第1632話、わたくし、女性の自動車運転は全面的に禁止すべきだと思いますの(怒)
「──大臣、どうかご決断ください! 日本に『真の男女平等』を実現させるためには、是非とも必要なことなのです!」
深夜の総理官邸にて鳴り響く、憲政始まって以来初の女性総理の悲鳴のような大声。
それも、無理は無かった。
昼間に始まった今回の閣僚会議は紛糾を極め、ついにはこのような夜更けにまで及んでいると言うのに、いまだ解決の目処が立っていなかったのだから。
──それもたった一人の、与党の最重鎮の老人の、頑強なる反対意見によって。
そもそも、『真の』男女平等とは、一体何なのか?
言うまでも無く、現行の憲法においてはいかなる差別も許されず、それには当然『男女差別』も含まれており、すでに少なくとも各種法令上では完璧な『男女平等』が実現されており、その大半が国会議員から構成されている内閣の各閣僚の守備範囲である、『立法』や『行政』ではもうこれ以上やることは無く、個々の事案に際して『男女差別』が存在しているかどうかは、『司法』の判断に委ねられるべきであろう。
──だが、甚だ奇妙なことだが、世界トップクラスの男女平等を謳っている日本国憲法下にあると言うのに、『男女差別』が厳然と存在していると声高に叫ぶ勢力が、日に日に発言力を増しているのだ。
例を挙げれば、大企業の役員に女性が少ないとか、大学の幹部に女性が少ないとか、それこそ国会議員に女性が少ないとか、もはや『難癖』レベルのことばかりであった。
……いや、現憲法以下のすべての法令において、女性が企業や大学で出世したり、国会議員になったりするのに対して、何らかの『制限』なんてまったく存在していないのだから、それって単に『女性の努力不足』なんじゃねえの?
酷いのになると、『結婚した場合、女性ばかりが姓を変えなければならないのは、男女差別だ!』とかほざいて、『夫婦別姓』を無理やり制定して、日本の家族の一体性や戸籍制度を破壊しようとする、卑劣なる無法者が出現する始末であった。
そんなもの、「どちらの姓に統一するのか、夫婦でようく話し合え!」としか、言いようが無いんですけどおw
なのに、信じられないことにも、『女性の努力不足』をガン無視して、『真の男女平等』とやらをごり押しするために、何と『大学の幹部』や『国会議員』について、女性を優先的に採用する、世に言う『クオータ制』のような特別なる法令を設けろと言うのである。
これじゃ、いくら何でもデタラメだ!
『平等』を目指しているはずなのに、いつの間にか『差別』規程を設けようとしているでは無いか?
そんなまさしく狂った状況下において、結党以来『外圧』に屈してばかりの政府与党であったが、中には旧『大日本帝国』当時同様に、気骨の有る『常識派』の御仁もいて、女性総理を筆頭に他のすべての閣僚たちが全員『賛成』に回っている中で、頑なに『反対』の意見を曲げようとはしなかったのである。
それはそうであろう。
こんな『歪んだ平等』を認めていると、日本国自体が腐ってしまいかねないのだ。
『LGBT理解促進法』の愚を、再び犯すわけにはいくまい。
何せ同法案の施行直後に、『LGBTの親玉』のような芸能界の超大物による、『未成年男児に対する大規模性的搾取』の事実が明らかになったのだから。
特に国会に『クオータ制』なんぞを持ち込んだ後に、『エッフェル塔』のモノマネしかできない馬鹿女ばかりが国会議員になったら、それこそ『憲政の終焉』である。
もちろん、(その『エッフェル塔派閥』の代表格である)女性総理だって、そんなことは百も承知だ。
しかし、政府与党の最大の圧力団体である経済界が、とっくに外圧に屈しており、欧米並みの『歪んだ女性優遇』や『狂った性的マイノリティ優遇』の推進を、火がついたようにせっついてきている現状においては、もはやわずかな憂慮も許されなかった。
「──大臣、お願いします! 今この時『真の男女平等』を断行しないと、我が党はもちろん、日本国もおしまいなのです!……………もちろん、こんなこと女の私だって、馬鹿げていると思います。世界中の政治家だって、本当はわかっているのです! つまり『女性や性的マイノリティへの優遇策』は、先進国にとっての『ハンデ戦』みたいなもので、この『ハンデ』を政策や経済活動に組み入れないと、『卑怯者』扱いされて、貿易の条件を厳しくされたり、下手したら世界市場からつまはじきにされて、我が国の企業が立ち行かなくなってしまうのです! 今我が党が経済界から見放されたら、おしまいなのですよ?」
もはや『女の武器』全開に、涙ながらに哀願してくる女性総理。
……そう言うところが『女の駄目さ』だと言うことがわからないのか、この駄目女総理は?
