B面
「アリサ、僕は最近健康のために水素水を飲んでいるんだ」
「水素水ってたまに聞くけど、ユウの場合効果はあるの?」
「無いね。 特に健康になったという実感はないよ」
「……じゃあ、その水素水はインチキなんじゃないの?」
「大丈夫だよ。 注文した水素水の箱にはちゃんと『効果には個人差があります』って書いてあったから」
「…………ユウはそれで納得出来るの?」
「そういえば水素水を飲みだしてから最近、お腹の調子が悪くなってきたんだよね。 前まではそんなことなかったのに」
「…………その、水素水身体によくないんじゃないのかしら?」
「大丈夫だよ。 効果には個人差があるんだから」
「……消費者側が率先して言うことじゃないわよ?」
「その水素水1ケース1万8千円だけど、アリサはどう?」
「……相場を大きく超えている気がするけど?」
「これ高いのかな? 僕にはよく分からないけど。 なにせ効果には個人差があるからね」
「何なの……その効果には個人差があるっていう呪縛」
「アリサにはどんな個人差が出るんだろうね?」
「……目的はなによ?」
「アリサ、いろんなレストランとかの飲食店を評価するサイトってあるだろ?」
「ええ、星の数で評価したりするのよね」
「あれと似たようなサイトを考えてみたんだ。 名付けて『気まぐれログ』」
「……気まぐれログ?」
「レストランにあるメニューのうちの、『シェフの気まぐれサラダ』が、どれだけ気まぐれなのか評価するサイトだよ」
「どれだけ気まぐれかって、美味しさのこと?」
「美味しさで評価するサイトはもうあるからダメだね。 あくまで評価基準はサラダの気まぐれっぷりだけで評価するんだよ」
「……味は関係ないのね?」
「気まぐれ度が星一つ以下のレストランは、鶏肉の入ったシーザーサラダを出した次の日に、豚肉の入ったシーザーサラダを出すくらいの気まぐれさだけど、気まぐれ度が星四つ以上のレストランは、お皿にサラダ菜1枚でサラダと言い放った次の日に、誕生日でもない客にバースデーケーキをサラダと言い放って出すよ」
「…………気まぐれサラダって何でもありなの?」
「まともな感性を持ったシェフを求めるなら気まぐれ度が低い方、とがり気味の感性を持ったシェフを求めるなら気まぐれ度が高い方を選べばいいんだ。 とがったシェフを求めてる人の参考になるサイトにすればいいんだ」
「…………ここまで聞く限り、気まぐれ度の星が高い方がダメな気がする」
「そりゃそうだよ。 だって気まぐれな性格って、基本的に欠点だからね」
「…………確かに」
「アリサ、『シェフの気まぐれサラダ』に、虫をトッピングするのはどれぐらいの気まぐれ度だと思う?」
「それ、気まぐれ度の問題じゃないわ」
「アリサ、気まぐれメタルが現れたよ」
「…………えっ?」
「気まぐれメタルはいきなり襲い掛かってきたよ」
「……何を言っているの?」
「気まぐれメタルは逃げ出したよ」
「私のターンは?」
「でも気まぐれメタルは1万ポイントの経験値をくれたよ」
「気まぐれね」
「アリサ、憂鬱の『鬱』って言う字、書くのが難しいと思わない?」
「確かに、あれを覚えるのは大変よね」
「そこでその『鬱』という字を簡単に覚えることの出来る歌を自作してみたんだ」
「そうなの? じゃあ聴かせてみて」
「分かった。 じゃあいくよ……『その林 あいだに缶で 下にワで 米をつつんで ヒと線三本』」
「まさかの短歌とは……」
「アリサ、憂鬱の『鬱』の字を簡単に覚えることの出来る歌を自作してみたんだ」
「今度は、メロディーのあるやつにしてね」
「じゃあいくよ……『林の中に缶捨てる、そのワの下には米が生る、その米コップに入れたなら、昇るはずのヒくぐり行く、そこに吹くのは三本の風、それでは歌っていただきましょう、アリサで憂鬱の鬱』」
「まさかの前口上とは……」
