第二十話、わたくし、『ちょい悪令嬢』になりましたの。【びーえる編反省会】(その3)
ちょい悪令嬢「──さて、もはやすっかりお馴染みの、【びーえる編】反省会の始まりですわよ! 今回こそ総括的な部分に触れたいところでありますが、その前にゲストの皆様をご紹介させていただきます!」
メイ道「……ゲスト、ですか?」
かませ犬「なんか、嫌な予感しかしねえ……」
ちょい悪令嬢「では、早速ご登場願いましょう。──お二方とも、どうぞ!」
ヤンデレ姫「こんにちは」
鬼畜メガネ「……初めまして」
メイ道「ええっ⁉」
かませ犬「……まさか、この二人かよ」
真王子様「HNだけで誰だかわかるのは、すごいもんだね」
鬼畜メガネ「……それについては、言いたいことが、山ほどあるんですけどね」
ヤンデレ姫「右に同じ」
ちょい悪令嬢「──まあまあ、そう言ったことも含めて、今回はお二人を中心に反省会を進めていくつもりですから、ご意見等のほうは後でじっくりと聞かせていただきますので、まずはお席にお着きください」
鬼畜メガネ「……ああ、わかった」
ヤンデレ姫「ええ、本日は、よろしくお願いいたします」
その他一同(かませ犬除く)「「「よろしくお願いいたしまーす!」」」
かませ犬「──いやいや、ちょっと待てよ! 何で当たり前のようにして、挨拶なんか交わしているんだよ⁉」
ちょい悪令嬢「……何ですか? また、急に大声を上げたりして」
ジミー「挨拶をして、何が悪いのよ?」
真王子様「むしろ人として、当然の礼儀だろうが?」
妹プリンセス「……これだから、オレサマ野郎は」
かませ犬「──そんなことを言ってるんじゃないよ⁉ そもそもよその世界の人間である、その二人が当たり前のようにして現れること自体が、おかしいって言っているんだよ! そいつら【びーえる編】の各話で主役を張っていた、俺とジミーの、いわゆる『もう一人の自分』に当たるわけなんだろう? ある意味『同一人物』が、同じ空間に存在しても、構わないのか?」
メイ道「ああ」
ちょい悪令嬢「そういうことですか」
ジミー「──そうだね、かませ犬の言う通りだよ」
かませ犬「……ジミー?」
ジミー「やっぱり一つの世界に、たとえ性別が逆転しているからって、同じ属性を持つ人間が二人同時にいたりしたら、おかしいよ」
かませ犬「おお、わかってくれたか! よし、せっかく来ていただいたばかりで何だが、お二人には、丁重にお帰り願って──」
ジミー「違うよ、この空間から退場するのは、むしろ私たちのほうだよ」
かませ犬「………………………は?」
ジミー「本来他の世界の住人である彼らがこの場に現れたということは、すでにこの世界に受け容れられている証しであり、そうなると当然、排除されるのは私たちのほうになるのさ」
かませ犬「い、いやでも、俺たちこそが、元々この世界の住人なのであって」
ジミー「だからすでに、『改変』は実行されていて、私たちのほうは世界にとって、もはや『用済み』の存在になっているのよ」
かませ犬「な、何だってえ⁉」
ジミー「さあ、かませ犬さん──いえ、『お兄様』。早くこの空間から、退場しましょう!」
かませ犬「待て待て待て待て待て! 何でおまえはそんなに、自分自身がフェードアウトすることに、積極的なんだよ⁉」
ジミー「『世界の意志』に逆らうことなど、誰にも赦されないのです。さあ、お兄様!」
かませ犬「世界の意志だあ? 何だそりゃ⁉ ──ああっ、さては、おまえ、これを機に、俺を排除しようと思っているんだろう⁉」
ジミー「おや、なぜ私があなたなんかを排除するためだけに、自分を道連れにしなければならないのですか?」
かませ犬「とぼけるんじゃねえ! 元々みそっかす状態の俺は、今排除されたらそれっきりだけど、しっかりみんなに受け容れられているおまえだったら、自分から身を退いたフリしておいて、後から戻ってきても大丈夫だから、さも自分もつき合うように装って、俺だけ追い出そうとしているんだろうが⁉」
ジミー「チッ、いらん時に知恵が回るんだから、この駄犬兄貴は」
かませ犬「おまえなあ……」
鬼畜メガネ「──小芝居は、もうその辺にしてくれないかな?」
かませ犬「あ、悪い。ゲストを前に、ごちゃごちゃと、揉めたりして」
ジミー「…………」
鬼畜メガネ「やれやれ、そこの妹さんを含めて、皆さん、人が悪いなあ。僕と姉さん──『ヤンデレ姫』が、【びーえる編】の世界からこの世界へとやって来ても、別におかしくも何ともないことを、十分承知しているくせに」
かませ犬「な、何だと⁉」
鬼畜メガネ「いやね、誰かさんが解説してくれるのを、今か今かと待っていたけれど、どうやらここは僕が解説役を担うのが、『お師匠様』のご意思らしいので、よそ者のくせに僭越だけど、君の疑問にはこの僕が、今からちゃんと答えてあげるよ」
