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一日の終わり

かずさんったら、あんな女の色気に騙されて……。まったくもうっ!」


 ぷりぷりと怒りを発散させながら、和を引っ張っぱるなお


 放送終了後、直に引っ張られながら和はスタジオを離れた。そのまま関東チャンネルの建物を出て、敷地内を歩いてレグルス本部を目指す。直によると本部の三階が和の部屋らしい。

 そこに二人して向かっているわけだが……。


「そもそも私は言いましたよね。あの女性には気を付けてくださいと」


 先程からずっとネチネチと小言を言う直。

 同じような内容を繰り返し言うので、和はそれらを聞き流しながら、ついさっきまで電源を切っていた携帯を確かめた。画面には姉や和泉いずみ、あとクラスの友達から多くのメールが来ていることが示されていた。

 テレビを見て送ってくれたのだろうと微笑ましくなる和は内容に目を通していく。


「今度サイン書いてくれ! オクで売るから!」

「ホントに連絡先もらったのかよ!? 俺にも教えてくれ!」

「さっきのテレビ、さかい君の受け答えを聞いてると、こっちが居たたまれなくなったよ」

「ねえねえ、友達が和君に会いたいって言ってるから、今度時間作ってね!」


 色々と書かれている内容に苦笑する和。次に家族のものに目を通すと、


「これ見たらすぐに連絡!!」

「一言言いたい事があるのだけど……」

「お兄ちゃん……」


 姉妹のメールは、それぞれたった一行しか書かれておらず、その内容に和の顔が青ざめた。


 ――やべえ、何か怒ってるよ! どうしよう!? と和は頭を悩ませる。


「和さん!? 聞いていますか?」


 前から聞こえたご立腹な声に正気に戻る和。


「あ、ああ。聞いてるって! でもあれはしょうがないって。不可抗力だ」

「そういうことではありません。きちんと心構えさえ出来ていれば惑わされずに済んだはずです。――それと本当にあの方から連絡先を貰ったのですか?」


 目を細めて追求してくる。


「い、いや。あ、あんなのあの人のパフォーマンスに決まってるだろ」

「本当ですか?」

「あ、ああ……」

 

 そうは言うが目は泳いでおり、あからさまに動揺しているのがわかる。

 その恰好かっこうを、しばらく見つめる直。

 

「……わかりました。まぁ、仮に、仮にですよ? 彼女の連絡先を貰っていたとしても、どうせマスコミの餌食えじきになるだけですからね。和さんのスキャンダルを狙っているんですよ」


 それだけを言って歩みを再開する直。そして引っ張られる和は何も言えなかった。

 

 こういったやり取りをしながら、レグルス本部のビルに到着した。


「前にも言ったと思いますが三階が和さんの部屋となっており、全容としましては地下がトレーニングルーム、一階がオフィスと指令室、二階が倉庫と空き部屋、三階が由里ゆりさん、姉さん、和さん、私の部屋となっています。そして、四階がみなみさん、司令、長沼ながぬまさん、平山ひらやまさんの住居となっています」

りきさんも住んでいるんだ?」

「はい、長沼さんは単身赴任の形を取っています。といってもご自宅は都内らしいので、そう遠くは無いはずです」

「そっか。じゃあ次にさぁ、明日以降の通学はどうすればいいんだ? 電車?」


 ここから学校までは電車と徒歩で三十~四十分程の距離になる。


「しばらくは平山さんの車での通学となります。いつ危機があるかわかりませんので」

「そうだよな。落ち着くまで待たないとな」

「あと、こちらが和さん用のカードです。このカードで本部の中に一人で入れます。一種の通行許可証ですね。無くしたらすぐに言って下さい」


 白いカードが手渡されて、表には名前と顔写真が貼られていた。

 この貼られている顔写真、いつ取られたかわからない物だったのだが、怖いので聞かないようにする。


 正面入り口からビルに入ると、二人の警備員が常駐していた。

 軽く会釈をして貰ったばかりのカードを使って改札口を通り抜ける。

 義明たちと以前ここを通ったが、いざ自分でカードを使用して通るとレグルスの一員になったと実感が湧く。

 そうしてエレベータに乗る二人。


「二階に行くのか?」

「はい、ちょっと二階に用があります」


 直がそのまま二階の空き部屋へ向かう。疑問符を思い浮かべながら和はそれに付き添った。


「それでは和さん、どうぞ中へ」


 部屋の前で直が立ち止まって先にと促す。


「入っていいの?」


 和の問いかけに頷く直。

 その反応を受けて入り口横のカードリーダーにカードを通して部屋に入った。

 すると――


 パァンッ! パァンッ! 


 目の前で鳴り渡る音と舞い散る彩りの紙吹雪。


「ようこそ~、和君~。レグルスは君を歓迎するよ~」


 部隊の面々がクラッカーを握って、にこやかに和を見つめている。


「えっと……」


 この光景に困惑していると、後ろからぐいぐいと背中を押される。


「和さんの歓迎会ですよ。どうぞ入ってください」

「早く来いって!。俺も入った時はやって貰ったんだから素直に受けとくもんだぜ。それより、和! ちょっとこっちに来てくれ」


 義明よしあきが和を手招きする。


「どうしたんですか?」


 戸惑う和に耳元で小さく告げてくる。


「とぼけんなって。連絡先貰っただろ。今度連絡して、俺らで合コンしようぜ! くくくっ、アナウンサーが彼女になるってのもいいよな~」


 にやにやしながら妄想を膨らませる義明にどうしたものかと戸惑っていると、一人突進してくる人物がいた。


「ちょっと! そこの二人、何をコソコソとしているのよ! あと和君、何アレ? デレデレしちゃって! 皆で見てたわよ」


 百紀の頬はピンク色に染まっている。


「はあ~。皆揃ってから乾杯しようって言ったのに、百紀さんったらテレビ見ている途中で勝手に飲み出しちゃうんだから」


 南が二人から百紀を引き剥がすが、百紀は納得いっていないのかグルルとうなっている。


「ほら、皆! まずは乾杯が先だ。少しは落ち着かないか!」


 さとるが苦笑しながら皆を見渡す。


「どうぞ、和さん」

「ありがと」


 部屋内の机には多種多様の料理と飲み物があり、そこから直が紙コップを手渡してきた。

 