「アリサ、すごろくには1回休みというのがあるよね」
「ええ、次のターンはサイコロを振れなくなるわね」
「でもあれって、誰にも必ず訪れるものではなくて、サイコロの出目次第だよね」
「そうね。 休まない人はずっと休まないわね」
「1回も休まないでゴールしなきゃいけないって、とてつもなくブラックだと思うんだけど。 それだと身体が持たないと思うんだ」
「……あくまでゲームで、すごろくにおいてはそっちの方がいいんだけど」
「かといって何回も休む方も休む方だと思うんだ。 いくらマスの目が1回休んでいいよって言ってるからって、まだまだ動けるのに休むのはおかしいよ」
「……でもそれがルールだから」
「ルールだからといって黙ってたら、このブラックすごろくは何も解決しないよ。 1回休みって言われても『まだ僕、動けます! 君はずっと休んでないから、今回はちょっと休んでてくれ』と言って、代わりに進むって言う気遣いがあってもいいだろう」
「………………」
「皆で足りないところを補って、皆で一緒にゴールすればいいんだよ。 一人で勝手に突っ走ってゴールして1位だなんて喜んで自分が休むことなく動いているという不幸に気付かないのは愚かだ。 このブラックすごろくをホワイトすごろくに変えるのはプレイヤー次第だと思うな」
「…………あのさ」
「どうしたの? アリサ」
「ユウってさ…………偏った平和主義者なのね」
「アリサ、今回は1回休んでいいよ」
「…………えっ?」
「今回は僕の言葉に、何も反応しなくていいよ」
「……分かったわ」
「……お金が欲しい。 女の子にモテたい。 朝から肉が食べたい。 政界進出したい。 不老不死になりたい。 病原菌を殺したい。 若者の集う街、原宿を爆破させたい――」
「ごめん、休んでられない」
「アリサ、今度は僕が、振り出しに戻るよ」
「……振り出しに戻る?」
「えーっと、一番最初のは……アリサ、僕は読書をするのが趣味なんだ」
「戻ってきなさい!」
「アリサ、60マス進んだよ」
「おかえりなさい」
「アリサ、君は幽霊というものを見たことがあるかい?」
「……私は無いわね。 ユウはあるの?」
「僕はあるよ」
「あるの……? どういう状況だったの?」
「昔真夜中に車を運転していたときに、道端で髪の長い白い服を着た女性が手を上げていたんだ。 だから僕はヒッチハイカーだと思ってその女性を車に乗せたんだ」
「もう怖くなる要素しかないじゃない……」
「そして僕は助手席に乗せた女性に『どこまで行きますか?』って聞いたんだ。 するとその女性は何て言ったと思う?」
「……墓地とか?」
「その女性はね……『県境』って言ったんだ」
「……えっ、けんざかい?」
「『県境ですね、分かりました』と言って、僕はそのまま車を走らせたんだけど、その女性は全く喋らないんだ。 よく見ると顔も青白くてね、まるで死んでいるようだったよ。 なぜそこに行きたいのかを尋ねてもただ首を振るだけなんだ。 埒があかないし、気味も悪いし、乗せたことを軽く後悔しつつもそのまま黙って真っ直ぐ向かったんだ」
「……県境に向かってるのよね?」
「県境に向かったんだよ。 そうこうしているうちに、とりあえずあの県の入り口である県境に着いたんだ。 あの県の入り口ってことはこの県の入り口ってことでもあるんだけどね。 『すいません、着きましたよ?』って女性に言ったら、か細い声で『ありがとうございます』ってお礼を言って、そのまま車を降りて、あの県の入り口に向かって、この県から暗闇の中に消えて行ったんだ。 どう? とても怖い話だろ」
「……私には、ただ女性を県境まで送り届けただけに聞こえたわ」
