第1268話、わたくし、大学教員採用は『男女平等』よりも『美人優先』にすべきだと思いますの⁉
「──滋賀県立琵琶湖女子大学社会学研究室所属の、紅旗と申します、本日はよろしくお願いいたしますっ!」
我々面接官の前で、いかにもしゃちこ張って低頭平身する、アラサーの女性。
その童顔と小柄な肢体は、リクルートスーツがてんで似合っておらず、『就活生』と言うよりも『七五三』あたりを彷彿とさせた。
……まあ、それも無理は無かろう。
今回は『募集要項』が、これまでに無く『特殊』だからな。
我が国において自他共に認める最高学府『皇京大学』において、突如発表された、『2027年までの女性教授及び准教授三百人採用プロジェクト』。
このとち狂った『(文部科学省への)点数稼ぎ』のために、現場の我らは大わらわとなってしまった。
何せ我が皇大における教授志望の女性研究員は、『質』はともかくとして、そもそも三百人の新規定員を埋めるだけの、『数』が圧倒的に不足していたのだ。
そうなると当然、他の大学や研究機関にも募集を広げることになり、その結果応募してくる者たちも、『玉石混交』の有り様とならざるを得なかったのだ。
……さて、今まさに『社会学部教授会人事担当最高責任者』たるこの私の目の前で、おどおどと上目遣いでこちらを見つめているこの女性は、『玉』なのか『石』なのか、せいぜい『意地悪な質問』をして、見極めさせてもらうことにしよう。
「ええと、紅旗さんですっけ? 大陸の方ですかな」
「──『旗』です! 『紅旗』では無くて、『紅旗』と申します!」
『旗』と書いて『ふらぐ』と読ませるなんて、キラキラネームかよ?
……まあもちろん、人事資料で先刻承知だったけどなw(意地悪)
「それでは紅さん、どうして当学への就職をご希望なされたのですか? 現在の琵琶湖女子大さんにおいても、そう遠くない将来准教授職に就かれたでしょうに」
むしろ競争率的にも、要求される能力的にも、うちのほうが断然厳しいだろう。
「──わ、私、今回こそ、またとない大チャンスだと思ったからです!」
おっと。
いかにも気が弱そうに見えて、『大チャンス』なんて、そのままズバリの積極的なフレーズを口にするとは、『意外』だな。
眼にもだんだん力が入ってきたし、この子結構…………。
「ほう、チャンスですか? どうしてそのように思われたのです?」
「そ、それはもちろん、今回の『女性三百名優先枠』の施行でございます!」
やはり、それか。
「なるほど…………しかしそれだけだと、我が『皇大』を志望される動機としては、少々弱いかと思われますが?」
「もちろん、私の携わっております研究が、皇大さんこそが我が国におけるメッカであることが最大の理由ですし、私自身けして皆さんに後れを取らぬよう、必死に研究に励んで参ったと自負しております!」
ふむ。
確かにな。
実は彼女については、こちらとしても以前から目を付けていたのだ。
発表する論文も、まだまだ荒削りではあるものの、他には無いハッと目を惹く『光るもの』が有るしな。
──しかしそれだけでは、『足りない』のだ。
それでは、『本番』に入らせてもらおうか。
そして私は、本日最大の『意地悪な質問』をぶつけた。
「おやおや、忘れてもらっては困りますね。今回の特別なる募集要項は、ただ単に『女性』であるだけでは無く、重要なる『付帯条件』がありましたよね?」
「──うっ」
「さて、それは『何』でしたっけ」
私のあたかも『蛇の生殺し』そのままの手加減無しの追求に、顔を羞恥で染め上げながらぼそっとつぶやく就活生。
「……女性であり、特に『美人』であることでございます」
さて、
──おまえの『本気』を、試させてもらうぞ。
「そうです、『美人』です。──それで、果たしてあなたは、『要件』に見合っているんでしょうかねえ?」
もちろん、『醜く』は無い。
そもそも老若男女にかかわらず、『醜い人間』なぞ存在しない。
他人が醜く見える者は、自分の心が醜いだけのことだ。
かと言って、誰もが『美しい』わけでも無い。
大方の人間が、現在目の前にいる彼女同様に、『十人前』と言ったところであろう。
それはもちろん、当の彼女自身、先刻ご承知のことかと思われた。
もはや涙すらにじませながら、こちらのことを睨みつけ始めるアラサー女性。
そしてついに、隠しようも無い怒気とともに口を開いた。
