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Bitter Orange, in the Blaze.  作者: 紅崎ナヤ
八.橙色の記憶
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103.Nigella-ひそやかな喜び-



 ふと、山の裾野にひかるものが見えた気がした。

 しかし一度目を瞬けばそれも見えなくなり、興味を失う。

「スイ、どうしたの?」

「――いや」

 夕日が辺りを照らす時刻だった。

 世界はどこまでも深く鮮やかな橙に染まり、目の前の少女もまた、同じ色に輝いてその存在を示している。

 幾度となく見た高台からの風景。

 風はいつものように穏やかで、その日常を美しいものとして飾っていた。

 フレアはそこにあるベンチに腰掛けて、心地よさそうに伸びをする。

 そうして、こちらをきらきら輝く笑顔で見上げた。

 その指がとんとん、と隣を叩くのを見て……小さく頷いてそこに座る。

「見せて見せて」

 彼女の手がすっと伸びた。目を輝かせながら、自分の持ってきたバスケットを膝の上から持ち上げていく。

 瞬く間に細い指がするするとその包みを解いていき……、そうして中身が姿を現すと、一層その瞳の色を深くさせた。

 驚いたように口を半開きにして動きを停止させる。呼吸すら止まっているようにも思えた。

「……うわ」

 ごくりと唾を呑み込む音が、こちらまで届く。

 バスケットの中には、焼きたてのチェリーパイが幾つも夕日に煌いて、詰まっていた。

「……ほんとにスイが作ったの?」

「お前が頼んだんだろう」

 まるで化け物にでも会ったかのような顔でこちらを覗きこんでくる。

 しばらく彼女は信じられない、という顔で自分と腕の中のものを交互に見つめていたが、……おずおずと手を伸ばして一切れを掴む。

 真剣そうな視線でじっとそれに目を落とした後、何かを思い切るように、かぶりついた。

 さくっ、と小さな音。半信半疑だったその瞳が、ゆっくりと見開かれる。

「……」

 ごくん、と飲み込んで、フレアは一度溜め息をついた。

 そうしてその瞳が……こちらを捉える。

 いつだって変わらない、少女の大きな瞳だった。

「あなた、どういう体の構造してるのよ……」

 驚きを通り越したのか、呆れたような声で呟く。

 それが、何よりも少女の想いを表していた。

「ものすごくおいしいわ」

 ふわっと顔をほころばせて……。

 少女は小さくこちらを肘で小突いてきた。

「まさか、こんなにおいしいの作ってくるとは思わなかったわよ」

 兄が出かけていった昨日、何か菓子を作ってこいとフレアに依頼されたのだ。

 彼女は様々な方向からかじりかけのパイを眺めてから、……ふいにもう一切れ取り出してこちらに差し出してくる。

 不思議な行動に、思わず怪訝な顔をした。

「ほら、スイも食べてみなさいって」

「もう味見はしたぞ」

「いいからっ」

 半ば無理矢理という感じで渡される。

 自分の作ったそれをじっと見つめた。

「ほーら、食べてみなさいよ」

 ……少女の有無を言わさぬ声。言われるままに、かじった。

 時は限りなくゆったりと流れていく。

 咀嚼して飲み込む様をフレアは一通り見つめて……、そうしてふんわりと顔をほころばせた。

「おいしいでしょ」

 彼女もまた同じように、もう一口かぶりついて……。

「一人で食べるより、二人で食べる方がおいしいのよ」

 そう、笑った。

 夕暮れの静かな日常をふたり、過ごす。

 町からの目線は相変わらず冷たいものだったが、それでもそこには心地良い日々の流れがあった。

