第五話:帰還、それから
わたしが謎の言語で書かれた魔導書を詠唱し、知らない場所に飛ばされてから数年の時がたった。
あの体験は今思い出しても不思議だった。
——自分のうちから無限に力が湧いてきて、それを一気に解き放つ感覚。
結局、怪物を倒したあと無事に転送された場所に戻って魔導書を回収し、呪文を唱え直すことで無事にお城に帰ってくることができた。
幸い、二度目の詠唱は意識的に、自発的に行うことができた。
その一件からわたしはより一層鍛錬に励んだ。
——いつかここを出て行く時に備えて。
日中は常に習い事や公務があって何もできないので、鍛錬は夜中に行われることが多かった。
始めのうちは魔力の使いすぎや身体の酷使でかなり消耗してしまっていたが、何年も経った今となっては慣れたもので徹夜明けでも顔色一つ変えずに笑顔で日常に臨むことができる。
これも社畜生活のおかげかしら?
魔導書の呪文の詠唱を復習しながらふと思う。
そう考えるとあの擦り切れるような日々も決して無駄ではなかったような気がしてくる。結局あの世界では死んでしまったけれど——
わたしは自嘲気味に笑った。
この世界でならやっていける気がする。
そんなことを考えているうちに呪文を唱え終わった。わたしの身体が淡く青い光に満たされた。魔法がうまく作動した証拠だ。
うん、これなら本番でも使えそう。
確かな手応えを感じ、次の魔法の復習のため魔導書へと頁をめくった。