第十六話、わたくし、ＢＬ同人誌の世界へＴＳ転生してしまったのですの（その３）
「──何ですって？ 私のこの身のうちに、『邪神』を転生させるですって⁉」
あまりにも予想外の、『悪魔の契約』の申し出に、私は思わず手元の量子魔導スマートフォンに向かって問いただした。
『ええ、そうよ。だってそれこそが、貴女の願いを──すなわち、まさにこの、すべての女性をないがしろにし続けている、「ＢＬ小説そのものの世界」を生み出した神への復讐を成就し得る、唯一の方法なのですからね』
「──っ」
スマホの画面の中で、いかにも人の心のうちを見透かしたように、ニタリとほくそ笑む、『ゲンダイニッポン』で言うところのゴスロリドレスに年の頃十二、三歳ほどの中性的で華奢な矮躯を包み込んだ、女神を自称する黒髪黒瞳の絶世の美少女。
「……あなた、本当に、あの『なろうの女神』ですの？ 世界中の聖レーン教の数千万の信者が、家族や恋人や友人はおろか我が身すらも顧みず、すべてにおいて優先し崇め奉っているという」
『「あの」が「どの」を指すのかわからないけど、たぶんそれで間違いないでしょうね。何せあらゆる異世界転生や異世界転移を司る私であれば、現代日本の無職のニート野郎などという、最低の穀潰しであろうと、トラックに跳ね飛ばされて死んだ後で、神様同然のチート能力を与えて別の世界で生まれ変わらせてあげられるんですし。言わばこれぞ輪廻転生系の事実上の「不老不死」の実現であり、生きとし生けるものにとっての最大の見果てぬ願望ですので、世界の別を問わずすべての人間が、信仰の対象として崇め奉るのも当然でしょう』
「……何で『ゲンダイニッポン』のニートな穀潰しな方に、死後とはいえそのような出血大サービスのご利益をお与えになるのか、理解に苦しむのですが？ しかも『トラックに跳ね飛ばされて』とか、死因限定で」
『だって、私自身が「神」として、そういうふうに生み出されているんだから、仕方ないでしょう？』
「は？ 神として、生み出されているって……」
『あのね、「神様というものは、信仰によって生み出されている」という言葉があるように、まず人の祈りや願いがあってこそ、すべての神は「概念」として生み出されることになるの』
「はあ」
まあ、それは何となく、わかるけど……。
『つまり私は、「小説家になろう」等の小説創作サイトにおける、無数の異世界転生や異世界転移モノの小説に込められた、作者や読者や作中の登場人物等の願望が具現化して生み出された神様なのよ』
「はあ⁉」
──何と、『なろうの女神』の『なろう』という言葉には、そんな意味が込められていたのですか。
『でもね、言っとくけど、私は別に、ネット上で最初の異世界転生系の小説が発表されるまで、まったく存在していなかったわけじゃないのよ？ 何せ神様のような「概念」的存在は、それが認識された途端、人類の文明の発祥以前から存在していることになるのですからね』
「…………え、ええと」
『ああ、ここら辺のことは蛇足のようなものだから、聞き流して構わないわ。私も別に詳しく語るつもりはなく、さらっと流すだけだし。──つまりね、現代日本で言うところの多世界解釈量子論に基づけば、Ｗｅｂ小説も「多世界」と呼ばれるいわゆる「可能性としての世界」に含まれていて、そして「可能性としての世界」であれば、それが小説として発表された時点にかかわらず、文字通り「最初から」存在していることになるので、その中で「登場人物」として描かれている、異世界転生や異世界転移を司っている「女神様」の類いも、「最初から」存在していることになり、その結果それらの小説概念上の「女神」の集合体である私こと「なろうの女神」も、「最初から」存在していることになるってわけなのよ』
「…………」
途中から思考を完全に放棄してしまった、『ゲンダイニッポン』で言うところの『チュウセイヨーロッパ』の文化レベルの世界の、単なる一お姫様に過ぎない私であった。