 この時が永遠に続けばいい。

 ぼんやりと、感じる。

 多分、こういうことが幸せなのだと思った。

 夕焼けの黄昏。横にはきらきら笑う少女。

 それだけで、後はもう何もいらないとさえ思った。

 ずっとずっと、それは永遠に……。

 この穏やかな風の流れを感じていられれば――。


 ふと、何かの音の流れを聴覚が、掴む。

 それは心を震わせる、……世界が自然と紡ぎだしたような旋律だった。

 少女が踊るように夕日の中を歩き出していた。

 若草の色をした長い髪が、光の川のように流れる。

 あまりのまばゆさに、目を細めた。

 彼女は歌を口ずさんでいる。そう、うた、だ……。

 それはこの光の渦の中に散って、町の――否、世界の全てに響き渡るようにすら思える。

 そこだけ現実の世界が抜け落ちたように、夢の中のような光景が広がっていた。

 目を閉じる。しかしそれでも歌は聞こえている。

 世界に向けて、世界からの歌を少女は歌っていた。そこに歌詞などは関係ない。

 ただ、少女の声と、その存在……それだけで、こんなにも穏やかな気持ちになれるのかと思った。

 しなやかに小さな体がターンして、こちらに振り向く。

 口元にはやわらかな微笑みを。

 少女の歌はそこで途切れたとしても、いつまでも心の中で続いていた。

 気がつけばリズムを刻むように指が地を叩いている。

 既に剣も持たなくなった腕だったが、……それでいいと、思い始めていた。

「いいこと思いついたわ」

 少女の呟き。

 人差し指を口元に当てて、いたずらっぽい笑みを浮かべて。

 次の瞬間、ぱっと花が舞うように彼女の腕が開かれていた。

 山の方からくる夕日を浴びて、こちらを眩しそうに見つめながら……。

「あのね――」

 しかし、少女の声はそこで止まっていた。


 ――ナア


 ふっと彼女の瞳が丸くなる。

「あら?」

 その視線の先――それは、丁度自分の座った隣であった。

 赤毛の猫。

 既に見慣れたその存在を、ぼんやりと見つめる。

 猫は鼻をひくひく動かせながら、バスケットの中身を伺っていた。匂いにでもつられてやってきたのだろう。

「わ、久しぶりね。この子」

 フレアの表情が優しく滲む。足どり軽くこちらに駆けてきて、猫を覗き込んだ。

 猫はまた間延びした声でナア、と鳴く。

 物欲しげな表情をしているように思えたので、パイを割って欠片を差し出してやった。

 すると嬉しそうにかぶりついて、ぺろりと平らげる。

 フレアはそんな仕草に思わず顔をほころばせた。

「ふふ、おいしいでしょ。このひとが作ったのよ?」

 猫を撫でながら、そう呟く。

 猫はまるで答えるかのように、もう一度ナアと鳴き声をあげた。

「もっと欲しい? 一杯あるわよ」

 ふんわり笑って、もう一切れちぎって差し出す。猫はさくさくと小さな音を鳴らせながら頬張った。

「……ネコもこんなの食べるのね」

 猫の前でしゃがみこみながら、フレアが呟く。

 しばらく二人でそんな猫の様子を見ていたから、……いつのまにかもうひとり、その場に佇んでいることに気付くのには少しの時間を要した。


「……ぁ……」


 声をかけようとしたのか、それとも自然に漏れたのか……、それもよくわからない音。

 二人で振り向くと、小さな影は肩を飛び上がらせて後ずさった。

 しかし、フレアの目が思わず見開かれる。自然とその影に向かって、呟いていた。

「あなた……、」

 あのときの、ナタリアと呼ばれていた少女だった。

 ナタリアはおどおどと怯えたような目でこちらを見つめている。

 数ヶ月前、初めて会ったときは冬だったから長袖を着ていたが、今の季節は半そでの薄い衣服をなびかせていた。

