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予兆

「ハッ、ハッ、……」


 ランニングマシンで汗を流しながら、かずはこれまでの事を思い起こす。

 火災現場、テーマパーク、銀行、そして今回の事件と。武装攻殻の違和感は感じないが、何か自分の内にモヤモヤしたものがあることは否定出来ない。


「――――ッ、おい和ッ!」


 突然の大声にびっくりしながら顔を向ける。そこには義明よしあきが後ろで何とも言えない表情で立っていた。


「ったく、やっと気づいたか」

「義明さん……」


 マシンを止めて、深く息を吐く。


「何だか鬼気迫る顔だったぜ。ほらっ、これでも飲めよ」


 そう言って軽く放り投げられる缶ジュース。


「っと、ありがとうございます」


 素直にお礼を言い、受け取ったジュースを勢い良く飲む。水分が身体に染み渡り思わず脱力してしまう。


「そう深く考え込むなって。体を動かしてすっきりしたい気持ちはわかるが……。別に世界を救えってわけでもないだろ? それとも何か気がかりなことがあるのか?」

「いえ、そんなことは……」


 否定の言葉を口にするが和の表情は晴れない。


「言ってみろって。悩みってのは口に出すと案外解決するもんだぜ」


 義明の言葉に思い迷うが、やがて口にする。


「火災の時や爆弾処理の時は力んじゃったことは確かです。でも、先日と今日の銀行強盗の時は一気に頭に来たというか、上手く自分の感情が制御できなかったんです。それこそ相手を……。っ! だぁーくそッ!」


 頭に浮かんだ嫌な単語に思わずかぶりを振り、和は再びランニングマシンを動かしてモヤモヤする気持ちを吐き出すように走る。

 その姿を腕を組んで眺める義明。そして、ゆっくりと口を開いた。


「……やっぱりお前は考えすぎ。武装攻殻ってのは思いを力にするんだろ? だったらお前が気負いすぎてるのが原因じゃないのか? そもそも本来、四件の事件は別に武装攻殻がなくたって解決出来たんだよ。何もマンガやアニメみたいに、お前がいなきゃ世界が滅びるってわけじゃない。そんな深く考え込むなよ。致命的な被害は出てないし、お前が責任を感じる必要はない。それに世間が何と言おうがそんなもん次に活躍して黙らせればいいんだよ!」