「きっとその幽霊は、この県に未練を残して成仏できずにウロウロしているところに、たまたま僕が車で通りかかったのをきっかけに、自分がここにいてはいけない存在だと理解したんだと思うよ。 そしてその道すがら、東京の景色を見ながらこの県の未練を全て断ち切って、県境から自分の在るべきところから帰って行ったんじゃないかな。 たぶん、あの県からお迎えが来ていたんだと思う」
「…………ユウはそれが、何で幽霊だと思うの?」
「この県のものとは思えないくらい生気が無かったんだよ。 絶対にあの県の入り口からあの県に帰っていったんだよ。 じゃあアリサは、その女性が幽霊じゃなかったら何だと言うんだい?」
「…………県境に住んでる人」
「アリサ、心霊写真って見たことあるかい?」
「見たことないわ。 あれって、身体の一部分が映ってることが多いのよね。 ユウは見たことあるの?」
「心霊写真は見たことないけど、パソコンのカーソルが指になったことはあるよ」
「………………指?」
「パソコンの画面に、突然指が出てきたんだ」
「それ、カーソルが変化しただけよね?」
「パソコンの矢印のカーソルをマウスで動かして、カーソルをリンクの上に持って言った途端、パソコンの画面に指が現れたんだよ」
「…………想像通りよ」
「これが僕が体験した、パソコンの画面に突然指が現れた話だよ」
「…………故障はしてないわね」
「アリッサ、最近の話なんだけど――」
「ちょっと待ってユウ」
「どうしたの? アリッサ」
「アリッサってやめて。 急にアメリカ人みたいな呼び名はやめて」
「アリサB、最近の話なんだけど――」
「そんな、村人Aみたいに呼ばないで」
「アリサH、最近の話なんだけど――」
「そんな、本のタイトルみたいに呼ばないで」
「アリサ2号、最近の話なんだけど――」
「鉄道みたいに呼ばないで」
「アリサよ、アリサ、アリサさん――」
「鏡みたいに呼ばないで」
「アリサ、最近の話なんだけどさ……」
「どうしたの? 何でも聞くわ」
「出鼻をくじかれ過ぎて、内容を忘れたよ」
「身から出た錆よ」
「アリサ、僕はイタコという職業に憧れているんだ」
「ええ……何で憧れてるの?」
「だって幽霊を天からおろして、物凄く儲けているんでしょ?」
「……まあ、それは人によるんじゃない?」
「いいなあ。 僕は男だからイタコにはなれないけど、女だったら目指していたかもなあ」
「私は全くなりたいと思わないんだけど……」
「霊を一人おろすだけで、いくらで売れるんだろうなあ……」
「…………えっ?」
「霊を買うなんて、そんなの金持ちの道楽でしかないから、絶対ぼろ儲けできるだろうなあ……」
「……ユウ。 あなた、イタコをどういう仕事だか分かってるの?」
「もちろんだよ。 幽霊を天からおろしてきて、それを金持ちどもで売買するんだよね?」
「……………………ユウ」
「どうしたの? アリサ」
「それは『おろし売り』とは違うわ」
「アリサ……ひっく、ひっく。 うぐっ、うぐっ……」
「……ユウ、どうしたの? そんなに泣きじゃくって……」
「……今日、バレンタインデーだったじゃないか……ひっく、うぐ……」
「……可哀想に。 一個も渡されなかったのね」
「……ひっく、うえっ……20個渡された……チョコレートを20個もらったよ……ひっく、うえっ……」
「………………えっ?」
「僕は…………女の子20人から……チョコレートを貰ったんだよ……ひっく、うぐっ……たくさん貰ったんだよ……」
「…………ユウ」
「ひっく、えっぐ……何? アリサ……」
「……それは『もらい泣き』とは違うわ」
「アリサ、君には聞こえる? 稲が泣いているよ……」
「…………何を言い出すの?」
「刈られ行く、稲穂たちが泣いているよ……」
「それは『いななき』とは違うわ」
「アリサ、『うぅ~さぁ~ぎぃ~追~いしぃ、か~のやぁ~まぁ~』」
「…………ユウ?」
「『こぉ~ぶぅ~なぁ~釣~りしぃ、か~のかぁ~わぁ~』」
「…………ユウってば」
「僕が今、何をしていたか分かる?」
