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レグルス(前編)

「はあ~、また騒ぎを起こしてくれたわね……」


 眼鏡の女性――北野南きたのみなみが額を押さえながらかぶりを振る。その矛先は目の前にいる四人だった。右から義明よしあき百紀ゆきかずなおと直立不動でお叱りを受けている。

 南は二十代後半、クールボブな髪形と眼鏡の奥にある少し棘のある目つきが相まって、世に数ある企業の社長秘書な雰囲気を漂わせる。


 ちなみに四人が叱られている場所は関東チャンネル本社の敷地内ビル一階オフィス。つまりここがレグルスの本部である。この建物は四階建てで地下にもフロアがある。オフィス内はそれほど広くなく、南と四人を除けば他にはデスクワークをしている女性一人しかいなかった。


 百紀たちは先刻の襲撃対応を警察に任せて、そのまま真っ直ぐにこちらに向かった。そして、部屋に入るなり、窓際奥のデスクに呼ばれたのである。


「目立つのは作戦上仕方がないことだけど、今朝の事と重なって関係各所からクレームが多数寄せられているわ」

「でも南さん。相手が先に私たちに対して攻撃してきました。やり返さないと命の危険を感じましたので今回の行動に至りました」


 はっきりと証言をする百紀の目は、私たちに非がないと判然はんぜんと訴えている。しかし、それを受けて南のメガネがキラリと光る。


「生放送中に報道陣の目の前で発砲したことも? カメラに向けて銃口を向けることも? 報道陣に対して中指を立てることも? そもそも護衛対象を乗せているのに犯人を追跡して撃退しようとしたことも問題あるのでは?」

「うっ!?」


 百紀の強気な目はすぐにあさっての方向に向く。その反応を見て、南はまたしても溜息を吐く。


「まあ、過ぎたことをあまり言ってもしょうがないので今回はこれくらいにします。襲撃事件はしょうがないとしても報道陣の前での行動は問題です。ほんの些細なことも彼らの調理の仕方で如何様にも出来ますので、今後は細心の注意を払って下さい。――わかりましたね?」

「「「了解です!」」」


 和以外の三人が勇ましく返事をする。

 困った様子でいる和を見ると南はようやく表情を緩める。


「ちなみに由里ゆりさん。今朝の件、苦情はどのようなものか百紀さんたちに教えて上げて?」


 四人の背後で仕事をしていた女性が答える。


「はい~、八割が苦情の電話でした~。あと二割は――」


 チラリと百紀を見る。


「男性と女性の割合が半々ぐらいで『あの女性は誰ですか?』、『かっこいいですお姉さま』『好きです』『結婚してください』といった内容だったそうです。ちなみに関東チャンネルの電話担当の方々からは『もうこれ以上は勘弁してくれ』と泣き言を言われました~」


 その報告に「照れるな~」と頭を掻く百紀。


「百紀さん、八割の方を気にして下さい」


 南はそう言ってたしなめ、由里はクスクスと笑う。今説明した女性――名は桜井由里さくらいゆり、外見は百紀と同年代、ふんわりロングな髪型、見た目と話し方で非常にのんびりした印象が伺える。


「さてと、前置きが長くなってしまいました。ごめんなさいね、和君。ウチの部隊は司令含めて緩い人たちが多くて……」


「い、いえ。大丈夫です」


 引きつった笑みを浮かべる和に南も苦笑する。


「そう言ってくれて助かるわ。それではそろそろ司令が戻ってくる時間だから――」


 手元の時計を見て呟く。と同時に背後の扉が開いて体格の良い男性が二名入ってきた。


「お、みんな到着したか。無事で何より!」


 大声を上げて和たちの前にやって来る二人。


「よぉし! 由里君も前に来てくれ」


 両手を掲げ威厳を醸し出す男性は昨夜ヒーロー引退宣言をした天王寺悟てんのうじさとるであった。


「ようこそ和君! 歓迎するよ」


 悟が豪快に笑いながら続ける。


「南君、自己紹介は済んだのかね?」

「いえ。先程までは今朝の件で話をしていました」

「そうか。よし! 幸い全員が揃っているから、私がレグルスのメンバーを紹介しよう」

 

