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2007/2222

第2007話、わたくし(悪役令嬢)以外、全員『異世界転生者』ですの⁉

「……お嬢様、少しはわがままを控えられたほうが、よろしいのでは? お父様やお母様も、大変困られておりますよ?」




「──たかがメイドの分際で、我が王国の筆頭公爵家後継者たるわたくしに意見しようなんて、百年早いわ!」




「おおッ、さすがは『悪役令嬢』! やはりアルテミス様は、そうで無くっちゃ♡」




「……アルテミス様、勉学の時間はちゃんと集中してください。これ以上おサボリになると、公爵様に御報告しますぞ?」




「──たかが家庭教師風情が、図に乗るんじゃ無いわよ! あなたが教えていることなんて、とっくに履修済みなの!」




「おおッ、さすがは『悪役令嬢』! やはりアルテミス様は、そうで無くっちゃ♡」




「……アルテミス、そなたの傍若無人さは、もう少しどうにかならぬのか? 社交界デビューも近いと言うのに、この王国の第一王子殿下の婚約者としても、示しがつかぬのでは?」




「──お父様まで、何よ! うちは筆頭公爵家なんだから、社交界で文句を言える者なんて、誰一人いないでしょうが⁉」




「おおッ、さすがは『悪役令嬢』! やはりアルテミスは、そうで無くっちゃ♡」




「……アルテミス様、いくら平民上がりの編入生が、最近第一王子殿下と仲睦まじげとはいえ、これ以上嫌がらせを続けると、王子様の耳に入って、お怒りになるのでは?」




「──何よ、わたくしの取り巻きであるあなたたちまで、あの『泥棒猫』の肩を持つつもり⁉ 殿下の婚約者はこのわたくしよ! 他の女なんかに渡したりするものですか!」




「おおッ、さすがは『悪役令嬢』! やはりアルテミス様は、そうで無くっちゃ♡」




「……アルテミス、もう庶民上がりの編入生に対して、ちょっかいをかけるのはやめてくれないか? 最近はあまりにも『イジメ』がエスカレートして、学園経営陣としても無視できなくなり、他の貴族たちの間でも『筆頭公爵家』への批判を増長させて、公爵殿の立場を悪くさせて、王家として庇いきれなくなってきているのだが?」




「──何をおっしゃっているのです! 一番悪いのは、婚約者であるわたくしを差し置いて、あんな平民にばかりかまけている、王子殿下御自身ではありませんか⁉ もう少し反省なさってください!」




「おおッ、さすがは『悪役令嬢』! やはりアルテミスは、そうで無くっちゃ♡」




「……あの、アルテミス様? 私は別に構わないのですけど、私に対する『イジメ』は、少々控えられたら? もしもあなたが廃嫡されたり婚約解消されたりしたら、私のほうが夢見が悪いんですけど?」




「──ちょっ、何で諸悪の根源である『泥棒猫』であるあなたまで、意見してくるのよ⁉ 調子に乗るんじゃ無いわよ! このままいびり倒して、学園から追い出してやる!」




「おおッ、さすがは『悪役令嬢』! やはりアルテミス様は、そうで無くっちゃ♡」




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




 …………おかしい。




 いくら何でも、これは変だ。




 確かにわたくしは、この王国の筆頭公爵家で生を受けて、将来の国王陛下の婚約者として、蝶よ花よと贅沢三昧で育てられて、すっかりわがままな女となってしまっていた。


 そりゃあ、周りの者としては、少なからず小言も言いたくはなるだろう。


 だがしかし、両親や教育係の家庭教師や遙か目上の婚約者の王子殿下が、それとなく意見するのはともかく、圧倒的に格下である、専属メイドや学園の取り巻きの女生徒たちや、あまつさえ『イジメ』のターゲットである平民女生徒までが、筆頭公爵家令嬢に対して批判的な意見を面と向かって物申すなんて、王侯貴族社会の常識的に、考えられないことでしょうが?


 ………しかも最終的には、そんなわたくしの傲岸不遜な態度を、褒めそやすような言い方をして。




 それに『悪役令嬢』と言うのは、一体何のことだ?




 何で周囲の者は、異口同音にわたくしのことを、そんな聞き慣れない呼称で呼ぶのだ?




 ……『悪役』とか言うから、忌み嫌われていたり馬鹿にされていたりするかと言うと、何と『イジメ』のターゲットである『泥棒猫』の平民編入生すらも、何だか『親しみ』を込めている感じがして、更に疑問が深まるばかりであった。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「──それはですね、ここは異世界の乙女ゲームである『わたくし、悪役令嬢ですの!』そっくりな世界であり、実はアルテミス様以外の全員が、まさにその異世界──『ゲンダイニッポン』からの、『転生者』だからですよ」




 ………………………………は?