「私には、ユウが童謡の『故郷』を、本意気で歌っているように見えたわ」
「君にはただ僕が『故郷』を歌っていたように見えたのかもしれないけど、僕は今『著作権』をクリアしていたんだ」
「…………著作権?」
「この『故郷』という曲は、作曲者も作詞者も亡くなってから50年以上経過しているから、僕がどれだけ本意気で歌おうと、どれだけビブラートをきかせようと、どれだけこぶしをきかせようと、どれだけ抑揚をつけようと、どこにも権利が発生しないんだ」
「……ユウは、著作権が無いから『故郷』選んだの?」
「そうだよ。 軽い気持ちで著作権を発生させてみな。 僕ら、あっという間にこの世から消されるから」
「………………」
「だから僕は著作権をクリアしながら歌うのさ。 『如ぃ~何ぁ~にぃ~い~ますぅ、ち~ち~はぁ~はぁ~、つぅ~つぅ~がぁ~な~しやぁ、と~も~がぁ~きぃ~』」
「………………はぁ」
「アリサ、君は買い物で貯まったポイントは貯めて使う? それとも細かく使う?」
「私は細かく使うかしら……ポイントで大きな買い物をすると、それにポイントが付かないから」
「僕は貯めてまとめて使うよ。 10個ぐらい商品を買ってね」
「……大きな商品を1個買うために使うわけじゃないの?」
「1個で全部ポイントを消すより、10回使ってポイントを消した方が僕は気持ちいいんだよ」
「よく分からないわ」
「ポイントを消すときは、いきなりの発火で1連鎖で消すよりも、発火したあと10回連鎖してから消した方が通っぽくないかい?」
「…………これポイントの話をしているのよね?」
「何せ僕は、ポイントラーだからね」
「…………語呂がよくないわ」
「アリサ、君はターニングポイントは貯めて使う? それとも細かく使う?」
「…………ユウはターニングポイントを貯めているの?」
「僕が貯めているターニングポイントは、そろそろ期限が切れそうなんだ」
「…………期限ってどのくらいなの?」
「2年間だよ」
「転機はそんなに待ってくれないわよ……」
「アリサ、僕はアポイントを貯めているんだけど――」
「早く消費しなさい!」
「アリサ、今からボツネタを言うよ」
「…………ボツネタ?」
「ピザって10回言ってみてよ」
「……ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ」
「ピザって10回言ったあなたは、聞き上手で部屋を片付けられない性格でしょう」
「…………最初の方にやったやつね」
「これかランプの精かで迷ったんだ」
「そんなに違わない気がする……」
「アリサ、今から内輪ネタを言うよ」
「……内輪ネタ?」
「この作品、元々『サウンドテスト』ってタイトルだったらしいよ」
「言わなくていいわね……」
「アリサ、今から本ネタを言うよ」
「それは宣言しなくていいと思うわ」
「シャリの上にワサビを乗っけて、その上に乗っけるもの」
「お寿司のネタ?」
「アリサ、僕が最近やっていることが何かわかる?」
「さあ。 教えてくれるかしら?」
「僕は最近家で、ちはやぶることが好きなんだ」
「ちはやぶる? あの百人一首のやつ?」
「そうだよ。 その百人一首のやつだよ。 とても楽しいんだ、最近は家に帰って毎日ちはやぶっているんだ」
「……ちはやぶっているの?」
「凄くいいよ、ちはやぶるのは。 今まで、ちはやぶることの良さを知らなかったからね。 もう、ちはやぶれない生活には戻れないね。 今すぐにでも、ちはやぶりたくてたまらないなあ」
「……ユウ、ちはやぶるって何なの?」
「…………アリサ、さっき自分で、百人一首のやつと言って分かっているじゃないか」
「分かってるんだけど、分かってないのよ……」
「ちはやぶるって……素晴らしいね」
「…………とにかく、ユウが楽しそうで何よりよ」
