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出会い

 二〇一四年四月都内某病院。外では春爛漫で桜の花びらが気持ちよく舞っている。しかし、外の晴天の景色とは裏腹にそこにいる男性の表情は暗い。


「先生、ありがとうございました」


 目の前の医者にお礼を言い、診察室のドアを閉める三十代前半の短髪で体格が良い男性。

 ドアを締め切った後、「はぁ~」と疲れたように溜息を吐く。男性の様子は目に見えて疲労が溜まっており、勇ましい顔つきからは覇気が感じられない。


「もう年かな。体が重いな」


 呟きながら一人肩をまわして歩く。その肩からはゴキゴキと骨が軋む音がする。そうして、自身の身体を慣らしながら病院内を進むと、ガタンッと何かが床に叩きつけられる音を聞いた。

 男性はその音が気になり発信源を探る。そうしてリハビリセンターの一室が目に入った。男性が室内を覗くと、そこには病院患者の老若男女がリハビリに励んでおり、その中に一人の少年が倒れていた。


堺君さかいくん! 大丈夫?」


 女性職員が堺と呼ばれた少年に触れようとした。


「だ、大丈夫っす」


 少年は職員の手助けを拒否し、そのまま自力で起きようとする。が、ダンッと途中で再び倒れてしまう。

 職員が見るに見かねて手を差し伸べようとするが彼はそれを手で制した。そうして起きようとするが中々起き上がることが出来ない。

 それもそうだろう。見ると彼の身体は右腕と左足にギブスがある。その状態ではすぐには自身の身体を持ち上げることは難しいだろう。

 いつのまにか室内の職員と患者たちは皆彼を注視している。そんな彼は、床に顔を埋めた状態でプルプルと体を震わしている。自由に動かせない自身の体が悔しいのだろう。


「……堺君」


 女性職員が困ったように少年を見る。先程少年に止められたせいか手助けをしてよいのか戸惑っているようだ。

 その時、倒れている少年に近づく一人の男性。その男性は音が気になって、リハビリセンターの室内を覗いていた人物だった。


「見ていられない。さあ、手を貸すよ」

 

 そう言って少年の体を持ち上げる男性。男性の手は少年に拒否されなかった。

 それを見て女性職員も手を貸す。


「くっ!」


 少年は悔しいのだろうか顔を俯かせる。


「堺君、あせらずにゆっくりやりましょう」

 

 落ち込む少年に女性職員はそう言って、「ほら、みなさんもじっくりやりましょう」と周りの患者のリハビリを促して去っていく。

 少年もそのままリハビリの続きに入ろうとする。

 男性は少年を元気づけようと話しかけた。


「堺君? かな。その何て言ったら良いかわからないが――」

「えっと、大丈夫っす!」


 少年はそれだけ言って男性の言葉を遮る。少年の強い口調に男性はそれ以上何も言えなくなる。


「……そうか、だったら良いんだ」


 それだけを口に出して男性はその場を去る。そうして去り際にもう一度だけ少年を見る男性。少年の目には強い意志が宿っており、そのことが男性の胸に強く印象付けた。


 病院を後にした男性は両手を上空に挙げ体を伸ばした。

 外の景色は相も変わらず桜が舞っている。


「少年のあんな姿を見せられては、年寄りもまだまだ頑張らねばな!」


 決意を新たにしたところで、男性に声が掛かる。


『先程の人間、実に興味深い』

「…………」


 男性は立ち止まりまわりを見渡すが誰もいない。男性はもしやと思い、自身の右手中指を見た。――そこにある指輪を。


『どうした、なぜ驚く? 我らに意思があると聞いていたのではないか?』


 またも声は男性の脳内に響いた。


「……いやはや、実に驚いた。指輪を着けて三年ほどだが初めてだ。まさか喋るとは思ってもみなかった」

『…………』

「なぜ急に話そうと?」


 疑問を指輪に投げかけるが明確な答えは返って来ず、別の言葉が返って来た。


『次の持ち主は先程の人間にしろ。お前の体も限界が近いだろう』


 その返答に男性はふっと一笑し、


「私の体の限界は私が決める」


 男性は病院へと振り返りってぼそっと呟く。


「あの少年に危険なことはさせたくないものだ……」


 そう言って再び男性は前を歩き始めた。


『…………』


 そんな彼に再度、言葉を投げかけられることは無かった。


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