第2093話、わたくし、ドイツ軍の80年ぶりの東欧最前線への進駐に、風雲急を告げますの★
ちょい悪令嬢「──何と、先の世界大戦が終結して丁度80年目を迎えると言う、この記念すべき節目の年に、当のドイツ軍がやってくださいましたよ⁉」
メリーさん太「もちろんNATOの一員としての、加盟国内への軍の派遣なら、これまでにも有りましたが、ドイツ軍単独でのれっきとした独立国への軍隊の派遣は、新生ドイツ軍の創設以来初と言う、歴史的に『超ターニングポイント』案件なのです!」
ちょい悪令嬢「一応、相手国であるリトアニアの要請に基づくものでは、有るんですけどね」
メリーさん太「しかし、何と言っても、第二次世界大戦のヨーロッパ戦線を引き起こした、当のドイツが、一応他国の侵略の可能性を踏まえた防衛目的とはいえ、それこそ大戦時も占領していた地域に軍隊を進駐させるなんて、『侵略者予備軍』と見なされているロシアだけでは無く、同じNATOのエストニアやラトビアやポーランド等の周辺諸国も、軍事的に緊張せざるを得ないのでは?」
ちょい悪令嬢「──そこは少々、『歴史認識』について、根本的な『差異』が有るのですよ」
メリーさん太「……『歴史認識の差異』、って?」
ちょい悪令嬢「旧ソビエトが崩壊して、ヨーロッパにおける共産主義諸国の悪行が明らかになるまでは、ソビエト赤軍こそが、ナチスドイツに占領されていた東ヨーロッパ諸国を開放した、『正義の軍隊』であるかのように、日本を含めた西側諸国の国民さえも洗脳していましたが(※ドイツを絶対的な『悪者』にすることは、大戦中フランスやスウェーデンやイラン等に対して、数々の暴挙を働いた米英連合軍にとっても都合が良かった)、当時の実情としては、軍隊以前に『共産主義』のイデオロギーが、東欧諸国を侵食し始めており、特にルーマニアのような『王政』を敷いている国の首脳陣にとっては、『死活問題』であり、同じく自国に対して領土的野心を有するとはいえ、一応は『自由資本主義国家』であるドイツを東欧圏の盟主と認めることで、ロシアの軍事的侵攻に対抗しようとしていたのです」
メリーさん太「──現在とほとんど、同じ状況じゃん⁉ 実質的には『NATO』の欧州加盟国の東半分を、既にナチスドイツと東欧諸国で実現していたようなものなのでは⁉」
ちょい悪令嬢「少しでも歴史に詳しい方だったら、ヨーロッパ戦線の発端の舞台となった、ポーランドにしろ、フィンランドにしろ、イランにしろ、これらの国にとっては、ナチスドイツだけでは無く、ソビエト赤軍もれっきとした『侵略者』だったのですからね。祖国が解体された後も、ロンドンに設立された『ポーランド亡命政府』は、最大の後援者であるイギリスの意図を汲んで、ナチスドイツからの欧州解放を優先するために、何と最大の仇敵であるソビエト軍の窮地を救うことにも大いに貢献させられながらも、そのお陰でソビエトが大勝利を獲得したと言うのに、ポーランドの再建に当たって、亡命政府は完全に排除されてしまい、その後ポーランドには共産主義政権がでっち上げられて、以来ソビエト崩壊に至るまでの数十年もの間、『衛星国家』としての地位に甘んじる他は無かったのですよ」
メリーさん太「何ソレ⁉ それを認めたアメリカやイギリス等の西側戦勝国をも含めて、『正義』なんてどこにも無いじゃんか!」
ちょい悪令嬢「これほどまでに酷いポーランドの『歴史的真実』よりも、更に悲惨だったのが、『バルト三国』なのですよ。大戦間においては公式にソビエト自ら、いかなる領土侵犯もしないことを誓約して、三国とも『独立国家』として認められていたのに、ポーランド侵攻に当たって、ついでとばかりに軍事的に侵略されて解体されて、強制的にソビエトに吸収されて、戦後もヤルタ会談等によって西側諸国の承認を得て、『衛星国家』どころか『ソビエトの一部』として、ロシアや東ヨーロッパから完全に共産主義が排除されるまでは、国家としても民族としても、『自決権』を奪われ続けたのですよ!」
メリーさん太「それって、ポーランドを始めとする『衛星国家』にさせられた東欧諸国はもちろん、ドイツや朝鮮半島みたいに『分断』されながらも、一応それぞれ『独立国家』扱いされていた国よりも、むっちゃくちゃ酷いじゃんか⁉」