「アリサ、僕は相変わらず、ちはやぶっているよ」
「…………ちはやぶるって何なのかしら」
「でも最近、ちはやふる人が多いらしいんだ」
「……ちはやぶるじゃなくて、ちはやふる?」
「そうなんだよ。 おかしいと思わないかい? ちはやふるというのはちはやぶるがあってのちはやふるなんだよ。 ちはやぶるということが無かったら、ちはやふることは生まれなかったはずなのに。 これをどう思う、アリサ?」
「……私にとっては、知らないものから知らないものが生まれたとしか思わないわ」
「今ちはやふっている人たちは、もしかしたらちはやぶっている人たちを古臭いと思っている……いや、それはまだいい方で、ちはやぶることの存在を知らずに、ちはやふるから入って元々であるちはやぶることを知ろうとしない人たちが多すぎると思うんだ」
「…………ちはやぶるって何?」
「もちろん、それまでちはやふっていた人たちが、ちはやぶっている人たちの存在を知って、その人たちもちはやぶるというパターンもあるんだよ。 だけど大抵のちはやふっている人たちは、オリジナルであるちはやぶることに対して何のリスペクトも感じていないんだ」
「ちはやぶるって何なの?」
「今までちはやぶっていた人たちあってこそで、ちはやふっている人たちは成立していることを何も分かっていない。 ちはやふることを否定はしないよ。 だけど、それでいてちはやぶることに対して何も目を向けようとしないことは軽蔑するね」
「……だからその、ちはやぶるって何なの?」
「……アリサ。 百人一首のやつだってば」
「これだもの……」
「アリサ、とりあえず卒業して、とりあえず大学行って、彼女とか作って……」
「ユウ?」
「とりあえず4年間過ごして、とりあえず就職して、とりあえず大人になるのかもーって……」
「ユウ?」
「気付いちゃったけど、家帰ってとりあえず…………ちはやぶる」
「ユウ!」
「ちはやぶってる?」
「ちはやぶってないわよ……」
「アリサ、Shall we チハヤブル?」
「………………ノーサンキュー」
「OK」
「アリサ、ブラックアイスバーンって知ってる?」
「……アイスバーンなら知ってるけど」
「薄い氷の膜が張ってあるけど、見た目は普通の道路にしか見えない路面凍結のことをそういうんだ。 一見そうは見えないけど、実は路面凍結をしているのがブラックアイスバーンだね」
「つまり、見た目じゃ分かりにくいのね」
「ということは一見そうは見えないけど、実は光を放っているものは、ブラックアイスバーンの命名の仕方で言えば『ブラックライト』ってことになるね」
「そう……なのかしら?」
「一見そうは見えないけど、実は残業が多くて、有給も取れなくて、長期休暇も取れない企業は『ブラックブラック企業』略して『ブラブラ企業』ってことになるね」
「…………擬音っぽくなってるけど」
「一見そうは見えないけど、実は席の案内をしたり、オーダーを聞いたりする店員は『ブラックホールスタッフ』っていうことになるね」
「もう二度と戻ってこれないわよ」
「一見そうは見えないけど、実はバスな場合は『ブラックバス』ってことになるね」
「魚になったわよ?」
「一見そうは見えないけど、実はホワイトタイガーだった場合は『ブラックホワイトタイガー』ってことになるね」
「エビなの? トラなの?」
「アリサ、僕は今から君に手をあげるよ」
「……やめてよ」
「いいから。 僕は今から君に対して手をあげるんだ。 僕の目を見るんだ」
「やめてってば……」
「さあ、覚悟は出来たかい? 行くよ!」
「お願い! やめて!」
「アリサ様、バンザーイ! アリサ様バンザーイ!」
「………………」
「アリサ様、バンザーーイ!」
「………………」
「どうだい? 君に向かって思いっきり手をあげてみたけど」
「……どうって言われても」