『だからね、結局何が言いたいかというと、このように過去とか未来とか時制にとらわれずに、現代日本だろうが他の無数の異世界だろうが、ありとあらゆる異世界転生や異世界転移を司っている私ならば、あなたの身のうちに宇宙的恐怖クラスの強大凶悪なる「邪神」を転生させて、その絶大なる力を使うことによって、この世界そのものを創造主である「ＢＬ作家」をも含めて、完全に破壊し尽くすことすらも造作もないってことなのよ』
「で、でも、そんな人智を超越したものすごい神様なんかを身のうちに宿したりしたら、私の脆弱な精神なんて乗っ取られてしまったり、そもそも身も心も耐えきれず狂気に冒されたりするのではなくって？」
『……あー、現代日本のＷｅｂ小説なんかを鵜呑みにしていたら、転生とか前世返りとか憑依とかいったものを、そういったふうに勘違いしてしまうよねえ。──いや、大丈夫大丈夫。転生するっていっても、実際に邪神が丸ごとあなたの身体や精神に憑依したりするわけでなく、言ってみればあなたは現代日本で言うところの「クラウドサービス」を利用して、好きな時に好きなだけ、邪神の力や知識を利用できるようになるわけなのよ』
「じゃ、邪神の力を、クラウドサービスで利用できるようになるですって⁉」
『ここら辺のところの理論背景も簡単に説明しておくと、現代日本における物理学の量子論や心理学の集合的無意識論に則れば、何と、あらゆる世界のあらゆる時制のあらゆる存在の「記憶や知識」が集まってくる超自我領域──いわゆる『集合的無意識』が存在しているとされていて、「あらゆる世界のあらゆる存在」ということは、何と宇宙的存在である邪神の「記憶や知識」すらも、あくまでも可能性の上とはいえ、存在することになり、実は集合的無意識の管理者である「なろうの女神」である私なら、あなたに集合的無意識とのアクセス回路を開いて、いつでもどこでも邪神の「記憶や知識」とアクセスできるようにさせて、邪神の力を使用可能にできるわけ』
えっ、『なろうの女神』って、そんなことができるの⁉
確かにこのやり方ならクラウドサービスそのものだし、邪神の力や知恵を利用する際にも、私にはそれほど負担が無いようだけど……。
──そのように、私がほんのちょっぴり気を緩めた、まさにその時。
『ただし、邪神の力を使うには、絶対不可欠の条件があるの。──例えば、使い手が最愛の者から裏切られたりして、この世のすべてに絶望し憎悪しなければならないのよ♡』
なっ⁉
「私がすべてに絶望し憎悪することが、必要ですって⁉ どうして、そんな！」
『そりゃあ、憑坐であるあなたと同調すればするほど、邪神がより力を発揮できるからでしょうが。何せ邪神自体が「負」の存在なのですからね、人間の「負」の感情そのものが、御馳走でありエネルギーみたいなものなのよ』
「で、でも、今の段階ですでに事実上、婚約者を実の兄に盗られている状況にあって、これ以上何をどう絶望しろっていうのです⁉」
『くふふ。いやいや、お忘れになっては困るわよ。あるじゃない、こういった「悪役令嬢物語」において、とどめとも言える絶望的イベントが』
──っ。まさか、それって⁉
『そう、ご存じ、「婚約破棄」イベントよ♡』
──‼
「いやだって、この『びーえる世界』においては、女性との婚姻は男性同士の恋愛を妨げることはないんですし、別にわざわざ婚約を破棄する意味なんて無いでしょうが⁉」
『そうなのよお。うっくっくっ。これはむしろアル君のあなたへの思いやりこそに、端を発しているわけなのよお♡』
「ど、どうして、思いやりが、婚約破棄に結びつくのですか⁉」
『つまりねえ、真面目な真面目なアル君は、ソーマ王子と愛し合いながら、その一方であなたと愛無き結婚をして家庭を築くことは、あまりに不誠実だと思っていて、あなたのことを自由にしてやろうとしているのよお〜』
……何……です……って……。
そ、そんな、馬鹿な。
たとえ愛無き結婚でもいい。アルの心が私に向いてなくてもいい。
アルと一緒に、いられたら。
