第2149話、わたくし、今期夏アニメ、いよいよ本番突入ですの☆(その10)
「──どう、お兄ちゃん、今日のチャーハンは美味しい? おかわりも有るよ♫」
考え事にふけっていた時、不意にかけられた幼い声に、僕はようやく我に返った。
「……ああ、う○ちゃん、凄く美味しいよ、腕を上げたね」
「うふふふふ、この夏休み中、頑張ったからね。お兄ちゃんが喜んでくれて、う○も嬉しいよ!」
そう言って、無邪気に満面の笑みをたたえる、遠縁の女の子。
……『遠縁』?
僕の親戚に、こんな女の子なんていたっけ?
もしこれまで知らなかったとしても、それこそまさにこの家に住んでいた、お婆ちゃんの葬式にお互い参列して、精進落としの時なんかに、顔合わせをしていたはずだ。
しかしそんな記憶なんて、まったく無いぞ?
「……ねえ、う○ちゃん」
「なあに、お兄ちゃん」
「今日は、何月何日だったっけ?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………」
「い、嫌だお兄ちゃん、急に変なことを聞いてきたりして。今は夏休みの真っ最中なんだから、日付なんてどうだっていいじゃないの?」
いかにも内心の焦りを隠すようにして、取り繕った笑顔で答える、自称『遠縁の女の子』。
「……夏休み、そうだ、夏休みだ。──ねえ、教えてくれ、この夏休みは、一体いつから始まったんだ? 今日は夏休みの何日目だ? そしてこの夏休みは、一体いつになったら終わるんだ?」
「お、お兄ちゃん、どうしたと言うの⁉ いきなり変なことを言い出したりして、何か有ったの⁉」
「……いや、どうしても思い出せないんだよ、僕がいつからこの島にいるのか。しかもこれまでの夏休みの記憶は、あまりにもおぼろげで、まるで永遠に覚めない悪夢の中にいるような気がしてきたんだ。──ねえう○ちゃん、これはただの夏休みだよね? 後数週間もすれば、この夏も終わって、僕は自分の町に帰れるんだよね? ──まさかこの夏休みは永遠に続いて、僕はこの島に閉じ込められ続けるなんてことは、無いよね⁉」
自分自身、何て突拍子もないことを、年下の女の子に聞いているんだと言う、馬鹿馬鹿しい気持ちも有った。
──しかし目の前の少女はその途端、すべての感情を消し去ったのであった。
「……ねえ、お兄ちゃん。『誰か』から、『何か』言われた?」
なぜかこれまでに無い、冷たい目と冷たい口調で問いただしてくる、幼い少女。
「う、うん、最近よく見る夢なんだけど、なぜか僕はそんなに親しくも無いはずの、鳴瀬し○はさんと恋人関係になっていて、夜の深い海の中で溺れそうになっている彼女を助けようとしたところ、その時一瞬だけ彼女が別人のようになって、音が聞こえないはずの海の中ではっきりと、『……この娘を助けようとしても無駄だ。おまえはこの無限に続く夏の島の中で、永遠に同じ過ちを繰り返すだけなのだ』って、言うんだよ」
その瞬間、う○ちゃんの両眼が怒気に染まった。
「……くっ、『編○人』のやつめ、お父さんに接触していたのかッ⁉ しかも私に気づかれないように夢を介するなんて、何て姑息なッ!」
「う、う○ちゃん?」
「お兄ちゃん、大丈夫よ! お兄ちゃんは『今回の夏』こそ頑張って、真に添い遂げることのできる恋人を見つければいいの! そうしたら私が責任を持って、この夏を終わらせて、お兄ちゃんを『幸せな未来』に導いてあげるから!」
そのように、並々ならぬ意思に満ちた瞳で言い放つ、自分より圧倒的に年下であるはずの少女。
──その決意表明は、文字通り『自分の命』がかかっているかのように、真剣そのものであった。
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メリーさん太「……何だ、これ?」