かませ犬「へ? お師匠様って」
鬼畜メガネ「それは、君が気にすることじゃない。──それよりも、解説を始めるよ?」
かませ犬「……あ、ああ、頼むよ」
鬼畜メガネ「そもそもこのチャットルームに参加しているメンバーは、全員別に実体を伴ったりしていないのは、わかるよね?」
かませ犬「ば、馬鹿にするんじゃない! ネット上のチャットは、基本的には『文字』だけで、ボイスチャットなら文字通り『声』だけで、参加していることなんて、ほんの子供でも知ってるだろうが⁉」
鬼畜メガネ「ああ、違う違う、それは『ゲンダイニッポン』のインターネット上の話だろ? この世界における『量子魔導ネット』上のチャットだと、話は違ってくるんだ」
かませ犬「は? それって、どういう……」
鬼畜メガネ「実は量子魔導ネットというのはね、『ゲンダイニッポン』で言うところの、時制すら超越したありとあらゆる世界のありとあらゆる存在の『記憶や知識』が集まってくるという、いわゆる『集合的無意識』そのものなのであって、だからこそ我々は自分の世界から量子魔導スマホを使うことで、実は集合的無意識である量子魔導ネットを介して、『ゲンダイニッポン』のインターネットと接続して、『小説家になろう』や『カクヨム』等に公開されているWeb小説の閲覧なんかを始めとして、様々なインターネット上のサービスを享受できているんだよ」
かませ犬「……へえ、こんな剣と魔法のファンタジー世界に居ながら、いかにも当たり前のようにして、『ゲンダイニッポン』のインターネットに接続できていたのには、そんな複雑な仕組みがあったわけなのかあ」
鬼畜メガネ「それは現在我々が行っている、この『量子魔導ボイスチャット』についても同様で、別に我々は音声データのみをやりとりしているわけではなく、集合的無意識である量子魔導ネットを介して、『記憶や知識』──つまりは脳内における『思考』そのものを、今回の反省会の会議場である『量子魔導チャットルーム』へとアクセスさせて、参加メンバー同士で直接『思考』そのもので意見を交わして、その結果をそのつど量子魔導ネットを介して、自分の脳みそにフィードバックすることによって、あたかも『会話』しているように感じているだけなのさ」
かませ犬「えっ、何でたかがボイスチャットごときに、そんな面倒なことしているの?」
鬼畜メガネ「だ・か・ら、単なる音声データでは、複数の世界間においては、やりとりできないからだよ!」
かませ犬「わ、悪い。そうだった、それこそがそもそもの、発端だったっけ。──しかし、すごいもんだな、集合的無意識って。お互いの脳みそを直接つなぎ合わせて、世界の別を超えた全人類の『記憶や知識』を統一させて、このように言わば『超自我的インターネット』とも呼ぶべきものを構築して、世界の境界を越えて情報のやりとりができるんだから」
鬼畜メガネ「そりゃすごいだろう、何せこれぞ、『ゲンダイニッポン』のWeb小説でお馴染みの、異世界転生や異世界転移の仕組みを、論理的かつ現実的に説明したようなものなんだから」
かませ犬「は………………………………………って、それって、本当かよ⁉」
鬼畜メガネ「そもそも、おかしいとは思わないのかい? 僕が今ここで、平気な顔をしていることを。僕はまさに今回の【びーえる編】において、『転生者』として僕の世界にやって来ていた、そちらのこの反省会の議長であられる、ちょい悪令嬢さんを削除してしまったんだよ?」
かませ犬「そ、そういえば────つうか、そんなこと言い出したら、あんたに削除されたはずの、アル……じゃなかった、ちょい悪令嬢が、ここに存在していること自体が、おかしくなるじゃないか⁉」
鬼畜メガネ「それはね」
かませ犬「そ、それは?」
鬼畜メガネ「この反省会自体が、【番外編】だからだよ♡」
かませ犬「へ………………………って、ちょっと待て、おい⁉ 何が、【番外編】だ! ふざけるんじゃねえ! まさか今更になって、削除されたはずのちょい悪令嬢が平気な顔をしているのも、あんたがのうのうとここにいるのも、すべて【番外編】だからとか言うつもりなのかよ⁉ そんなこと言い出したら、もはや『何でもアリ』になってしまうだろうが⁉」
鬼畜メガネ「冗談だよ、冗談、ちょっとからかっただけさ」
かませ犬「こんな珍しくも真面目なシーンで、いきなり冗談なんか、言うんじゃない! この反省会、ただでも『メタ』強めでお送りしているというのに、これ以上好き勝手言っていたら、収拾がつかなくなるぞ⁉」
鬼畜メガネ「だから、悪かったって。とにかく、話を続けるよ」