 フレアは一瞬もどかしそうな表情をするが、すぐに小さく笑ってみせる。

「ごめんね、この猫、あなたたちが飼ってるんでしょう?」

「……ぁう……」

 今にも泣き出しそうな顔でナタリアは頷いた。

 猫はナタリアの姿をみつけると、一鳴きして少女の元へ駆け寄っていった。

 小さな手が猫を抱き上げて、顔をあげる。

 その視線は数秒迷った後……ふと、ベンチの上に置いたままになっているバスケットに落ちた。

「……」

 大きな瞳が不思議そうにゆらめく。ちらっと猫の口元を見て、またバスケットへと向ける。

「ん? あなたも食べる?」

 ナタリアの仕草から察したのか、フレアが首を傾げながらパイを一切れ取り出した。

「わあ……」

 ふわっと香る甘い匂いに、ナタリアの表情が緩む。甘いものに目がない年頃なのだろう。

 しかし、フレアとナタリアの間に自分がいるということが、幼い少女の一歩を踏み出すことをためらわせていた。

「……」

 ナタリアは考え込んでいるようで、視線を交互にさまよわせる。

「……くれるの?」

 今にも消え去りそうなか細い声が、喉から零れた。

「ええ」

 そうしてまるで心を溶かすようなフレアの鮮やかな笑顔に、……少女の顔から緊張が解けていくのも、時間の問題だった。

「うんっ、ありがとう」

 一度猫を下ろし小さな手で受け取って、すぐさまかぶりつく。その仕草は先ほどの猫によく似ている気がした。

 少女の瞳は小さく瞬いたかと思えば、自然と笑みに滲んでいく。

 幸せそうに、ナタリアは笑った。

「おいしい」

「あらあら」

 フレアがしゃがんで頬についたパイをぬぐってやる。ナタリアはくすぐったそうに笑っただけで、怯えてはいなかった。

「おねえちゃんが作ったの?」

 またひとつ、フレアの瞳が深みを増す――。

「ううん、こっちのお兄さんが作ったのよ」

 彼女の指が翻ってこちらを指差した。

 そうして幼い少女もまた、こちらを覗きこむ――。

 ふっと口が半開きのまま、その大きな瞳が見開かれた。

「……ふぇ?」

 フレアは小さく苦笑する。

「見かけはこんなんだけどね、何故だか料理はうまいのよ」

「おにいちゃんが……つくったの?」

「ええ、そうよ」

 ナタリアはこれ以上ないほどに驚いたようで、ぽんやりとこちらを見つめている。

 まるで先ほどの怯えの視線はそこにはなかった。

「……すごい」

 ぽろりと言葉が漏れた次の瞬間、少女はこちらに飛びついてくる。

「すごいすごいっ、おにいちゃん、お料理上手なんだねっ」

 笑顔。

 とてもまぶしい。

「やっぱりおにいちゃん、優しいんだよね。おいしいお菓子作ってくれるもんね」

 フレアもそんな姿に目を細めていた。

 橙色のひかりが溢れるその場に、影だけが長く伸びていて……。

 とても穏やかな空間だと、そう思った。

「ナタリアっ、こんなところにいたのかよ」

 ふと、坂道の方から声。

 その声に、フレアの顔が目にみえて険しくなった。

 あの日……、自分を糾弾してナタリアを連れて行った、少年だった。

 確かリュートとか呼ばれていたか。

 まだ7歳くらいの子供だった。

 少年はこちらに気付くと……みるみる負の感情を表情に表していく。

「な、ナタリアっ! お前、こんな奴らに近寄ったら危ないだろっ」

 慌てて少女の手をとろうとする。

 しかし、……ナタリアは、掴もうとした手をするりとかわしていた。

「危なくないもんっ」

 駄々をこねるように口を尖らせる。フレアの目が、丸くなる。

 自分はただ、それを見ているだけで……。

「危ないに決まってるだろっ! そいつは何人も人を殺してるんだ、近寄ったらろくなことがないんだっ」