共に家庭を持って、彼の子供を産んで、育んでいけるのなら。
ただそれだけで、私は十分に、幸せだったのに。
──この腐れた世界は、それすらも奪い取ろうとする、つもりなのか⁉
『……どうやらおわかりいただけたようね。まさしくあなたがアル君より婚約破棄を伝えられた時こそ、あなたのこの世界に対する絶望と憎悪とが最高潮に達して、邪神の力を最大限に使用できるようになって、この世界そのものをその創造主もろとも、破壊し尽くすことが可能となるのよ！ ──せいぜいその時を、首を長くして待つがいいわ♡』
その言葉を最後にスマホの画面から姿を消し、うんともすんとも言わなくなる女神。
……私が、アルから、婚約を破棄されるですって？
──いいだろう、その時を、楽しみに待とうではないか。
この手で、この想いで、世界を滅ぼす瞬間を！
ついに、そのように決意した、私であった────が、
しかし事態は、思わぬ展開を迎えるのであった。
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「──おお、アル、一体どうしたと言うのだ⁉」
「アル殿！」
「「「アル様！」」」
「──ええいっ、近寄るんじゃありません！ このガチホモどもめが！ それ以上近寄れば、我がセレルーナ公爵家一子相伝の必殺拳法、『何と好いちょう拳♡』が唸りを上げますわよ⁉」
………………………これは一体、どういうことなのでしょうか。
次の日の朝、いつものように王立量子魔術学院の一年Ｄ組にやって来てみれば、私の婚約者であられる我が国筆頭公爵令息のアル──アラウヌス＝シラビ＝セレルーナが、自分の机の上に乗って、周りを取り囲んでいる、私の兄上であり王国第一王子のソーマ＝メネスス＝ホワンロンを始め、その他の貴公子や、アル自身の親衛隊（もちろん全員男子生徒）の皆さんに対して、何だか『荒鷲のポーズ』みたいな格好をして、威嚇していたのである。
ちなみに『何と好いちょう拳♡』とは、『ゲンダイニッポン』の南の地方の方言で「実は俺はおまえのことがものすっごく好きだったんだよ♡」を意味する、セレルーナ公爵家秘伝の暗殺拳法で、相手の経絡秘孔を確実に突くことによって、あたかも『♡様』であるかのように全身が膨張して爆裂させてしまうといった、人智を超えた伝説の戦闘技術のことであった…………………ところで『♡様』とは、一体何のことなのでしょう。
──と、そのように、私が一体どなたに向かってやっているのか定かではない、詳細な解説を胸中で行っていると、
「あっ、ルイ！」
教室の入り口で呆気にとられて立ちつくしていた私に気づいたアルが、机から飛び降りてこちらへと駆け寄ってきて、有無を言わさず私の手を取ってまくし立て始めたのであった。
「あなたは、ルイ──ホワンロン王家の第一王子…………じゃなかった、第一王女にして、わたくしの婚約者殿なのですよね！」
「……え、ええ、確かに私は、あなたとは親が決めた婚約者同士の、ルイーズ＝ヤンデレスキー＝ホワンロンでございますが」
…………何でしょう、
この、違和感は。
しゃべり方といい、立ち居振る舞いといい、
昨日までのアルとは、まったく違うように、感じられるのですが。
──そう。まるで文字通りに、人が変わった、かのように。
しかし、そんな私の疑念は、次の瞬間、アルのあまりに思いがけない行動によって、霧散してしまう。
「本当ですの？ ──ああ、良かったあ！」
「──きゃっ！ あ、アル⁉」
何とアルが──マイスイート・ショタ美少年・ハニーが、私を力の限り、ハグしてくださったのです！！！
「聞いてよ、ルイ！ さっき教室に来るなり、私の机のすぐ側に立っていたあのホモ王子を、つい元の世界のつもりで、ルイ王子──あなたと勘違いして近づいて行ったら、いきなり私の顎に手を添えて、口づけをしやがったのでございますよ！ それで思わず平手打ちをしたら、『おいおい、今朝はそういったプレイなのかい♡』などとほざいて、更にキスしてこようとしやがるし、他の貴族のお坊ちゃんたちも止めるどころか、キスの順番に並び始めるし、ようやく駆けつけてくれた、私の取り巻きグループの令嬢方が男性《ＴＳ》化した皆さんも、『アル様の朝の挨拶のキスをしていただくのは、我々親衛隊のほうが先だ！』などと言い出す始末だし。一体この世界はどうなっているのです⁉ ＴＳ少年化しただけでも堪ったもんではないのに、何ですかこの、『わたくし総受け状態』は⁉」