かませ犬「……見かけに反して、何て性格が悪いんだ。やっぱあんた、その『鬼畜メガネ』ってHN、よく似合っているよ!」
鬼畜メガネ「え、そんなに僕って、性格悪いかな? 心外だなあ」
かませ犬「いいから早く、解説を続けろ!」
鬼畜メガネ「OKOK♡ ──それでね、あの時僕が削除した『転生体』って、ちょい悪令嬢さんそのものではなく、いわゆる『残留思念』のようなものだったんだよ」
かませ犬「ざ、残留思念って……」
鬼畜メガネ「【びーえる編】の僕が主役だった回の前の回──すなわち、ヤンデレ姫が主役だった回のラストで、正体不明の『執事服からメイド服に着替えた少女』なる人物が言っていたじゃないか、『とにかく私はアル様の「記憶と知識」だけを回収して、元の世界に戻ることにします』って。それなのに次の僕が主役の回にも、『転生体』を宿した少年版アル君が登場したことに、矛盾を感じないかい?」
かませ犬「そういえば……」
鬼畜メガネ「実はね、あそこで言う『転生体の回収』とは、少年版アル君から『転生体』を削除することではなく、むしろこちらの世界のちょい悪令嬢さんにおける、集合的無意識とのアクセス状態を解除することだったんだよ」
かませ犬「え? え? あんたが何言っているのか、さっぱりわからないんだけど?」
鬼畜メガネ「それは申し訳ない。じゃあ、最初から噛み砕いて説明するとね、『ゲンダイニッポン』のWeb小説お得意の異世界転生って、別に本当に『ゲンダイニッポン人』の魂とか精神とかが、異世界人に宿るのではなく、何らかの理由によって異世界人が集合的無意識と常時アクセスできるようになって、無意識にある特定の『ゲンダイニッポン人』の『記憶と知識』を己の脳みそに読み込むことによって、あたかも『前世の記憶』に目覚めたような状態になっているだけなのさ」
かませ犬「なっ⁉ それじゃまるで、異世界転生ってものが、単にあくまでも生粋の異世界人が、自分の前世は『ゲンダイニッポン人』だと思い込んでいるに過ぎないという、妄想状態にあるようなものじゃないか⁉」
鬼畜メガネ「ああ、まさにこれこそが先程述べた、異世界転生の仕組みの論理的かつ現実的解説──というわけなんだよ」
かませ犬「……いいのか? これってある意味、これまでの『ゲンダイニッポン』のWeb小説における、異世界転生の共通認識というものを、完全に覆してしまったようなものじゃないのか⁉」
鬼畜メガネ「別に構わないよ。それを判断するのは、あくまでも個々のWeb作家であり、僕のほうもあくまでも、異世界転生に対する見解の一例を挙げただけだしね」
かませ犬「あんたがそう言うならいいけどよ、絶対後で後悔すると思うぜ?」
鬼畜メガネ「ご心配には及ばないさ。それよりも話を続けるけど、今回の【びーえる編】の場合においては、ただ単に少年版アル君に集合的無意識とのアクセス経路を開いただけでは、大本のこちらの世界のちょい悪令嬢さんには、基本的には『びーえる世界』で起こった出来事はまったく関知できないんだけど、彼女にも集合的無意識とのアクセス経路を開いて、少年版アル君からの『記憶と知識』のフィードバックのためのルートを構築すれば、『転生者』を宿した少年版アル君の言動の一部始終を逐一把握することが可能になるわけであり、実は『執事服からメイド服に着替えた少女』なる人物が言っていた、『アル様の「記憶と知識」の回収』とは、この世界におけるちょい悪令嬢さんの集合的無意識とのアクセス経路を閉じることで、『びーえる世界』からのフィードバックを不可能にしただけで、それに対して少年版アル君と集合的無意識とのアクセス経路は開いたままだったので、いわゆる『転生体が憑依した状態』でいられたって次第なのさ。──まあ、結局最後に僕がその経路を閉じてしまったからこそ、少年版アル君は完全に『転生体』から解放されて、異世界転生状態から抜け出すことができたんだけどね」
かませ犬「……へえ、話が前後で矛盾していたりして、いかにもいい加減に創られていたと思っていたんだけど、あの【びーえる編】って、そんな複雑な理論の元で構成されていたのかあ」
鬼畜メガネ「そうだよ。何せこの『わたくし、悪役令嬢ですの!』という作品は、本編か番外編かにかかわらず、常に緻密な論理構成に基づいて創られているのであって、一見矛盾しているように見えても、そこには必ず何らかの理由が存在しているのだから、読者の皆様におかれましても、無粋なツッコミなぞ入れることなく、存分にストーリー自体をご堪能なされるようお薦めいたしますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします♡」
かませ犬「──最後の最後で、いかにも露骨な宣伝をしてきたもんだな、おい⁉」




