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第1839話、わたくし、『ユーフ○』は久○子だけでは無く、麗○との『二人の成長物語』だと思いますの☆【前編】

「──はい、結構です、一番の方、ありがとうございました」




 市民ホールに設けられた小規模なコンサート会場にて、顧問のタ○先生の声が響き渡る。


 それとともに、暗幕の向こうで、ユーフォの奏者が交替する気配が感じられた。




 ──素晴らしい、演奏だった。




 おそらく今のが、真○ちゃんのほうであろう。




 もちろん、確証は無い。


 そもそも私には、人の演奏を明確に聴き分けられるほどの、音楽の才能は無かった。


 現在担当しているマリンバの息継ぎ方法すら、ほんの数ヶ月前に会得したばかりだし。


 ──それでも今のが、真○ちゃんの演奏だと、信じられた。


 ……そのことには当然、昨年度の『アンサンブルコンテスト』で、彼女の対抗馬の久○子ちゃんと同じグループで、その演奏を何度も間近に聴いたことも、大いに参考になっているのも事実だ。


 でももしもそのことが無くても、私は真○ちゃんの演奏を、聴き分けることができたであろう。


 何と言っても彼女の奏でる音は、これまで聴いてきた様々な演奏と比較しても、癖が無くまっすぐで、これ以上精緻で清らかな音なぞ存在し無いであろう。


 それでいて、常に高坂さんのトランペットの演奏のフォローに徹して、どんな譜面においても彼女が全力を引き出せるように導いており、まさしくたった今の演奏こそが、高坂さんにとっても『ベスト』であったのは、疑いようが無かった。


 ……久○子ちゃん、可哀想。


 こんな『完璧な』演奏の後で、オーディションを受けるなんて、『公開処刑』以外の何物でも無いであろう。




「──準備は整ったようですね、それでは二番の方、演奏を始めてください」




 そのように、タ○先生が、次の奏者を促した、


 まさに、その瞬間であった。




「え」




 思わず声が、唇をついて出た。


 オーディションの本番中に、何たる失態だ。


 ……だが、それを咎める者は、誰一人とていなかった。


 あのタ○先生すら、口をあんぐりと開けて、驚愕の色を隠せないでいた。


 そうなのである。


 私だけじゃ、無かったのだ。


 今ここにいる、北○治吹奏楽部の全員が、我が耳を疑い、困惑の極みに達していたのである。


 ──だがそれも、ほんのわずかな間のみだった。


 もはやここにいる誰もが、一人残らず、『陶酔』しきっていた。




 ……何て、『エロティック』な、音色なのだろう。




 女子高校生の吹奏楽部員の、厳格なるオーディションの最終審査の、真っ最中のはずが、


 なぜだかみんな、恋人同士の熱く激しい睦み合いを、まざまざと見せつけられているような、イケナイ錯覚に陥っていた。


 ……何だ、


 これは一体、何なんだ?


 私たちは今、一体『何』を、聴かされているのだ?




「──ストーップ! ストーップ! もうわかりましたから、やめてください!」




 もはや堪りかねたといった感じで響き渡る、タ○先生の悲鳴のような叫び声。


「………何ですか、先生。せっかく気持ちよく吹いていたのに」


「ホントーに、申し訳ない、高坂さん! 神聖なオーディションの最中に、あるまじき行為だと重々承知していますが、これ以上は皆さんがちそうに無いのですよッ!」


「あら皆さん、どうしたのですか、まるで魂を抜き取られたかのように、ぐったりと座り込まれたりして?」


「「「「「──もう少しで本当に、魂を抜き取られそうになったんだよ⁉」」」」」


「はあ?」


 …………無自覚なのかよ、この『天才少女』は⁉


「ああ、もういいです! これじゃあ、改めて決を採る必要は無いでしょう! もしこの中で、二番では無く一番のほうがいいと思う方は、手を上げてください!……………………当然、いませんね? ──ということで、全国大会でのソリは、高坂さんのトランペットと、黄前さんのユーフォニアムのペアで、」


 ──ちょっ⁉




「ちょっと、待ってくださいっ!」




 その時ホール内に響き渡る、少女の声。


 それは間違い無く、私の唇から発せられたものであった。


「……釜○つばめさん? 何か異論でもお有りですか?」


「いや、今の黄前部長の演奏は、確かに素晴らしいかと思います、でも、おかしいでしょう⁉」


「おかしいとは、何がでしょうか?」




「黄前さんと言うよりは、高坂さんのほうです! 演奏のレベルが明らかに、一番目の黒江さんの時とは、段違いに素晴らしかったではないですか⁉」




 そうなのである。




 言うまでも無くこれは、ユーフォニアムのソリストを決めるためのオーデションであって、トランペットはあくまでも伴奏に過ぎず、当然のように選考対象ごとに演奏に差をつけるなんて、もっての外なのであった。