そのように一気に語りきったアルであったが、私は相も変わらず彼に抱きすくめられていることで、ぼーっと上気しつつも、どうにか答えを返していく。
「え、ええと、ＴＳとか総受けとかが、何のことかわかりませんが、朝の御挨拶として、貴公子（ただし美少年に限る）同士でキスし合うのは、ごく普通のことではないでしょうか？」
「はあ？ 何その、リアル『びーえるドージンシ』的、朝の恒例行事は⁉」
「えっ、今更何をおっしゃるのです？ 『ドージンシ』が何のことかは存じませんが、この世界は元から、『びーえる世界』ではございませんか？」
「──！」
な、何でしょう、私の何の変哲もないごく普通な言葉を聞くなり、何かに思い当たったかのような、驚きの表情をなさったりして。
「……そうか、これって単なるＴＳ化ではなく、『びーえるドージンシ』的世界への転生だったのですか」
「あ、あの、アル？」
「ねえ、ルイ！」
「あ、はいっ、な、何でしょうか？」
「それこそ今更かも知れないけど、『びーえる』って何？ 『殿方が殿方とだけ、恋愛関係になる』──といった見識で、合っているでしょうか？」
「ええ、そうです。この世界においては、びーえるの女神様──『腐れ神様』によって、男性だけにしか、恋愛の自由は与えられておりません」
「へ？ 野郎同士が人前で当たり前のようにして乳繰り合うのがオールＯＫのクレイジーワールドであるだけでなく、『男性にしか恋愛の自由がない』ということは、あなたたち女性が、男性や女性を好きになることは、赦されないということですか？ だったら、子孫はどうやって育んでいくのです？ ──いやそもそも、私とあなたは男女でありながら、れっきとした婚約者同士なんでしょう？」
──っ。他でもない最愛のあなたが、この期に及んであえてそんなことを、この私に聞いてくるのですか⁉
「……何をおっしゃっているのです。我々女は、たとえ殿方から愛されることはなかろうとも、そのためにこそ存在を許されているのではないですか？ ──そう。殿方と愛無き結婚をして形だけの家庭を築いて、殿方の代わりに子供を産み育てていくためだけの、都合のいい『道具』として………ッ！」
「──な、何ですってえ⁉」
………………………あれ？ アルったら、本気で怒っているの？
「ちょっと、皆さん、今のは、本当のことなのですか⁉」
そう言って、彼が周囲のガチホモたちを、見回せば、
「──あ、ああ」
「そ、そうに決まっているじゃん」
「アル様ったら、どうしたのですか？」
「今更そんな、当たり前のことをお聞きになって」
当然のように口々に、予想通りの答えを返してくる。
それを聞いていかにも憤りを抑えるようにわなわなと震えるアルであったが、最後にこれまでになく真摯な表情となって、私のほうへと振り向いた。
「ルイは、どうなの？」
「え？ ど、どうって……」
「女性には恋愛の自由さえも与えられないなんて、勝手に決めつけられて、それでもいいわけ？」
「善いも悪いも、世界が──すべてを創り出した文字通りの創造主である神様が、そうお決めになられたのだから、私なんかが今更、どうしようも……」
「──世界がどうしたとか、神様がどうしたとか、聞いているんじゃない！ あなた自身がどうしたいかを、聞いているのですよ⁉」
「ひっ⁉」
「さあ、答えなさい、ルイーズ＝ヤンデレスキー＝ホワンロン！ あなたは一体、何を望んでいるのですか⁉」
──怖い！
目の前にいる『あなた』は、一体誰なの⁉
少なくとも、何だかんだ言ったところで、しょせんは世界の支配から逃れることなぞできずに、優柔不断極まりなかった、アラウヌス＝シラビ＝セレルーナなんかでない！