「ちょ、ちょっと、メイ⁉ 一体何を言いだしているのよ⁉ この世界が別の世界にとっては、ゲームの世界でしかないですって⁉」




 最近とみに疑問に思っていることを、自分が最も昵懇にしている専属メイドのメイ=アカシャ=ドーマンに相談してみたところ、返ってきたのはあまりにも予想だにできなかった、奇妙奇天烈なものだった。


「だから、ゲームそのものでは無く、『ゲームのような世界』ですってば。──ただし、『転生者』の皆様にとっては、『ゲームそのもの』と思ってらっしゃるかも知れませんが」


『……『ゲームのような』と『ゲームそのもの』って、どう違うのよ?」




「もしもこの世界が『ゲームそのもの』であれば、私たちは『デジタルデータ』等の『つくりもの』でしかあり得ません。でもあくまでもこの世界は『ゲームのような』ものに過ぎませんから、お嬢様を始めとするすべての方は、間違いなく一人一人生きている『人間』であるわけですよ」




「と言うことはまさか、自分を『他の世界』から──つまり、『本物の世界からつくりもののゲームの世界』へと、転生してきたと信じ込んでいる者たちにとっては、」







「そうです、お嬢様のことなんて、ただの『つくりもの』としか思っていなくて、『悪役令嬢』などと言った『記号』的な名称を、平気で使うことができているわけなのですよ」







「──ッ」







「しかも始末の悪いことに、この世界そのものを『ゲームと言うつくりもの』と思い込んでいるものだから、あなたがこのまま『悪役令嬢』として破滅してしまうはもちろん、世界そのものがどんなに絶望的な運命にあろうとも、別にどうでも良く、あなたにわがまま放題にさせていたりして」




「でも、この世界は、すべての者にとって間違いなく、『現実世界』であって、世界そのものが滅びるとしたら、皆一蓮托生なんでしょう?」


「……残念ながら、『彼ら』の世界には『なろう系小説』と言うものがございまして、こういった『乙女ゲーム転生』はお約束みたいなものとなっていて、イマイチ危機感を覚えられないでいるのです」


「──何ソノ、『なろう系』とかって⁉ そんなふざけたもののために、わたくしには破滅の運命が待っていて、しかも世界そのものにすら悪影響を与えかねないわけなの⁉」







「とはおっしゃられても、そもそもこの世界自体が、『なろう系小説』そのものなのですからねえ」







 ………………………………はい?







「あ、あなた、一体何をおっしゃっているの? これは『乙女ゲームのような世界』ではありませんでしたの⁉」


「……おかしいとは、思われませんか?」


「へ?」


 いや、おかしいと言えば、すべてがおかしいだろうが?




「お嬢様以外の者すべてが、他の世界からの『転生者』なんて、そんなことがあり得るはずは無いでしょうが?」




「──確かにそうだけど、それを言ったらおしまいだろうが⁉」




「つまりこの世界は、『別の世界の何者かの作為』によって、仕組まれているのですよ」




「さっきは、どんなにゲームそのまんまであろうとも、そこにいる者にとってはあくまでも『現実世界』であるとか言っていたくせに、完全に矛盾しているじゃ無いの⁉」




「もちろん、小説そのものと言うわけではございませんが、『前後関係』を無視すれば、別の世界で小説と作成されたために、『生み出された』世界とも言えるのですよ」


「……この世界が、小説によって生み出されたですって? それに、『前後関係』って──」




「物理法則の根幹をなす『量子論』に則れば、どんなパターンの世界だろうが、『最初からすべて存在している』のであって、このような『悪役令嬢以外☆全員転生者』とか言った、『なろう系』そのまんまのあまりにもクレイジーな設定の世界も、可能性の上なら存在し得るのです。そんな『あくまでも可能性でしか無い』存在であろうと、創作物に過ぎない小説等で描写されることで、存在が確定して、本当に存在していてもおかしくは無くなるのです」




「──一体誰なのよ、そんなはた迷惑なことをしでかしたのは⁉」




「もちろん、『小説家』ですよ。──ただし、こことは『別の世界』のね。別の世界に存在しているからこそ、この世界をいかようにも書き換えることのできる、『外なる神(アウター・ライター)』とも成り得るのです」




「『外なる神(アウター・ライター)』って……………いやそもそも、どうしてあなたには、そんなことがわかるの⁉」







「そりゃあもちろん、私も『外なる神(アウター・ライター)』であり、実はこの私こそが『作者』として、この世界を小説として書いている『外なる神(アウター・ライター)』が存在している世界を、『小説』として生み出しているのです」







「──なっ⁉」







 ちょっともう、何を言っているのか、全然わからないんですけど⁉


「……しかし、『うえゆう』のやつめ、焦るあまりに、うちのお嬢様以外の者すべてを、転生者にしてしまうなんて、反則だろうが?」


「もしかしてその『上無祐記』とおっしゃる方が、あっちの世界の『作者』なわけ? どうしてそんなことがわかるの?」


「だって私が作成した、小説の登場人物ですもの」


「──だったら、作者であるあなたが責任を持って、この世界をもっと常識的なものに書き直させなさいよ!」




「それはできません、我々『外なる神(アウター・ライター)』ができるのは、『世界観設定とキャラ配置』と言う、基本中の基本のみで、後は『実際に生きている人間』である、あちらの世界の登場人物たちに委ねるしか無いのです。──あなただって、今この時の言動のすべてが、他の世界の人間の思いのままに操られているとしたら、むちゃくちゃ嫌でしょう?」




「……た、確かに」




「とにかくお嬢様は、『悪役令嬢』である自分の言動を反省して、もう少し慎み深く行動なさってください。『ゲンダイニッポンからの転生者』って、なぜか『悪役令嬢♡大好き』な人間が多いですから、彼らに甘やかされるままに図に乗っていると、そのうち手痛いしっぺ返しをくらってしまいますよ?」

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