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第2223話、わたくし、『全人類コスプレ化計画』こそが、真に理想的な世界を実現できると断言しますの☆(その3)

「──お母さん、どうしてわかってくれないの! 私は、本気よ! 私は異世界『トゥルーランド』の、『精霊の泉の守人』の一族である、エルフになりたいの!」


なに高校生にもなって、馬鹿なことを言っているのよ! もういい加減『コスプレ』なんてやめて、勉強やもっと健全なクラブ活動にでも精を出しなさい!」




「何よ! 私たちの『コスプレ部』だって、健全なクラブ活動よ! お母さんの分からず屋!」




「──あっ、いすゞ、待ちなさい!」


 私の制止の声を振り切って、家を飛び出していく、高校一年生の我が娘。


 今日は待ちに待った『オタクの祭典』である、『夏コミ』とやらに『サークル参加』するそうだけど、一体どこが『健全』なのやら。


 ──特に、『コスプレ』だけは、どうしても許せないッ!


「……まだ子供のいすゞが、大勢の人の前で、半裸同然の姿をさらすなんて、母親として看過できるものですかッ!」


 それに何よりも、『エルフ』は駄目だ!


 あの子の幼い頃からの『エルフ好き』は知っているが、よりによって自分がコスプレをして、エルフになることは無いだろう。


 ……何としても、やめさせねば。


「あら、あれは?」


 ふと見やれば、娘の机の上には、古びたネックレスが置いてあった。


「あの子ったら、肌身離さず着けておきなさいって、言っておいたのに」


 ……仕方ないわねえ。


 私は盛大にため息をつきながら、外出する準備を始めるのであった。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「……いすゞ、どうしたの? 何か元気無いわね」




 ──夏コミの会場にて、エルフのコスプレに着替えてから、サークルの飾り付けを終えて、無事に開場時間を迎えた時、同じくエルフ姿の相方が、さも心配げに問いかけてきた。




「聞いてよせい、また出がけにお母さんと、喧嘩しちゃってさあ」


「ああ、いすゞのお母さんて、あまりオタク趣味に理解が無かったよね」


「特にコスプレを毛嫌いしていて、私の『エルフ愛』を、ちっとも理解してくれないの」


「うわあ、『エルフ大好きっ子』のいすゞとしては、辛いよねえ」


「それだけじゃ無くて、なんか今朝って、ついてないのよねえ。ここに来るまでも、車にひかれそうになったり、電車に乗り遅れそうになったりして」


「えっ、あの『ラッキーガール』のいすゞが、珍しいことも有るものよねえ?」


「……これもお母さんと喧嘩したせいかなあ。どうしてわかってくれないんだろう。私はお母さんのことだって、大好きなのに。お母さんだったら、私の『エルフ愛』を、理解してくれると思っていたのに」


「あ、そういえば、いすゞってば、いつものネックレスを着けて無いじゃない?」


「えっ⁉ あ、ホントだ!」


「あれって妙にレトロで、うちのサークルのクラシカルなエルフのコスプレにも、似合っていたのに、もったいない」


「……どうしよう、お母さんから、肌身離さず着けときなさいって、言われていたのに」




 ──まさにその時だった、周囲の人たちが騒ぎ始めたのは。




「……え、何、あの『エルフ』の人?」


「『コスプレ』…………だよね?」


「ま、まさか、本物とか?」


「外人さんかね」


「いや、外人のコスプレと言うよりも、もはやそう言った『種族』って感じがするけど……」


「もうそこいらのコスプレとは、レベルが違うぞ⁉」


「と言うか、『素材』からして、既に『別世界』って感じ」


「……『別世界』って、まさか本当に、『異世界転移』してきたエルフじゃ無いだろうな?」




『コスプレ上等』で、どんなファンタジー種族でも、そこら辺を普通に闊歩しているコミケ会場だと言うのに、これほどの戸惑いの声が上がるとは、文字通り『異常事態』であった。


 ──それも、無理が無かった。


 自然に左右に割れる人波の間を、悠々とこちらへと向かってくるのは、年の頃は十代後半の幼くも怜悧に整った小顔を、長い銀白色の髪の毛で縁取り、すらりとした長身を、露出度の高い純白のドレスで包み込んだ、絶世の美少女だったのだから。




