第百六十四話、わたくし、『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』になりましたの!(閑話)
「──教皇聖下、なぜこの場に呼ばれたのか、おわかりですかな?」
他国の王侯貴族をも含む、多数の『なろう教』信者のお布施や労働力の提供により、驚くべき短期間にて復興が成った、世界宗教『聖レーン転生教団』総本山、聖都『ユニセクス』教皇庁最上階、最高幹部会議室『円卓の間』。
そこに集いしは、教皇本人と、その『聖少女』に常に忠義を尽くす、壮年の枢機卿たちなのだが、本日の様子はいつもとは大きく異なっていた。
そう、一応会議の名の下に召集されてはいるもののその実体は、教皇たる我、アグネス=チャネラー=サングリアの独断専行に対する、『弾劾裁判』以外の何物でもなかったのだ。
「……まったく、けしからん話だ」
「たとえ『なろうの女神』様の第一の使徒たる、教皇聖下とはいえ、何をやっても許されるわけではないのですよ?」
「もし聖下の一存で、何事も成し得るとしたら、我ら枢機卿なぞ必要なくなるではありませんか?」
「しかも、最高幹部会にかけることなく、目下『仮想敵国』に指定されている、ホワンロン王国の『過去詠みの巫女姫』を始めとする、重要人物たちと結託なされるとは」
「これはすでに、教団に対する『背信行為』と言っても、過言ではありませんぞ?」
「更に問題は、今回の『仮想世界』を構築するのに、夢魔なぞの力をお借りになったことです」
「確かに夢魔ならば、現実そのままの『夢の世界』を構築できるので、『仮想世界』づくりにはうってつけでしょうが、聖なる御身が淫魔の力を借りるとは、何事ですか⁉」
「──それも何と、『魔法令嬢』たちをヒロインにした、痛快アクション娯楽大作ですと?」
「何で聖なる教団のトップが、敵国の巫女姫や夢魔なんぞの力を借りてまで、『ニチアサ』みたいなことをしているんですか⁉」
「確かに、我々教団にとっての最大の『神罰対象』である『悪役令嬢』を、文字通りの『悪役』として、退治しようとしているところは、一見非常に好ましく思われます」
「しかしヒロイン側の『魔法令嬢』が、『悪役令嬢』の実の娘であるという、最近の『魔法少女モノ』お得意の『誰もが驚く意外な事実』設定によって、結局は『悪役令嬢』礼賛作品以外の何物でもないではありませんか⁉」
「……ったく、いいですか、聖下? そもそも『魔法少女』の類いは、我々宗教団体の根絶対象である『魔女』を一般大衆向けに、いわゆる『萌えキャラ』化した存在でしかないのですよ?」
「それを教団がスポンサーになって、夢魔に仮想世界を創らせてまで、『物語化』してしまうなんて、一体何を考えられているのですか?」
「あまつさえ信じられないことにも、『過去詠みの巫女姫』本人を、教団の最終計画研究所において昏睡状態にして、夢の世界たる『仮想世界』の中へダイブさせているですと⁉」
「仮想敵国の要人を眠ったままとはいえ、教団最高機密の極秘研究所に立ち入らせるのも言語道断だし、逆に『過去詠みの巫女姫』の身にもしものことがあれば、ホワンロン王国に格好の『開戦』のチャンスを与えるようなものですぞ!」
「加えて、他の大陸各国の『悪役令嬢』たちも、『魔法令嬢』として登場しているようですが、こちらは一体どういった仕組みになっているのかを始めとして、何ゆえ基本的に敵対関係にある彼女たちを、『仲良しヒロイン』に仕立て上げたのか、それもよりによって、全員一律に低年齢化させたのか、まったく理解に苦しむのですが?」
「──しかも何ですか、最新の『実験例』においては、本来予定に無かった、『初代の過去詠みの巫女姫』なぞを登場させて!」
「かの者こそ、我ら教団にとっての、『最要注意警戒対象』のはず」
「一体いつの間に教皇の独断で繋ぎをとって、お遊びとはいえ、『仮想世界』の中に招いたりしたんですか⁉」
「……それによって、案の定、『過去詠みの巫女姫』を危険にさらすことになるし」
「いいですか? 強大無比なる『教皇としての権力』は、あくまでも教団全体のために使うべき、『公の力』なのであって、『子供のわがまま』のために使用していいものでは無いのですよ?」
「さっきから黙りこくっておられますが、本当に反省なされているのですか?」
「──もしそうだというのならば、それなりの『誠意』をお見せください!」
そのように、第一席の枢機卿が代表して叩きつけるように言い放つや、一斉に沈黙して、我の返答を待ち構える態勢となる、最高幹部たち。
……誠意か。
確かに、すべては教団のためとはいえ、事を急ぐあまり、枢機卿たちの意向を無視して、スタンドプレーに走りすぎた感は否めまい。
その結果、教皇としての責を問うというのなら、甘んじて受けようぞ。
それがもしも、『教皇の地位の剥奪』、であろうとも──。
「……相わかった、すべては貴君らの、求めるままに応じる。何なりと申しつけるがいい」
爪が食い込むほど両の拳を握りしめながら、断腸の思いでどうにかそれだけを口にする。
「……ほう、『何なりと』、ですと?」
常にはない、冷め切った疑惑の眼差しで聞き返す、第一席。
「ああ、我には二言は無い!」
「そうですか、それでは──」
ここでなぜか、一斉に前のめりになる、枢機卿たち。
「──それでは当然、『二期』も、ございますのでしょうな?」
………………………………………は?