「アリサ、今度は僕に対して手をあげてくれよ」
「……私がユウに?」
「さあ、やってよ」
「……ユウ様、ばんざーい」
「違うよ。 とりあえず、ニワトリと鍋と油を用意するんだよ。 ニワトリの手を僕にカラッとあげてよ」
「手羽先が食べたかったの?」
「アリサ、今からコンビニに行くけど何か買ってきてほしいものある?」
「そうね……じゃあ、お茶を買ってきてくれる?」
「そうか……お茶か……」
「…………ユウ?」
「……お茶ね。 うん……お茶…………うーん……」
「ユウ、どうしたの?」
「ここまで来ると、オチが思いつかないよ」
「はっきり言わないで」
「アリサ、この前動物園に行ったんだ」
「あら、いいじゃないの」
「子供のころはもちろん楽しかったけど、今になって行ってみるのも結構いいものだね」
「そうね。 いつ行ってもいいものよね」
「僕はやっぱりパンダが好きかな。 タイヤにぶら下がってるのを見るだけでもとても癒されるね」
「ふーん…………そうなの」
「だけど案外、他のライオンとかゴリラとか、獰猛って言われている動物たちは案外おとなしくて面白くなかったかなぁ」
「うん………………」
「………………」
「………………」
「……こんな、夢を見たんだ」
「無理やりの夢オチ!?」
「アリサ、こんな夢を見たんだけど――」
「いきなり!?」
「アリサ、この前道を歩いていたら突然雨が降り出したんだ」
「うん、それで?」
「慌てて傘をさしたんだけど、突然空から光が差してきてね。 見上げてみたら、雨雲にわずかな隙間が出来ていたんだ」
「へぇ……」
「そこから何と、お金がたくさん降ってきたんだよ。 まさにこれは天の恵みだと思ってすぐに財布を出したんだ」
「………………」
「僕の財布はあっという間にパンパンになったんだ。 どうだい、すごい話だろ?」
「……ユウ、その話夢でしょ?」
「……違うよ」
「だってそんなこと実際あるわけないもの。 それも夢オチなんでしょ?」
「これは夢じゃないよ。 ただのウソだよ」
「ウソオチはなおのこと悪いわ」
「アリサ、本当のようなウソの話があるんだけど――」
「じゃあ聞かない」
「アリサ、火薬を持ってきてくれる?」
「爆発オチはやらないわよ」
「アリサ、僕は今推理小説を書いているんだ」
「そうなの。 それは大変そうね」
「教会が舞台なんだけど、今は伏線を書いているところさ」
「まあ伏線は推理小説には、必要不可欠よね」
「推理小説では、伏線を使うことがとても大事だからね。 とりあえず今は伏線をまとめて教会の十字架の部分に縛り付けているのさ」
「……はい?」
「僕の場合伏線はいたるところにばらけさせずに、一箇所にまとめておこうと思ってね。 だからたくさんの伏線たちを、まとめて教会の十字架にグルグル巻きにして縛り付けているのさ」
「……ねえ、ユウ」
「どうしたの、アリサ?」
「伏線は……『張る』だけでいいのよ。 『はりつけ』にする必要はないのよ」
「……アリサ。 確かに伏線は張るだけでいいのかもしれないけど、はりつけにした方が僕はいいと思うんだ」
「……どうして?」
「はりつけにしておいた方が動けないから、後で回収しやすいだろう?」
「………………」
「伏線は回収しないと意味がないからね。 伏線をばらけさせないのも同じことさ。 色んな場所に伏線を散らすより、一箇所にまとめといた方が回収に手間がかからないからね」
「もはや意味が分からないわ……」
「アリサ、今朝のテレビの占いを見たかい?」
「私は見てないわね……」
「僕は見たよ。 僕の星座は最下位だったよ。 今日は出かけない方がいいって宣告されたよ」
「……でも、今こうして、外に出てるじゃない」
「僕は占いなんか信じるタイプじゃないからね。 そういえば、今朝母親から電話があったんだ。 『明日実家に戻ってこれる?』って聞かれたから『大丈夫だよ』って言ったんだ」