何この、私の心の底まで見透かすような、あたかも『世界の審判者』であるかのごとき、人ならざる黄金色の瞳は⁉
邪神なんか、お呼びではない。
コレは間違いなく、神様なんかよりももっと恐ろしい、名状しがたい『超越的存在』よ！
「……何よ、答えられないわけ？ それとも、何、あなたも一緒なの？ 結局あなたも私を好きでも何でもなく、ただ親が決めたから、婚約しただけだったの？」
──っ。
な、何ですってえ？
私があなたのことを、好きではないですって？
私がこの狂った世界の中で、どんなに苦しんできたか、あなたにわかるとでも言うの⁉
「……ふざけないで、私は、あなたのことが好き。心の底から愛していますわ。この想いだけは、たとえ神様だろうが、世界そのものだろうが、否定することなぞ、けして赦しはしませんわ！」
その途端、教室中が、騒然となった。
当然である。
何せ私は、たった今、世界への反逆を、宣言したのだ。
……だけど、誰からも理解されなくても、構いやしない。
「──よく言った、それでこそ『少女』よ！」
だって、まさしく最愛の人が、この想いをわかってくれるのだから。
「いい？ 女の子は恋心一つで、世界だって滅ぼすことができるのよ！ 神様だって怖くはないわ！ さあ、今こそ私と一緒に、『少女革命』ののろしを上げるのよ！」
「少女……革命？」
「そうよ！ 古い因習や頭の固い大人や独善的で独占欲が強い男どもの束縛から解き放たれて、真の自由と平等の下に、好きなだけ恋をしていく、少女による少女のための革命よ！」
まあ、何て素敵なの！
そして私は、無言で差し出された、彼の手を取った。
見つめ合う、笑顔と笑顔。
「──馬鹿げている！ この『びーえる世界』の中で、女に恋愛なんか、赦されるものか！」
兄の姿をした、世界の奴隷のガチホモが何かほざいているが、当然無視。
あなたは、『びーえる』大好きの腐れ神にとって、単なる『操り人形』でしかないことが、どうしてわからないの？
まあせいぜい、この『びーえる世界』の中で、神様にとってのみ都合がいい、『登場人物』を演じ続けるがいいわ。
私は最愛の人と、これから二人だけの物語を、紡いでいくから♡
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
『……やれやれ、困ったことをしてくれたわね。こっちの計画台無しじゃない』
スマートフォンの画面の中で、漆黒のゴスロリドレスの少女が言った。
「別にいいじゃない？ あなただって最終的には、この世界を改変するつもりだったのでしょう？」
いつしか執事服からメイド服に着替えた、少女が答えた。
『私はあくまでも、ルイーズの中で目覚めた邪神に暴れさせて、それに対応するためにアルを、「禍苦詠むの巫女姫」として覚醒させようとしていたのにい』
「だから、余計な手を出すなって、言ってるでしょう？ ──まあ、私のほうも、ただ単に現代日本からの『転生者』の憑依から、『悪役令嬢』であられるアル様を緊急避難させようとしただけで、まさかそれがよりによって、この世界の『びーえる』体制を打破する革命の最初の一歩に繋がるとは、思いも寄らなかったけどね」
『……本当に？ まさか、最初から仕組んでいたんじゃないでしょうね』
「あはは、それこそ、まさかだよ。私はあなたやアル様のような、『集団的無意識の管理代行者』じゃないんだから」
『……アカシックレコードの継承者が、よく言うわよ。──まあ、いいわ。アルを目覚めさせる機会なら、これからもありそうだしね』
「だから、余計な真似は、赦さないと──チッ、回線を切りやがった。勝手なやつめ。……まあ、この世界に関しては、もうすでに心配は無いか。『革命』の火蓋は切られたのだから、もはやこの流れを止めることは、創造主の『腐れ神』にだって不可能でしょう。とにかく私はアル様の『記憶と知識』だけを回収して、元の世界に戻ることにしますか」
