第百十五話、わたくし、コバルトの空に啼きますの。(その3)
ちょい悪令嬢「──さて今回も、前回及び前々回に引き続いて、『コバルト文庫の事実上の休刊を惜しむ会』の第三弾をお送りしようと存じます」
メイ道「今回は予定通りに、谷瑞恵先生の『魔女の結婚』について、語り合いたいと思います」
ちょい悪令嬢「この作品は、それこそ知る人ぞ知る、数多のコバルト文庫全作品の中にあっても、トップクラスの大傑作と申せましょう」
メイ道「……そうですか? 簡単な作品紹介を見る限りは、魔女狩り時代のヨーロッパを舞台にした、極ありふれたラブコメファンタジーであるかのように、お見受けするのですが?」
ちょい悪令嬢「確かにそうですねえ。数百年ぶりの眠りから目覚めた、絶大なる超常の力を身に内に秘めた巫女姫が、なぜか普通の女の子のように結婚願望が強く、自分を目覚めさせた美青年魔導士に、結婚相手を探すようにと一方的に無理難題を押し付けて、魔導士は魔導士のほうで、こんな世間知らずの小娘なんて相手できるかって感じで、美男美女でいつもケンカばっかりしているんだけど、最後に二人がくっつくのは見え見えで、下手したら『こんなの馬鹿らしくて読んでられるか!』とかおっしゃられる、読者様も多いかも知れませんねえ」
メイ道「……違うんですかあ?」
ちょい悪令嬢「あ、いえ、最終的には、大体そういった感じです」
メイ道「駄目じゃん!」
ちょい悪令嬢「それがですねえ、いろいろな意味で、とてもあらすじには書くことのできない、ものすっごい必見ポイントが、二つも存在するんですよ」
メイ道「え、そうなんですか?」
ちょい悪令嬢「一つは、おそらくは我が国の全小説の中でも屈指の、超本格的時間SFであることです」
メイ道「ほう」
ちょい悪令嬢「しかも、何と言っても土台がファンタジーであるものだから、論理性や科学性だけでは語ることができず、魔術的であったり幻想的であったり神話的であったりもして、非常に複雑なタイムパラドックスものになっているのですが、それでいて最後の最後には見事に決着をつけて、誰もが驚愕の思わぬ真相を明らかにするといった、完璧な結末になっているんです! とにかくあのひねくれ者で定評のある、本作の作者自身が手放しで絶賛しているのだから、推して知るべしというものですよ!」
メイ道「ほうほう、時間SFについては、素人のWeb作家に過ぎないくせに、自ら『全世界的に第一人者』であることを公言してはばからない、この作品の作者にしては、他人の作品に対してベタ褒めとは、尋常じゃありませんね」
ちょい悪令嬢「先程も申しましたように、基本的に巫女姫と魔導士のカップルが結びつくお話なんですが、なぜか間違いなく魔導士なんかよりも強い運命の絆で巫女姫と結びついている、第二の男性キャラが登場してくるんですよ。何でそんなことになっているのかという、真相が明らかになった時の衝撃ときたら、もう!」
メイ道「へ、へえ、読んでみないことにはよくわかりませんが、とにかくすごそうなのはわかりました。──それで、二つのポイントの内の一つが、時間SFであるとして、もう一つのほうは?」
ちょい悪令嬢「──何と、ガチで『ゴア』であり、『リョナ』であるところです」
メイ道「………………………………は?」
ちょい悪令嬢「だからあ、この作品て、ガチで、ゴ」
メイ道「いやいやいや、ちょっと待って! これってコバルト文庫なんでしょう⁉」
ちょい悪令嬢「ええ、それが何か?」
メイ道「何か、じゃなくて!」
ちょい悪令嬢「別に騒ぐ必要なんてございませんよ、このくらい当時のコバルトでは、極当たり前のことに過ぎないのですから」
メイ道「──はあ、ゴアやリョナが、当たり前ですって⁉ あの『マリみて』のコバルト文庫が?」