 宝玉のようなエメラルド色の瞳の横で揺れている、異様に尖った両耳。




 まさしくそれは、アニメやゲームの世界から飛び出してきた、『エルフ』そのものであったのだ。




「……いすゞ、忘れ物よ」


()()()()、このために、わざわざ?」


「このネックレスは、我が一族に伝わる『お守り』であり、どんな災いであろうが持ち主を守ってくれるから、幼い時から絶対に身に着けておきなさいと、言っておいたでしょ?」


「ご、ごめんなさい、今朝お母さんと喧嘩して、後先考えずに家を飛び出して行ったから、つい着けるのを忘れていたの」


「この世界は、私の故郷の『エルフの森』なんかより、比べ物にならないくらい危険なんだから、絶対に着けなきゃ駄目よ。お父さんなんて私と結婚する前に、大型トラックに轢かれて、私の住んでいた異世界に転移してしまったくらいですからね!……………まあそれで、二人は出会えたんだから、いいんだけど♡」


「──だからって、娘にそのトラックのメーカー名を、そのまま名付けないでよ!」


「ちょ、ちょっと、いすゞ、このエルフのコスプレイヤーさんと、知り合いなの?」


「……これは、サークルの方ですね? 娘がいつもお世話になっております」


「『娘』って、いすゞのお母さんなの⁉………………お姉さんとかでは、無くて?」


「おほほほほほほ、こう見えて私は、今年300歳ですのよ♫」


「何よ、お母さんもレイヤーだったわけ? しかも、完全にキャラになり切っているし」


「……違うよ、今のお母さんは、コスプレなんかしていないよ」


「え」




「お母さんは、うちのお父さんが異世界転移した『トゥルーランド』と言うところの、エルフの森の『精霊の泉の守人』の巫女姫の末裔である、正真正銘本物のエルフなのよ」




「「「ええええええええええええええ──!!!」」」




「……まったく、ここに来るまでも、たくさん『エルフのコスプレ』らしき人たちを見てきたけど、全然なってないじゃ無い。あなたたちはエルフのことを、何もわかってはいないわ!」


「いや、生まれた頃から本物のエルフを見てきた私としては、十分及第点だと思うけど?」


「だったら私たち異世界のエルフが、くノ一や花魁や十二単や神社の巫女さんの格好をして、『これぞ完璧な日本の女の子のコスプレだ!』とか言ったら、黙っちゃいられないでしょ?」


「……お母さんの目には、私たちのコスプレが、そんなふうに見えているんだ。──うん、確かにそれは嫌かも」


「どうせ本物に敵いっこ無いのに、どうしてエルフのコスプレなんかするのよ」




「──だって、だって、私だって、お母さんみたいになりたかったんだもの!」




「──‼」




「……お母さんは、この世界で一番綺麗で、優しくて、私もお母さんみたいになりたいのに、黒髪に黒目で背もちっちゃい典型的な日本人でしか無くて、悔しくて、少しでもお母さんに近づきたいから、コスプレをやり始めたんだよ⁉」




「……馬鹿ね、私はあなたが、エルフの特徴をまったく受け継がずに生まれてくれて、心の底から喜んだのよ?」


「な、何で?」




「だって、剣と魔法のファンタジー異世界なんかでは無い、この現代日本でにおいて、エルフの姿をした子供なんて、イジメのターゲットになるのはもちろん、下手すれば社会そのものからつまはじきにされるかも知れないじゃ無い」




「──ッ」




「あなたはそのままでいいの! エルフなんて、ならないでいいの! コスプレなんかしなくても、あなたは正真正銘私の娘なんだから!」


「お母さん!」


 やっと長年のわだかまりが無くなり、ひしと抱き合う(見かけ上は)エルフの親子。


「……と言うことは、お母さんは、『コスプレ』自体は、そんなに嫌っていないわけ?」


「ここに来るまでいろいろなコスプレを見たけど、(ガチ勢としては)異世界関係のは頂けなかったものの、それ以外のジャンルのやつだと、現代日本にも異世界にも無い斬新なのが多くて、一気に興味がわいたわ!」


「そのうちお母さんもコスプレに手を出して、親子でサークル参加したりして☆」




「その時には『巫女』繋がりで、こっちの世界の『神社の巫女』さんのコスプレをしようかしら♡」




「「「──それだと、『江戸前エ○フ』のコスプレになるのでは⁉」」」

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