「──美人、です!」
‼
「……今、何と?」
「私は美人です! 誰が何と言おうが、美人なのです!」
ほう、これは────面白い。
「ええ、まあ、あなたはそうおっしゃいますが、それをどう『証明』するおつもりで?」
「……証明、ですって?」
「申し訳ございませんが、私の個人的印象としては、あなたは確かに『平均点』はクリアされてますが、とても『誰が見ても美人』とは言えないのでは?」
「──確かに私は平均的な顔立ちかも知れませんが、私が美人と言ったら美人なのです!」
「はあ?」
「だって今回の『女性優遇策』は、『ポリコレ政策』の一環なんでしょう⁉ そうです、今や『生物学的に男であろうと、自己申告によって「女」と言えば女になれる』時代なのです! だったらこの私が自分のことを『美人』と言えば、『ポリコレ』的に美人と認めなければおかしいではありませんか⁉」
「──ぶほっ⁉」
「な、何ですか、面接官が噴き出したりして! 私何かおかしいことを申しましたか⁉」
「い、いや、君の言っていることって、完全にむちゃくちゃじゃ無いかw」
「むちゃくちゃは、そっちでしょうが⁉ 『ポリコレ』的に完全に矛盾しているじゃ無いですか!」
「ほう、『矛盾』とは? 一体どの辺が?」
「『ポリコレ』に基づいて女性優遇策を採用していると言うのに、『美人限定』などと言う、『ルッキズム』に反する条件を加えているし!」
「うん、フェミニストだったら、大激怒だよな。──それなのにどうして、君は応募してきたのかい?」
「いえ、『美人採用』は問題どころか、『いいこと』ばかりじゃ無いですか」
「……それはまた、意外すぎる反応だね」
「大学の教員が美人ばかりになったら、特に男性が嬉しいし、何よりもやる気になって、学生教員共に勉学に励んで優秀になるのはもちろん、元々優秀な男性たちもこぞって集まってきて、皇大が今まで以上にレベルアップする可能性が、非常に高まるかと思いますよ?」
……おおう、
いや、実は今回の『美人条件』は完全に『ブラフ』なので、我々としてもそこまで考えていなかったんだけど、こいつもしかして『天才』か⁉
「だったら、そんな女性が存在するかどうかはともかく、自分のことを『美人と思っていない』女性の場合、『差別』されたと思って最初から応募するのを諦めて、優秀な女性が大挙して他の大学や研究機関や民間企業等に流れてしまう怖れも有るのでは?」
「そんな人は、美醜はおろか老若男女にかかわらず、最初からこの大学に就職しようとは思ってはいなかったんですよ」
──‼
こ、こいつ…………。
「こんな千載一遇の『優遇処置』を、逃して堪るもんですか! そもそも教授や准教授になりたくてもなれない研究員が、日本全国に何人いると思っているのですか⁉ それなのに『女性限定の採用プログラム』ですって? たまたま私は女ですが、もしも男だったとしても、『実は心は女なのだ!』と言い張って、採用をもぎ取って見せますよ! …………だってこれは、『ポリコレ案件』なんでしょ? 同じ『ポリコレ』なのに、『フェミ』は認めても『LGBT』は認めないなんて、有り得ませんよねえ?」
──もはやこの時、私の目の前にいたのは、先程までの自信なさげな女性研究員なぞでは無く、
手を伸ばせば届きそうな距離にある『生肉』を、是が否にでも喰らわんとする、『飢えた狼』そのものであった。
──そうだ、
我が大学が求めているのは、このような『やる気』の有る人材なのだ!
……大学の教員は男女格差が酷いから、『女性優遇枠』を創れ?
──ふざけるなっ!
いかなる不遇な状況に置かれようとも、それを自らの力で覆して、願いを叶えようとするのが、『本物』だろうが⁉
男性である現教授の私が、これまでの人生において、差別等の理不尽な目に、まったく遭わなかったとでも思うのか⁉
貪欲に闘い続けた者だけが、勝利を得ることができるのだ。
それには美醜はもちろん、老若男女や、『LGBT』のような性癖なぞ、一切関係ない。
やる気があって、自分の性別なぞ問題にせず、すべてを捨ててすべてを得ようとする者だけが、『進み続ける』ことができるのだ。
……ああ、本当に良かった、『美人限定の女性採用プロジェクト』を行って。
これによってこそ、今目の前にいる彼女みたいに、本当に『やる気のある女性』を得ることができたのだから。