だが、すでに『おじいちゃん』の領域に差しかかっていた大臣のほうは、孫ほどの年の差のある総理の涙にほだされてしまい、ついに首を縦に振るのであった。
「……あいわかった、これも時代の趨勢だろうな、老人は潔く引き下がることにしよう」
「ほ、本当ですか⁉」
「──ただし、一つだけ条件が有る」
「…………はい?」
「『クオータ制』のように、女性のみに特別扱いを認めるのと引き換えに、すべての女性は今後一切、『車の運転を全面的に禁止する』ことを要求する!」
その瞬間、まるで時間そのものが凍りついたかのように、完全に停止してしまう、閣僚会議の場。
そんな中で、最初に我に返り激しく激昂したのは、この場における唯一の女性である総理自身であった。
「──ちょっ、一体何を言い出すのですか⁉ 今後一切女性に運転をさせないなんて、それこそ完全に差別そのもののことが、許されるわけが無いでしょうが⁉」
「……『クオータ制』だって、我々男性側から見れば、立派に『差別』そのものなのだが?」
「それとこれとは話が違うでしょう⁉ 女性にだけ車の運転を認めないなんて、過激な戒律主義者の国家や組織にだって、有り得ない暴挙でしょうが⁉ ──ちょっと、他の大臣の皆さんも、何かおっしゃってくださいよ⁉」
「「「──よくぞ言ってくださいました!!!」」」
「…………へ?」
あまりにも予想外の反応に、完全に面食らう総理を尻目に、口々に思いの丈を述べ始める、他称『他の大臣』たち。
「そうですよ、男女に何らかの格差規程を設けるとしたら、まず最初に『女性の運転禁止』ですよ!」
「前々から、これを言いたくて言いたくて、我慢していたのです!」
「まさか、実際に声を大にして主張してくださるなんて!」
「あなたこそ『勇者』です! 本物の『勇者』です!」
「──フリー○ン様も、思わず『投げキッス』をしてしまうことでしょう!」
「おらっ、ア○ラ! 『投げキッス』をしろ!」
「………何で私が、こんなことをッ⁉(いかにも嫌そうな顔をしながら『投げキッス』をするア○ラ様♡)」
「こっちのイラストピンナップを、『円盤特典』につけたほうが、絶対ウケたのにねw」
「──いや、もはや『勇者』なんてレベルでは無い! 全国の無数の凶悪なる『女性ドライバー』どもから、これから失われるかも知れなかった数多の国民の命を救った、文字通りの『救世主』だ!」
「……あいつら何なの、『女性ドライバー』って、一体何なの?」
「歩道を人が歩いているのに、一時停止もせずにその直前を横断して、ファストフードのドライブスルーに突っ込んでいったり」
「自転車に乗って坂道を上がっていたら、車がすぐ目の前の駐車場前の歩道に乗り上げてきたから、一時停止もしないで危ないと思ったけど、そのまま駐車場スペースに行くものと立ち止まって待っていたら、歩道の上で半分乗り上げたまま、地図か何かを見始めやがって⁉」
「車と言う免許制の『殺人マシン』に乗っていると言う自覚なんてまったく無しに、他の自動車どころか歩行者や自転車までも、自分を避けてくれるのが当然のように思いやがって」
「何か自分のせいでアクシデントが起こった場合も、『……あたし、女ですけど?』と言わんばかりに、被害者面する始末」
「自動車に乗っていると言うことは、場合によっては『人殺しの加害者』になり得ると言う覚悟も無いのなら、最初から運転するなって言うんだよ⁉」
「もうね、すべての女は、今すぐ免許を返納しろ!」
「その後は、一生家の中に引っ込んでいろ!」