「なら、どうして?」

 ナタリアは心の底からわからない、という顔で、少年に向かって尋ねていた。

 それは、心を揺り動かす魔法のことば……。


「お兄ちゃん、剣なんて持ってないよ」


 顔を……あげた。

 夕日が、ひたすらまぶしかった。

 ナタリアの視線が自分の腰にやられて、また顔をかしげてみせる。

「見てよ、お兄ちゃん……危ないものなんて持ってないもん。だから大丈夫だもんっ」

 大気に散っていく、声。

 少年は一度呆気にとられたものの……まだ、釈然としない顔をしている。

「……でもさ」

「ぁうっ……」

 しかし、そうやっていられたのもそこまでだった。

 ナタリアの目じりに涙が浮かんだと思ったら、一気にそれが滝のように流れ出したのだから。

「うわ……っ、ちょ、泣くなってこらナタリアっ」

「っく……危なくなんてないもん、……ないんだもん……えっぐ……あぅっ……」

 やはり仲間の涙には弱いのだろう。先ほどの怒りは何処にいったのか、少年はおろおろとするばかりだ。

「……やれやれ」

 フレアが腰に手をやりながら、呆れた顔で苦笑する。

「男の子が女の子泣かしちゃいけないわよ。ほら、ナタリアちゃん、もう一切れあげるから泣きやんで?」

 言いながらもう一切れ、バスケットの中から取り出して差し出した。

「……うっ、ん……」

 しゃくりあげながらもナタリアはそれを受け取って、かぶりつく。

 それをじっと見つめている少年に、フレアの意識が行った。

 お互いの視線がぶつかって、……少年は数歩、後ずさる。

「あなたもいる?」

「い、いるかっ! そんなもん……」

 ぷいっとそっぽを向いて、少年は拒絶した。

 しかしナタリアがぽそりと呟くと、彼の意思が傾くのが見て取れる。

「……おいしいよ」

「うっ……」

 ナタリアのかじるパイに完全に目がいっている。やはり子供ながらに食べたいのだろう。

「お兄ちゃんが作ったんだって」

「……ぅ……」

「ほらっ、リュートくんもっ」

 少年は、折れた。

 苦笑しながら差し出されたフレアの手からひったくるようにパイを手にとり、噛み千切るようにして口に入れる。

 こちらを睨みながら彼はむしゃむしゃと口を動かしていたが、……次第にその顔から表情が消えていくのは予想がついたことだった。

「……」

 呆然としたような顔で、こちらに視線をやる。

「おいしいでしょ?」

 フレアが問うと、少年はこくりと頷いて――次の瞬間、我に返った。

「わわっ、うまくない! 全然うまくないっ!」

 慌てて否定に走るが、フレアの笑い声を止めるには至らない。

 くすくすとフレアは笑いながら、少年の頭をぐしぐしと撫でた。

「やっ、やめろって!」

「ふふ、男の子は正直なのが一番よ?」

 真っ赤になって逃げようとする少年と、笑顔のフレア。

 なんだかんだいって瞬く間に彼の手から菓子は消滅していた。

 ナタリアも嬉しそうに跳ね回っていた。

「そうそう、ねえ、スイっ」

 フレアがこちらを向いて、きらきら笑う。

 そして、少女は言っていた。


「お菓子屋さん、できると思うんだけど」


 ――言葉を、見失う。

 思わず半ば呆然と、少女を見上げる。

 彼女は、やはり笑っていた。

「きっと売れるわよこれ。あなた腕だけは確かだもの。ね、そうすれば町の人も仲間にいれてくれるかもしれないじゃない?」

 自分と同じように突然の提案にぽうっとしている少年少女たちにも、笑いかけて……。

「どこか空いてる家を探して……、貸してもらって。朝早く、一杯お菓子つくるの。私も手伝うわ。そしたら絶対に評判呼ぶと思うのよねっ! 店長は無口で無愛想でどうしようもないけど、腕だけは確かだ、って」