「そうなの、何かあったのかしらね?」
「『本当に大丈夫?』って聞かれたから『絶対大丈夫だよ。 明日は絶対に実家に帰れるさ』と僕は母を安心させたよ」
「………………」
「それからこれも今朝の話なんだけど、探偵の人が家を訪ねてきていろいろ聞かれたよ。 探偵の特徴ははヒゲ面で、そのかたわらにメガネをかけて蝶ネクタイをした小学生っぽい少年を連れていたなあ。 でもなかなか賢そうな顔で、見た目は子供、頭脳は大人って感じだったね」
「…………ユウ」
「どうしたの、アリサ?」
「あなたは今朝、自分の家でフラグを立てすぎているわ」
「いいじゃないか。 朝にまとめて自分の家にフラグを立てておいたほうが、回収するときにラクじゃないか」
「それ全部、回収しちゃ駄目なヤツよ」
「アリサ、僕スカイダイビングをやろうと思うんだけど――」
「回収しに行かないで!」
「アリサ、君はきつね派? それともたぬき派?」
「そうね……どっちもマスコット的にはかわいいけれど……」
「それとも月見派?」
「あれ、おそばの話だったの?」
「それとも鍋焼き派?」
「うどんの話だったの?」
「それともイヌ派?」
「……それは何なの?」
「それともサル派? キジ派?」
「……おともの話?」
「それとも豚派? カッパ派? サル派? 人間派?」
「サル2匹目よ?」
「それともワカシ派? ワラサ派? ツバス派?」
「…………それは何?」
「ガンド派? ショウジゴ派? コズクラ派?」
「まったく聞き馴染みがないんだけど……」
「イナダ派? ハマチ派? ブリ派?」
「出世魚の話だったの? その中だったらブリよ」
「そうか。 アリサはブリ派か」
「ええ……出世魚の中だったらブリね」
「………………アリサ、第1回選択希望、ブリ!」
「ドラフトだったの!?」
「アリサ、君はアニメ派? それとも野球派?」
「……アニメと野球で比べるの?」
「そうだよ、アリサはどっち派だい?」
「普通アニメと比べるんだったら、ドラマとかじゃない?」
「アニメ派か、野球派だよ。 だって野球は、筋書きの無いドラマだろ?」
「…………ここにきていいことを言うのね」
「アリサ、君は野球派? それとも相撲派?」
「……野球とサッカーじゃなくて、野球と相撲を比べるの?」
「そこが気になるなら、聞き方をちょっと変えるね。 アリサ、君は筋書きの無いドラマ派? それとも筋書きのあるドラマ派?」
「…………基本はこういうことを言う人なのよね」
「アリサ、君はボケ派? それともツッコミ派?」
「いまさら聞くまでもないでしょ」
「アリサ、今から君に一択クイズを出すよ」
「一択クイズ?」
「あるところにサヤカという女の子がいました。 両親に愛情を注がれ育ったサヤカに、あることが起きました。 それは何でしょう?」
「……それが問題?」
「『1・母親の不倫による、両親の離婚』」
「………………」
「さあ、答えはどれでしょう?」
「……一択クイズだものね。 1番」
「1番の?」
「……1番の母親の不倫による両親の離婚」
「正解。 父親と母親は大喧嘩をして父親は出て行き、親権は母親がとりました。 そして母親はその不倫相手とすぐに再婚したのですが、その新しい父親は血のつながっていないサヤカに対して無視、もしくは罵声、挙句は暴力をふるい何一つ愛情を注ぎませんでした」
「…………これ、まだ続く――」
「そしてそこへ母親と新しい父親の間に男の子、つまりサヤカに弟が出来ました。 新しく姉弟が出来てサヤカはとても幸せでした。 そんなサヤカに母親がかけた言葉は何でしょう?」
「またここで問題なの?」
「『1.今すぐこの家を出て行け。 弟が出来た今、アンタがいるとこの家はギクシャクする』」
「えぇ~…………」
「さあ、どれ?」
「……他に選択肢は無いの?」