ちょい悪令嬢「前回のラストで少しだけ触れましたけど、何とびっくり、本作の作者の今期夏アニメの『大本命』の一つである、『サマ○ケ』こと『Summer P○ckets』において、てっきりこれぞ本命のヒロインルートかと思われていた『し○はルート』が、たった三話で終わってしまうと言う大番狂わせとなってしまい、現在ネット上は大騒ぎとなっているのですよ!」
メリーさん太「ああ、やっぱり冒頭の【突発短編】は、『サマ○ケ』を勝手にモチーフにしていたわけか? それにしても何だあの『シリアス調』は? オリジナルと雰囲気がまったく違うじゃないか?」
ちょい悪令嬢「それと言うのも、最新第17話において、むちゃくちゃ気になるシーンに、気になるキャラと、気になるセリフが、突然飛び出してきたのです!」
メリーさん太「『気になる』って、一体どんな?」
ちょい悪令嬢「深い海の底に沈み行くし○はちゃんを助けた羽○里君に向かって、し○はちゃんの顔をした別の『ナニモノカ』が、『──この娘を助けても無駄だ、我は「編○人」、おまえは永遠にこの島で夏を繰り返すだけだ』なんて、告げてきたのです!」
メリーさん太「な、何だよ、『編○人』って?」
ちょい悪令嬢「それは現段階ではあまりにも情報が少なくて、何とも言えませんが、おそらくは『時の編○人』とか言った意味合いでは無いでしょうか」
メリーさん太「──そ、それって⁉」
ちょい悪令嬢「ええ、すべての世界線を把握しているのは、てっきりう○ちゃんと、もう『一人の彼女』とも言える『最終ルートのヒロイン』だけとばかり思っていたら、どうやら別の勢力がいて、しかもう○ちゃんとは違って、必ずしも羽○里君を、『本命のヒロイン』と結びつけようとはしていないように思われるのです」
メリーさん太「──ええっ、つまり羽○里君の恋愛の成就をむしろ邪魔するようにして、永遠の夏休みを繰り返している鳥○島に閉じ込めようとしている、ラスボス的な『裏ヒロイン』がいるってことお?」
ちょい悪令嬢「原作ゲーム版の『編○人』は、そんな存在だったとは思えませんでしたが、どうやら今回のアニメ版は必ずしも、原作ゲーム版と同じストーリーをたどるとは、限らないようですわね」
メリーさん太「それってやはり、『尺』の都合か? これまでもかなり『省略』した箇所が有ったしな」
ちょい悪令嬢「それももちろん有りますが、本来し○はちゃんとう○ちゃんが持っている『能力』が、複雑極まるものなので、それを上手く物語で描写するのが、非常に困難かと思われるのですよ」
メリーさん太「……つまりある程度の『改変』は、必要不可欠ってことか?」
ちょい悪令嬢「まあ何にせよ、今回までの『表のし○はルート』を簡略した分、次回からの『裏のし○はルート』と、オーラスの『真のし○はルート』こそが本番であり、これまで以上に力を込めて制作されるかと思われますので、アニメ版オンリーの視聴者としては、期待して待つしかないでしょうね☆」
メリーさん太「……『表のルート』はわかるけど、『裏のルート』とか『真のルート』とか、一体何のこっちゃ?」
ちょい悪令嬢「それは、見てのお楽しみと言うことで♫」
メリーさん太「それにしても、今回字数が少な過ぎるんじゃないのか?」
ちょい悪令嬢「実はたった今リアルタイムで、相続争いの相手側の弁護士が、『遺産分割協議書』の原本を『レターパックラ○ト』便で送付してきたので、その内容を精査した後に、署名捺印して早急に送り返さなければならなくなったのですよ」
メリーさん太「『遺産分割協議書』って、相続において、一番重要な書類じゃ無いか⁉」
ちょい悪令嬢「──と言うわけですので、作者の個人的問題のために、読者様にご迷惑をおかけして大変心苦しいのですが、今回はこの辺にしたいかと存じます」