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おーかみさんとあたし  作者: あさかわ
1:トリップと逃亡
9/15

-9-

※作中にある処置はあくまでも事実を基にしたフィクションです※

 

 爆発?騒ぎに乗じてあの場から逃げられたのは良かったものの街道に出るには兵士たちを横切る必要があった為、必然的に逆の方向――つまり町中へ逃げるしかなかった。あれから少し時間を置いて出入り口の様子を探ってみたんだけれども、あたしが町を出たいと知った兵士たちは重点的にそこを警備し、とてもじゃないけど出し抜ける状況ではなかった。

 他の抜け道も探してみたけれど、他は全てレンガの高い壁が町を囲っていてそれらしき所は見当たらず。川が流れているなら水が町外から流れてくる空間がある筈だと流れを辿ってみたものの、そこはレンガではなく人がギリギリ通れないぐらいの間隔の鉄格子に遮られていてやっぱり無理だった。


「八方塞がりかぁ」


 あたしの脱走だけでなく、昼間にあった爆発?騒ぎの所為も相まって見回りしている兵士の数が騒ぎ前よりも格段に増えているのもありあまりうろつくことも出来ないし、路地裏に身を潜めたいところだけれどお約束のようにガラの悪い人達がたむろしてて長い間居座ることも不可能。

 宿屋に、とも思ったけれど金髪から貰ったお金は有限だ。あまり出費はしたくない。

 良い案も浮かばずとにかく夜風の寒さから逃れる為に、河辺の茂みに隠れながらコートに包まっていると突然強い光に襲われた。


「vlgじゃkl!うぇう9ちんbkd!!」

「やっば!」


 光源の主はあたしの姿を確認すると大声を張り上げ誰かを呼んでいる様だった。遠くからそれに応えるような声と、ガシャンガシャンという甲冑の音が聞こえる。どうやら見つかってしまったらしい。


「vklsg!」

「bんdlk;!!」

「9kdlfg¥;@:」


 逃げる当人としてはありがたいんだけれど、追跡してる時ぐらい脱げばいいと思う。機動力は低くなるし音もうるさくて近づいてきたらすぐに分かる。地の利も体力も向こうの方が格段に有利なのに今まで逃げ切れてきたってことは、多分そういう事なんだろう。






 そして冒頭に至る。

 この世界に来てから五日目の夜。昨夜から見つかっては逃げ、見つかっては逃げの繰り返しで途中で小休憩があるものの、体力は限界に近かった。路地裏を通り大通りの人ごみに紛れ、停まってる馬車の荷台に飛び込んで身を潜めたりするのを何度も何度も経験している内に夜に。


「gjかlを@]jtl;.gh]p!!」

「をpついwtkm:あ;lm?」


 河沿いを走り、こうなったら河に飛び込んで泳いで逃げてやろうかなんて考えが浮かんだその時、何かが足に引っ掛かり盛大に転んでしまった。


「うっ、わぁ!!!」


 引っ掛かった衝撃で何かもあたしも河の土手を転がり落ち、その勢いは止まらず河へ。考えが浮かんだだけでそんなつもりは毛頭なかったのに、本当に河へ飛び込んでしまったのである。


「ぶっはっ、ごほっ」


 落ちた後、そのまますぐに水面には浮上せず息が続く限り潜り続けた。甲冑を着込む兵士たちは河に入ることが出来ない。あのまま浮かんでこなければきっと溺死したと判断すると思ったから。

 しかし一体アレはなんだったのだろうか。もうそろそろ良いだろうと水面に顔を出して月明かりを頼りに周りを見渡せば、前方で何やら毛むくじゃらな物体が今にも沈みそうになっていた。急いで物体に近づき持ち上げてみると結構な大きさに重量。


「い………ぬ?」


 暗くてよくは犬種までは判断できないけれど、どうやら毛むくじゃらな物体は犬のようだった。しかもただの犬ではなく、虫の息同然の。


「鉄臭いと思ったらこれ、血!!?急いで河から出さないと…!」


 このまま水に浸かっていたら血は止まらず失血死してしまう。期待通り兵士たちはあたしが溺死したと判断したらしく、河辺からは引き上げていた。


「どっこいしょ、っと」

「ウウー……ウーッ」


 河から脱出し、改めて犬の様子を見てみる。どうやら腹部に刃物で一発、目も何かをぶつけられたのか左が負傷していたのが暗がりの中でも確認することが出来た。本当なら暖かくて明るい、清潔な場所で治療するのが一番なんだけれど今のあたしにはどれも満たすことが出来ない。


「なんにせよ血を止めないと………包帯、なんて持ってないし。何か代わりになるようなものは」


 コートは少しでも犬を温める為に破ることは出来ないし、この寒さの中あたしの服も提供することが出来ない。リュックにはまだ物が詰まっているしあと残っている布と言ったら。


「制服ならそれなりに良い布使ってるから丈夫だし。前にストッキングを出血の時に抑えにすると効果的だとか聞いた事あるけど……タイツで応用できないかな?」


 元の世界とあたしを繋ぐ唯一のものだけれど、目の前の命と天秤にかけたら制服の方が軽い。

 水を含んだ制服をぎゅっと力の限りしぼり、ナイフで引き裂き、患部に当てていく。こんなことしか出来ない自分が歯痒くて、無力で、涙が出そうになりながら当てていく。

 最後の仕上げににコートで犬を包んで茂みに隠した。これが、今のあたしに出来る精一杯。


「ごめんねワンコ。本当はもっと、ちゃんとした応急処置があったんだろうけれどあたし、諦めちゃったから。ごめんね、ごめんね…!」


 夢を諦めなければ、追いかけ続けていればこの犬に最善の処置をしてあげられただろう。


「干し肉なんて、食べられる状態じゃ、ないよね。ふやけたパンなら食べれる、かな」


 目が霞んできた、頭も、重い。

 精神的ストレス。肉体の疲労。この寒い時期に河に飛び込んだことによって身体は芯まで冷え切っていた。


「ここに、おいておくから、もしも、もし…も、奇跡的に、元気になったら、食べてね………。それで、逃げて。あたしの分まで、遠くに…ね」


 ここで倒れれば絶対に兵士に見つかってしまうだろう。

 気力と体力が限界を超えて意識が途切れる前に、少しでも犬から距離を取っておかないと結局犬も殺されてしまう。這ってでも離れないと、犬から離れないと。


 考えている最中で視界が真っ黒に染まった。

 

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