 ぱっと手を広げて、首を傾げる。

「――どうかしら」

 心の中は、真っ白だった。

 あの兄に拾われた日に、自分は黄昏を選んだ。

 しかし、それを少女が別の道へと呼び寄せた。

 それはとても穏やかで、あたたかな道。

 そうしてまた、その道を歩いていくことに――、心が、震える。

 いいのだろうか。

 このままこうして歩いていって。

 一度は血にまみれた手で、新たな一歩を踏み出すことなど……。

「さんせいっ!」

 ふっと、視線を傾けた。

 ナタリアが、その体を一杯に使って両手をあげていた。

「ナタリア、毎日買いにいくよっ。ね、リュートくん」

「いくかっ」

「行くもんっ! だって、おいしいお菓子が一杯なんだよ?」

「う……」

 おいしいお菓子、という言葉に少年が詰まる。ごくりと喉が鳴ったところからして、想像でもしたのだろう。

「みんな一緒に、お菓子買いにいくもん」

「ふふ、ありがとう」

 フレアはふんわりと笑って、またこちらを向いた。

「ね、スイ? 賛同者がこんなにいるんだけど」

「……――」

 彼女の瞳を……見た。

 強さを湛えた、瞳だった。

 こちらを迷うことなく見つめる、真っ直ぐな視線。

 眩暈すら覚える。

「……そうだな」

 だから、呟いていた。

 きっと、これでいいのだと。

 このまま歩いてゆけると。

 この少女と一緒に。

 この日常と一緒に。

 ずっとずっと、進んでゆけると――。

「決定っ!」

「やったー!」

 はしゃぐフレアとナタリアを、ぼんやりと眺めていた。

 いつの間にか猫が隣に座って毛づくろいをしていて、こちらの視線に気付くとナア、と鳴く。

 そっと撫でてやると、心地よさそうに目を細めた。

「よし、じゃあ今日はもう帰らなきゃ。そろそろ日が沈むわ」

「うん、帰ろう」

 すっかり意気投合している少女ふたり。

「……ふん」

 少年は、それをほんの少し羨ましそうに見つめていた。

 自分もまた、バスケットを持って立ち上がる。

 4人で坂道を、下っていく――。

「明日からお店出来そうなところ探さなくちゃね。なるべく広場に近いところがいいかしら」

 屋台なんて手もあるわね、とフレアは思案にふける。

「いつからお菓子屋さんはじめられる?」

「そうねえ、なるべく早い方がいいわよね。スイっ、ちゃんと料理のレパートリー増やしておきなさいよ?」

「……ああ」

 坂の上から吹いてくる風は、ただ心地良くて。

 とても……静かだった。

 これはきっと、幸せなのだろう。

 そこに嫌な感じは……全くしないのだから。

 坂を下りたところで、それぞれの道への分岐点となる。

「ちゃんと真っ直ぐお家に帰るのよ?」

「うんっ」

「分かってるさ、そのくらい」

 子供たちは、各々の道へと駆け出していった。

 それを眩しそうに見つめたフレアが、見送る。

 彼らの姿が見えなくなると……彼女は静かに吐息をついて、こちらを見上げた。

「スイ、背が高くなったわね」

「……そうか」

「うん。はじめて会ったときは私と同じくらいだったわよ」

「そうだな……」

 ふたり、並んで歩いて……。

「これからも、頑張ろうね」

 橙色の少女は、そう笑った。

「きっとスイは、もっと伸びるから」

 それが背のことなのだか、また別なことなのだか、よくわからなかったが……。

「……ああ」

 だけれど、やはりどうしようもない心地良さをそこに感じていて。

「じゃ、また明日ね」

「ああ」

 彼女の家への道を歩いていく少女の姿は、ひたすら鮮やかなものとして焼きついていた。

 手を大きく振って歩いていく少女。

 その姿は会ったときと変わらぬ輝きを持っていて、……しばらく後姿を眺めていた。


 世界は橙色から、暗闇の色に染まっていく。

 静かに、ゆるやかに色は落ちていく。

 そう、夕暮れの時間は短いのだ。

 あまりに短くて……。

 でも、だからこそ美しいのだと――。



 ――陽は、落ちた。

 最後の日常という名の、陽が――、落ちた。




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