第1806話、わたくし、別に台湾は中国に対して何も悪いことはしていないのに、一方的に『武力侵攻』するのは、単なる『同胞たる中国人殺し』だと思いますの★
──ここは東京都港区元麻布に所在する、東アジア最大の軍事国家、『中つ国人民共和国』の駐日本国大使館。
現在ここでは、七十年前の内戦において最終的に敗北を喫してしまった、憎き真の中華の主、『タイヴァーン諸島国』の新総統の就任式への『面当て』そのままに、日本の思想の偏った政治家や学者や労働運動家どもをかき集めた、『国際的に何の意味も無い座談会』が開催されていた。
もちろんこの場を仕切っているのは、大使とは名ばかりの本国共産党中央政治局のスポークマンに過ぎない、駐日大使殿その人である。
「──と言うわけで、日本国政府や一般国民が、これ以上タイヴァーンの肩を持ち、我が国に対して内政干渉をし続けるつもりなら、我が偉大なる国家主席閣下が率いる、共産党の私兵集団『人民解放軍』がその力を大いに発揮し、日本の民衆は必ずや火の中に連れ込まれることになるだろう!」
日本の首都にあって、傲岸不遜にも三流後進国の名ばかり大使風情が、遙かに格上の日本国の主権者である一般民衆の皆様──つまり、中つ国で言えば、国の天然記念物でもある『黄色い熊』の国家主席に相当する、れっきとした『日本国憲法上の主権者』に対して、無礼千万なことをほざき始めたのであった。
それに対して抗議の一つもせずに、むしろ『全面的に賛同』とばかりに、笑顔で拍手喝采を送る、まさに日本国民全員の敵にして売国奴の、元『民死党』の総理経験者に、現『社会民死党』の党首殿。
他の『レフトサイド』の思想家や学者や労働組合幹部どもも、皆似たり寄ったりの追従ぶりであったが、
──一人、あまりにもこの場に似つかわしくない、銀髪金眼の天使か妖精かと見紛うほどの美少女だけが、まるでピエロを見下すような、侮蔑の笑みをたたえていたのであった。
「……これは異界の姫君にして悪役令嬢の、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナ殿、何か私の演説に、おかしなところでもございましたでしょうか?」
──何でこんな会合に、『悪役令嬢』なんて招いてるんだよ⁉
いきなり世界観を、『なろう系』にするんじゃ無い!
「あら、何がお気にさわりましたでしょうか、それは申し訳ございません。──あまりにも大使殿の『お覚悟』の程が、大層ご立派でしたので、驚くとともに感心しておりましたの」
「……私の、覚悟ですか?」
「ええ、ご自分の『共産主義』と言う政治理念に対する忠誠心に則り、非武装の民衆まで戦火に沈めると明言なされたのは、外国に在駐する大使としてはどうかと思いますが、共産党の高官としては、ご立派なおっしゃりようかと存じますわ」
「あ、いえ、私といたしましても、日本の皆様に恨みが有るわけでは無く、我が国の内政問題に対して自重してくだされば、何の文句も無い次第でして……」
「いえ、日本の民衆では無く、タイヴァーンの民衆の話ですわ」
「は?」
「……つまりおまえは、タイヴァーンへの『武力侵攻を否定しない』わけなんだろ? それってタイヴァーンの民衆を──すなわち、自分と同じ『中つ国人』を、殺して殺して殺し回るって、宣言したも同然じゃん? 確かに大使には赴任先の国において『宣戦布告』に準じた権利が行使可能だけど、日本人に対して宣戦布告するのでは無く、同じ中つ国民族に対して『言うことをきかなければ殺す』宣言をするなんて、かのヒトラー以上の暴虐極まる殺戮者であり、おまえらと同じ頭の狂ったアジアの共産主義者、ポルポトの『クメール・ルージュ』の再来じゃん? いやあ、すでに21世紀になって20年以上も過ぎて、そんな蛮族そのまんまなことを国際社会に向かって宣言できるなんて、おまえらの国は国家主席から外交部から末端の大使に至るまで、さぞや心臓に毛がボーボー生えていることだろうなwww」