「そういえばッ…………高坂さん、これは一体?」


「わ、私別に、相手が久○子だからって、贔屓をするつもりなんかありませんよ⁉」


「でも確かに、黒江さんの時とは、演奏がまったく違いましたよね?」


「そ、それは………」




 途端に言葉に窮する、天才トランペッター少女。




 ──な、何よ? まさか今の超絶技巧のプレイを、本当に無意識でやっていたと言うの⁉


 驚愕のあまり、完全に無言となる、この場の一同。


 ──いや、違った。




 ……くく、


 ……くくくくく、


 ……くくくくくくくくくくく、




「……くくくくく、かかかかか、くははははははははは!!!」




 ホール内を支配していた静寂を切り裂くかのように鳴り響く、下卑た哄笑。




 何とそれは、くだんの暗幕の中から聞こえていた。


「──あんッ⁉」


 その布のカーテンの隙間から伸びてきた腕が、高坂さんの華奢な肢体を絡め取るように抱き寄せる。


「あんまり麗○を責めるなよ? こいつはただ、私にいいように『鳴かされた』だけだからな」


「……お、黄前、さん?」


 いかにも猥雑に舌なめずりをしながら現れたのは、今し方まであの甘美なるユーフォの調べを奏でいた、久○子部長殿であった。


「黄前さん、あなたが高坂さんを『鳴かせていた』とは、一体?」


「タ○先生よう、ちょっとメタ的なことを伺いますけど、この『響け!ユーフ○ニアム』の、『全編を通じてのテーマ』って、一体何だと思われます?」


 何をいきなり言い出しているんだ、この『主人公』は?


「そ、それはもちろん、他ならぬあなた──『黄前久○子の成長物語』なのでは?」


「そうだろ? 普通そう思うよなあ?」


「え?」




「どいつもこいつも勘違いしやがって、今度のアニメ版第12話の『大改悪』も、『……これは黄前久○子の成長物語だから、別にユーフォ奏者として成長しなくても、北○治吹奏楽部の部長として成長すれば、それで良く、第12話の原作改変は間違っていないんだ!』なんて、『詭弁』を弄して某五流脚本家を擁護する始末。──いやあ、勘違いも甚だしいとは、まさにこのことだぜえ」




「……つまり、これはあなたの成長物語では無いと? それでは、一体何だと言うのですか⁉」







「決まっているだろ? この『響け!ユーフ○ニアム』と言う物語は、原作小説版か漫画版かアニメ版かにかかわらず、私『黄前久○子』()()の成長物語──()()()()、私と今この腕の中にいる高坂麗○との、『二人の成長物語』なんだよ☆」







「「「「「──‼」」」」」







 な、何ですってえ⁉


 この『響け!ユーフ○ニアム』が、『久○子部長と高坂さんの成長物語』ですとお⁉




「──と言うことで、例のアニメ版第12話は、まったくの大間違いだし、某五流脚本家は、何もわかっちゃいなかったくせに、取り返しのつかない暴挙をしでかしたことになるんだよ★」




「ちょっ、隙あらば『超危険発言』をぶっ放さないでください! 何が『大間違い』で『暴挙』なのか、ちゃんと根拠が有るのですか⁉」


「もちろん有るよ? 少なくとも今回の『アニオリ』のオーディションにおいて、麗○に伴奏をさせては()()()()()()()()のさ。──何せ、私と麗○が一緒になれば、文字通り『無敵モード』が発動して、この世で敵う相手なんていなくなるんだからな♫」




「へ?」




「……ホント、あの五流脚本家って、つくづく考え無しの能無しだよなあ。たぶん、オーディションの投票数を最終的に『同数』にして、文字通りの『最後通牒』を大親友の麗○にさせると言う、得意の『エモいだけで中身の無い』演出で、馬鹿な視聴者どもをだまくらかそうと思ったんだろうが、まんまと墓穴を掘りやがってwww」




「──だから、全方面に喧嘩を売るのはやめてー! ちゃんとわかるように説明してえー!」




「正直言って、私の演奏技術は、真○ちゃんに数段劣るし、もしもトランペット無しの一対一の勝負だったら、負けていただろうよ」


「え、でも、今の演奏はあなたのほうが、圧倒的に良かったですけど?」


「だからそれは、某五流脚本家の『大ポカ』のせいなんだよ。──さっきも言ったろ? これは私だけの成長物語では無く、あくまでも『黄前久○子と高坂麗○の成長物語』だと」


「え、ええ」


「だったら当然、これまでの三年間においては、別々に個人練習ばかりしていたわけでは無く、機会があれば一緒に吹いて、お互いに『息の合った演奏』を磨き上げていったのは、想像に難くないよね?」


「そ、そういえば、今回の第3期でも、高坂さんのお宅で一緒に演奏しているシーンが有りましたっけ?」







「──つまり今や私たちは、お互いの得意な面や弱い点や癖とかを、全部知り尽くしていて、文字通り『あうんの呼吸』で協奏でき、お互いに欠点を補うのはもちろん、お互いに『実力以上の力を引き出すこと』だって、普通にできるようになっているのさ☆」







「「「「「──なっ⁉」」」」」







(※次回に続きます)

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