ちょい悪令嬢「はい、ガチのBLとか、ガチの近親相姦とか、ガチの大量殺戮とか、その他いろいろございましたわよ」
メイ道「……し、信じられない。私のコバルト文庫に対するイメージが、今まさにボロボロにぃ〜」
ちょい悪令嬢「むしろそれだけ、レーベルとしての懐が深かったということですよ。娯楽作品としては好ましいとも言い得て、昨今の『まずは規制ありき』とは、自由度は段違いだったのです」
メイ道「た、確かに、昨今の創作物の表現の自由に対する規制の厳しさは、少々行き過ぎかと思いますけど……」
ちょい悪令嬢「まあ、そういう意味からも、すでにコバルト文庫は立派に、歴史的責任を果たせたとも言えるかも知れませんね」
メイ道「……そ、それで、ゴアとか、リョナとかって、具体的には、どのような内容なのでございましょう」
ちょい悪令嬢「う〜ん、具体的にその手のシーンのご説明をしてしまうと、おそらくほとんどの読者の方が、ご気分を害されると思われるんですよ」
メイ道「そんなに、すごいんですか⁉」
ちょい悪令嬢「あ、うん、ちょっとだけ触れると、主役の一人である魔導士が産み落とされた状況ときたら、ごにょごにょごにょ──」
メイ道「母親が、血の海の中に、全裸で沈んでいて、しかもその四肢を、父親の手によって──ごにょごにょごにょって、何それ⁉」
ちょい悪令嬢「ああ、駄目です! それ以上おっしゃっては、なりません!」
メイ道「言えねえよ! この作品自体を、せめてR15指定にし直さないと、とても無理だよ⁉ 運営様に、BANされるよ!」
ちょい悪令嬢「いやもう、残酷描写という意味では、R18指定かも……」
メイ道「……ほんと、昔のコバルトって、すごかったんですねえ」
ちょい悪令嬢「怖い物見たさで是非覗いてみたいという方や、谷○銀先生の作品とかが大好きな方であれば、超お薦めの作品です」
メイ道「え、この作品、今でも手に入るんですか?」
ちょい悪令嬢「いえ、ほとんどの書店さんにおいては、コバルト文庫もライトノベル同様の扱いをされていますので、新刊で手に入れるのはまず不可能かと思われますから、古書店等で見かけた際には、是非手に取ってみてください♡」
メイ道「もちろん本作の作者自身も、この作品から、少なからず影響を受けているわけですよね?」
ちょい悪令嬢「ええ、のんきなコメディタッチの作品が多いとはいえ、『人魚の声が聞こえない』や『満月の少年たち』のように、狂気とエロスをテーマにした作品も多いですからね。本作で言えば、『ゲンダイニッポンのシブヤ』での、メリーさんの登場シーンなんかが、もろダークファンタジーテイストだったところに、影響の痕跡が窺えます」
メイ道「……まあ、この作品の作者の『ダーク』っぷりは、『みーまー』や『文学少女』等の男性向けラノベや、その他少女漫画等からの影響も強いですけどね」
ちょい悪令嬢「少女漫画も、ダークテイストの作品が多いですよね♡」
メイ道「もしかして、大人の男性向けよりも少女向けのほうが、ダークな作品が多かったりして」
ちょい悪令嬢「実は『怖さ』に対する耐性は、女性のほうが強いとも言われていますからね。──それはともかく、『魔女の結婚』については、まだまだ語りたいことがたくさんあるのですが、オリジナルのWeb作品の中で、他人様の作品についてばかり述べてもアレですから、今回はこの辺にしたいかと存じます」
メイ道「明日の投稿分におきましても、引き続き『コバルト作品を振り返る』企画を行う場合は、響野夏菜先生の『ダナーク魔法村はしあわせ日和』について語り合う予定にしておりますので、ファンの方はどうぞお楽しみに♡」
ちょい悪令嬢&メイ道「「では、読者の皆様、また次回、お会いいたしましょう!!!」」