
それはまるで、生まれついての病を抱えながら、常に前向きに明るく生き抜いて、自分が担当していたダメダメ小説家を放っておけず、周囲の反対を押し切って結婚した、かつての亡き妻の姿を彷彿とさせた。
──そうだ、彼女は僕に、こんなにも素晴らしい『クリスマスプレゼント』を残してくれて、この世を去ったのだ。
……確かに僕は、もう二度とクリスマスを祝えないかも知れない。
年頃の娘との、親子水入らずの年末年始を送れるのも、後数年ほどに過ぎないであろう。
──それでも僕は、妻に出会えたことを、今でも幸運だと思っているし、最高に幸せなプレゼントをくれた彼女のことは、いつまでも忘れないであろう。
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ちょい悪令嬢「──祝、矢○永吉さん、13年ぶりの『紅白歌合戦』出場☆」
メリーさん太「………………………………は?」
ちょい悪令嬢「いやあ、熱狂的なファンである本作の作者としては、大歓喜するとともに驚いたのですが、考えてみれば今年は『ソロデビュー50周年』の記念の年だったので、その締めくくりとしての『紅白出場』は、むしろ自然な流れとも言えましょう!」
メリーさん太「──いやいやいや、ちょっと待ってよ⁉」
ちょい悪令嬢「……何ですかメリーさん、せっかくの祝賀ムードに水を差すような真似をして?」
メリーさん太「突然の超ビッグニュースに、うちの作者が狂喜乱舞しているのは目に見えるようだけど、その前に、ちゃんと説明責任を果たしやがれッ!」
ちょい悪令嬢「説明って、何の説明ですか?」
メリーさん太「──今回の【突発短編】についてに、決まっているだろ⁉ これまでのオリジナル作品とはあまりにも毛色が違っていて、完全に読者様を置いてけぼりにしてしまっているだろうが⁉」
ちょい悪令嬢「ああ、あれは本作の作者の『実体験』なんですよ」
メリーさん太「何と、うちの作者はプロの男性小説家で、大学生くらいの娘さんがいたのか⁉」
ちょい悪令嬢「何でもかんでも、現実とフィクションを一緒にするな。あくまでも実際の出来事を『基』にしただけで、本人の年齢性別はもとより、子供の有無まで、現実とはまったく違うわ」
メリーさん太「……だったらどこが、『実体験』なんだよ?」
ちょい悪令嬢「本作の作者が父親を亡くしたのが、丁度去年の今頃なんですよ」
メリーさん太「──ッ」
ちょい悪令嬢「と言うことは、『一周忌』だったわけで、当日はもちろん、数ヶ月前からいろいろと準備することも有って、これまでずっと完全に忙殺されて、命日が過ぎてからも二、三日ほど何も手に着かず家に引きこもっていたら、クリスマスのことを完全に忘れ去っていたのですわ」
メリーさん太「……そう言われてみると、少なくとも『心境』に関しては、【突発短編】の主人公と、ほぼ一致するな」
ちょい悪令嬢「まあ少なくともこれから先、クリスマスそのものを心から祝うなんてことは、金輪際有り得ないでしょうね」
メリーさん太「それは結構、キツいものが有るよな」
ちょい悪令嬢「もしかしたら、時が解決してくれるかも知れませんけどね」
メリーさん太「………」
ちょい悪令嬢「………」
メリーさん太「………」
ちょい悪令嬢「………」
メリーさん太「………」
ちょい悪令嬢「………」
メリーさん太「──いや、こんなに湿っぽくなってしまったんじゃ、読んでいる読者様も困るだろうが⁉」
ちょい悪令嬢「……ですから私としては、矢○永吉さんの紅白出場と言う、おめでたいニュースで盛り上げようと思ったんですけどね」
メリーさん太「──ぐッ……………ま、まあ、うちの作者としても、前向きに生きる希望がわいて、いいことなんじゃ無いのか?」
ちょい悪令嬢「とはいえ、既に当座談会にてお伝えしているように、『紅白』の放送局であるN○Kさんとは契約を解消し、TV受像機も処分しているんですけどね☆」
メリーさん太「──駄目じゃん⁉」
ちょい悪令嬢「まあいざとなったら、『N○K ONE』を契約して、パソコンで鑑賞すればいいんだし♫」
メリーさん太「……ホント、あんな感動の【突発短編】を作成しておきながら、最後の最後で、締まらないよなあ(呆れ)」




