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城下町からさっさとトンズラしようと街道に出ようとしたところまでは順調だった。商人の馬車にさりげなくついていって、町と街道の出入り口にまでは来られた。けどそこで待っていたのは。
「ん…?なんだあれ、木札?」
出入り口には城に居たのよりも若干装飾が抑え目な甲冑兵士が二人並んでいて、それらに商人がなにやら木札を見せてから通過していった。もしかして、木札は許可証か身分証なのかな。あれがないと出入りができない?
商人だけでなく、あたしのような旅人風の恰好をしている人も出入りの際にそれを見せてから通過していく。勿論そんなもの持ってないし、こうなったら馬車の荷台に飛び込んで隠れようかとも考えたけれども、もう兵士との距離がかなり近い。人の目も多いしすぐにバレてしまうだろう。
そして、そうこうしている内にあたしの番になってしまった。
「w0r9くい」
「……」
「35、bm。vc」
こうなりゃヤケだと耳と喉を指した後、指でバツを示す。耳が聞こえず声も出せないというジェスチャーだ。これなら言葉が通じなくても怪しまれない。
その仕種で通じたのか兵士二人は顔を見合わせ紙に何か書いて見せてきた。さてどうしようか、文字も読めないぞ。
「………」
「03249m、gじゃ」
「bm:;jsd?」
「w9いt」
こういう時は首を振るに限る。言葉も通じないのに肯定のサインはするものじゃない。日本人は英語が分からないと適当にイエスイエス言いまくる癖というかネタがあるけれど、あれは間違いだというのが自論だ。イエス、と答えれば次が要求される。でもノーと答えれば次を要求される確率は低くなる。どうやら今回も、これで正解だったようで。
「−3r、」
「9w^249」
「bmz」
背中をぽんっと押されて進むように促された。
よし!作戦成功!!そう安心したその時。
「94qkjg、!!94qkjg、!!」
「b、x?」
馬っぽい怪物に乗った兵士が大声を張り上げて現れた。
この兵士、城に居た兵士と同じ装飾の甲冑である。嫌な予感しかしなかったあたしは急いで通り抜けようと思ったんだけれども―――。
「bkbljs!!!」
「うわぁ!!!!」
首筋に剣を突きつけられ、それは叶わなかった。
「kgljtw9いp!」
「ちょっ、顔に近づけ過ぎ見えない!!」
ずずいっと現れた兵士が紙を顔に押し付けてくる。少し下がって確認してみるとそこには、黒髪の少女の絵が……つまり、あたしの似顔絵がばっちり描かれていた。自分で言うのも悲しいけれどあまり特徴のない顔をよくもまぁ描けたものだなぁ、宮廷画家さんっていうのかな?お疲れ様です。
「ってそうじゃない!なんてバッドタイミング!?」
「bんl;」
剣先が更に喉元に近づく。もしかしてもしかしなくてもこの場で処刑とかそんな感じなの?
今度こそもう駄目かもしれない、そう思った瞬間。
「どぅえっ!!??」
「−35kdfj!」
「zmxbんりdj!」
「mxびくー@!」
「0lfd;jうぇt!」
耳に飛び込んできたのは鼓膜が破れそうな爆発音、そして地震。遅れてやってきたのは何かが燃える臭い。周囲を見渡せば、町の中心部から黒い煙が立ち上っていた。
「―――――、――?」
ん?おかしい。あたし今「ガス爆発か、あれ?」って声に出した筈なのに声が聞こえない。違う、自分の声だけじゃなく周りの音も………さっきの爆発音で耳が麻痺してしまったのかもしれない。
周りにいた人も頭を押さえたりうずくまったりしてパニック状態。馬っぽい怪物も音に驚いたのか落ち着かない様子で兵士達も狼狽えている。
狼狽えて、いる。
あたしに突き付けられていた剣が下がっている。
「――――!!」
チャンス!!この機会を生かさない訳がない!幸い兵士や周りの意識は黒い煙方面に集中している。
そっと気づかれないように、だけど急いでその場を後にした。もしかしたら逃走に気づいた兵士たちが何事か言っていたかもしれない。だけれど城から逃げた時と同じように、あたしは振り向かずに走り続けた。