 悟の言葉に慌てる南。


「し、司令。私が代わりに――」

「大丈夫、大丈夫。私にやらせてくれ。何せ皆私の頼れる自慢の部下だからな」


 悟は隊員全員を誇らしげに見渡す。

 その眼差しを受けて、若干照れる隊員たちだが、南だけが少し心配そうにする。


「まず私だが天王寺悟。何度も言うが、昨晩は本当に申し訳なかった。これから困難な道が君を待っているだろうが心配する必要はない。我々レグルスが付いているからね。改めて宜しくお願いするよ。ちなみに部隊内では司令と呼ばれている。和君もこれからは司令と呼んでくれ」


 昨晩と同様、体格と比例した大柄な手を差し出して和と握手をする。


「よし。次にこちらの非常に優秀な女性、立場的に副司令と言っても過言ではない。北野南君だ。恐らくレグルス発足から一番苦労しているだろう」

「司令が言わないで下さい」


 南が呆れた感じでつっこむが悟はお構いなしに続ける。


「結婚願望が非常に強いので和君のまわりに良い男性がいたら紹介してあげてほしい」

「し、し、司令! 何を……。セクハラで訴えますよ! もうっ! だから心配だったのよ、司令に自己紹介させるの……」


 顔を真っ赤にして怒鳴る南に、悟を除いて誰も何も言えない。


「もう私のことは良いです。まったく……。和君、これからよろしくね」


 憤怒の表情から一転して、微笑みながら和と握手する。


「次はこちらの男性。長沼力ながぬまりき君だ。非常に卓越した戦闘技術を要していて海外での訓練も数多くこなしている。あと部隊内での唯一の既婚者なので女性関係での悩みごとも相談してみると良いだろう」

「……宜しく、和君」


「よ、宜しくお願いします」


 ずいっと目の前に現れる大きな手に驚きながらも和は挨拶をする。

 力は悟に負けず劣らずの体格をしており、顔つきは少しだけ無愛想な印象が見られる。


「そして、こちらの女性は桜井由里君だ。少し前まで大学生だったから和君にとっては親しみやすいかもしれない。南君の下、将来優秀な人材になると願っているよ」

「よろしくね~、和君~」


 のんびりした声で言って和にひょいと抱きつく由里。

 いきなりの展開に目を白黒させる和だが、すぐに百紀と直が同時に由里を引き剥がした。


「由里~、何をやっているのかな?」

「由里さん。おふざけはそこまでです」

「ごめんね~、てへ~」


 離れた由里はにっこりほのぼのとしており、その様子に何か納得がいかない百紀と直。


「くそっ、和が羨ましいぜ」


 一人愚痴る義明とこの状況を見て悟はガハハッと笑う。


「仲良きことは美しきかな。やはりこの面子を選んだ私の目に狂いはなかったな」

「……司令、このままではいつまで経っても終わりません。他の三人の自己紹介は個人で既に済んでいるらしいので、そろそろ本題に入りませんか?」


 眼鏡のふちを整えながら先を促す南。


「え~、私も司令から紹介されたい!」

「俺も俺も!」


 抗議の声を上げる百紀と義明。


「うむ、すまんが後は省略ということで……」


 すまなさそうに頭を掻く悟に対して二人はガクッと肩を落とした。


「まあ、今この部屋にいる計八名がレグルス正式メンバーとなる。そしてここからが本題になる。和君、実はレグルスが発足されたのは、ほんの二ヶ月前のことなんだ」

「二ヶ月前? つい最近なんですね」

「うむ。今から説明することは極秘事項である。他のメンバーも聞いたことがない話も含まれるので気をつけてくれたまえ」


 真面目な声のトーンになった悟に、その場にいる者たちは姿勢を正した。


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