魔王様、事故死
初投稿です、よろしくお願いします。
俺は学校でいじめを受けている。とはいっても、暴力ではなく、陰口や無視をされる程度のものだ。
当初はとても戸惑い、もとの友人やクラスメートに嫌われた理由を聞こうとも、それを改善しようともした。しかし、まともに取り合ってもらえず、舌打ちをされ話を打ち切られることがほとんどだった。
そのことが精神的に辛くなり、なんで自分だけ。と家族やものに当たったこともあった。その頃はよほど心が荒んでいたらしく、俺自身も人の話を聞いていなかったらしい。
そんなある日、彼女から別れ話を切り出された。
「たぶん、あなたのいじめの原因は私だよ。私がモデルだから、私があなたと付き合ったから、みんなが嫉妬であなたを無視してるの、私に嫌われないように、バレないようにね。最近、あなた荒れてるよね。私そんなあなたを見るのが辛いの! 私が別れればあなたはもう無視されなくなる。辛い思いをしなくていいの、だから別れよ?」
「……いやだ」
絞り出した言葉は、自分でも分かるくらいに掠れていた。俺の心の中はただの嫉妬で俺をいじめた奴らへの侮蔑と、彼女を泣かし、悩ませた怒りでごちゃごちゃだった。
「なんで?」
理由は一つしかない。
「なんで、他人の嫉妬で俺たちが別れないといけないんだ。俺はお前を愛してる。花純はどうなんだ?」
俺が花純を好きなんだ。それは他人が踏み込んでいい領域じゃない。
「っ、うん、私も涼矢が好き!」
この時、俺たちの仲はより深まったと思う。
こんなことがあって、もういじめはあまり気にしていない。俺が特に堪えていない様子を見て、同じクラスの花純もあまり関与してこない。
そんな日常のある日。
この日最後のLHRを終えてクラスが散り散りになる時間、俺も帰ろうと一番早く席を立ち上がったその時、足元から円形の何かが出現し、強く発光した。そして、バチィと回路が焼き切れたような音がして、その光は収まった。
「なんだったんだよ今の……あれ、鞄がない!?」
左側にある鞄を掴もうと手を伸ばしたが、何にも手が当たらない。見て見ると、赤黒い大理石のような床があった。うちの学校は木造なので、石が床にあることはない。何が起きたか頭をひねっていると。
〈レベルがアップしました〉
無機質な音声が脳内に響いた。
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉
〈レベルがアップしました〉……………
それを皮切りに、同じ言葉が脳内に延々と流れ続ける。同じ言葉の繰り返しに酷い頭痛に見舞われ、気が滅入る。
「なんだよこれ…」
〈スキルを入手しました〉
顔をしかめて耐えていると、レベルアップのループが終わったらしく、別の単語が流れてきた。
〈スキル『鑑定』『偽装』『収納∞』『魔眼・魔』『飛行』『疾駆』『反応』『魔力操作』『剣聖』を入手しました〉
〈魔法『火魔法』『水魔法』『風魔法』『土魔法』『雷魔法』『氷魔法』『闇魔法』を入手しました〉
〈固有スキル『魔力解放』『隷属』『エンハンス』『ナビゲート改』を入手しました〉
〈固有魔法『空間魔法』を入手しました〉
〈称号『魔物殺し』『魔族殺し』『魔王殺し』『英雄』『勇者』『強運』『畏れられる者』を入手しました〉
「いや、俺の身に何があった」
〈転移事故で転移先の座標がずれ、そのずれが時空の歪みを生み、その座標にいた魔王を圧死させました……あ、固有スキル『時空魔法』を入手しました〉
おい、忘れてたよなお前…。
「これ、血かよ…」
もう一度床を見てみると、それは赤黒い大理石ではなく、大理石に血が付いてそう見えているだけだった。
「き、貴様!」
「うっわ」
目線を上げると、コウモリのような翼の生えた胸の大きいお姉さんが声を荒らげていた。あまりのエロさに目を剥く。
「よくも魔王様を!!」
お姉さんは腰の剣を抜き、切り掛かってきた。しかし、あまりに速度が遅く、余裕で回避できる。
「やめんか!!」
重く枯れた声が場を刺した。それにより二撃目を放とうとしているお姉さんの動きが止まる。
「ですが!」
「どんな形であれこの方は魔王様…元魔王を倒したのじゃ。ならば我々はこの方に仕えるしかあるまい!」
「別に仕えなくてもいいんですけど」
「でも、こんな終わり方…!!」
ダメだ聞いてねえ。
「っそうだ! 不意打ちで勝った者の下になんぞつきたくねえ!」
「そうだ!!」
周りにいる魔族らしき人から一斉にブーイングを浴びせられる。
「別に仕えなくていいですよ?」
声を張ってもう一度言ってみるがやはり聞いていない。
「なら、俺ら全員であいつを潰して、最後の一撃を取ったやつが次の魔王っていうのはどうだ?」
「いいな、それ」
「チャンスはみんな平等にあるわけね。乗ったわ」
「決まりだな。では、行くぞ!!」
「「「「「おお!!」」」」」
いつの間にか結託して俺を殺す流れになっていた。
普通なら、力の使い方に戸惑うところなんだろうが、『ナビゲート改』のおかげか、元々俺のもののように感じる。
「水魔法」
「ぐわぁぁぁぁ!!」
水の威力で吹き飛ぶイメージをすると、俺に肉薄していた数十の魔族がわずかな脱力感と一緒に城の外へ吹き飛んだ。