「…………」


 走りながら義明の言葉を黙って聞く。そうして黙々と身体を動かすこと数十秒、マシンを止めて再び足を止める。


「……そうですかね?」


 俯いてポツリと呟く和。


「ああ! お前はまだ青春真っ最中の高校生だ。ただひたすら突っ走るのも悪くないと思うぜ」


 義明は笑顔でサムズアップする。


「……ふっ、ははっ!」


 その笑顔を見て悩んでいたこと自体馬鹿らしくなり、つい和も笑みをこぼしてしまう。


「ところで和よ。俺はそんな話をする為にお前のところに来た訳じゃないんだ」


 義明は周りをきょろきょろと見回して一旦間を取る。


「ゴホンッ。今日俺さ、夜は空いてんだよ」

「…………?」

「あの日から二週間経ったよな?」


 義明がチラチラと和に視線を合わせては逸らす。義明が何を言いたいのかさっぱりとわからない。


「お前、絶対まだ連絡してないだろ? そろそろ連絡しないと不味い。駆け引きってのはいつも男がリードするべきなんだよ」

「???」


 熱弁する義明だが、何を言っているのかまったくわからず、頭に不思議マークを浮かべてしまう。そんな和の様子に義明はれてしまう。


「ああ、ったく、よし! とりあえず携帯をここに持ってこい!」


 部屋のロッカーをビシッと指差す義明。訳がわからないままに和はその指示に従う。

 ロッカーに入れている自分の荷物から携帯を取り出し、ロッカーの扉を閉める。と同時に、トレーニングルームの扉が開いた。


「おっ、二人共お疲れ~」


 和たちを見て、手を挙げる百紀ゆき


「百紀さんっ。お疲れ様です」

「げっ!」


 和とは対照的な曇った声を出す義明に百紀は目聡く反応した。


「何その反応? 私がここに来たら不味い訳?」


 ずかずかと厳しい顔つきで義明に近づく。


「ち、違う違う。和が……」

「和君? 和君が何?」


 短く不機嫌な声で問い詰める。それに同調するかのように義明の元に戻ってくる和。


「とりあえず携帯持ってきましたけど……」


 のこのこと携帯を差し出す和を見て、義明は苦い顔をする。


「お前、空気を読め……」


 項垂うなだれる義明に百紀は和の方を見てどうしたのこれ? と視線で語りかけるが、和もわからない為に首を振って対応する。


「まぁ、何でもいいけど、和君に変な事教えないでよね」


 義明に冷たく言い放ち、その場から離れる。


「百紀さんも訓練ですか?」

「ええ、射撃ルームでね」


 そう言って入ってきた扉とは逆の方角を指差す。

 指差された扉、その奥には射撃部屋があった。部屋には様々なタイプの訓練銃が用意されており、射撃の練習が出来る。もちろんこの部屋、和となおは使用禁止とされている。

 和が噂に聞いたところ、百紀はストレスが溜まるとこの部屋で発散させるらしいが真意は定かではない。

 射撃部屋に姿を消したことを確認した義明は、すかさず和に迫る。


「あぶねぇ~。よし、邪魔者は消えた。和、携帯を見せるんだ」

「ったく、さっきから何ですか?」


 思わず舌打ちしてしまう和。


「あれだよ、この前の――」

 

 その時、義明の声をさえぎるようにフロア内に無機質な機械音が響く!

 そして――


 『全隊員は速やかに作戦室まで来るように!』


 部屋に設置されているスピーカーからみなみの真剣な声が鳴り渡る。と同時に隣の部屋から百紀がすぐに戻って来た。


「行きましょう!」


 和と義明は頷き、三人は走るようにトレーニングルームを後にした。


* * *


 一階の作戦室に集まるレグルスの面々。さとると南が画面横に立ち、その前に直以外の面々が後ろ手にして顔を揃えている。ちなみに、直は学校にいるので不在である。

 部屋には緊張感が漂っており、その顔つきは真剣である。


「よし、みんな集まったな。実はつい先程連絡があったのだが、みずそ銀行京和支店での立て篭もり事件が発生した」


 ちなみに、みずそ銀行京和支店けいわしてんはレグルス本部から車で十分ほどの距離に位置している。


「本来なら警察だけで対応してもらいたいところなのだが――」


 ちらりと和に視線を当てる悟。


「実は犯人の要求は金ではなく、和君なんだ」


 予想もしない悟の言葉に皆が怪訝な表情を浮かべる。


「こちらが現在の銀行内の様子です」


 南が誘導し、画面上に銀行内の様子が映し出された。そこにはフードとサングラス、マスクで顔を隠した犯人らしき人物が銃を片手に持って立っており、その横には手を縛られて地面に座り込んでいる女性がいた。


「またサングラスとマスクかよ……」


 以前の襲撃を思い出して、義明が毒づく。


「報告によると、犯人は非常に好戦的で銀行内に入っていきなり女性を捕まえ、三発天井に向けて発砲、建物内から全員退去を命じたそうです。通報後、警察が到着、要求を聞いたところ『ヒーローの堺和をここに連れて来い』と言ったそうです」


「…………」


 にわかに緊張して身体を強張らせる和。


「そしてもう一つ、こちらに要請が来た理由があります。それはこれです」


 カメラがアップし、女性の身体が映し出される。


「これは……C4か」


 力が低くうなりながら画面を注視する。画面で女性の身体にプラスチック爆薬(C4)が取り付けられているのが確認できた。


「はい、そうです。これによって迂闊うかつに警察が手出し出来ずにいます。一応近隣の住人には避難誘導がなされています」

「作戦内容としては犯人の要求どおり和君に武装攻殻で先行してもらう。その後、様子を見て警視庁の特殊急襲部隊SATが背後から急襲する手筈となっている。だが犯人の要求が未知数の為、和君には臨機応変な対応が求められる。和君、出来るかな?」

「はいっ! やってみますッ」


 不安を打ち消すかのように大声を出す。


「司令、それでは我々は?」

「後方待機だ」


 悟が重く告げる。


「以上、それでは和君、出動してくれ」

「了解です!」


 出動命令で和が部屋を出ようとした時に、悟が追加で声をかける。


「和君。犯人の要求が何であれ、もし命の危険を感じたら真っ先に自分を優先して欲しい。それでいくら世間が何を言おうと気にする必要はない」

「……はいっ!」


 悟の言葉に大きく頷き、今度こそ部屋を出て行く和を見つめた後、悟は他の面々に告げる。


「力君、義明君、百紀君、三名は重装備をして、すぐに現場に行ける体制を整えておくように。特に今回は犯人の要求が和君だということで不測の事態にも備えておいてくれたまえ!」

「「「了解ッ!!!」」」


 急いで準備に入る三名を尻目に悟は画面の犯人を注視する。

 このまま無事に終わることを切に願う悟だが、彼の中にはどうしても嫌な予感が拭いきれなかった。



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