「一択クイズだよ」
「…………もっと幸せになれそうな選択肢は?」
「一択しかないよ」
「…………1番」
「1番の?」
「……私の口から言いたくない」
「1番の!?」
「…………今すぐこの家を出て行け。 弟が出来た今、アンタがいるとこの家はギクシャクする」
「正解。 家を追い出されたサヤカは――」
「もうやめない? 罪悪感が――」
「サヤカは愛情に餓えたまま大都会をただただ彷徨うばかりでした。 そんな中、街で出会った男に優しくされて『この人は私を愛してくれる』と勘違いしたサヤカは、たとえその男に暴力を振るわれ、お金をせびられても『この人が私に愛をくれる』とただただ信じ続けました」
「ひどいわ…………」
「やがて男にも捨てられたサヤカは、またしても独りぼっち。 愛情だけを求めてまた彷徨いだしました。 さて、この後サヤカはどうなったでしょう?」
「…………もう聞きたくない」
「『1』――」
「聞きたくないってば!」
「『1.作者の都合により打ち切りになった』」
「…………えっ?」
「さあ、どれ?」
「…………サヤカはどうなったの?」
「もう1回選択肢を言うよ。 『作者の都合により――』」
「認めない! ハッピーエンドは? いや……ここまで来たらバッドエンドでも構わないわ。 続きは? 続きはないの? サヤカはどうなったの?」
「選択肢が常にいくつもあるとは思わない方がいいよ。 残酷かもしれないけど、君が認めようが認めまいが答えも選択肢も1個だけなんだ。 さあどれ?」
「…………1番の作者の都合により、打ち切りになった」
「正解。 この連載小説は未完結のまま約5年以上の間、更新されていません。 今後、次話投稿されない可能性が極めて高いです」
「ただモヤモヤが残っただけよ……」
「アリサ、ごめんね、急にこんなところに呼び出して」
「……ここまで来てそれを謝られるとは思わなかったけど」
「今まで友達として接してきた君に、とても大事な話があるんだ」
「…………何よ?」
「……断られるのが怖くないと言えば、嘘になるけど…………思い切って言うね」
「…………うん」
「……君と友達以上の関係になりたい。 お願いします! 僕のスポンサーになってください!」
「…………えっ?」
「急にこんなこと言われてびっくりしたかもしれないけど……僕には君しかいないんだ。 だから友達から、スポンサーになってください!」
「す、スポンサーって……?」
「僕はもう、君の資金援助が無いと生きていけないんだ! もちろん僕も出来る限りの広告を出すから、どうかお願いします! 僕のスポンサーになってください!」
「スポンサーとは……?」
「えっ、もしかしてアリサはもう他の男のスポンサーになったの!?」
「いや、なってないけど……」
「だったら今、フリーってことでしょ!? 今はどの男のスポンサーでもないってことでしょ!? ならお願い! 僕のスポンサーになってください!」
「…………ごめんなさい」
「…………そうか」
「…………………………………………」
「……………………アリサ」
「…………なあに?」
「お金を貸してくれないかい?」
「最初からそう言ってよ……」
「アリサ、ついにここまで来たね」
「そうね……これが100個目ね」
「…………アリサ、実は君にここでひとつ、言うことがあるんだ」
「最後の最後に、何かしら?」
「実は今……101個目でした~!」
「………………」
「100個目だと思ったでしょ!? 絶対、これが100個目だと思って話してたでしょアリサ! 実はこれ……101個目でした~! どうだい、100個目だと思ってたら、101個目だった気持ちは?」
「……いや、意外ではあったけど――」
「いや~、実は101個目でした~、アリサへのドッキリ、大成功!」
「…………まあ、本人が満足してるなら、いいかしら」