「どうしても外出する必要が有ったら、徒歩か原付にしろ!」
「……あいつら、自転車に乗っても、危なっかしいんだよなあ」
「それがなぜだか、『原付』だけは、むしろ女性のほうが運転が穏やかで安心できるんだよな?」
「原付ってある意味、『女性専用』的なところがあるからな」
「うん、我が国の女性は、これから原付だけ乗りなさい」
「原付なら、どんどん乗ってもいいから、その代わり普通乗用車だけは、金輪際やめてくれよ!」
「後言うまでも無く、最近流行りの電動キックボードやフル電動自転車は、絶対に乗らないでね?」
「これは別に女性に限らず、全国民に言えることだけどな」
「もちろん、業者(主に海外)と癒着していた政治家は、こっちでちゃんと粛正しておくから」
そのように、まるで堰を切ったようにして、次々に『女性ドラバー』に対する不満をぶち上げていく、どちらかと言えばリベラル寄りであったはずの大臣のオッサンたちであった。
その様を見て血相を変えてわめきだす、女性総理。
「み、皆さん、一体どうしたのですか? さっきまであれ程、『真の男女平等』の実現に前向きだったのに!」
「もちろん、今も前向きですよ?」
「クオータ制、結構では無いですか? 今すぐ施行しましょうよ」
「企業や大学の女性幹部の優遇処置も、積極的に働きかけましょうや」
「「「──その見返りとして、『女性の運転の全面禁止』は、結構バランスがとれていると思われるのですけど?」」」
「いやいやいや、何で一国の大臣ともあろう方々が、そんなにも『女性ドライバー』を目の敵にされるんですか⁉」
「「「──そりゃあもちろん、自分自身や愛する家族が、『女性ドライバー』どもの危険運転の被害に遭ったことが有るからだよ(怒)!!!」」」
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メリーさん太「──ちょっ、何だよ、今回の【突発短編】のヤバさは⁉ 絶対各方面からクレームが殺到するぞ! どうしてうちの作者ってば、いきなりこんなエピソードを公開したんだよ?」
ちょい悪令嬢「──そりゃあもちろん、作者自身や愛する家族が、ほんのつい最近立て続けに、女性ドライバーの危険運転の被害に遭ったからだよ(怒)!!!」
【※作者注】
このところ連日続け様に、多忙を極める父親の介護の合間を縫って、買い物のために遠出をした際に、交通関係で嫌な目に遭ったせいで、つい感情的に書きなぐってしまい、(主に女性の方で)気を悪くされた方がおられましたら、大変申し訳ございません。
もちろん世間全般的には、女性だけでは無く、男性にも危険な運転をなされている方は、多数おられることでしょう。
ただし、その場合においても、男性が『乱暴』なのに対して、女性のほうは『不注意』だったり『図太』かったりするところが、問題かと存じます。
自動車のような『高速で移動する鉄の塊』は、『殺人マシン』に他なりません。
ちょっとした『不注意』で、大事故が起こり得るし、
「自分は女だから譲ってもらえるはず」とか、常に『被害者意識』に囚われているような、『図太い』態度では、円滑なる交通の流れを阻害するばかりです。
車の運転に、『男女の区別』なぞございません。
そんなもの有ると考えること自体が、『男女差別』です。
だからこそ、「私は女性だから」なんて言う『甘え』は捨てて、真摯に交通ルールを守り、常に歩行者等の真の『交通弱者』を優先する、文字通りの『安全運転』を心掛けていただきたいかと存じます。