「よし! 皆飲み物は持ったな? 昼間は皆で顔を合わせたが、まあ我が部隊恒例の歓迎会を行う。それでは和君の入隊を祝って乾杯!」


「「「「「「「乾杯ッ!!!」」」」」」」


 こうして和の歓迎会が始まり、皆思い思いに飲み始めた。

 和と直以外はアルコールを飲んでいるが、その飲みっぷりは結構なハイペースであった。

 そうして歓迎会が始まって一時間が経った。


「ヨッシー! お酒が足んない……。買って来て~」

「あははは~。世界が回る~」

「聞いていますか、司令! さっきの放送ですが、きっとまた抗議が来ますよ。そもそも何でこっちばかりに面倒がくるのですか! あんなのあのアナウンサーが悪いに決まっているじゃないですか。そうですよね? 力さんも関東チャンネルに言って下さいよ。私が行くと皆が苦い顔をするんですよ。まるでクレーマーが来たとばかりに! 酷くないですか? こっちはクレームを受けた側だっていうのに。そもそも知人がこう言うんですよ。『あんたの愛は重い。人を信じると痛い目にあうぞ』って。そもそも女性って言うのは男性の一歩後ろを歩くのが――」


 目の前の惨劇を見た後、和は紙コップをチビチビと飲んでいる直に話しかける。 


「なあ、レグルスの女性って酒飲まない方が良いんじゃないか?」

「…………」

「……直?」


 直からの反応がないので再度呼びかける。


「……え? なんれすか、和さん? もういひろお願いしまふ」


 直の顔はほんのり赤く色付いていて、もうすぐでリンゴの美味しい色合いだ。

 おそらく場の空気に酔ったのだとそう思いたい和だった。


「もう~、そんなに見つめられると照れちゃいますよ~」


 自分のほほに手を添える。


「い、いや。何でもない。ははっ、まあ、ゆっくり飲めば良いよ」


 直から離れようとする和。――が、すぐさま袖を掴まれる。


「どこれ行くつもりでふか」

「い、いや。ちょっとトイレに……」

「じゃあ、わらひもいっひょに行きます」

「いやいや、付いて来なくていいって」


 和が断ると上目遣いをしながら首をふるふると振り出す。その様子はまるで駄々っ子のようだ。


「駄目れふよ! どこえでもお供しまふ」


 ――酔っ払いには何を言っても通じない。一人でダメなら二人だ!


 姉二人が同じようになった時も、和は和泉いずみといつも二人で対応していた。


「義明さーん。ちょっと来て下さーい!」


 和は向こうで百紀に水を無理やり飲ませている義明を呼んだ。

 さすがにさっきからアゴで使われていてイラッときていたのだろう。


「ん? どうした?」

 百紀の口からペットボトルを放して、こちらに向かってくる義明。


「実は直のヤツもお酒飲んじゃって……」

「……マジか。酒癖悪すぎだろう。ここの女性陣は……」

「同感ですね」


 助っ人を呼んだ和だが、彼は甘かった。

 ここは家ではない。


「あ~、そこ! 何してんのよ。私も混ぜなさいよ~」

「あれあれ~。何だか騒がしいですね~。あれ~、足がもつれます~」


 助っ人を呼ぶと、それに釣られて別の敵が向かって来たのだ。


「あ~、とっと~」


 和の前で由里がふらつく。


「危ないですよ、由里さん」


 由里の身体に手を掛けて支えるとほんわかとする由里。


「おお~、ありがと~」


 チュッとほっぺにかすかな感触が当たる。


「ちょっ! 由里さん!」


 驚く和に由里は悪戯が成功したような子供の顔をする。


「えへへ~」

「もう! ちょっとずるいわよ、私も。ん~」


 ムチュッとさっきとは逆のほっぺに熱い感触が当たる。

 

「にひひっ!」


 百紀は色気のある上気した頬で笑みを浮かべている。


「――っっっっ!! 姉さんたちは本当にはしたないですッ!」


 直が語気を荒げ、すかさず和の両頬を掴んで瞬時に顔を近づける。


「ん……んぅ……っ」

「っ!!……んんんっ!!!」


 和の唇に温かくやわらかい感触が押し付けられ、直の舌が口内に侵入してくる。


「はぁぁっ、あむっ、……ぷぁっ」


 五秒ほどなすがままにされてようやく解放される和。

 離れたお互いの舌から妖艶な糸が垂れた。

 突然の行動に呆気に取られる和たち以外の三人。


「…………っ!! ふにゃぁ~」


 直後、直が変な泣き声を立てて崩れ落ちる。


「おいっ!」


 和は崩れ落ちるその身体を支えた。


「……和よ。その指輪を嵌めるとモテてしまうのか?」


 呆れた目の義明。百紀と由里もジト目だ。

 そうして、居た堪れない三人の視線を受けながら和は無言を貫くしかなかった。


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