ちょい悪令嬢「そんなバルト三国としては、たとえ同じく『侵略された』実績が有ろうとも、大戦中のほんの数年間だけのドイツと、戦後長らく支配下に置かれ続けて、国家としての独立どころか、思想の自由さえも許さなかった、旧ソビエトの後継者であるロシアとでは、どちらか一つを選べと言う『究極の選択』を突きつけられたら、迷わずドイツを味方にすることを選ぶでしょう」
メリーさん太「何せ、『かつてはソビエトの一部だった』と言う、自分たちとまったく同様の立場にあるウクライナが、ロシアの軍事的侵攻に晒されて、数々の要衝を奪われていく姿を、まざまざと見せつけられたんだからな。しかも大戦中とは違って、価値観を同じくし、あらゆる意味で信頼できるドイツに頼ろうとするのも、至極当然の仕儀と言えるだろうよ」
ちょい悪令嬢「──ただし、この件の最大の問題は、欧州での新たなる大戦の機運が、非常に高まってしまったことですけどね★」
メリーさん太「は?………………………って、おいおい、いきなり何を言い出しているんだ⁉」
ちょい悪令嬢「そもそもすべては、アメリカがトラ○プ政権になってから、ウクライナ戦争介入に消極的になるとともに、NATOの盟主としてもあるまじきことに、ヨーロッパ全体への関与にすら及び腰になったことから始まっており、今までのようにアメリカに頼りきりでは、東欧を含むヨーロッパ全体の安全保障が維持できなくなる可能性が高まり、欧州諸国だけによる防衛能力向上が図られるようになって、最大の仮想敵国であり、現在まさに軍事行動を実行中のロシアに対して、明確な『対立姿勢』を隠さなくなったのです!」
メリーさん太「……た、確かに、ここ最近のヨーロッパでは、各国で『極右政党』が台頭し始めたよな」
ちょい悪令嬢「皮肉なもので、アメリカが矢面に立っていた間は、NATO加盟の欧州諸国は、それ程危機感を持たずに軍備もそれなりのものに止めていましたが、いざアメリカの力を頼れなくなる可能性が高まるや否や、各国共こぞって軍備増強に走り、むしろ戦禍を招きかねない機運を増長させるとはね」
メリーさん太「……つまり、下手すると『第三次世界大戦』すらも、勃発しかねないと?」
ちょい悪令嬢「ああ、大丈夫、それは有り得ません」
メリーさん太「──何でたかがWeb作家ごときが、そんなことを断言できるんだよ⁉」
ちょい悪令嬢「もし本格的に複数国による大規模な軍事衝突が起ころうとも、それは欧州に限定されて、特にもう一つの火種である『中国と台湾問題』を抱えている、東アジアには飛び火しませんからね」
メリーさん太「だから、どうして⁉」
ちょい悪令嬢「だって、もしもアメリカが『欧州事情に無関心』を貫くとしたら、その強大なる軍事力を始めとする国力を、台湾を中心とした『シーレーン』の絶対防御に投入するはずであり、いくら中共あたりが軍備増強をして、北朝鮮風情に協力を仰ごうとも、アメリカ一国丸ごとの軍事力には、丸っきし敵いっこ無いでしょう」
メリーさん太「ああ、なるほど、ウクライナ一国にあれ程手こずると言う醜態をさらしたロシアは、その軍事力の弱体化が既に明らかであり、ドイツを中心としたNATOの欧州軍だけで十分に対応できるだろうし、アメリカとしては絶対に手放せない、東アジアのシーレーン死守に全力を注げるわけか⁉」
ちょい悪令嬢「逆に言えばロシアにとっては、自らのの東欧侵攻と時を同じくして、中国が台湾侵攻を発動し、北朝鮮が朝鮮戦争を再開することによって、西側諸国を大混乱に陥れて、アメリカの軍事力をヨーロッパとアジアとで分散させる以外、『勝利条件』は有り得ないのですよ」
メリーさん太「……となると、中国や北朝鮮の指導者も馬鹿じゃ無いんだから、たとえロシアが東欧侵攻を始めたとしても、よっぽどロシア有利に戦況が傾かない限りは、自ら軍事行動を起こす可能性は低いわけか?」
ちょい悪令嬢「たぶん今回のニュースを見て、『ドイツが軍備増強するのなら、日本も再軍備して、東アジアの動乱に備えるべきだ!』とか言ったご意見もお有りかと存じますが、ドイツはドイツであり、日本は日本なのです。むしろヨーロッパに、今以上の戦乱拡大の気運が高まったからこそ、東アジアの平和が保たれるとも言えて、これまで通り平和憲法を護持しつつ、周辺諸国とも友好なる関係を続けるべきだと思いますわ♡」