「わ、我らの崇高なる宿願の『タイヴァーン統一』が、同族殺しの蛮行ですとッ⁉」
「そうじゃん? タイヴァーン人と言っても、おまえらと同じ『中つ国人』なんだろ? おまえらのやっていることは結局のところ、単なる『同族殺し』じゃんか?」
「──ち、違う! たとえ同じ中つ国人と言っても、現在のタイヴァーン人は、けして我らが偉大なる共産党の国家主席であられる黄熊同志を崇め奉ろうとしない、『反逆者』集団であり、我らはただ単に、当然の『懲罰』を与えようとしているだけだ!」
「……うわあ、考え得る限り、最低の返答をほざきやがったぞ」
「どこがだ⁉ 完璧に当然の理だろうが⁉」
「それを『当然』と思えることこそが、『狂っている』って言ってんだよ。つまり、おまえはたった今、
『我ら共産党に従わぬ者は、たとえ同じ中つ国人といえども、殺して殺して殺し尽くすのみ!』──と、言ったも同然なんだよ!」
「──ッ」
「……いやあ、ホンマ怖いわ、『共産主義』って。そういや第二次世界大戦後において、自国民を最も多く虐殺したのも、『クメール・ルージュ』の共産主義者どもだったっけ?」
「そんなのと一緒にするな! 我が中つ国共産党政権が、少なくとも現在本国内にいる無辜の中つ国人を、殺したりするわけが──」
「『六四天安門事件』」
「──そういや、そうでしたああああああああああああ!!!」
「だからさあ、あんたの言ったことって、別に日本人は問題にしていないんだよ、三流後進国のザコ大使が何をほざこうが、日本人にとっては痛くもかゆくも無いからな。──だけど、タイヴァーンはおろか、本国人民共和国を始め、世界中の『中つ国人』にとっては、どうかな?」
「ど、どうかな、って……」
「おまえの今回の『放言』は、日本人を敵に回したのでは無く、世界中の中つ国人を敵に回してしまったんだよ。何せ、タイヴァーン人は間違いなく『中つ国人』であり、おまえらが彼らに対する『武力侵攻』を否定しないのは、たとえ中つ国人であっても、自分たちの『共産主義政権』を否定しているからであって、それはつまり現在れっきとした中つ国人民共和国の国民であっても、『天安門事件』や『香港の民主化運動』みたいに、少しでも共産党政権に異を唱えれば、戦車に轢き潰されるわけで、至極単純に申せば、おまえら『中つ国共産党』こそが、人民共和国内を含む地球上の全中つ国人の『敵』であることが、はっきりしたんだよ」
「そんなことあるか! 今名前が挙がったやつらは、共産主義政権とかに関係無く、単なる国家的反逆者じゃ無いか! 我々共産党政権は、平穏無事に暮らしている人民に対して危害を加えることなぞ、けして有り得ないのだ!」
「……おいおい、かつての『文化大革命』において、正真正銘『無辜の民』が、一体どれだけ『反動勢力』の濡れ衣をかけられて、粛正されたかを、もう忘れたのかよ?」
「──そういや、そうでしたああああああああああああ!(二回目)」
「……あ〜あ、日本はおろか、タイヴァーンに喧嘩をふっかける前に、もはや中つ国共産党はおしまいだねw 中つ国14億人の人民のうち、わずか1億人でも、この『共産党はほんのちょっとでも、自分たちの共産主義に背いていると断定すれば、同じ中つ国人といえども、殺して殺して殺して殺し尽くす危険性を孕んだ、邪悪なる集団である』と言う事実を知られてしまったら、即刻『真の人民革命』が起こって、影も形も無く叩き潰されることだろうよ★」