「な、何のことじゃ、その、『二期』って?」
「そちらこそ、何をおっしゃる!」
「『二期』と言えば、決まっておるではないですか⁉」
「聖下御自らが制作なされた、『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』の続編ですよ!」
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……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや⁉
「ちょ、ちょっと、待てえい⁉ そなたらは、我が最高幹部会の意向を無視して独断で、夢魔と『仮想世界』を構築して、『過去詠みの巫女姫』たちを魔法令嬢に仕立て上げたことに対して、今度こそ本気で怒りを覚えて、責を問うていたのではなかったのか⁉」
「ええ、怒っていますよ、まさに『我々の意向を無視して、聖下が独断ですべてを進められた』ことに対してね」
「──何よりも、『我らを参加させていれば、もっとうまくやれたのに』ってね!」
「なっ⁉」
………………おいおい、結局またしても、いつものパターンかよ⁉
「まず何といっても、なぜに肝心の、聖下が参加なされていないのですか⁉」
「い、いや、なぜにと言われても、魔法令嬢を一人残らず絶望の淵に陥れる予定の『すべての黒幕』が、最初から普通に登場していたほうが、おかしいではないか?」
「何をおっしゃるのです! 聖下がメンバーにいないで、何が『魔法令嬢』ですか!」
「えっ、二期にいきなり何の脈略もなく、初っぱなから黒幕を登場させるだけでなく、主人公サイドの『魔法令嬢』に参加させるの? 何その斬新な続編案⁉」
「ぐふふふふ、すでに我々枢機卿一同により、『魔法令嬢』としてのバトルコスチュームも考案済みなのですぞ♡」
「何じゃこの、『ブラック・ホーリー・プリンセス・バトルコスチューム・ナンバー34』というのは⁉ 漆黒のエナメル調で、肌色面積が極限まで多くて、エロい、とにかくエロすぎる! こんなもの、7歳の幼女に着せては駄目だろうが⁉ それに何じゃ、『ナンバー34』って、こんなのが後33もあるのか⁉」
「いえ、正確には、考案数だけで、100000000ほど、決定案数では1008ほどとなっております」
「多過ぎだろ⁉ 考案数は論外として、決定案だけでも千を越えとるではないか⁉ そこはせめて108とか…………いや、それでも多いけどっ!」
「そんな! ここまで絞るのにも、昨夜一晩を要し、枢機卿全員で、断腸の思いで妥協したのですぞ⁉」
「こんなふざけたことを決めるのに、『断腸の思い』も『妥協』もあるか! もっと重要なことに時間をかけろ!」
「は? 我々にとって、アグネス聖下のコスチューム以外に、何か重要なものがあるとでも?」
「あるじゃろ、いっぱい! 『過去詠みの巫女姫』や夢魔などといった、本来『神罰』の対象である輩を集めて、教皇である我が一体何を企んでおるのかとか⁉ ──それから一応『お約束』だから言っとくが、我のことを、『アグネス聖下』呼ぶな!」
「ああ、そのことですか?」
「そ、そのことって、そなたらは、まさに『そのこと』について、文句を言っていたのではなかったのか⁉」
「いいえ、我々は、それほどの『脇役』たちをお集めになっていながら、聖下御自らが『主役』として、表舞台に立たれないのを不満に思っていただけです」
「ちゃんと我々に前もってお知らせいただければ、聖下こそをメインヒロインとして、より素晴らしい『イベント』にさせていただいたのに」
「左様、それ以外のことであれば、聖下がお決めになったことに、我々枢機卿が異を唱えることなぞ、あろうはずがないでしょうが?」
「……ということは、このまま『計画』を進めても、構わないわけだな?」
「「「御意に、ございます」」」
「相わかった、計画成就の暁には、必ずや諸君──いや、教団全体の悲願達成に寄与することを、教皇アグネス=チャネラー=サングリアの名において、ここに誓おうぞ」
「「「ははー、すべてはアグネス聖下の、御心のままに!!!」」」
「──だから、我のことを、『アグネス聖下』って呼ぶなと、言うておろうが⁉」